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15.徹の婚約

 七日間の集中治療により、望先輩の白血病は完治した。


「望先輩。完治して良かったです。これで学校にも行けますね」

「えぇ、全て翼君のお陰よ。本当にありがとう」


「顔色も良いし、体重も戻りましたかね?」

「ちょっと恥ずかしいけど、少し太ってしまったかも?」

「それだけ体調が元に戻って食欲も回復したってことですね。後は部活で少しずつ身体を動かして行けば良いでしょう。いきなり全力で踊っては駄目ですよ」


「はい。翼先生」

「そうだね。僕の患者だからね。僕の言うことを聞いてくださいね」


「はい。あ!そうだ。翼君。もうすぐ試験でしょう?」

「そうですね」

「試験が終わって夏休みになったら、うちの別荘に行かない?」

「別荘に?でも神代重工とのWeb会議が平日は毎日あるのですよ」


「Web会議なんでしょう?それならどこでもできるじゃない。別荘に通信設備は整っているわ。それに研究材料だって持ち込んでも良いのよ」

「うーん。それって・・・」

「勿論、新奈さんと結衣さんも一緒にね」

「そうか・・・ちょっと考えてみますよ」


「その別荘は何人まで泊まれますか?」

「そうね、寝室は四部屋あるから八人迄泊まれるわ」

「ふむ。それでは美樹先輩と僕の男友達二人、それに僕の妹も誘っても構いませんか?」

「まぁ!美樹も呼んで良いの?嬉しいわ。それに妹さんにも会えるのね。大歓迎よ」


「では、皆に聞いてみます」

「えぇ、是非!私は美樹に聞いておくわね」


 二人で一階の居間で待つご両親のところへ行った。

「お父さま。お母さま。治療は今日で終わりですって」

「えぇ、完治しました」

「おぉ!本当ですか!ありがとう御座います。どれ程のお礼を差し上げたら良いやら」


「お礼なんて不要です」

「ねぇ、お父さま。夏休みに翼君を海の別荘に招待したいのですけど、良いかしら?」

「え?二人で過ごすのかい?」

「いいえ、美樹や翼君の妹さん、それに翼君の親しい友人も一緒によ」

「あぁ、そういうことか。存分に遊んで来ると良いよ」

「ありがとう。お父さま」


「望、それで、学校はどうするの?」

「夏期講習で補習を受けて、前期の期末試験で結果を出すわ」

「間に合うのかしら?」

「絶対に遅れは取らないわ」

「望がそう言うなら大丈夫なのでしょう。無理はせずに頑張ってね」

「はい。お母さま」


「今後は週に一度、学校で検診をします。夏休み一杯診て問題なければ、半年に一度の検診とします」

「その検診は病院で診なくても良いのですか?」

「私の目で見た方が鮮明で正確です。問題が見つかれば、その場で治療もします」

「まさかそれって・・・一生、望の面倒を見てくださるって、お話でしょうか?」


「お母さま!何を言っているの!違うわ。翼君は私の主治医になってくれると言っているのよ」

「あ、あぁ、そうなのね。失礼しました」

「望、顔色も良いし、元気になったね。本当に良かった」

「お父さま。全て翼君のお陰よ」


「これで、何もお返しができないというのも心苦しいものだね」

「そうですね。今後、お願いしたいことがあるかも知れません。その時はよろしくお願いいたします」

「あぁ、貸しにしておいてくださるのですね。ではいつでもおっしゃってください。どんなことでもさせて頂きますので」

「お父さま、ありがとうございます。私のために」


「当たり前だよ。望は私たちの全てなのだからね」

「望先輩。素敵なご両親ですね」

「えぇ、そうね」


「では、今日はこれで失礼します。望先輩。また学校で」

「えぇ、翼君。ありがとう」

「シュンッ!」


「あぁ、消えてしまわれた・・・でも、望。本当に良かった」

「また、学校に通える様になるなんて・・・神さまのお陰ね」

「はい。本当に!」


「望。これから先も翼君とは付き合いが続くのだよね?」

「えぇ、一生、続くわ」

「それって・・・結婚は・・・」

「お父さま。私だって翼君と結婚したいわ。でもね。普通の暮らしはできないみたい」


「それはどういうことだい?」

「彼の戸籍は日本で暮らすために、結城夫妻の子として登記したけど、本当の子じゃないし、見た目も全く違うでしょう?例えば私とおおやけに結婚するとなったら、彼は色々な方面から調べられてしまうわ。そうなったら不都合な点が明らかにされてしまって普通の暮らしができなくなってしまうのよ」


「では、結婚は無理なのだね?」

「日本の法律にのっとった形ではね」

「ではどうすればできるのかしら?」

「公には私は一生独身でシングルマザーとなって、この会社を継ぐ。という形かしら。勿論その陰には翼君が居るのだけど」


「それしかないのか・・・」

「でもお相手は神さまの子なのよ。普通に考えたら結婚なんてできる訳がないわ」

「それもそうだね」

「そうよね」


「でも、望と神の子との跡取りができるのか。あれ?その子供って、翼君みたいな神の能力を持って生まれて来るのか?」

「あ!それは聞いていないわ」

「でも、人間ではあるのでしょう?」

「そうね。翼君も人間だって。寿命もお父さまの天照さまとは違って、人間と同じだって言っていたわ」


「だから、日本で普通の暮らしをさせたくて、神であることを隠しておられるのだね」

「えぇ、そうね」

「まだ、翼君とどうなるかは分からないのだね」

「えぇ、私の気持ちは伝わっていると思うわ。後は彼が私を選んでくれるかどうかね」


「そうか、あまり期待しないで待っていようかね」

「そうね。期待が膨らみ過ぎるのは危険ね」

「こればかりは頑張ってどうにかなるものでもないでしょう。なる様にしかならないわ」

「そうだね」




 望先輩のことが一段落し、やっと徹に葉留のことを話せる。

葉留からはこの一週間、催促を受けていたのだ。でも望先輩のことは葉留も分かっていたので我慢してくれていた。


「徹、今日、部活はあるのかい?」

「あぁ、一応あるよ」

「そうか・・・」

「何かあるのか?」

「いや、ちょっと話があるんだ。僕は今日なら時間が取れるものだから」


「それなら部活はサボるよ」

「大丈夫なのか?」

「この学校は進学校だ。誰も部活に命や将来は懸けてないさ。青春のほんの一部だよ」

「それじゃ、放課後に時間をもらえるかな?」

「分かったよ」


 そして授業が終わり、帰宅時間となった。

「結衣。今日は徹と話があるんだ。先に帰っていてくれるかな?」

「分ったわ」

「気をつけて帰るんだよ」

「大丈夫。何かあったら呼ぶわ」

「うん」


 徹と二人でカフェに立ち寄った。

カウンターでアイスコーヒーを買ってテラス席へ出た。もう暑くて誰も外の席には居ないのだ。


「徹。徹のお父さんはあの榊財務大臣なのだって?」

「そうだよ。知らなかったのか?」

「うん。僕は友達の親のことなんて気にしたことがなかったからね」

「そうか。それで、それがどうかしたのか?」


「いや、徹は国会議員になると言っていたね。ではそれは本気も本気なんだね?」

「そりゃぁ、そうさ。この歳になって絵空事でそんなことを言っていたら、それこそおかしいだろ?」

「それは今後、どんな流れで国会議員になるんだい?」


「あぁ、まずは東大だな。経済学部を卒業して、親父の秘書になるんだ。秘書をしながら議員の勉強を積む。出馬するタイミングは親父と相談だな」

「なるほど、既定路線ができているんだね」

「まぁ、そういう世界なんだよ」


「分かった。では今日の本題なのだけど」

「あぁ、ここからが本題なんだな?で?」

「葉留のことだよ」

「あ!あぁ・・・葉留さんか」


「徹。本気なのか?」

「あぁ、俺は本気だ」

 徹は間髪を入れずに僕の目を見て言い切った。


「それは、結婚するという意味で良いか?」

「あぁ、勿論だ」

「そうか・・・分かったよ」

「分った?それはどういう意味?兄として許すってこと?」


「別に僕が許すとか許さないの話ではないよ。葉留の結婚相手は葉留が決めれば良いことだからね。ただ、徹の意思を事前に確認しておきたかったんだ」

「そうか。それなら良いんだ。俺の気持ちは変わらないから」


「それなら親に紹介したいから、一度家に来てくれるか?」

「あぁ、望むところだ。伺うよ」

「いつなら都合が良いかな?」

「いつでも構わないよ。いつでも必ず都合をつけるから」


「それなら、今度の土曜日でも良いかな?」

「あぁ、分かった」

「時間は葉留から連絡させるよ」

「うん。ありがとう。あのさ。翼」


「何だい?」

「翼の家って、何か変わっているのか?」

「何故?」

「普通、高校生の男女交際で、付き合う前に親に会って許しを請う家って聞いたことがないからさ」

「そうだね。ちょっと変わっているかも知れないな」




 家に帰るなり葉留が待ち構えていた。

「お兄さま。ありがとう!」

 葉留が抱きついてきた。僕は葉留を抱きしめて、

「また僕の意識に入って見ていたのかい?」

「えぇ、徹さんの凛々しい姿が見られて興奮したわ」

「悪趣味だなぁ・・・」


「お父さまとお母さまに連絡して、土曜日の十六時に結城邸に来てもらうことになったわ」

「それじゃ、もう徹には?」

「伝えたわ」

「そうか。早いね」


 僕はそのまま研究室へ向かった。そこには既に結衣が居た。

「あ。翼、お帰りなさい」

「ただいま。結衣」

 僕は結衣を抱きしめた。そのまま話をする。


「どうしたの?」

「今度の土曜日に徹がここへ来るんだ」

「あぁ、葉留さんのことでご挨拶に来るのね。私は部屋から出ないでいた方が良いわね?」

「いや、一緒に居てくれるかな」


「それも話してしまうの?」

「うん。僕らはもう家族の様なものだよ」

「もう、家族になってしまうのね。あ!榊君は私の弟になるのね!」

「あぁ、そうだね。徹は弟だ!」


「何だか面白いわ!あ!それなら、新奈もその場に居ないと可哀そうかも」

「そうだね。仕事が入っていないなら来てもらおうかな?あ!いや、新奈と結衣のこともお父さまたちにきちんと報告しないとね」


「それならそうと、新奈にはきちんと伝えておかなければ駄目よ?」

「どうして?」

「モデルさんだもの。そういうフォーマルな場に相応しい服装とかを気にすると思うの」

「あぁ、そうか。後で電話しておくよ」


「それとね。新奈と二人で逢う時間をもっと作ってあげて欲しいの。私だけこうしていると独り占めしているみたいで申し訳ないわ」

「あぁ、そうか。そんなことを結衣に言わせるなんて・・・僕は駄目だね。結衣、ありがとう」


 そう言って結衣とキスをした。

そうか・・・キスの回数でも一緒に居る時間も、結衣の方が断然多くなっているんだな。これは新奈に埋め合わせしないと。




 土曜の十六時。時間通りに徹はやって来た。セバスに案内されて、ちょっと緊張した徹がサロンに入って来た。徹はスーツで決めていた。


 高校一年生でスーツを持っているなんて・・・流石、政治家の息子だ。

「やぁ、徹。よく来たね」

「お、翼。あれ?なんで九十九さんがここに?」


 徹は結衣を見て戸惑っている。

「結衣はこの家に住んでいるからね」

「え?同棲してるの?」

「それはちょっと違うかな?」

「???」

「結衣にはちょっと事情があってね。それはまた今度話すよ」


 そこへ新奈がお茶を運んできた。

「ひゃぁ!今度は神代さん!君も?」

「私はここに住んではいないわよ。他の用事で来ていたのよ」

「あ、あぁ、そうなのか」


 そこへ葉留が降りてきた。ダンスの時のドレスを着ている。皆、ビックリだ。

「徹さん、いらっしゃい」

「は!葉留さん!そ、それは!・・・何て美しい!」

「徹さん、ありがとう。今日は正装をしてみたの」

「正装!」

「す、素晴らしいです。本当に綺麗だ・・・」


「素敵ね!私もこんなドレスを着てみたいわ!」

「私も!でも似合うかしら?」

「新奈も結衣も似合うに決まっているでしょう?今度、注文しようか?」

「どこへ注文するの?」

「異世界の服飾工房だよ。中世の貴族の様な暮らしだから、女性は日常からこの様なドレスを着ているよ」


「おいおい、さっきから何を訳の分からない会話をしているんだ?」

「あぁ、ごめん」

 すると、後ろからお父さんとお母さんが階段を下りてきた。


 新奈と結衣はさっと後ろに回り、直立不動となった。徹は目を白黒させて僕や葉留の顔をお父さまたちと見比べている。


「初めまして。葉留の父親の天照です。あなたが、榊 徹さんですね」

「初めまして。葉留の母です。瑞希と申します」


「え?はい?あ、あの・・・わ、私は、榊 徹と申します。初めまして!」

 徹はお父さんを一目見て神の天照だと判断できた様だ。少し慌てたが挨拶もできた。やはりその辺の高校生とは違うな。


「葉留がお世話になりますね。どうぞ、お掛けください」

「は、はい!」

「徹殿、とお呼びしても?」

「はい!構いません」


「葉留を嫁にもらってくれるとか?」

「はい!葉留さんを是非、私の妻に迎えたいと存じます!」

「それはいつ頃になりますか?」

「私はいつでも構いません。葉留さんの希望される時期にお任せ致します」


「そうですか。ところで徹殿の父上は国会議員。それも財務大臣だそうですね。徹殿も国会議員を目指しておられるとか?」

「はい。そうです。父は衆議院議員の榊 高臣。財務大臣です。私も大学を卒業後に父の秘書となり、政治の勉強をするつもりです」


「そうですか。葉留は私の子ですが、寿命は普通の人間と変わらないのです。ですから日本で普通に暮らすために結城の名を借りて戸籍を登記したのです」


「葉留との結婚自体は構わないのですが、葉留は有名人と結婚すると素性を調査されてしまいますね。神の子と知られてしまったらどうなるでしょうか?」


「僕は葉留さんが神の娘と知られて彼女が困ることになるとは思えません。僕としても、神の娘の夫と知られて、葉留さんが恥ずかしくない様な人間になっている様に精進します」

「お父さま、徹さんが議員に立候補して選挙活動する時や議員になってから議員活動の中で一緒に行動する時は、私が黒髪のカツラと黒目のカラーコンタクトで変装して目立たない様にするから大丈夫です」


「それと、僕が国会議員になるのは、恐らく十年以上先のことになります。議員になる前に結婚しておけばそこまで注目を浴びることはないかと思われます」

「それなら私が大学を卒業してすぐに結婚すれば良いわね」

「僕としてもそれくらいの年齢で結婚できていると安定して仕事ができるので助かります」


「そうですか。分かりました。では、娘をよろしくお願いします。徹殿のご両親にご挨拶する時は同席させて頂きますよ」

「ありがとう御座います。よろしくお願いいたします」


「さて、翼も話があるのだったかな?」

「はい。お父さま。僕もこちらの二人の方とお付き合いしているので、ご紹介します」

「こちらが、神代重工社長の娘で神代 新奈さん、そして九十九 結衣さんです」

「神代 新奈です」

「九十九 結衣です」

 二人とも大いに緊張している。


「お二人は将来、翼と結婚する際、日本の法律や戸籍にのっとらない結婚となっても良いのですか?」

「はい。私は構いません。神代重工は私が継ぎ、表向きはシングルマザーとして暮らします」

「え?シングルマザー?新奈さん、本当にそれで良いの?」


「はい。名目や戸籍にはこだわりません。翼さんと一緒に生きて行くことが私の全てなのです」

「お母さま、あくまでも表向きの話ですよ。僕はずっと一緒に居ますから」

「あぁ、そうよね」


「では、新奈さん。それでご両親は納得して頂けるのでしょうか?」

「納得させます!」

「分りました。では話がまとまりましたら私を呼んでください」

「はい。ありがとうございます」


「結衣さんはご家族がいらっしゃらないのでしたね」

「祖父母は居るのですが、高齢で介護が必要な状況です。私も名目や戸籍には拘りません」

「それなら、いつでも結婚できますね」


「私の様な者が翼さんの妻になっても良いのでしょうか?」

「あなたは素敵なお嬢さんですよ。翼に相応しくないことなどありません。二人が良い時に結婚したら良いのですよ」

「はい!ありがとうございます」


「では、私たちはこれで帰ります」

「お父さま、お母さま、ありがとうございました」

「シュンッ!」


「うわぁっ!消えてしまった!」

「ふふっ。徹さん、可愛い!」

「え?そうですか?消えましたよ?」


「徹、十五年前お父さまが初めて現れた時の映像を見たことないのかい?」

「いや、それはあるけれど・・・」

「突然現れたり、消えたりしていただろう?」

「そ、それはそうなんだけど・・・目の前で見たら驚いてしまって・・・」


「それなら、徹が見慣れるために瞬間移動を見せてあげるよ。徹、君の部屋を思い浮かべてごらん」

「え?俺の部屋?」

「シュンッ!」


 徹の意識に入り込み、頭に思い浮かべた彼の部屋へと瞬間移動した。

「うわぁ!ここ俺の部屋!どういうこと?」

「徹が頭に浮かべた場所へ僕が一緒に転移したんだよ」

「そんなことできるのか!」

「さぁ、戻るよ」


「シュンッ!」

「徹さん、お帰りなさい。どうだった?」

「驚きました。え?葉留さんもこれができるのですか?」

「いいえ、お兄さまはお父さまと同じことができるのですけど、私は力が弱いから、ちょっとした念動力に透視と治癒しかできないのです。あ!あと念話ができるので人の心は読めますよ」


「え?それは葉留さんに隠し事はできないということですね?」

「あら、何か隠し事をする気だったのですか?」

「い、いや、そんなことはありませんよ」

「それならいいじゃないですか」


「では、瞬間移動はできないのですね?」

「はい。できません。ですから月の都とこことは、お母さまかお兄さまが転移させてくれているのです」

「え?ここが家ではないのですか?」

「ここにも部屋はありますが寝泊まりは月の都です。お兄さまも」


「え?では、翼は九十九さんと一緒に寝ている訳ではないのか」

「それはまだ、ちょっと早いね」

「そうなんだ」


「あぁ、そう言えば、お兄さま。一ノ瀬電機の社長令嬢のこと、皆さんにきちんとお話ししておいた方が良いと思いますよ」

「あぁ、それがあったね」

「そう言えば、バスケの試合の後、姿を見ないね」


「彼女はあの後、白血病であることが発覚してね。入院していたんだ。でもそのままでは悪化する一方で命を落とす可能性が高かったので僕が治療して治したんだ」


「それでお兄さま。彼女はどうするのですか?命を救われた彼女は、もうお兄さまのことしか考えられなくなってしまいましたよ」


「そうだね。僕も治療のために一週間、毎日彼女の家に通い、一時間治療をしながらお互いの話をしていたんだ。彼女は真っすぐで真面目で頑張り屋さんだ。やっぱり、新奈と通じるものがあるかな」


「では、好きになったのですね?」

「新奈、それはまだ分からないかな。合計七時間は話をしていたけど、新奈や結衣と比べたら会っている時間は圧倒的に少ないからね」


「それで別荘に行くのですね?」

「葉留。またのぞき見していたのかい?」

「覗き見?」


「葉留はね。僕の意識に入り込んで僕の見ているものを一緒に見ることができるんだ」

「じゃぁ、望さんと一緒の時間をずっと見ていたの?」

「だって、面白いのですもの・・・」


「徹。実は君のことも僕を通してずっと、葉留は見ていたんだよ。だからカラオケの時の一目惚れじゃないんだ」

「え?じゃぁ、入学式からずっと学校生活を葉留さんに見られていたってこと?」

「学校生活だけじゃないよ」

「え?どういうこと?」


「葉留はストーカーだからね。徹の家の中の生活も言動も全て見られているよ」

「えーっ!」

「ごめんなさい・・・徹さんのことが好き過ぎて・・・」

「それじゃ、僕の全てを見た上で好きになってくれたってこと?」

「勿論よ。徹さんの全てが好きよ」


「やった!僕は見られて後ろめたいことなんて何もないからね。それで好きになってくれたなら僕はもう自分のことを説明しなくて良いってことでしょ?」

「えぇ、全て知っているわ」

「それ程、楽なことはないじゃないか!大歓迎だよ」

「嬉しい。ストーカーしていても良いのね?」

「勿論だよ!」


「何だかお似合いのカップルなのかな?」

「そうね。もしかして翼も私たちの全てを見ているのかしら?」

「お風呂を覗いたりなんて絶対にしていないからね!」


「え?俺のお風呂、覗いたの?」

「ごめんなさい」

「参ったな・・・それじゃ、それも含めてOKなのね?」

「はい。よろしくお願いします」

「それなら良かった」


「良かったの!」

 僕と新奈、結衣が声を揃えた。


 そして、葉留のストーカーが本人の公認となってしまった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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