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13.望先輩

 いつもの様に新奈と結衣と三人で駅から学校へ向かっていた。


 曲がり角で見覚えのある人と出くわした。

「あれ?あ。美樹先輩。お久しぶりですね。おはようございます」

「おはようございます!」

 新奈と結衣が警戒しながら、とびっきりの笑顔で挨拶した。


「あ!おはよう!あ、あ、あ、翼君!わ、私の名前を覚えてくれていたの?」

「えぇ、まあ・・・今朝は、望先輩は一緒でないのですね」


「え?え、えぇ・・・望は・・・入院してしまったの」

 美樹先輩は思いっ切り沈んだ表情となってしまった。


「入院?病気なのですか?」

「詳しくは教えて頂けなくて・・・私も分からないの」

「入院は最近のことなのですか?」


「いいえ、翼君に会った次の週のことだから、もう一か月は経っているわ。部活でダンスの練習をしている時に鼻血を出したの。それが中々止まらなくて、病院へ行くって言っていたのだけど・・・」

「それで、その後一か月も入院が続いている・・・ということですか?」

「そうなの」


「それは心配ですね」

「あぁ、翼君が心配してくれていることを知ったら、望は喜んだだろうな・・・」

「そうですか・・・」

「できることならば、翼君に望のお見舞いに行ってもらいたいところだけど、私でも会えないの」


「そんなに重い病気なのですか?」

「病名さえも教えてもらえないの・・・」

「そうですか。では、何か分かったら教えてください」

「えぇ、そうさせて頂くわ」


 校門のところで美樹先輩と別れた。

「翼って、本当に優しいのね」

「え?誰だって知っている人が病気と聞いたら心配するでしょう?」

「そうね。翼君。何の病気か見当が付いているのかしら?」

「まぁね。だけど会えもしないのに、あれこれ詮索しても仕方がないよね」


「それにしても、初めて会った時にあの勢いだったのに何故、その後、現れないのかしら、って思っていたの」

「病気で入院していたとはね・・・」

 三人共に少し罪悪感を抱いた。




 結衣と一緒に家に帰り、早苗お母さんの顔を見たら望先輩のことを思い出した。

「ただいま」

「あ、翼、結衣。お帰りなさい」

「お母さん、今日学校で一ノ瀬先輩が病気で入院しているって聞いたのですけど」

「え?望ちゃんが入院?私は聞いていないわ。繁さんも言っていなかったから知らないと思う。それじゃぁ聞いておくわね」

「えぇ」


 早苗お母さんはすぐに繁お父さんにメッセージを送ったらしい。

お父さんは早速、社長に聞いてみたらしく帰って来るなり僕を研究室から呼び出した。


 僕は結衣と一緒に居間へ上がった。

「お父さん、どうしたのです?」

「研究で忙しいところ悪いのだけど・・・望ちゃんのことなんだ」

 お父さんは沈痛な面持ちで話し始めた。これは望先輩の病気が僕の想像の通りだったのだろうな。


「どんな病気だったのですか?」

「それが・・・慢性白血病だそうだ」

「白血病!」

 お母さんが驚きの声を上げた。


「慢性白血病ですか・・・今はどの段階なのですか?」

「え?翼、白血病を知っているの?」

「僕は医学も全て習得していますし、治癒能力もありますからね」

「え?では白血病も治せるのかい?」


「いや、その病気を治療したことはありません。それに段階にもよります。でも一か月前は元気でダンス部の活動をしていました。入院したということは症状が現れ病院で検査して病気が発覚したのでしょうから、慢性期を過ぎ移行期に入っているのでしょう」


「あぁ、その部活でダンスをしている時に急に鼻血を出し、出血が止まらなくなったらしいんだ」

「えぇ、それは望先輩の友達から聞きました。もしかしたらその病気かなと思っていました」

「白血病ってことは、これから抗がん剤治療とかもするのかしら?」


「いえ、初期段階ならば、内服薬を試します。でも進んでしまうと骨髄移植しかなくなってしまいます」

「え?骨髄移植?そ、それは・・・簡単ではないわね」

「社長はお金なら幾ら掛かっても構わないから、海外も含めてドナーを探すと言っていたよ」


「その段階では、翼でも治せないの?」

「ちょっと、お父さまに相談してみます」

「お願いします」


 僕は窓際に立ち、庭を眺めながらお父さんと念話で交信した。

『お父さま。今、よろしいでしょうか?』

『おや、翼か。どうしたんだい?』

『繁お父さんの一ノ瀬電機の社長令嬢で僕の高校の先輩なのですが、慢性骨髄性白血病になってしまった様なのです』

『それは厄介だね』


『どうやら移行期に入っている様で、ドナーを探し始めているらしいのですが、この段階で僕の治癒能力で多能性造血幹細胞たのうせいぞうけつかんさいぼうの九番と二十二番染色体の転座を止めることは可能でしょうか?』


『うーん。私はこちらの世界ではその病気の人間を見たことがないから治療したことがないんだ。残念だができるともできないとも言えないな。翼、DNAをイメージできるかい?』

『DNAですか・・・映像だけで実際には見たことがありません。これは、やってみるしかないのですね』


『そうだね。透視を顕微鏡のイメージで倍率を上げていって、血液細胞のDNAを見るんだ。だけどね、治療するにしても、クリーンルームに入っていて見舞いには行けないはずだよ。親に翼の素性を伝えて退院させ、自宅で治療するより他はないだろうね』


『一ノ瀬電機の社長令嬢ですから、こちらの素性を伝えることはできないことではありません。でも、治せる確約がないのに退院させるのは心が痛むと言うか、治せなかった時に責任が取れません』


『その通りだね。では、どうする?』

『そうですね・・・でも、知ってしまった以上、見捨てることはできません』

『やるだけやってみるかい?』

『はい。そのつもりです』


『では、社長に話す時は私も同席しよう。両親を結城邸に呼んでくれる様に繁さんに話してくれるかな?』

『はい。ありがとうございます』


「お父さまと話しました」

「随分と長く話していたね。難しいことなのかな?」

「難しいと言うより、やったことがなくて治せるかどうかが判らないのです。やってみるにしても、クリーンルームに僕が入ることが許されないと思うので、退院させないと治療ができません。更に、僕の素性を明かさなければなりません」


「幾つものハードルがあるのね」

「でも、治せる見込みが少しでもあるならばやってみる価値はあるよね?だって、ドナーはいつ見つかるか分からないのだから」

「そうですね。それに地球の医療では、治療に長い時間を掛けなければなりませんから」

「それなら、一かばちかでも賭けてみる価値はあるだろう」


「望先輩と両親がそれに賭ける気があるかを確認するだけでも、僕の素性は話さなければなりません。それにはここへ来て頂いて、僕とお父さまと話をして頂きます」

「では、月夜見さまは社長に素性を話して選ばせてくれると言ってくれたのだね?」

「はい」


「それなら、すぐに社長へ電話するよ」

「えぇ、お願いします」


 お父さんは、社長と電話で話し、二日後の夜に社長夫婦がここへ来ることとなった。




 社長夫婦は、運転手が運転する黒塗りの高級車でそのままガレージに入った。

セバスの案内で応接室へ通されてから僕が呼ばれた。


 応接室には社長夫婦、繁お父さんと早苗お母さんだけが居た。

僕はいつもの部屋着に白衣を着たまま応接室へ入った。僕の姿を見た社長夫婦は目を丸くして驚いていた。社長にはまだ、僕の素性を話していないのだ。


「は、初めまして。一ノ瀬孝明いちのせたかあきと申します。こちらは妻の由紀子です」

「初めまして。結城 翼です。研究の合間なので、この様な格好で失礼します」

「い、いえ、良いのです。君が翼君・・・ですか・・・そ、それで・・・今日は望の病気について話があるとか?」


「はい。時間が勿体ないので単刀直入にお話しします。私はここに居る両親と全く似ていないですよね?」

「えぇ、驚きました」

「私は、地球での戸籍を得るために、両親の子として登記されたに過ぎません。本当の両親は別に居るのです」

「ご、ご両親はどちらにいらっしゃるのですか?」


「月の都です」

「つ、月の・・・みやこ?」

「こうして、浮いてみたら分かりますか?」

 浮遊術で天井近くまで浮かびあがった。


「それともこうして、消えてみたら?」

「シュンッ!」


「シュンッ!」

「これは瞬間移動です」

「あ、天照さまのご子息さまなのですか・・・」

「はい。そして私には透視能力と治癒能力もあります。その力で望さんの病気を治療してみますか?」

「な、治せるのですか?」


「私の父も、私も、知り合いに慢性骨髄性白血病にかかった人が居なかったので治療実績が無いのです。ですから、やってみないと判りません」


「それに望さんは白血病です。既にクリーンルームに入院しているならば、そう何度も面会に行って腕に触れたりできないでしょう。ですから一時退院して、自宅で治療をしなければなりません」


「つまり、望さんの治療を引き受けるには三つの条件があるのです。ひとつ、望さんを病院から一時退院させること。二つ、治せる確約がないことを承諾頂くこと。三つ、私の素性はご両親と望さん以外には絶対に漏らさないこと。以上を守って頂けるならば治療を引き受けます」


「あなた!お願いするわよね!」

「も、勿論だ。今は神におすがりするしかないのだから!」


「翼さま。あの子は・・・娘は・・・私たち夫婦が十年間不妊治療を続け、苦労してやっとひとりだけ授かることができたのです。私たちにはあの子が全てなのです」


「娘の病気が治癒できる可能性が少しでもあるならば、私たちはどんなことでも致します。会社も資産も全て投げ打ったとしても娘を救いたいのです」


「シュンッ!」

 その時、お父さんが応接室に出現した。


「初めまして。天照です」


「は!ははーっ!」

 ご両親はお父さんの姿を見た瞬間に、もの凄い速さで立ち上がり、後退あとずさって床にひれ伏し、土下座した。


「あぁ、そんなにかしこまらなくても良いのですよ」

「そ、そんな・・・天照さまにお目通りが叶うとは・・・」

「あぁ・・・神さま・・・」


 こうなってしまうのか・・・お父さんの威光は恐ろしいものだな・・・


「翼から聞いたとは思いますが、確実に治せるとお約束できません。それでも良いのですね?」

「も、も、勿論で御座います!ほんの少しでも望みがあるのならば、お願いできれば・・・と!」


「えぇ、分かりました」

「あ、ありがとうございます!」


「翼、このご両親と娘さんは、DNAが似通っているはずです。腕を絞って血流を止め、血液細胞のDNAを詳しく見るのです。その異常の出ていないDNAを記憶して、娘さんのDNAで転座した部分をご両親と同じ正常な形にイメージして戻してみるのです」

「お父さま。分りました。やってみます」


「それと、一ノ瀬殿。我々のことは、くれぐれも内密にして頂きます様に、お願いしますよ」


「あの。もしや・・・結城君が海洋プラスチック除去装置を開発できたのは・・・」

「それは、結城さんの人脈から出た情報なのではありませんか?どこぞの大学の研究成果なのでしょう?」

「あ。は、はい。そうでした。余計な詮索でした。申し訳御座いません」


「では、そういうことで。私は失礼します」

「シュンッ!」


「あ!あぁ・・・消えてしまわれた・・・」

「あなた。なんてありがたいことでしょう!翼さま・・・娘を、娘をどうかよろしくお願い致します」

「翼さま!娘を!何卒、よろしくお願い致します!」

 何だか、望先輩を嫁にもらうみたいなこと言うな・・・


「あの、「さま」はやめてください。「君」でお願いします。今後は普通の高校生として接して頂かないと不自然ですので」

「そ、それは・・・あ。しかし・・・そ、そうですね。し、承知致しました」

「では、望先輩の退院が決まりましたらお知らせください。一日も早く治療を開始したいと思います。伺うのが夜でも構いませんか?」


「勿論です。いつでもお迎えを出しますので」

「それは、初日だけで結構です。僕は一度行った場所ならば、世界中どこにでも瞬間移動で転移できますから」

「そ、そうなのですか!で、では初日のお迎えだけ手配させて頂きます」

「えぇ、お願いします」

 そして、平身低頭のままご両親は帰って行った。




 そして早速、次の土曜日に望先輩は一時退院した。

僕は日曜日の午前中。迎えの車に乗り、一ノ瀬邸へと向かった。


 季節は梅雨に入っていた。日本の南岸には梅雨前線が停滞し、東京に連日雨を降らせ、夏も近いと言うのに少しひんやりした空気が流れていた。


 望先輩の治療をするには涼しくて助かった。暑いと焦って嫌な汗をかくかも知れないからな・・・車窓から低く垂れこめた鼠色ねずみいろの雲を見上げ、そんなつまらないことを考えてしまうのは、少しだけ気持ちが沈んでいるからだ。


 治せるかどうか判らないという不安で心が押し潰されそうになる。人の命を預かる覚悟が僕にはまだできていなかったのではないか?望先輩の治療を引き受けて良かったのだろうか・・・


 知らない人ではないのだ。望先輩なのだ。一か月以上前に一度会ったきりではあるが同じ学校の先輩で、あんなに元気そうだったのに・・・命に係わる病気になってしまうなんて・・・


 車が大きな門をくぐり、屋敷のアプローチへ回り込む。車窓から見上げたそれは、神代重工の社長宅に負けない大きさの邸宅だった。とは言え、大きさだけなら結城邸と同レベルだ。


 玄関には望先輩のご両親が待ち受けていた。

「これは翼君。ようこそお出でくださいました」

「お父さん。挨拶が丁寧過ぎます。高校生相手ですよ」

 少し顔を近付けて小さな声で伝えた。


「あ!そ、そうでしたね・・・さぁ、中へどうぞ」

「はい」


 そしてまずは一階の居間に通された。お手伝いさんの女性がお茶を出そうと動き出したのが見えた。


「あ。すみません。お茶は要りません。すぐに診察を始めますから」

「左様で御座いますか。ご主人さま、よろしいですか?」

「うん。お茶は望の診察が終わってからにしよう。下がって良いよ」


 お手伝いさんは下がって行き居間にはご両親だけとなった。まずはご両親の診察だ。

「まずはお二人の血液細胞のDNAを見せて頂きますね」

「はい。どんなことでも致します」


 まずはお父さんの腕をゴムバンドで縛り血流を止め、動脈や手の血管を透視して、更に顕微鏡の様に倍率を上げて血液細胞を見ていった。


 血液細胞のDNAを次々に見ていき、正常な状態を記憶していく。続いてお母さんも見せてもらって二人分を見終わった。


「これでお二人のDNAを記憶しました。望先輩の治療を開始しましょう」

「では、ご案内します」

「いや、ご両親が居ると気が散ります。集中したいので僕一人で望先輩の治療に当たっても構いませんか?」

「勿論です。娘の部屋は二階に上がってすぐの部屋です」


「ありがとうございます。恐らく一時間ほど掛かると思います」

「はい。よろしくお願いいたします」


 僕は一人で二階にある望先輩の部屋へと上がり、ドアをノックした。

「トントン!」

「望先輩。翼です」

「翼君?どうしよう!ちょっと待って!」


 三十秒ほど待たされた。きっと前髪でも整えているのだろう・・・


「ど、どうぞ!」

「ガチャ!」

「こんにちは望先輩。お久しぶりですね。お加減は如何ですか?」

「翼君!本当に来てくれたのね!」

「えぇ、来ましたよ」


 望先輩はパジャマにカーディガンを羽織り、ベッドの上で上体を起こしていた。

ツインテールにはしておらず。勿論、髪も巻いてはいなかった。


 少しだけ部屋を見回した。十二畳程の広さがあるだろうか。家具には詳しくないが、恐らくヨーロッパの家具なのだろうと推測される。女性らしい色合いと優しさが感じられ、好感が持てる。


 それと同時に何故か結衣の一人暮らしのアパートの部屋が思い出され、少しだけもの悲しさを感じた。


 気持ちがブルーになって意識が散漫になっていたところに望先輩がボソッとつぶやいた。


「翼君は神さまの子だったのね・・・」

「え?あ、あぁ、そういうことです。望先輩に日本の両親と似ていないと言われましたものね」

「あ!あの時は不躾ぶしつけなことを言ってごめんなさい」

「良いのです・・・本当のことなのですから」


「さぁ、腕を見せてください」

「はい。先生」

「ふふっ、先生?翼で良いですよ」

 僕はゴムバンドで先輩の左腕を縛りながら言った。


「こんなに近くで翼君を見られるなんて・・・幸せだわ。本当に美しい人ね・・・」

 僕は望先輩の言葉をえて無視して血管の透視に集中する。白血球、赤血球、血小板が異常に増殖している。どんどん透視の倍率を上げていき、血液細胞のDNAを見ていく。


 だが、この部屋は暗い。天井の照明は居間のものと比べて照度が低い。今日は梅雨空だから尚更だ。これでは良く見えない。


「この部屋はちょっと暗いですね。細胞がよく見えません。雲を吹き飛ばして明るくしましょう」

「え?雲を吹き飛ばす?」


 都合良く、この部屋は南向きに窓がある。僕は窓を開けて空に向けて両腕を差し出し、雲を晴らす様にイメージして力を送った。


 すると重く垂れこめていた鼠色の雲が左右に分かれる様に薄れて行き、青空と日差しが現れた。


 日差しが降り注ぐその中で、窓際に立つ翼のプラチナシルバーの髪が日差しに照らされてキラキラと輝いた。


「あぁ・・・神さま・・・なんて美しい姿・・・」

 望先輩は両手を胸の前で組んで涙を流した。


「さぁ、これで明るくなったね。再開しようか・・・あ!望先輩。どうしたのですか?」

「神さまは雲を晴らすこともできるのね・・・凄いわ・・・私ね。もう自分は死ぬんだと思っていたの・・・でもこうして神さまが目の前に現れるなんて・・・嬉しくて」


 あぁ、やはりそうだよな・・・神さまのイメージならば病気を治してくれると思われるよな・・・ハードルが上がってしまったかな・・・


 診察を再開し、日差しの入ったベッドで、もう一度、血管の中を見た。


 すると、ご両親との違いが見えてきた。これが転座してしまったDNA、それにBCR-ABL1融合遺伝子と言われるがん細胞・・・これが白血病なのだな・・・


 このがん細胞を消滅させ、ご両親のDNAと同じ正常な状態になる様にイメージをするということか。


 ゴムバンドを外して左腕の動脈に力を流すため、先輩の細い左腕を掴んだ。

「あ、あぁ・・・」

 先輩は真っ赤な顔をして変な声を出した。


「望先輩、右腕にも同時に治癒の力を流しましょう。ベッドに座っても良いでしょうか?」

「勿論。どうぞ・・・」

 僕はベッドの端に腰掛け、右腕も掴んだ。


 望先輩の腕は皮膚がサラサラしていてきめ細かい。適度な脂肪があり女性らしい柔らかな腕をしていた。


 どれくらいの時間、治癒の力を流せば良いか、初めてのことで判らない。とりあえず一時間くらいやって、一度、透視して結果を見てみよう。


 よし、これから治療の始まりだ。絶対に治したい。僕は少し緊張気味に力を送った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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