14.望先輩の告白
望先輩の治療を開始した。
治癒の力を掛けながら視線を望先輩の顔に向けると、バッチリ目が合ってしまった。望先輩の頬は上気し赤くなっていた。でも明るい日差しの中で、その頬が少しだけこけている様に見えた。
「先輩、少し瘦せましたか?」
「え?そう?そう見えるなら嬉しいわ!」
「それは健康な人ならそれで良いですけど、病気の人はそんなことを言っていてはいけませんよ」
「はーい。先生」
そう言いながらニコニコしている。
「望先輩。一か月前に初めて会ってから、一度も会わなかったのでどうしたのかと思っていたのですよ」
「え?気にしていてくれたの?」
「え?あ、まぁ、初対面が変わっていたので覚えていたのです。先日、美樹先輩と偶然通学路で会って、その時に入院しているって聞いたのですよ」
「美樹が翼君に伝えてくれて・・・それでこうなったのね・・・美樹に一杯感謝しなくちゃ・・・」
「そうですね」
「あ。治療中なのにこうしてお話ししていても大丈夫?」
「えぇ、あまり深く考えて話せないかも知れませんけど、気が散らない程度なら・・・それに一時間もこうしていて黙っているのは、耐えられないですよね?」
「ふふっ、私は翼君を見つめていられるなら何時間でも耐えられるけど・・・」
「僕の方が無理そうですね・・・」
「それなら、私の話を聞いてもらっても?」
「えぇ、構いませんよ」
徐々に望先輩の笑顔は消え、真顔で淡々と話し始めた。
「私ね。ひとりっ子なの。両親はもういい歳でしょう?」
「不妊治療で長年苦労した末に望先輩を授かったとお話しされていましたね」
「えぇ、それでね。大事にされ過ぎたっていうか・・・甘やかされてね・・・中学生になって、それがちょっと鬱陶しくなっていたの」
「学校も勝手に決められてお嬢様校へ行かされたの。それに反発して高校は急遽受験をして進路を変えてしまったわ。学校ではダンスをして、お化粧も少し・・・ね。病気はそうやって親に反発した罰が当たったのかしら・・・」
「でも、高校受験では本気で勉強したのでしょう?」
「それはそう。だって自分の好きにするにしてもランクが低いところに入ったら、それこそ何を言われるか分からなかったから・・・そこは頑張ったわ」
「それだけ努力したのですから、高校生活を楽しんで罰を受けることなどありませんよ」
「翼君はやっぱり神さまなのね。噂を聞いたわ。クラスメート全員のフルネームを覚え、誰とでも分け隔てなく接し、笑顔を向けてくれるって」
「神さまは関係ないと思いますけれどね」
「翼君のこともね。父から聞いたの。父は私の婿になって一ノ瀬電機を継いでくれる婿養子を探していたみたい。会社で私と同年代の息子がいる社員を調べさせたみたいなの。それって、個人情報保護の観点からは問題よね?」
「それで、結城取締役の息子さんがひとつ年下で、同じ高校に通っているって分かって、私にそれとなく伝えてきたの。私、結婚相手まで勝手に決められてしまうのかって、腹が立ってしまって・・・絶対に親の言いなりにはならない。って思ったわ」
「でも、学校であなたの噂を聞く度に、どんな人なんだろうって、少しだけ興味が沸いたの。初めて翼君を見たのは体育祭の時。あの時も輝いていたわね」
「その後、バスケの練習試合に翼君が出るって大騒ぎになっていたから、美樹と一緒に見に行ったのね」
「そうしたら翼君って、背も高くて顔も美しい、抜群のスタイルでバスケもプロかと思う程上手くて・・・それにあの噂でしょう・・・悔しいけど好きにならない訳がないわ」
「それで、ひとりで舞い上がって、あの登場になってしまったの。凄く変な女が来たなって思ったでしょう?」
「少し、驚いたかな・・・でも変な女とは思わなかったけど」
「本当にごめんなさい」
「そのすぐ後で、病気のことが分かって・・・私はもう死ぬんだって思っていたの。何もかも諦めて抜け殻の様になっていたわ」
「すぐに自分が白血病って分かったのですか?」
「端末で「鼻血が止まらない」で検索したらすぐ出てきたもの。私の症状は白血病の症状にばっちり当てはまっていたから・・・」
「それは不安だったでしょう・・・」
「えぇ、でも先週、父から翼君のことを聞かされて・・・夢の様で」
「そう」
「そして、こうして私の部屋に来てくれて、治療をしてくれるなんて・・・本当にありがとう。翼君」
「まだ、完治できると決まった訳ではないのです。お礼の言葉を頂くのは早いです」
「ううん。もう治らなくても良いの。こうして翼君が私を助けようと来てくれた。それだけで私はもう幸せなの」
「いや、これからも生きてもらわないと困ります!」
「困る?翼君が?どうして困るの?」
「それは・・・助けられなかったら悲しいじゃないですか・・・」
「あぁ・・・私。本当に幸せ・・・う、う、うぅ・・・」
望先輩は一瞬だけ微笑むと泣き出してしまった。僕が両腕を掴んでいるから、二人とも涙を拭うことができない。彼女は静かに涙を流した。
あぁ、これはなんとか完治させないと!
思わず情が移ってしまい、抱きしめてあげたくなる衝動を抑えて治療を続けた。それと同時に必ず治さなければならないという重圧に心が押し潰されそうになってしまった。こんなに美しく、可愛い女の子を死なせたくない・・・心からそう思った。
一時間ほど力を送り、血液細胞を透視した。
うん。明らかにがん細胞が減っているし、DNAも正常化してきていると思う。
「今日はこの辺にしておきましょう。がん細胞は減っているし、DNAも正常化しつつあります。これを毎日続けていきましょう」
「本当?さっきからだるさがなくなって気分が良くなってきていたの。でも翼君と話して気が晴れたせいだと思っていたのよ」
「うん。血中の白血球や赤血球、血小板の数も落ち着いてきていますからね、症状が緩和して気分が良くなっても不思議はないです」
「それでは本当に治るの?」
「いえ、それは早計ですね。明日診察したら元に戻っているかも知れませんから・・・」
「そうなのね・・・」
「でも、希望はあります。実際にがん細胞は減っていて、進行は止められているのですから」
「そうね。希望は持てるのね?」
「えぇ、先輩の名前と同じです。望は持っていてください。病気は気の持ちようも大事です」
「病は気から。って言うものね」
「そうです。だから治ってからの楽しいことを考えていてください」
「うん。分かったわ。ありがとう。翼君」
「それでは、今日はこれで帰ります。明日は学校がありますから、来られるのは夜になってしまいますけど」
「夜なのね。食事は済ませておいた方が良いかしら?」
「そうですね。そのまま眠れる様にしておいてください」
「ねぇ、連絡先を交換してくれる?」
「あぁ、そうですね。瞬間移動で飛んで来ますから、その前に連絡した方が良いですね」
「やった!翼君の連絡先を教えてもらえるなんて!」
「では、交換しましょう」
「もう少し回復するまで、家の中でもあまりうろうろしない様にしてくださいね」
「まだ、安静なのね?」
「そうですね。明日の結果次第では、少し動いても良いと思います」
「ホント?」
「結果次第ですよ」
「はい」
「では、また明日」
「はい。また明日。今日はありがとう!翼君」
「どういたしまして」
望先輩と連絡先を交換してから一階へ降りた。
「おぉ!終わったのですね!こちらへどうぞ」
ソファに座ると、お手伝いさんがすぐにお茶を出してくれた。
そのお手伝いさんが下がるまで待ち切れないといった表情でご両親がこちらを見ていた。
「む、娘は如何ですか?」
「今日のところは白血球、赤血球と血小板の数が減り、がん細胞も減らせることが分かりました。DNAの修復も可能な様です」
「そ、それでは娘は治るのですね!」
「いえ、まだ分かりません。明日診て、元に戻っている様なら効果がないことになりますからね」
「そ、そうですか・・・」
「明日は学校があるので夜に来ます。恐らく夕食後になると思いますので、就寝の準備をして待っている様に言っておきました。望先輩と連絡先を交換しましたので、来る前には連絡します」
「瞬間移動で来られるのですね」
「えぇ、今日もここから帰り、明日もここへ転移しますね」
「分りました」
「では、今日はこれで失礼します」
「翼君、本当にありがとうございました」
「いいえ。ではまた明日」
「シュンッ!」
家に戻ると繫お父さん達に報告した。
「翼、お帰りなさい。ご苦労さま」
「どうだったのかな?」
「ただいま。今日のところは上手くいきました。がん細胞も減らせたし、DNAの修復も可能な様です。今日の時点で彼女の症状も改善し、元気がでていました」
「それなら、完治も可能なのかな?」
「まだ。分かりません。明日また診て、元に戻っている様なら難しいということですから」
「あぁ、そうなのか・・・」
「では明日も行くのね?」
「そうですね。放課後、神代重工のWeb会議が終わり、夕食を頂いてから行きます」
「あぁ、また翼を忙しくしてしまったわね・・・」
「いえ、僕がしたくてしていることですから」
「翼君。私にできることがあれば何でもするから言ってね」
「ありがとう。結衣・・・そうだな・・・ちょっと良いかな?」
「えぇ」
僕は結衣と一緒に結衣の部屋へ入った。
「ねぇ、ちょっと二人でベッドに入っても良いかな?」
「ベッドに!?」
「あ!変なことはしないからさ」
「あ。そ、そうよね。勿論、いいわ」
二人で服を着たまま結衣のベッドに入った。
「結衣。僕を抱き締めてくれる?」
「えぇ、分かったわ」
結衣は僕の背中に腕を回して抱き締め、僕の頬に結衣の頬を寄せた。
僕も結衣を抱き締めて目を閉じた。
「なんかね。多分、身体は疲れていないんだ。でも心が・・・疲れたのかな・・・」
「望先輩の命が懸かっているのだもの。それは気を遣って当然だわ」
「そうだね。望先輩は僕が治療をしてくれるだけで嬉しいって。もし命が助からなくても構わないって・・・そう言ったんだ」
「そう。そう言われたら、是が非でも救いたくなってしまうわね」
「そうなんだ。結衣は分かってくれるんだね」
「勿論よ。私はずっと翼君のことだけを考えているから・・・あ!ごめんなさい。こんなこと言ったら重い女になってしまうわね」
「いや、嬉しいよ。結衣」
「私もこうして翼君の心が休まるなら嬉しいわ」
「ありがとう。とても休まるよ」
「言ってくれたら治療中は毎晩一緒に眠っても構わないわ」
「うーん。それは・・・まだやめておこうかな。あと少しだけこうしていたいけど」
「うん。分かった。翼君。愛しているわ」
「ねぇ、結衣。結衣は僕のこと「君」を付けて呼びたいのかな?」
「あ。それは・・・ただの癖、かな」
「それなら新奈と同じ様に「翼」と呼んでよ」
「翼・・・うん。練習してみる」
「うん。では呼んでみて」
「翼」
「はい」
「翼」
「うん。いいね」
そして見つめ合いキスをした。結衣は頬を赤くし、はにかんだ様な笑顔になった。
翌日の夜、夕食後に望先輩へ電話をしてから一ノ瀬邸の居間へと飛んだ。
今日は夜の診察で血液細胞が見難いので、とても明るいLEDのライトを用意した。
「シュンッ!」
「こんばんは!」
「こんばんは。翼君。今日もよろしくお願いします」
「はい。では早速」
階段を上がり、望先輩の部屋へ入った。
「翼君、いらっしゃい」
「あれ?望先輩。とても顔色が良いですね」
「えぇ、今朝、目覚めたらとても気分が良かったの。ごはんも沢山食べられたのよ」
「それは良い傾向ですね。では早速、診察しましょうか」
「そのライトは血管を見るためなのね?」
「そうです。流石に夜に太陽を昇らせる訳にはいきませんからね」
「ふふっ。翼君ならできてしまいそうね!」
「さぁ、腕を出してください。診察しましょう」
血液細胞を見るのにも慣れてきた。すぐにその倍率に合わせて見られる様になった。
白血球、赤血球や血小板、がん細胞の数は昨日の状態から変わっていない。戻っていないと言うことは、このまま治療を続ければ完治する可能性があるということだろう。良かった。
「良かった。昨日の状態から悪化していません。これなら完治する可能性がでてきましたね」
「本当!信じられない!」
「さぁ、今日も治療をしましょう」
そう言って両腕を掴み、治癒の力を送り始めた。そしてそこから一時間のおしゃべりタイムが始まった。
「私、この後の人生を考えても良いのかしら・・・」
「昨日も言ったでしょう。明るい方向で考えてくださいと」
「そうね。でも今日、悪化していたらどうしよう。って、不安で不安で・・・」
「多分、大丈夫ですよ。また悪化しても僕がこうして治療しますから」
「え?でもそれって、あと半年とか一年で大丈夫になるって話ではないのでは?」
「勿論です。癌はいつ再発するか分かりませんからね。ある意味一生、検診は続けないといけません」
「一生?翼君は一生、私の検診をしてくれるの?」
「構いませんよ。完治すれば検診と言っても半年に一度くらい診れば良いのですから」
「あぁ、半年に一度か・・・それなら完治しない方が良いのかしら・・・」
「完治しない方が良い?何故、そんなことを?」
「だって、完治したら半年に一度しか会えなくなってしまうでしょう?」
「あ、あぁ、そういうことですか・・・。それなら学校で会えるじゃないですか」
「翼君、大学はどこへ行くの?やっぱり東大なの?」
「そうですね。行くならですけど」
「え?大学に行かないかも知れないの?」
「それは・・・あり得ますね」
「何故?あ、そうか。学問は既に習得済みって聞いたわ」
「それもありますが、既に僕が創ったもので世界的規模のプロジェクトが動き出しているので、三年後には大学に行っている時間はないかも知れないのです」
「それはどんなプロジェクトなのか教えてもらえる?」
「まぁ、既に僕の素性は明かしていますから教えても構いません。でも他言しては駄目ですよ」
「勿論、絶対に口外しません」
「僕は反重力装置を創ったのです。それを使って世界中のあらゆる乗り物をその装置で動かす様にするのです」
「し、信じられない・・・反重力装置?それを十五歳で創り出してしまったの?」
「まぁ、そうですね。それだけではありません。宇宙船とオービタルリング、それに低軌道エレベーターも同時に建造するのです」
「まさか!本当なの?それを一人で?」
「協力してくれる企業が見つかったのです。それに僕を支えてくれる人も」
「ねぇ、それは一ノ瀬電機も加わって助けることはできないかしら?」
「そうですね。オービタルリングが出来れば、そこで発電し、地上へ無線送電する予定です。それらの電気関係の製造を担って頂けると助かるでしょうか」
「是非、やらせてください!」
「ちょっと、落ち着いて。今は治療中ですよ」
「だって・・・落ち着いていられないわ。翼君の役に立てるかも知れないのだから・・・」
「あぁ、そうか!家電製品も全て無線送電化できれば、今までの様に電気コードの劣化で火事が起こることが無くせますね」
「素晴らしいわ。家電自体は今まで通りで、給電装置の部分だけを変えれば良いから簡単よ」
「いや、それならば冷媒ガスを使わない冷蔵庫や、水を汚さない洗濯機なんかも造って欲しいのです」
「まぁ!良いわね!」
「でも、その設計をしたい人は決まっているのです」
「え?どこの誰なの?」
「元一ノ瀬電機の社員で独立して家電メーカーを立ち上げた人が居るのだけど・・・」
「九十九さんね。去年、火事でお亡くなりになったのよね」
「うん。その娘さんが、それらを造りたいって言っているのです」
「何故、翼君がその娘さんを知っているの?」
「それはクラスメートで僕の席の隣に座っているからですよ」
「まぁ!そんな縁が?でも九十九さんのお嬢さんがお嬢さま校ではなくて、何故、私と同じ高校に?」
「亡くなったお兄さんが通っていたそうです」
「あ!そうだった!私の一年先輩だったの」
「あら?でも九十九さんの会社は清算したと聞いているけど・・・お嬢さんはどうやってそれらの製品を造るのかしら?」
「あぁ、それはまだ決まっていないのです。今は僕の研究室を使って研究していますよ」
「え?翼君の研究室って自宅ってこと?ではもしかして、そのお嬢さんとは・・・」
「うん。恋人でもあるかな」
「え!そ、そうなの・・・そうよね。翼君に彼女が居ない方がおかしいわよね」
あ。何だか思いっきり気落ちしてしまった・・・まずいな。
「えーっと・・・実はね。僕にはもうひとり恋人が居るのです」
「え?恋人が二人?どういうこと?その二人は知っているの?」
「勿論、知っているし、いつも三人一緒ですよ」
「でも、それって・・・結婚はどうするの?それとも結婚はしないの?」
「結婚はしたいし、きっとしますよ。二人とも」
「え?日本は一夫一婦制よ?」
「もう知っていると思いますけど、僕の戸籍はインチキです。それに元は異世界の人間です。その異世界では一夫多妻制というか、そういう制度もない世界なのです。僕のお父さまには九人の妻が居て、僕には地球に妹が一人。異世界には三十二人の兄弟たちが居る」
「凄いわ!」
「そうですね。その兄弟たちも十五歳になったら次々と結婚して子を作っています。だから僕にとっては妻が一人でなければならないことはないし、それに恋人という意識もないかな。恋人は婚約者です」
「ねぇ、それなら翼君の妻は三人でも良いのね?」
「まぁ、何人でないといけない、という決まりはないですね」
「それなら、私も妻になれるのね?」
「え?望先輩が?」
「あ、私は駄目かしら・・・初対面があれだったし・・・病気持ちですものね」
「駄目も何も・・・初対面は挨拶だけだし、昨日初めてお話ししたばかりですよ?お互いに何も知らないではないですか?それで結婚も何もないでしょう?」
「あ!そうだったわ。ごめんなさい。またひとりで舞い上がってしまったわ」
「だから、望先輩が駄目ってことではないです。まだ分からないってことです」
「では、可能性はあるの?」
「それはないとは言えないでしょう。でも望先輩。僕は戸籍もインチキだし、神の子です。ずっとその素性を隠して日本で生きて行かなければならないのです。だから恐らく一ノ瀬電機は継げませんし、僕と正式に結婚するなら、表の世界には出られなくなりますよ」
「では、今の恋人二人はそれを承諾して、戸籍上の妻にならなくても良いと言っているのね?」
「そうです」
「あぁ、九十九さんはもう一人ですものね。あと一人は私の知っている人かしら?」
「えぇ、きっと知っていますね。彼女も望先輩を知っていましたから」
「差し支えなければ聞いても?」
「神代 新奈さんです」
「え?新奈さん?彼女は神代重工の社長令嬢で私と同じ一人娘じゃない!」
「えぇ、そして反重力装置を使ったプロジェクトは、神代重工にお願いしているのです」
「あぁ、そうか・・・実質のところで婿になっている様なものなのね。新奈さんが次期社長になれば良いのですものね」
「その辺の話はまだ何も決まっていないし、実は親にもお付き合いのことは一切話していないのです」
「まだ三人で話して将来を決めただけなのね」
「そうですね」
「それならば、私も新奈さんと同じ形は取れると思うの。翼君、私もその候補として気に掛けてもらえないかしら?その先で私とは付き合えないと思ったのなら諦めるわ」
「分かりました。今、それを拒否する理由はありませんからね」
「ホント!嬉しい!」
それから毎日、望先輩の家に訪問し七日間の治療を終えた。既に血液にも血液細胞のDNAにも異常は見られなくなっていた。
そしてお互いの生い立ちから何から全てさらけ出して話してしまった。最早、新奈や結衣よりも望先輩の方が僕を詳しく知ってしまったかも知れない。
「望先輩。治療は一旦これで終了しましょう。完治したと言って良いと思います」
「本当に?ありがとう!翼君!」
そう言って望先輩は僕に抱きついてきた。僕も彼女を抱き締めた。
抱いてみて分かったが、望先輩は背丈が新奈や結衣と同じくらい、でも体形は新奈と結衣の間くらいだ。とても美しい人だ。
無事完治できて本当に良かった。でも三人目の嫁候補ができてしまった様だけど・・・
お読みいただきまして、ありがとうございました!