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27.望の能力

 十二月となり、望の誕生日が近付いた。


 新奈と結衣と同じ様に望にもサプライズの誕生日プランを実行する。


「望、君の誕生日なのだけど・・・」

「あぁ、翼。忙しいのでしょう?私のことは気にしなくていいのよ」

「いや、もう計画してあるんだよ」

「え?私の誕生日で何か計画してくれているの?」


「うん。誕生日の日、お昼ご飯の後で出掛けようと思うんだ。一泊でね」

「え?一泊?ふたりだけで?」

「そう。ふたりだけで」


「えぇっ!そんな・・・本当なの?」

 望は一泊と聞いて急に落ち着きが無くなってしまった。


「うん。本当だよ。都合は良いかな?」

「都合?そんなこと・・・いいに決まっているわ・・・え?どこへ行くの?」

「それは内緒だよ。楽しみにしていてね」


「え、えぇ・・・でも・・・本当なの?私のために無理はしないでいいのよ」

 なんだろう?凄くおどおどしている。望の挙動不審な態度に心配になってしまう。


「どうしたの?何か心配なことがあるの?」

「い、いいえ、違うの。ただ、本当に驚いてしまって・・・」

 ちょっと心を読んでおいた方が良さそうだな。


『翼と婚約して二年経ったけど、こんなこと初めてだわ・・・何かあったのかしら?あ!もしかして私が無意識に何か言ったのかしら?・・・翼の負担になりたくないのに・・・』


 うわっ!これはまずい!僕はこれ程までに望を放置していたんだな。


 そうだ。望は僕に病気を治してもらったという負い目がある。だから恩返しをしたい気持ちから自分が僕の負担になることは何としても避けたいと考えているんだな。


「望、おいで」

 僕は両腕を広げて望を抱きしめた。


「望、不安にさせてごめんね。僕は婚約後、プロジェクトに没頭して、今まで三人を放置してしまっていたね。誕生日すらお祝いをしていなかったなんて・・・婚約者失格だ」

「そんな!翼は地球を、世界を救う救世主なのです。今は大事なプロジェクトの進行中なのですから、それに注力するのは当然です!」


「それでも誕生日を祝うことくらい、誰でも普通にすることだよ。それさえできていなくて、僕は新奈に言われて気付いたんだ」

「え?新奈が?では、新奈と結衣の誕生日は・・・」

「うん。同じ誕生日のプランでお祝いしたんだよ。だから最後になってしまったけど、今度は望の番なんだ」


「あぁ・・・そうなのね。それならば・・・でも無理はしなくて良いの」

「大丈夫。ね。望。大丈夫だから誕生日を楽しんで欲しいな」

「うん。ありがとう。それで・・・どんな服装で行けば良いのかしら?」

「どんな服装でも大丈夫だよ」


「そうなのね・・・分かったわ。楽しみにしているわね」

「うん。では当日は昼食が終わった頃に連絡するからね」

「えぇ」




 そして望の誕生日となった。望に連絡し準備ができていることを確認して彼女の部屋へ飛ぶ。


「シュンッ!」

「翼!今日はありがとう!」

「ふふっ、まだ何もしていないよ?」

「だって、ふたりだけで出掛けるなんて・・・それだけでもう、嬉しくて・・・」


「そんなに期待されているなんて!それでは期待を裏切れないね」

「ううん。翼とならどこでも良いの。近所に散歩するだけでも良いのよ」

「分かったよ。望は可愛いね。では、これから瞬間移動するからね。目を閉じていてくれるかな?向こうに着いても僕が目を開けてと言うまでは見ては駄目だからね」

「分りました。なんだかドキドキするわ」


「さぁ、飛ぶよ」

「はい」

「シュンッ!」


 僕は望の肩を抱いて誘導し、窓の前まで進んだ。

「目を開けてごらん」

「!!!」

 望は僕の腕にしがみついたまま言葉を失った。


「ここは・・・なに?」

「望、ここはオービタルリングのステーションだよ」

「う、宇宙へ来てしまったの?」

「怖いのかい?」


「い、いいえ。驚き過ぎて・・・頭が回らないわ」

「チュッ!」

 僕は望を抱きしめて、長く深いキスをした。


「あ、あぁ・・・つばさ・・・」

「どうかな。落ち着いた?」

「え、えぇ・・・そうね。落ち着いたわ。ありがとう」

「ここは、僕たち神の家族専用のスペースなんだ。今日はここでふたりだけで一泊するんだよ」


「この宇宙でふたりきりなのね・・・」

「望さま、いらっしゃいませ」

「あぁ、クララはお父さまの月の都のメイドだよ」

「エリーと一緒なのね?」


「そうだよ。僕らの世話をしてくれるんだ。さぁ、まずは展望サロンで景色を眺めよう。地球側と宇宙側のどちらが良いかな?」

「宇宙側が良いです」

「うん。ではこちらへどうぞ」

「紅茶か珈琲をお持ちしましょうか」

「では、紅茶をもらえるかな」


 クララは紅茶を淹れると、夕食の時間を告げて下がっていった。


「あぁ、なんて美しいのでしょう・・・こんなに星が沢山見えるのですね」

「どうかな?気に入ってもらえたかな?」

「はい。素敵です。こんなに素晴らしい誕生日は生まれて初めてです」

「それは良かった」


 望は僕に抱きついて肩にもたれ掛かりながら星の海を眺めている。

「なんてロマンティックなの・・・」

「望、今日の君は魅力的だね。君を見ているとあの星々の様に吸い込まれそうになるよ」

「翼・・・私もう、我慢できないわ・・・」

「え?ここで?」

「ここが良いわ」


 今日の望は何かが違う。その瞳で見つめられると、どんどん引き寄せられる。

寝室ではないのにふたりきりなのを良いことに始めてしまった。


 きっと星の海にも魅了されてそんな気持ちになってしまったのだろう。

サロンのソファでふたりはひとつになってしまった。


「あぁ・・・翼。嬉しい。こうなることを夢見ていたの」

「待たせてしまってごめんね」

「ううん。ありがとう。やっとあなたとひとつになれたのね」

「望。愛しているよ」


 望の目つきはトロンとしていて焦点が定まっていない感じだ。


「私・・・もう何も要らないわ。この命も身体も全てあなたさまに捧げます」

「望?」

「あぁ・・・もっと愛して・・・もっと・・・」

「望?大丈夫?」


 これは明らかに変だ。僕は一旦、望から身体を離し、もう一度、望を抱きしめて頬を擦った。


「ねぇ、望?」

 望は僕に呼びかけられやっと目の焦点が合い、我に返った。

「え?翼?私・・・どうかした?」

「う、うん。今、何か少し変だったよ」

「変?どんな風に?」


「うん。何だか望が望ではない人になったみたいだった」

「私・・・今、何が起きたのか分かっていないかも・・・」

「僕たち、ひとつになったのは分かった?」

「うん。そこまでは・・・翼が痛みを治癒してくれたのよね?それから凄まじい快感が身体を走り抜けた感じがあったわ・・・その後、少し意識が遠のいたのかも知れないわ」


「そうか・・・大丈夫かな・・・」

「ねぇ、最後までしていないのでしょう?」

「う、うん」

「では、お願い。最後まで・・・」

「大丈夫かな?」


「またおかしくなったらやめてもいいから」

「うん。分かったよ」

 そしてまた続きを始めた。再びふたりはひとつになった。


「あぁ・・・素敵。なんて素敵なの・・・」

「望、大丈夫?」

「うん。大丈夫。ちゃんと分かってる。ただ・・・凄く気持ちいいの」

「望のままなんだね?」

「えぇ、私よ。翼。愛しているわ」


「ねぇ、なんでこんなに気持ちいいの?」

「あ、本当だ・・・こんなの初めてかも?」

「ね?そうでしょう?」

「うん。望ってなんだか凄い・・・」

 そして、ふたりはあっという間に絶頂を迎えた。


「翼。とっても素敵だった」

「うん。望も最高だったよ」

「ねぇ、私たちって相性が良いのかしら?」

「うん。そうなのかも知れないね。これは普通ではない感じがするよ」


 その後、ふたりはお互いに溺れる様にキスをし、セックスを繰り返した。

「望・・・僕、何だかおかしいかも?」

「え?どうしたの?」

「頭が覚醒しているというか、凄くすっきりしているんだ」

「それって私と繋がったからなの?」


「何だろう。今なら何でも創造できる様な気がする。次々に新しい発想が浮かぶんだ」

「私が翼の何かを目覚めさせたってこと?」

「うん。それしか考えられないよね」

「それは良いことなの?」

「うん。多分そうだと思う」


「あ!翼、そろそろ支度しないと夕食に呼ばれてしまうわ!」

「あ!そうだね。ここはサロンだった。寝室へ飛ぶよ」

「シュンッ!」


 僕たちはシャワーを浴びて身支度し、食堂へ向かった。

食堂には地球を見下ろす窓に向かってふたりの席が用意されていた。


「望、乾杯しようか。誕生日おめでとう!」

「翼、ありがとう」


「こんなに素敵な誕生日、一生忘れないわ」

「それは良かった」

「地球が夜になって行くわ・・・なんて美しいのでしょう・・・」

「うん。本当に美しいね」


「あの光の強いところが街なのね」

「そうだね。でも昔に比べたら街灯もライトアップや電飾の看板もかなり減ったから、あの光も少なくなっているんだよ」

「あの光の線とかまたたきが、まるで電子回路の様にも見えるわね」


「電子回路か・・・さっき望とセックスしている時、新しい電子回路が頭に浮かんだんだ」

「そんなこと、前からあったの?」

「いや、そんなこと初めてだよ。望と繋がったら脳が覚醒して、今まで発明でぼんやりとしか浮かばなかった回路が明確に認識できたんだよ」


「え?それじゃぁ、翼が創ろうとしているものが出来るかも知れないの?」

「そうなんだ。まだ全てではないのだけど、完成するかも知れない」

「でも、翼はその最中に研究のことを考えていたってこと?」

「あ!いや、ずっとではないよ。断片的に覚醒して浮かんで来たんだ。すぐに消えるから、記憶だけしておいたんだ。すぐに意識は望に切り替えているよ」


「そう。それならいいの。妻が三人なのだから、こうしてふたりだけの時くらい、私のことだけを考えていて欲しいの・・・」

「そうだね。気をつけます」


「それとね、翼。私、翼の子を欲しいとは思っているけれど、大学は卒業したいの。さっき翼は避妊をしていなかったと思うのだけど・・・」

「あ。それ言っていなかったね。ごめん。大事なことだった。あのね。避妊はしているんだ」

「え?どうやって?」


「僕は透視ができるから卵管とか子宮を透視していてね。排卵していたら念動力を使って卵子を取り除いているんだよ」

「まぁ!そんなことができるの!」


「お母さまからそうしなさいって。向こうの世界ではお母さまたちは皆、そうして自分で避妊しているんだって」

「流石、神さまね。では妊娠したい時は?」

「排卵を確認してすぐに受精させるので、ほぼ確実に妊娠できるそうだよ」

「そうなのね。余計な心配をしてしまったわ」


「初めに言っておくべきだったよ。ごめん」

「いいのよ。それなら新奈と結衣にも教えてあげてね」

「そうだね」




 夕食は進みメインディッシュが並んだ。

「宇宙でこんなに素敵な食事ができるなんて・・・」

「喜んでもらえて良かった」

「新奈と結衣も同じプランでお祝いしてもらえたのね?」

「うん。望が最後になってしまって申し訳ない」


「いいの。だって新奈が言ってくれたからなのでしょう?」

「それはそう。それで誕生日が来る順番になってしまったんだ」

「ねぇ、このプランで新奈と結衣も初体験だったのかしら?」

「うん。そうだったね」


「新奈の誕生日は八月よね?初体験のあとは?」

「あ。いや、それは・・・」

「もしかして、新奈も結衣も誕生日の一度きりなの?」

「そ、そうだったね」


「えーっ!それは寂しいわよ?」

「やっぱり、そうだよね・・・」

「翼って、夜も眠らずに研究やプロジェクトに没頭しているの?」

「いや、この二年は一番忙しかったね。でもこれからは余裕を持とうと思っているよ」


「そう、良かった。それならできるだけ、私たちと一緒に夜を過ごしてもらえないかしら?」

「そうだね。僕は瞬間移動ができるのだから、僕が三人の寝室へ飛んでも良いし、僕の寝室に来てもらっても良いのだね」

「えぇ、無理のない程度で良いの」


「分かった。明日からは三人順番に一緒に夜を過ごすことにするよ」

「え?明日から三日に一度、翼と一緒に夜を過ごせるの?」

「うん。そうするよ」

「ホント?!嬉しい!」


 望は心から喜んでいる様だ。こんなに嬉しそうな笑顔を見るのは婚約した時以来かも知れない。僕はこういう女心というものが全く分かっていなかった。大いに反省しなければならない。


「望、今後、誕生日はここでふたりきりの誕生日パーティーを開きたいと思っているんだ。どうかな?」

「嬉しい!新奈や望もよね?」

「勿論だよ」

「毎年、ここで誕生日を祝ってもらえるのね?それも翼とふたりきりで・・・」


「ありがとう、翼。それなら来年からは、お誕生日ケーキも用意してもらえないかしら。ふたり用の小さなケーキで良いの」

「あ!しまった・・・それは失念していたよ。教えてくれてありがとう、望」

「図々しいお願いでごめんね。翼の誕生日には私がケーキを作るから」

「うん。望は毎年作ってくれていたよね。来年からは用意するよ」


 夕食が終わり、サロンへ行くか寝室へ行くか聞いたところ、望は寝室を希望した。


「この寝室からは地球が見えるのね。翼に抱きしめられながら地球を眺めたかったの」

「抱きしめて地球を眺めるだけで良いの?」

「それは・・・最初だけ・・・」

「ふふっ、良いんだね?」


「お願いしないとしてくれないの?」

「ごめん。意地悪だったね。愛しているよ。望」

「翼・・・」


 それからは、セックスの合間に地球を眺める程度しか、地球を見る時間はなかった。

それ程までに望とのセックスに溺れてしまう。


 望と繋がっている間は、身体中に電気が流れる様な感覚が快感と共に溢れ出し、僕の脳は覚醒し、新しい理論や回路が浮かんで来るのだった。


「望、君は素晴らしい女性だ・・・僕は君に溺れてしまいそうだよ」

「嬉しい。こんなに愛されるなんて・・・全身で愛を感じるわ・・・」

「やっぱり、僕らはこうなることが運命だったんだね」

「運命なのね・・・私、一生あなたから離れないわ」


「うん。僕も望を離さないよ。絶対にね」

「あぁ・・・嬉しい・・・翼、もっと欲しいわ」


 そして、ふたりは地球が朝を迎えるまで続けてしまった。


「ねぇ、翼。もしかしてもう朝になってしまったのでは?」

「うん?あ。本当だ。地球は朝かも知れないね」

「お腹空いたかい?」

「いいえ。翼がいっぱい満たしてくれたから」


「それでは、朝を迎える地球を眺めていようか」

「えぇ、やっとゆっくり眺められるわね」

 ふたりは抱きしめ合ったまま、地球が碧い光に包まれて行く姿を見守った。


 その後、朝食を頂きにふたりで食堂へ入った。

僕は結衣の時に気に入った、生ハムのガレットをクララにリクエストしておいた。


「うわぁ!美味しそう!ガレットね。大好きなの!」

「そうだったんだ。良かった」

「本当に素晴らしい誕生日だった・・・翼、ありがとう!」

「そんなに喜んでもらえるなんて・・・僕も嬉しいよ」


「本当に素敵な夜だった・・・二年分満たされたわ」

「これからは三日に一度だね」

「私・・・大丈夫かしら?」

「え?何が?」


「昨夜の様な夜が三日に一度・・・」

 望はさっきまでのことを思い出している様だ。

「三日に一度は多いかな?」

「あ!そんなことないわ!幸せ過ぎて大丈夫なのか心配になってしまったの」

「大丈夫だよ。望は幸せになって良いのだからね」

「翼。ありがとう!」


 望への誕生日プレゼントが喜んでもらえて良かった。それにしても望の身体は普通の人間とは思えない。


 もしかしたら望には何かあり、彼女固有の能力なのではないだろうか。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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