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20.榊家訪問

 土曜日の午後、事前に伝えた時間に一ノ瀬家の居間に飛んだ。


「シュンッ!」

「おぉ!翼君、ようこそお越しくださいました」

「お久しぶりです。お邪魔します」


「さぁ、お掛けください。今、珈琲をお出しします」

「ありがとうございます」

 望と二人並んでソファーに腰掛け、珈琲を一口飲んでから話し始めた。


「それで、今日はどの様な?」

「はい。望さんを僕の妻に迎えたく、承諾を頂きに参りました」

「なんと!娘を?よろしいのですか!」


「初めにお詫びをしなければなりません。日本の結婚制度にのっとった結婚はできないのです。僕らに子ができても、公には望さんはシングルマザーとなってしまいます」


「それに、僕の妻は望さんだけではありません。他に神代新奈さんと九十九結衣さんも妻とするのです」


「それは伺っています。天照さまのご子息なのですから、それらは当然で仕方のないことと承知しております。望がそれを受け入れるならば、我々は喜んで賛成いたします」


「ありがとうございます」

「お父さま、お母さま。ありがとうございます」

「望、良かったわね。幸せになるのですよ」

「はい。お母さま」

「望、今後、学校や仕事はどうするんだい?」


「私はまずは東大を目指すわ。そこで経済と経営を勉強して、卒業したら一ノ瀬電機を継げる様に頑張るわ」

「そうか。望が会社を継いでくれるのだね」

「えぇ、そして私と翼の子がまた継いでくれると思うわ」

「それは嬉しいことだな」


「お義父とうさま、これから神代重工の社長と打ち合わせをした上で、一ノ瀬電機にもプロジェクトの一端を担って頂きたいと考えているのですが」

「勿論です。どんなことでもお引き受けしますよ」

「あなた。忙しくなるわね」

「あぁ、そうだな。望の命を救って頂いた恩には報いねばならないからね」


「お父さま!私の命を救ってもらったから協力するの?違うでしょう?これは地球の人類全体のためのプロジェクトなのよ。大義はそちらにあるわ」

「そうだね。海洋プラスチック除去事業と同じだ。企業の使命として、真摯に取り組ませて頂くよ」

「ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いします」


「シュンッ!」

「突然の訪問をお許しください」


「あ!あ、天照さま!」

「ははーっ!」

 例によって、望のお父さんとお母さんは床にひれ伏した。望は僕のお父さんを見るなり硬直し、座ったまま動けなくなってしまった。僕は望の肩を抱いた。


「あぁ、面をお上げください」

「この度は、翼と望さんの結婚を承諾頂き、ありがとうございます」


「結婚が決まったということで、ご挨拶に伺いました」

「初めまして。翼の母の瑞希です」


「こ、これは!お母さまで御座いますか!わ、私は一ノ瀬孝明。こちらは妻の由紀子。それに娘の望で御座います」

「は、初めて、お、お目に掛かります。い、一ノ瀬由紀子で、ご、御座います」

 やはり、望のお母さまも全身震えてしまっている。


「あ、あ、わ、私・・・どうしよう?」

「望。落ち着いて。僕が隣に居るからね」

 僕は腰を抜かして立てなくなっている望の腰に腕を回し、念動力で支えて立たせた。


「は、初めてお目に掛かります。わ、私は・・・い、一ノ瀬、の、望で御座います」

「望さん。初めまして。いつも翼を支えてくれてありがとう」

「そ、そんな・・・わ、私は、い、命を救って頂いたの・・・ですから」

「あなたは末永く、翼を支えてくださると信じていますよ」

「は、はい。い、命に代えても・・・お、お支えします!」


「望さん。そんなに気負わなくても大丈夫よ。いつもの通り、翼の好きなケーキを焼いてあげて」

「は、はい!」

 望はやっとの思いで受け答えをしていたが、最後には笑顔になれた様だ。


「結婚式は公にはできませんが、内々にということであれば私たちも出席できますので、ご検討をお願いします」

「おぉ!ご出席頂けるのですか!ありがとうございます」

「望、結婚式はいつになるの?」

「翼。どうしましょう?」


「いつでも構いません。十八歳とか大学卒業に併せてとか、年齢的なもので決めれば良いのではありませんか?」

「そうね。大学卒業後、すぐで良いかしら。先に子を作ってから会社のことを勉強したいわ」

「そうですね。その順番の方が良いでしょうね」


「では、私たちはこれで失礼します」

「天照さま。ありがとうございました」


「シュンッ!」

「あぁ、消えてしまわれた・・・あ。翼君。今日は夕食を一緒に如何ですか?」

「はい。ご馳走になります」

「それは良かった。今夜はお祝いだ!」

 僕たちは望の部屋へ行きベッドに二人で腰掛けた。


「望。震えは止まったかい?」

「まだ、少し震えているわ。天照さまの神々しさ、美しさは新奈と結衣に聞いてはいたけれど・・・想像を超えていたわ」


「そんなにかい?」

「信じられない程に美しいお方だわ。お父さまとお母さまが、あれだけ早く反応できたことが凄いと思ったわ。私は天照さまのお姿を見た瞬間、力が入らなくなって動けなかったの」


「そんなに美しいのか・・・」

「勿論、翼も美しいわ!でも・・・天照さまは・・・」

「何が違うのかな?」


「うーん。何て言ったら良いのかしら・・・見た目の美しさにも感動するのだけど、それよりも目が合った瞬間に心が見透かされる様な・・・身体の中を通り過ぎて全てを知られてしまう様な・・・そんな感覚があったわ」

「ふーん。そうなのか・・・」


「あ!」

 僕は突然、望を抱き寄せてキスをした。望を落ち着かせるために。いや、ちょっとだけ、お父さんに嫉妬したのかも知れない。


「翼・・・情熱的ね」

「婚約したからかな」

「このままする?」

「いや。それはまだ取っておこうかな?」


「そう。まだなのね?新奈や結衣とも?」

「うん。まだだよ」

「そうね。婚約したのだもの。焦ることはないのね」

「そうだね」


 ふたりはベッドで抱き合いながらキスをして、夕刻まで語り合った。


「望ちゃん!夕食の用意ができましたよ!」

「はーい。お母さま。すぐに降りますね」


 食堂に降りるとテーブルの上にはご馳走が並んでいた。

「お母さま!この料理はどうしたの?凄いわ!」

「いつも行っているフレンチレストランのシェフに来てもらったのよ」

「凄い料理ですね」


「さぁ、二人とも席に着いて!」

「お父さま、ありがとう!」

「さぁ、今日はふたりの婚約に乾杯しよう」

「婚約おめでとう!乾杯!」

「乾杯!」

「キンッ!」


 望のご両親はシャンパンで、僕らはペリエで乾杯し、豪勢な食事を頂きながらお義父さんと一ノ瀬電機の話になった。

「お義父さま。一ノ瀬電機では無線送電と充電の技術は開発されていますか?」

「はい。出力の大きなものはまだできていませんが、精度は高くなってきています」

「そうですか。実は今、神代重工で進めているプロジェクトでは、オービタルリングで太陽光発電した電気を地上の工場や建物、それに船や電気製品に直接無線送電するのです」


「それはすぐに実現可能なのですか?」

「既に設計はできています。各部品の製造と組み立て、装置の建造に進むだけです」

「え?全ての設計を翼君が一人でしたのですか?」

「そうですね。五歳の時に反重力装置を創って、その後にオービタルリングと低軌道エレベーター、宇宙船とその他、船の設計を十年間でやってきましたから」

「し、信じられない・・・」


「翼。反重力装置は五歳の時に創ったの?」

「そうですよ」

「本当に天才なのね・・・」

「それならば、宇宙からの無線送電装置も設計済みで、その通りに装置を製造すれば良いのですね?」

「はい。お願いできればと」


「他にもありますか?」

「はい。地上での受電装置をお願いしたいのです」

「翼、それって大変な数なのではありませんか?」

「えぇ、だからこそ、一ノ瀬電機にお願いしたいのです」

「はい。是非、お任せください。グループ企業や海外の製造拠点も含めまして、全てそのプロジェクトに協力致します」

「お願いします。大変、助かります」


 家族で和やかに夕食の時間を過ごした。デザートは望のお母さまが作ったアップルパイだった。それもとても美味しかった。


「今日はありがとうございました。近々、神代重工の社長より呼び掛けがあると思いますので、よろしくお願いします」

「かしこまりました」


「では、望。またね」

「えぇ、翼。今日はありがとう」

 そう言って、望は僕の手を強く握った。僕は夕食前の望との熱いキスを思い出しながら、月の都へと飛んだ。




 今日は徹の家で葉留を両親に紹介する日だ。


 新奈の時と同様に、僕とお父さんとお母さんは月の都で待機し、葉留の意識に入って様子をうかがっている。


 居間に通された葉留は徹と並んで座っている。目の前には徹の両親が座っている。徹のお父さんは国会議員でしかも財務大臣だ。政治家のオーラというものを感じる。威圧している訳ではないだろうが、顔を見ただけで圧を感じるのだ。


 でも、徹と目元や鼻筋の辺りが似ている。優しそうな一面も見て取れる。

お手伝いさんが珈琲を出してくれた。


「親父、こちらが結婚を前提にお付き合いしている葉留さんだよ」

「結婚?徹。お前はまだ、十五歳。高校一年生ではないか。もう結婚相手を決めたと言うのか?」

「そうよ。しかも外国の女性だなんて!」


「ところで、葉留さんと言ったか・・・お国はどちらの方なのですか?日本人の様なお名前ですが・・・」

「初めまして。私は、天照 葉留と申します」

 お父さんから自己紹介の時には、天照と名乗って良いと言われているのだ。


「天照?え?」

「親父。そうだよ。葉留はあの神さまの、天照さまの娘なんだよ」

「なんだって!本当なのか?」

「そ、そう言えば、天照さまに似ていらっしゃるわ!」


「本当です。私は天照の娘です」

「シュンッ!」

「おぉーっ!」

 僕はお父さんとお母さんと共に徹の両親の前に瞬間移動した。徹の両親はるように反応し、目を丸くした。


「突然の訪問をお許しください。私は天照。こちらは妻の瑞希と息子の翼です。そしてその子は私の娘、葉留です」


「あ、あ、天照さま!初めてお目に掛かります。私は日本国政府財務相大臣の榊高臣さかきたかおみと申します。こちらは妻の雅子と息子の徹で御座います」

「は、初めてお目に掛かります。わ、私は、さ、榊雅子さかきまさこに御座います」

 徹のお母さまも例にもれず、緊張して震えている。


「ほ、本当に天照さま!徹!一体、どういうことだ?どこで天照さまのご息女さまとお知り合いになったのだ!」

「それは、徹と僕が学校のクラスメイトだからです」

「え?」

「親父。俺の親友でクラスメイト。天照さまの息子の翼だよ」


「徹!お前、神さまを呼び捨てにするなんて!」

「お父さま。僕と徹は親友です。呼び捨ては当たり前ですよ」

「そ、そうですか・・・いや、それで、徹!天照さまのご息女さまと結婚するって言ったのか?」

「えぇ、そうです。私は徹さんと結婚を約束しました」


「ほ、本当なのですか?神さまのご息女さまが、私の息子でよろしいのでしょうか?」

「徹さんは素晴らしい男性です。私の方からお願いして結婚して頂くのです」

「ま、まぁ!そんなことが!徹さん。凄いじゃないの!」


「では、娘と徹殿の結婚をご了承頂けるのでしょうか?」

「そ、そんな!ご了承も何も・・・天照さま。本当にうちの息子なんかでよろしいのでしょうか?」

「葉留が選んだ相手です。葉留の目は確かだと信じておりますよ」

「あ、ありがたき幸せに御座います!神さま!」


「葉留。良かったね」

「はい。お父さま。ありがとうございます」

「結婚式ですが、娘はまだ十三歳です。大学を卒業してからになると思いますが、式は内々のものでしたら出席も可能ですのでご検討ください」

「え?十三歳?まさか・・・」


「はい。私は今、中学二年生です」

「中学生。そんなに大人なのに?あ!そう言えば、お兄さまも徹のクラスメイト?」

「えぇ、少し大人っぽく見えるでしょうか?」

「そ、そうなのですか・・・分かりました。結婚はまだ九年は先の話なのですね」

「はい。そうなります」


「そうでしたか・・・かしこまりました」

「では、私たちはこれで失礼致します」

「徹さん。またね」

「うん。葉留。ありがとう」


「シュンッ!」

 僕たち四人は瞬間移動で月の都へと帰った。勿論、僕と葉留は徹の意識に入ってストーキングを続けている。


「徹!どういうことだ。事前に説明しておいてくれないと!」

「本当よ!天照さまが家に来るなんて!私、倒れるかと思ったわ!事前に分かっていたら正装していたのに!」

「いや、来ると分かっていた訳ではないんだ。今日は挨拶だけのつもりだったしさ」

「でも、天照さまのご息女さまと結婚すると知れたら大騒ぎになるぞ」


「それは隠す予定だよ。葉留は表に出る時は、黒髪のカツラを被って、黒目に見えるコンタクトレンズを使うってさ」

「まぁ、公表できれば議員の席は確保されたも同然だが、リスクも大きいな」

「僕は自力で議員になるよ。神の威光を使おうとは思わない」


「そうだな。それよりもお前、一時の思い付きで付き合っているのではないだろうな?」

「そうよ。徹さん。神のご息女さまをもてあそんだりしたら、ただでは済まされないわよ!」

「そんなことする訳ないだろ!俺は本気だよ。大体、あんなに美しくて聡明な女性に巡り合うことなんて二度とないことなんだ。絶対に生涯大切にするよ」

「うむ。是非、そうしてくれ。頼んだぞ!」


「お願いよ。でも内々での式しかできないのは少しだけ残念ね」

「結婚式ができるだけ良いと思わないと!」

「そうだな。神さまのご息女さまを嫁に迎えられるなんて・・・今夜は眠れそうにないな」

「本当ね・・・それにあれ程に美しいお嬢さんなのですもの。生まれて来る子が楽しみね」

「母さん!気が早いよ!」

「ふふっ、そうね。でも今から楽しみだわ!」


「親父、母さん。葉留のことだけど、ひとつだけ言っておくよ」

「あら、何かしら?」

「葉留は神の子だ。天照さまの能力は知っているだろ?葉留にも能力はあるんだ」

「どんな能力を持っているんだい?」


「読心術は人の心を読むことができる。透視能力では壁も人間の身体も透視できる。つまり彼女には嘘がつけないから注意して」

「そ、そうなのね・・・気をつけないといけないわね」

「後は、念動力。これは物を持ち上げたり動かしたりできる。まぁ、便利な能力かな。それと治癒能力だ。病気やケガの治療ができるんだ」

「それは凄いわ!」

「それこそ、神の力だな」


「最後に僕と念話で会話ができる」

「念話?それはどういうものだ?」

「頭の中で葉留に話しかけると会話ができるんだよ」

「声を出さなくても?」

「そうだよ。便利だろ?」


「それは私でもできるのかしら?」

「うーん。それは分からないな。今度、聞いておくよ」

「ちょっと、面白そうね」


「あれ?天照さまみたいな瞬間移動はできないのかな?」

「うん。それはできないそうだ。翼は天照さまと同じことができるそうだけどね」

「やはり、娘だから力が弱いのか?」

「いや、男女の差ではなくて個々の差があるそうだよ。天照さまも翼も念話は能力を持つ者同士でないとできないそうだけど、葉留は能力のない人間とも念話ができるんだ」


「もしかして、徹さんとの子にも能力は授かるのかしら?」

「うん。何かしらの能力は授かるらしいよ」

「それは凄いわ。榊家から神さまが生まれるのね!」

「うーん。それを神さまと言うのかは分からないけれどね」

「それにしても素晴らしいお嬢さんね」

「ありがとう。僕には勿体ないくらいの女性だよ」


「うん。大切にするのだぞ」

「分かってるさ」


 榊家はしばらく、葉留の話題で盛り上がっていた。




「葉留。優しそうなご両親で良かったね」

「えぇ、それも事前に確認しておいたから分かっていたわ」

「あぁ、そうだったね。余計なお世話だった」

「でも、お兄さま。ありがとうございます。徹さんに出会えたのはお兄さまのお陰ですもの」

「それは、そうなのか・・・」


 僕と葉留は、月の都から榊家を覗き見て安心するのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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