表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/329

18.夏のバカンス

 海の別荘でのバカンスの初日、巧と美樹先輩が結婚を決めた。


 その夜、僕は予定通り葉留と同じ寝室で眠ることとなった。

「お兄さま。同じ部屋で眠るなんて初めてではありませんか?」

「そうだね。確かに一緒に眠った記憶はないね」


「それなら、一緒に寝ましょうよ」

「え?一緒に、って同じベッドに二人一緒に眠ると言っているの?」

「そうですよ。だって、こんな機会は二度とないでしょう?」

「葉留はそうしたいの?」

「えぇ」


「まぁ、それは構わないけど・・・」

「やった!」

 Tシャツだけを着た葉留が嬉しそうな顔をして、いそいそとベッドに忍び込んできた。


「ちょっと!葉留。そんなにくっ付くことないでしょう?」

「え?折角一緒に眠るのですから、いいじゃないですか!」

「妹なのに・・・変でしょ?」

「お兄さまの匂いを嗅いでおきたいのです!」


「匂い?あ!新奈の真似をしているのかい?」

「ふふっ、新奈お姉ちゃんがお兄さまは凄く良い匂いだって言うから・・・」

「全く、何を言っているんだか・・・」

 葉留は僕に抱きついてきた。僕の胸に「ふにゅっ」と柔らかい感触のものが押し付けられた。


「あ!葉留。下着を着けてないの?胸が・・・」

「あ!当たる?変な気を起こさないでね!」

「だ・か・ら。そういうこと言うなら一緒に寝ない!」

「シュンッ!」

 僕は葉留を瞬間移動でもうひとつのベッドへ転移させた。


「あ!あーお兄さま!力を使うなんて!ずるい!」

「葉留が変なこと言うからでしょ!」

「あーん!もう言わないから・・・一緒に寝させて!」

 そう言って、またベッドに入って抱きついてきた。


「何も抱きつかなくてもいいと思うんだけど・・・」

「ちょっとだけ・・・寂しいの。私も結婚相手を決めたし、お兄さまはもう二人も妻を決めたわ。それに三人目も時間の問題でしょ?」

「それは分からないけど・・・」


「お互いに結婚相手を決めるくらい大人になってしまったのよ?でも、振り返ってみたら私たちは一度も二人で一緒に寝たこともないし、遊びに行ったこともないの」


「ここは神星ではないわ。日本の子供なら兄弟一緒に育っていたら、一緒に寝たり、お風呂に入ったり、遊びに行ったりするのは当たり前でしょう?」

「あぁ・・・確かにそうだね。ごめん。僕が勉強と研究に没頭していたからね・・・寂しい思いをさせてしまったのかな」

「えぇ、そうよ。反省するなら私を抱きしめて」


「向こうの世界の兄弟は皆、四人兄弟なのに、私たちは二人だけなんだから・・・お兄さまとの思い出も欲しいの・・・」

「あぁ、そうか・・・そうだったね」

 僕は観念して葉留を抱きしめた。葉留は僕の首に顔を埋めている。


「すぅーはぁー」


「うん。そうね。なんか良い匂いだわ。何かしら・・・」

「そうなの?」

「これって、フェロモンっていうのかしら?」

「異性を引き付ける様なヒトフェロモンは見つかっていないと思うけど」


「お兄さまは真面目ね。自分にとって良い匂いだったら、その異性に惹かれても当然でしょう?それだけでいいと思うけど」

「あぁ、そういうものか」


「結衣お姉ちゃんと新奈お姉ちゃんは、何が決め手で結婚を決意したの?」

「うーん。そうだな・・・結衣は初めて会った時に綺麗な娘だって思って、気になっていて・・・気がついたら放っておけなくなっていたな。新奈は初めから可愛いと思っていたし、性格も凄く良くて・・・それに僕を好きだってずっと言ってくれていたからね」


「うん。二人ともお兄さまを愛し過ぎているくらい、愛しているものね。でも望さんも同じだと思うわ」

「そうだね。望も可愛いし、素直で真っ直ぐで、自分の家の会社のことも良く考えていてしっかり者だ。その一ノ瀬電機のこともあるし、受け入れてもいいのかな・・・」


「三人共通しているのは、社長の娘ね。恵まれた家庭に育って、教育も十分に受け、人を見る目も養われている。それって神星の世界で言えば、貴族の娘みたいなものなのよね」

「そう言われるとそうなのかもね」

「えぇ、だから三人もお兄さまに貴族の血とか、神のオーラとか、そんなものを感じて惹かれているのよ。出会うべくして出会っているの。だから何も悩む必要はないのよ」


「葉留・・・お前って本当に・・・」

「十三歳らしくない?」

「うん。何か僕より大人だ・・・」

「じゃぁ、お姉さんの言うことを聞いてね・・・」

「そ、そうだね・・・」


「徹もさ。国会議員になって、そのうちに大臣や首相になったら、実質、高位貴族とか国王みたいなものだよね」

「えぇ、そうなる様に私が導くわ」

「葉留がそう言うと、本当にそうなりそうだね。楽しみだよ」

「えぇ、楽しみにしていてね」


「そう言えばね。私、徹さんと念話ができる様になったわ」

「え?徹と?あ!そうか、菜乃葉や七海と念話ができるのだからね。それはきっと、葉留の特有の能力なのだろうね」


「その様ね。徹さんといつでも会話ができるからとても助かるわ」

「でも、徹は何も言っていなかったな・・・」

「私が誰にも言ってはいけないと言っておいたからよ」

「そうか」


 その夜は深夜まで葉留を抱きしめたまま話をして、そのまま眠りについた。




 翌日は朝食後、皆で海へ出た。


 夏の海は日差しが容赦なく降り注ぎ、気温も高くなる。浜辺には午前中の早い時間にしか居られないのだ。


 プライベートビーチになっている浜辺には、ビーチパラソルが立てられ、人数分のビーチベッドも用意されていた。

高校生にはちょっと贅沢だが、社長令嬢ばかりだから致し方ない。


 と思ってビーチに出たのだが、そこに日差しはなかった・・・空は思いっ切り雲に覆われている。

「あれ?朝食中は晴れていなかった?」

「着替えているうちに曇ってしまったんだわ・・・」

「でも、日焼けしなくて済むから良いかも・・・」

「うーん。だけど、晴れていないと海がきれいに見えないよね・・・」

「ちょっと、残念ね・・・」


「翼。私の治療をしてくれた時みたいに雲を晴らしてもらえない?」

「あぁ、その手があったね」

「え?翼君。雲を晴らせるの?」

「美樹先輩、できますよ。反対に雨を降らすことも」


「それ、凄いな?科学なのか?」

「科学?あぁ・・・まぁ、そうかも知れないね。大気中の水蒸気や海の水分を集めて雲を作るんだ。その逆に水分を蒸発させれば雲は消える。小学生でも分かる科学だね」

「それじゃ是非、見せてくれよ!」

「そうだな。ここなら他人に見られないから良いか・・・それじゃ、雲を消すよ」


 僕は、そう言って浜辺に立ち、両手を空に向けて差し出した。

雲を透視して太陽の位置を確認すると、そこを中心に円形に雲を晴らしていった。


 一面の曇り空の中に丸く雲のない空間ができあがり、僕らの居るビーチに日が差した。

「うわぁーここだけ晴れてる!」

「すごーい!翼君って本当に神さまなのね!」

「こ、これが神の御業というものなのか・・・」

「翼、ありがとう!」

 皆、驚きながらも笑顔になっている。


「海がきれい!水が透き通っているわ!」

「あ!魚だ!大きな魚がいるわ!」

「ジャバッ!」

「うわぁーっ!」


 葉留が海中の大きなタイを念動力で捕まえて持ち上げ、海上に浮かべた。鯛は尾ひれをピチピチと振っている。またもや皆、ビックリだ。


「葉留!魚は漁業権のない僕たちは勝手に獲ってはいけないんだよ。海に帰してあげて」

「そうなの・・・残念!だって最近では、魚は高級食材になってしまったでしょう?」

「葉留ちゃん。大丈夫よ。この近海で獲れる魚は、近くの漁港から直接買い取っているから」

「流石、一ノ瀬家ね」


「ドボン!」

 葉留が残念そうな顔をしながら念動力を解除すると、鯛は元気に海へと帰って行った。


「世界的な化石燃料使用の制約によって原油は高騰し、遠洋漁業は採算が取れなくなってすたれてしまったし、空輸での輸入も無くなった。今では各国ともに、漁業は近海で獲れる魚だけに限定されてしまったからね」

「でも、秋刀魚さんまは前より、食べられる様になったよね?」


「あぁ、世界的に遠洋漁業に出なくなったから、乱獲が止まって海洋資源が回復して来ているんだよ。昔の様に日本近海に秋刀魚が回ってくる様になったらしいね」

「日本でもマグロみたいに遠くに獲りに行っていたものは漁獲量が激減したけど、元々、近海で獲れていた魚は増えているね」

「海洋資源が回復しているのは良いことね」

「そうだね」


「それなら、クジラも増えるのかしら?」

「あぁ、いわしやニシンが増えているからね。クジラも増えているだろうね」

「でも、それはそれで生態系が崩れるのではないかな?」

「そうだね。クジラは大食漢だから間引かれないと、他の魚が減るかも知れないね」


「まぁ、そうやって自然に任せてみるのも良いんじゃないかな?」

「では、地球の生物にとっては良かったのかしら?」

「地球全体としては良かったのだろうね。人間を中心に考えたら、人の営みは制限されている感じは否めないけれどね」

「きっと、それくらいで丁度良いのよ。人間は欲望に貪欲どんよく過ぎたんだわ」


「翼君が進めているプロジェクトが完成するとどんな暮らしになるの?」

「まず、使用するエネルギーは電気だけになる。そしてその電気代は国に支払うんだ」

「電気代を国に?」

「うん。オービタルリングにある太陽発電モジュールで作られた電気を地上の個々の工場や建物、電気製品とか船へ電気を無線送電することになるね」


「翼、オービタルリングには、気象衛星や通信衛星の機能も持たせるのかな?」

「巧。勿論だよ。地球の周りにある衛星やデブリは全て太陽の軌道まで飛ばして一掃する。その代わりに必要な衛星の機能は持たせるよ」

「それ、軍事衛星の機能は無いよな?」

「当然だよ、徹。戦争は許さない」


「それは素晴らしいわね」

「低軌道エレベーターは何に使うのですか?」

「新奈。それはね。当面は太陽発電モジュールのメンテナンスでオービタルリングまで上がるためだけど、そのうちに必要があれば、他の星に資源探査に行くかもね」


「あ!太陽発電モジュールなら、うちの会社で対応可能なのではないかしら?既に太陽発電ならば研究がかなり進んでいるから」

「美樹先輩、それは僕も考えていました。太陽発電モジュールは天羽化学に頼んでも良いかも知れませんね」

「うん。任せてくれ」

「巧・・・もう天羽化学の社員みたいな口ぶりだな・・・」


「でも、申し訳ないけれど、その辺は新奈のお父さまと相談してからにさせて頂くよ」

「まぁ、それはそうよね」


「だけど、神代重工一社で全てやろうとすれば、完成までに時間が掛かってしまうからね。必ず、何かしら協力して頂くことにはなると思うよ。どの分野をどの会社に委託するかを相談するんだ」

「そういうことなのね。では天羽化学も参加できるのね!」

「それならば、神宮寺建設にもできることは多いと思うよ」


「お父さまには、いつ言えば良いのかしら?」

「いや、君たちからは言わないで欲しい。新奈のお父さまから呼び掛けてもらうよ」

「そうね。私たちから言っても信じてもらえないわね」


「ところで電気以外では、どうなるのですか?」

「美樹先輩、昨日、少しだけお話しした通り、飛行機、船、トラックや自動車など、乗り物は全て反重力装置によって、空中を飛ぶ様になるのです」

「凄いわ。未来都市ね!でも凄い数を造らないといけませんね」


「いや、貨物の輸送船は超巨大な船にするので、それ程の数は不要です。人間が乗る船も経済活動を縮小させるために、敢えて数を制限するのです。個人所有も認めません」

「でも急いでいる時に困るのではありませんか?」


「今の自動車や飛行機よりも格段に速く飛べるのです。例えばここ、伊豆から東京までは五、六分です。東京と大阪の移動も二十分程度で移動できる様になるのです」

「それって、どれくらいのスピードなのですか?」

「マッハを少し超えますね。時速千五百キロメートルといったところです」


「その速度で中に乗っている人間に重力は掛からないのか?」

「巧。乗客に重力が掛かる様なら、子供やお年寄り、病人が運べないよ。外側に掛かる重力を室内では打ち消して全く重力を感じない様に作られているんだ」


「お兄さま。それは神星の船とは違う様ですね」

「そうだね。あちらの船は浮かんでいるだけで、プロペラをモーターで回して風力で飛んでいるから遅いんだ。原理が全く違うんだよ」


「それを全世界に配布するのですか?」

「配布ではありません。まず、国家単位で新しい環境保護プログラムと安全保障条約に調印し、船の使用条件を全て承諾した国にだけリース契約を認めるんだ」

「使用条件って、例えば?」


「まず、その国の人口と国土の広さ、それにGDPでリース可能台数が決まる。それ以上に求められても台数は増やさない。複製を試みて分解しようとすれば、自壊して仕組みが分からくなる様にできている。それをした場合には莫大な保証金を支払って頂くよ」


「更に何か別の目的で運航システムに手を加えようとすれば、システムが自壊し、全ての船が自動的に日本へ戻る様にしてあるんだ。その国が再契約を求める場合、リース料は三倍になる。それらの条件を承諾できる国だけにリース契約を認めるよ」


「お兄さま。それはよく考えられていますけど・・・列強国が小国日本の言うことを素直に聞くかしら?力ずくで奪おうとするのではなくて?」

「それは軍事力を使う可能性のことを言っているのかな?」

「えぇ、そうよ」

「でも、大量破壊兵器を使用した場合、その国のリーダーは抹殺するとお父さまは伝えてあるよね?」


「過去の例で言えば、実際に月の都を砲撃したり、攻撃ヘリで突撃した時でも、アメリカまで転移させたヘリをパイロットごと元の国へ戻してあげたりしたじゃない?神が本当に人を殺す訳がないと思っているかも知れないわ」

「確かにそうだね。もし、そうなったらリーダーを神星へ転移させて、一生農作業でもさせるよ」


「それだけで黙らせることができるものかな?」

「足りないかい?それなら、その国の兵器を全て太陽の軌道まで飛ばして攻撃できない様にしてやるさ」

「戦車とか戦闘機や航空母艦をか?そんなことができるのか?」

「だって、原発を大地ごと太陽の軌道まで飛ばせるんだよ?」


「え?それ、天照さまだけでなく翼もできるのか?」

「うん。できるよ。兵器工場も一緒に飛ばしてやるさ」

「そうなのか!それなら大丈夫か!」


「ただし、ちょっと甘いものが沢山必要かもね」

「それなら私がケーキやチョコレートを作るわ!」

「そうだね。その時は望にお願いするよ」


「電気はどうなるのかしら?それは世界に供給するの?」

「それも、条約に調印すれば供給するよ。まぁちょっと脅しみたいなことにはなるのだけれどね」


「それより、徹。経済活動を縮小させた上での国民の生活だけど、収入格差の是正ぜせいとか利益の配分などは政治家に考えてもらいたいのだけど・・・」

「今、翼が進めているプロジェクトには、首相と外務大臣、国土交通大臣、経済産業大臣も入っているんだよな?」

「そうだよ」

「それなら、そこに俺の親父も入れてくれよ。その場で話すべきことだと思うな」


「そうだな・・・うん。そうだね。では、このプロジェクトに参加する企業が決まったら、君たちの父上である社長たちと首相、外務大臣、国土交通大臣、経済産業大臣、財務大臣を招いて会議を開催しよう」

「その場では翼は正体を明かすのか?」

「そうだね。そのメンバーだけなら」

「そこに俺たちは出席できないかな?」


「それは何故?」

「参加企業が何故、選ばれたか説明が簡単だろ?」

「あぁ、僕の学校の友達だからって?」

「要らないかな?」


「それは・・・あ!そうだね。各企業の次代を担う君たちは始めの会合に居た方が良いだろう。徹も顔を売れるしな」

「そうだな。それはありがたい」

「え?私たちもその会議に?」


「その前に、新奈のお父さんに婚約の話をしないとね」

「え?それって必要なの?」

「会議に参加する大義名分でもあるね。新奈はいつお父さまに話すつもりなの?僕のお父さまには話してあるのに」


「あ!そうよね・・・分かった。帰ったらすぐに話すわ」

「徹さんは?」

「僕も帰ったらすぐに話します」

「では、僕も天羽化学に入社し、美樹さんと結婚すると報告するよ」

「私も巧と結婚するって報告するわ」


「新奈、徹、巧、美樹先輩。その話をする時は事前に日時を僕に教えておいてくれるかな?」

「何故?」

「高校生で結婚するとかって唐突な話を信じてもらえるの?」

「翼が来てくれるのか?」


「その時、僕が君たちの意識に入って、話を一緒に聞くよ。難航したら僕が瞬間移動して経緯を説明する。ただ、徹と新奈はお父さまも行くと思うけど」

「分かった。でも、親父。驚くだろうな・・・」

「うちは大丈夫だと思うわ」


「みんな、いいなぁ・・・」

 望は少し寂しそうにつぶやくと、水平線に視線を向けた。

「望、皆はまだ親に相手のことを話していないんだよ。すんなり認めてもらえるか分からないんだ。望はどうなの?」


「あ!そうね・・・私は翼と結婚したいし、親もそれを望んでいる。それに籍を入れずに私がシングルマザーになって会社を継ぐことも認めてくれているわ」

「そうでしょう?」

「望、私たちより、一歩リードしているのよ!」

「そうなのね・・・ありがとう。美樹!」


 そう言って、望は幸せそうに微笑んで僕を見た。望と目が合った瞬間。

「ドキン!」

 望の優しそうな笑顔を見て、僕の心はときめいた。あぁ・・・これは・・・決まりだな。この笑顔を泣き顔にすることは、もうできない。




 それからは浜辺でそれぞれ夏の海を楽しんだ。

「皆、そろそろお昼にしましょうか?」

「そうね。あまり焼けてしまうと大変だから」


「望さん。お昼にも何かデザートを作ったの?」

「えぇ、新奈さん。昨日の夜にスポンジを焼いておいたから、これから仕上げるわ」

「本当にお菓子作りが得意なのね」

「それくらいしか取り柄がないかも・・・」


「翼にとってはそれで十分なんじゃないかしら?」

「そうね。翼には甘いものが不可欠だから。私にもケーキ作りを教えて欲しいわ」

「結衣さん。いつでも教えるわよ」

「ありがとう!」


 昼食は冷やし中華だった。伊勢海老、高脚蟹タカアシガニ帆立ホタテなど豪華な具材が乗った海鮮冷やし中華で、凄く美味しかった。


「こんな贅沢な冷やし中華を俺は食べたことがない!」

「私もよ。ここまで贅沢なものは初めて!」

「望先輩。いつもこんな食事をしているのですか?」


「これは、お父さまが翼へのお礼を込めて奮発しているのだと思うわ」

「あぁ、そうなのか・・・申し訳ないな。でも美味しいよ」

 そしてデザートは望が作った夏のフルーツを乗せたショートケーキだった。


「まぁ!フルーツが宝石みたいに輝いているわ!」

「望さん、本当にきれい!パティシエが作ったみたいね!」

「うん、そうね。望。本格的だわ!」

「皆、ありがとう!」


 望がケーキを取り分けた。

「翼、さぁ、どうぞ。お口に合うと良いのだけれど」

「望、ありがとう。とっても美味しそうだね」


 僕はケーキをフォークで切って口に運んだ。

「うん!美味しい!フルーツがみずみずしいね。スポンジもきめ細やかでふわふわだ。それに生クリームの甘さがフルーツと絶妙に合っているよ!」

「まぁ!ホント?嬉しい!」

「本当に美味しいわ!」

「うん。美味しいな!」


 望は皆に褒められて、幸せそうな笑みを浮かべて照れている。あぁ、やっぱり、望は可愛いな・・・


 もう、僕の心の中では望を妻にすると決めていた。あとはいつそれを言うかだけだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ