22.あきらめの悪い男
永井将晴の登場から三日、彼の姿は見なくなった。
しかし、得体の知れない人物に付け回される様になった。
僕たちは警戒し、一人で外を歩くことがない様に新奈と望は、学校の最寄り駅まで車で送り迎えをしてもらうこととなった。
僕と結衣は送り迎えがないので、いつも通りに電車で往復している。だが、必ず二人一緒だ。しかし、それがいけなかった。
その二日後、いつもの様に四人で待ち合わせし学校に到着すると、皆の視線が僕と結衣に突き刺さった。
「おい!翼!」
「巧。おはよう!今日は早いね」
僕らよりも早く学校に着いていた巧が紙切れを持って走って来た。
「おはよう!・・・なんて吞気に挨拶している場合じゃないぞ!これを見ろ!」
「なんだい?」
「な、なんだこれは!」
「まぁ!なんなの!」
それはビラだった。それも素人が作ったものではなさそうだ。そのビラの見出しは、
「結城 翼、クラスメイトの九十九 結衣と同棲生活中!」
そして見出しの下には三枚の写真が印刷されていた。学校から帰る途中の二人、結城邸に入る二人、それに朝二人で家から出て来る時の写真だった。
「週刊誌のスクープ記事みたいだね!」
「おい。翼、そんな悠長なことを言っている場合ではないぞ!」
「え?なんで?」
「ほら、お出ましだ!」
永井 将晴がビラを片手に余裕の表情で僕たちの前に現れた。
「一ノ瀬さん。知っていましたか?これがこの結城 翼という男の正体ですよ」
「正体?どういう意味かしら?」
「あなた達三人を「ただの友達」と言っておきながら、陰ではその内の一人と同棲していたのです!一ノ瀬さん。あなたはこの男に騙されているのですよ!」
「???何を騙されていると言うのです?」
「え?だ、だから、この男はそこにいる九十九さんと同棲しているのですよ?」
「えぇ、知っていますよ。だって、私は一ノ瀬電機の社長の娘よ。翼は一ノ瀬電機の取締役の息子で、九十九さんはその結城取締役の同期の社員だった人の娘なのですから」
「え?知っていたのですか?」
「勿論!私たちは家族の様なものよ。翼と結衣の同居を知らない訳がないし、お互いの家を訪問し合う仲なのよ」
「で、でも・・・同棲ですよ?」
「九十九さんのご家族は昨年火事で結衣さんを残して皆、亡くなったのよ。会社の同期で縁が深かった結城さんが引き取ったの。それに結城さんのお家は五人兄弟なの。結衣さん一人増えてもあまり変わらないわ。その辺は調べなかったの?」
「いや、そこまでは報告になかった・・・あ!」
永井先輩は、望の誘導尋問にまんまと引っ掛かり、自ら暴露してしまった。新奈がその一部始終を携帯端末で動画撮影していた。
「あぁ、やはりあなたが仕組んだことだったのね?」
「え?そんなスキャンダルで翼と望の仲を裂こうと企てたの?」
矢継ぎ早に新奈が追い打ちをかける。
「い、いや、俺はそんなこと知らない・・・」
永井先輩は真っ赤な顔をして足早に校舎の中へと逃げて行った。
「ちょっと!結城君、九十九さん」
その声に振り返ると、担任の八神先生だった。
「あ。八神先生。おはようございます」
「おはよう。それより、そのビラのことだけど。ちょっと相談室に来てくれるかしら?」
「あぁ、はい。分かりました」
「翼、今撮った動画はすぐに送っておくわ」
「新奈、ありがとう」
僕と結衣は先生の後をついて歩いて行った。それを見る生徒たちが両脇に立ち、皆、コソコソと噂話をし始めていた。これは少し厄介なことになったのかも知れないな・・・
相談室は校長室の隣だ。狭いその部屋には五人が座れるソファがあった。
「さぁ、二人はそちら側に座って」
「はい」
「それで・・・このビラなんだけど・・・」
「それは事実ですよ」
「え?事実?二人は同棲しているの?」
「先生、何を言っているのですか?結衣は僕の家に引っ越した時に転居の届を出しているでしょう?」
「え?あ!確かに夏休み前に転居の届は出ていたわね・・・で、でも!結城君の家だとは・・・」
「いや、住所に結城方と書きましたよ?ね!結衣?」
「はい。そう書きました。見直してください」
「そうなの・・・って、いや、どういうこと?同棲ってことなんでしょ?」
「あれ?八神先生は結衣の身の上を知らないのですか?」
「身の上・・・って、一年前にご家族が火事で亡くなって一人暮らししていたってこと?」
「あぁ、それはご存じなのですね。僕の父は一ノ瀬電機の取締役です。結衣のお父さんは僕の父と一ノ瀬電機に同期入社し親しくしていたのです。その後、結衣のお父さんは独立して家電メーカーを立ち上げました」
「一年前の葬儀では父も参列しています。その時、結衣は親戚の家に身を寄せることになっていたので父も安心していたのです。ですが、その親戚は遺産目当てで結衣を引き取ったのです」
「まぁ!そんなこと!」
「結衣は酷い目に遭い、その親戚から離れるため高校入学と共に一人暮らしを始めたのです。ですが、親戚にお金を使われてしまい、大学受験にも困る状況になっていました」
「この学校に入学し、僕たちは偶然にも席が隣同士となり、校外ゼミで同じ班にもなりました。友達になって話しているうちに、そのことが分かったのです。それを聞いた父が結衣を説得して、うちに身を寄せることとなったのですよ」
「まぁ!そうだったのね。変な勘ぐりをしてしまって・・・ごめんなさい」
「分かって頂けたなら良いのです。僕たちはそんな関係ではないのですから」
「そうね。では先生方にはその様に説明しておきますね」
「クラスの皆にも話しておきたいのですが、よろしいですか?」
「では、今日は一時限目がホームルームだから皆に話しておきましょうか」
「えぇ、早いうちに誤解を解いておきたいですね」
「ところで、このビラは誰が作ったものなのかしら?」
「二年生の永井先輩の様です」
「何故?」
「永井先輩は一ノ瀬先輩が好きで先日、告白したそうなのですが、一ノ瀬先輩が断ったそうなのです。僕は親同士の関係で一ノ瀬先輩と親しいのです」
「一ノ瀬先輩は断る際に好きな人が居ると言ったそうで、それをいつも一緒に居る僕だと勘違いして、二人の仲を引き裂くために探偵を雇ってこの様なビラを作り、ばら撒いた様ですね」
「何故、それが分かったの?」
「今朝、学校に着くなり永井先輩から、僕はこんな奴だからあきらめろ的なことを一ノ瀬先輩に言ってきたのです」
「それでさっきの話を伝えたところ、そんな情報は報告になかったと思わず話してしまったのですよ。その一部始終は動画に記録してありますので先生にもお送りします」
「分りました。動画は確認するわ。それにしても呆れたわね・・・でも・・・」
先生は呆れた顔をしたが、すぐに表情が曇った。
「首相の孫だから罰することはできませんか?」
「そ、それは・・・」
「まぁ、構いませんよ。これ以上彼を追い詰めたら、更に酷いことをされるかも知れませんから」
「結城君は大人ね・・・」
「そうならなければ事態は悪化するでしょうからね」
「分かったわ・・・でも彼からも事情は聞いておきますね」
「えぇ、よろしくお願いします」
「さぁ、ではホームルームへ行きましょうか」
教室へ行くと既に教室内は大騒ぎになっていた。
「皆!静かに!」
皆は慌てて自分の席に戻って行った。
「皆、今朝、このビラが学校内に撒かれていましたね。そのことについて、今、この二人から事情を聞いていました。では、これから結城君に皆へ説明して頂きます」
「皆、騒がせてしまったね。僕と結衣が同棲しているってビラなんだけど。同居していることは事実です」
「えーっ!ホントなの!」
「嘘でしょう!」
「いやーっ!」
「まぁまぁ。皆、落ち着いて。これには事情があってね・・・」
僕はクラスの皆には、先生にしたよりもう少し詳しく説明した。
「えー、九十九さん可哀そう・・・」
「大丈夫なの?」
「私だったら生きていけない・・・」
「それで、いつも翼君と一緒だったんだ!」
「ってことは・・・やっぱり翼君の恋人は神代さんなの?」
「う、うーん。あのね・・・新奈も結衣も一ノ瀬電機の社長令嬢の望先輩も皆、仲の良い友達だよ。親同士が会社の繋がりがあって親しくなっただけなんだ」
「え!そうなの!」
「だからって翼君の隣には立てないわ・・・レベルが違い過ぎる・・・」
「やっぱり、翼君は私たちの神だわ!」
「さぁ、皆、これで分かったわね?」
「はーい!」
「皆、悪いけど、他のクラスの友達や部活なんかで、このことを伝えて行ってくれないかな?」
「分かった!翼君のためだもの。誤解を解くのに協力するわ!」
「ありがとう!」
「皆、お願いします!」
思ったよりは酷いことにはならず、皆、しばらくすると僕らのことは気にしなくなった。
ただ、表立ってデートなんかはできなくなった。でも、僕は瞬間移動ができるからね。新奈や望の部屋へ直接飛べるから何も問題はないけど。
だが、面倒な大会が目前に迫っていた。武道大会だ。僕の学校では柔道か剣道を選んで武道の授業を受ける。そして武道大会では、授業中に試合を行って選抜された生徒が出場するのだ。
神星の世界に剣術があるから、僕は兄弟たちに柔道を見せたくて選んでいたのだ。
だけど問題は永井先輩だ。彼は柔道部の主将なのだ。この大会では彼は主将の面子に懸けて優勝しなければならない。それに僕への恨みもあるだろう。できれば当たりたくないものだ。
「武道大会さ、翼は柔道で選抜されていたよな?大丈夫か?永井先輩」
「それなんだよ・・・勝ち進んだら絶対に彼と当たることになるよね?」
「武道大会の選抜試合での翼は圧倒的に強かったじゃないか?もう、永井先輩に勝ってしまえば良いんじゃないか?」
「それで彼のプライドを傷付けたら増々、風当たりが強くなるんじゃないかな?」
「それじゃぁ、わざと負けるのか?」
「それはそれで気付かれたら怒りそうだよね?」
「そうだな・・・まぁ、武道なんだからさ。正々堂々とやれば良いんじゃないかな?」
「うーん、そうだろうか・・・でもそれしかないよね・・・」
武道大会当日、悪い予感はあっさりと的中してしまった。
トーナメント方式の試合で僕は一回戦、二回戦と次々に勝ち進んでいった。柔道は教本で一通りの技について解説を読んで覚えているし、授業でそれを実践して身体の感覚として技を体得している。
しかも僕は一般的な日本人より身体が大きいし、動きも感覚も鋭敏なのだ。本気で狙って動けば難なく先手を取って、型通りに投げることができてしまうのだ。
柔道部でもない一般の生徒は赤子も同然だ。スパーン!と小気味良い音と共に相手を畳に投げ飛ばし、一本を取っていった。その度に女子の黄色い声援が飛ぶ。勿論、新奈、結衣と望も熱い声援を送ってくれていた。
あっという間に一年生の部で優勝してしまった。
二年生の優勝者はやはり永井先輩。三年生の優勝は去年の柔道部主将だった森谷先輩だ。一年と二年の優勝者で準決勝を行い、その勝者が三年生の優勝者と決勝を戦うのだ。
結局、永井先輩と戦うこととなった。永井先輩は言うまでもなく、やる気満々だ。頭から湯気が立ち昇っているかの様な気迫が伝わって来る。
そして、何度も望のことを見つめて意識を自分に向けようとしている。
何だか可哀そうになってくる。でも、どこかでその想いを断ち切ってもらわないといけない。ここは本気で戦って、ぐうの音も出ない程に叩きのめしてやるしかないのだろう。
徹が僕の肩に手を置いてこそっと話し掛けてきた。
「翼。ここは本気で行くよな?」
「あぁ、完膚なきまでに打ち砕くよ」
「うん。その意気だ!」
柔道場の畳の上で永井先輩と対峙した。相手の気迫が伝わって来る。
僕は足を畳に擦り付け、畳の肌触りを感じ、感覚を研ぎ澄ました。相手の心を読むまでもない。何も考えず、一瞬の隙をついて先手を取ることだけを考えていた。
柔道の先生が審判を務める。
「これより、準決勝を行う!一年、結城」
「はい!」
「二年、永井!」
「はい!」
先生は二人に挨拶を促し、僕らは一礼した。
僕は大きく深呼吸し、全神経を相手の動きに集中した。
しーんと静まり返った柔道場に先生の声が響いた。
「始め!」
永井先輩は僕を威圧しようとしたのか、両腕を広げて高く掲げた。彼は僕のことを柔道の素人だと思って舐めている様だ。
その余裕の表れでもある威圧のポーズをとったその刹那、僕は瞬間移動でも使ったかのようなスピードで彼のガラ空きの懐へ飛び込むと、引き手で彼の袖を自分の顔に向けて引き、釣り手は襟を掴み、相手の脇に前腕が当たる様に釣り上げた。
彼はつま先立ちになり、不安定になってこちら側へ倒れかけたところで右太ももを内側から跳ね上げると、彼はくるっと宙を飛んで次の瞬間、畳に背中から叩き付けられた。
「スパーンッ!」
「一本!それまで!」
始めの合図から僅か三秒のことだった。踏み込み、釣り上げ、跳ね上げた。
一、二、三。で内股という投げ技がきれいに決まり、永井先輩は畳に仰向けで寝ていた。
「え?」
永井先輩は何が起こったのか理解できずに畳に横たわったままポカンとしていた。
「永井!立て!」
先生が永井先輩を睨む様に見下ろしながら声を掛けると、漸く周りを見渡し、僕の顔を見て真っ赤な顔になった。
「うわぁーっ!」
「今、何が起きたのか目で追えなかったよ!」
「翼君、凄い!カッコイイ!」
「主将に勝っちゃった!」
「つばさーっ!素敵!」
会場中が歓声に溢れ返った。
僕は冷静に自分の立ち位置に戻ると、柔道着も乱れていないのに帯を締め直す仕草をして落ち着こうとした。
永井先輩は恥ずかしそうに赤い顔をしたまま俯いて立ち尽くした。
「勝者、一年、結城!礼!」
「ありがとうございました」
僕は真顔のまま振り返ると自分の席へ戻った。永井先輩はとぼとぼと足取りも重く、そのまま会場を出て行ってしまった。
その後、三年生の先輩との決勝戦を迎えた。
先程よりは緊張していない。気負いもないので気楽だ。でも、ここまで来たら優勝してみたくなってしまった。神星の兄弟も皆、見ていることだろうからね。
三年生の森谷先輩と対峙すると、森谷先輩の方が僕より背が高い様だ。僕よりも大きいなんて最早、巨人の様だ。
でも、それならやってみたかった技がある。背負い投げだ。これは柔道の投げ技では定番中の定番だが、相手が自分より大きくないと決め難いのでやったことがないのだ。
「これより、決勝戦を行う。一年、結城!」
「はい!」
「三年、森谷!」
「はい!」
森谷先輩は先程の永井先輩との一戦を見て警戒している。良く見ると先輩の右眉毛がピクピクと痙攣している。ちょっと、心を読んでみようかな・・・
『くそっ!なんでこんな人気者と決勝戦をやらなきゃならないんだ!これじゃ、勝ってもブーイングの嵐じゃないか!でも、永井にあんなきれいな内股を決めたんだ。俺も勝てるとは思えないな・・・』
あれ?この先輩って、ガタイは良いのに気は弱いのかな?
「始め!」
まぁ、いいや。全力で当たるのみだ・・・
お互いに前襟と袖を掴み合い、がっぷりと組んだ。ガタイの大きい先輩が僕を引き込もうと力を入れてくるが、それを堪えて反撃だ。こちらも渾身の力を一瞬で爆発させる。
すると先輩はいとも簡単にバランスを崩した。それを見逃さず、膝を曲げて姿勢を落とし、先輩の右足の方向へ身体を回転させながら右足を踏み込むと、右脇から先輩をおんぶする様に持ち上げ、曲げた膝を伸ばしながら先輩を宙に持ち上げた。
先輩は身体を伸ばしたまま、放物線を描く様にきれいに一回転して畳に叩きつけられた。
「バシーンッ!」
「一本!」
またしても相手は何が起こったのか分からない顔をして目を白黒させている。
「うわぁーっ!」
「すごーい!」
「カッコイイ!」
「金メダルだーっ!」
「つばさーっ!素敵!」
「森谷。立て!」
「え?あ。は、はい」
森谷先輩は立ち上がり、僕と向き合った。
「勝者、一年、結城!礼!」
「ありがとうございました」
二人で礼をすると、森谷先輩は両手を僕に差し出しながら歩み寄って来た。僕はその手を掴み、握手した。
「結城君。素晴らしかった」
「先輩、ありがとうございました」
武道場の全員が拍手で健闘を称えてくれた。そして、先生が笑顔で僕たちに歩み寄って来た。
「結城、柔道部に入らないか?君なら全国制覇も夢ではないぞ!」
「先生。すみませんが僕は研究で忙しいのです。部活はできません」
「そうか・・・残念だな・・・」
先生は本当に残念そうな顔をしていた。まぁ、進学校だから本気で全国大会を目指す様な生徒は少ないのかも知れないな・・・
僕は徹や新奈たちが待つ応援席へ戻った。
「やったな、翼!やっぱり優勝しちまったな!」
「翼、カッコ良かったわ!」
「スカッとしたわ!ありがとう!翼!」
「お疲れさま。翼!」
「いや、勢いで優勝してしまったけどね。後が怖いよね・・・」
「あぁ、永井先輩か・・・」
「皆、しばらくは警戒しておこう。相手はどんな手を使って嫌がらせをして来るか分からないからね」
「そうね。翼に負けたら、さっさと帰ってしまったものね。また何か企むかも知れないわね」
「望、今日迎えは来るのかい?」
「えぇ、大丈夫よ」
「新奈は?」
「私は今日、仕事の打ち合わせがあるから駅までマネージャーが車で迎えに来てくれるの」
「そうか、では駅までは四人で帰ろうか」
「えぇ、お願いね」
放課後、四人で駅まで向かい、地下道に入る前の歩道で新奈と望の迎えを待っていた。
「あ。マネージャーが来たわ」
赤いスポーツタイプの電動カーが音もなく僕たちの前に止まった。運転席の扉が開き、中から新奈がマネージャーと呼ぶ、若い女性が降りてきた。
「新奈、お待たせ・・・って・・・あ、あ、あなた達!」
「どうしたの?」
「ど、どこのモデル事務所に所属しているの?」
「え?ここに居るのはクラスメイトと一つ上の先輩よ。誰もモデルなんてしていないわ」
「う、嘘!まだ、どこにも所属していないのね?是非、うちの事務所に登録してくれない!?」
「え?私がモデル?」
「僕も?」
「私もなの?」
「ちょっと!麻里江!皆はモデルになんてならないわ!」
「えぇ?なんで?あなた達三人は背も揃っているし、美人ばかりだわ!プロポーションも最高よ!」
「嬉しいですけれど、遠慮しておきます。私たちは目立ちたくないので・・・」
「え?あなたは?こんなカッコイイ男の子見たこともないわ!」
「いや、僕も同じです。目立ちたくないし、モデル活動をする時間もないのです。ごめんなさい」
「えーっ!そんなぁ・・・勿体ない!本当に駄目なの?」
「麻里江。駄目って言ったでしょう?諦めて頂戴」
「残念!」
「さぁ、麻里江。行きましょう!皆、また明日ね!」
「うん。新奈。また明日!」
「新奈。気をつけてね!」
「バイバイ!また!」
「では、失礼します!気が変わったら新奈に伝えてね!待っているわ!」
「ははっ!どうにも諦められないみたいだね!」
「本当に残念そうでしたね・・・」
「私たちもモデルになれる程、綺麗なのかしら?」
「望も結衣も本当に美しいからね」
「まぁ!翼ったら!」
「ちょっと。望。後ろ!」
いつの間にか新奈の迎えの車と入れ替わりに、望の迎えの車が止まっていた。
「あ!お迎えだわ!それじゃぁ、翼、結衣。また明日ね!」
「うん。望。また明日。気をつけてね!」
「また明日!」
そして新奈と望は居なくなり、僕と結衣だけが残った。
「さぁ、結衣。帰ろうか」
「うん」
二人と別れた僕と結衣は地下鉄の改札口に通じる階段に向かった。
階段に差し掛かり、僕が先に階段を降り始めた時、右後方から「ドンっ!」という鈍い音が聞こえた。
僕は音のした方へ振り返ろうとすると、僕の右後方について来ていた筈の結衣が僕の右側を追い越す様に斜めに横切った。いや、飛んで来た。
「キャーッ!」
「結衣!」
僕は目の前が一瞬、真っ暗になる錯覚に陥った。しかしそれを瞬時に振り切り、自分の身体を結衣が飛ぶ方向の更に下へ潜り込むように飛ばした。
結衣が飛んで来た階段の上には、永井先輩が怪しい笑みを浮かべて立っていた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!