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11.新奈と結衣との婚約

 新奈と結衣を月の都に招待したが、二人は僕の部屋で相談すると言って籠った。


 そして二人は三十分後に何やら晴れやかな顔をして出てきた。


「話は終わったのかい?」

「えぇ、終わったわ」

「なんだか楽しそうだね」

「そうね。月の都に来られたのよ?楽しいに決まっているわ」


「それは良かった」

「翼、また庭園に行きたいのだけど、案内をお願いしても良いかしら?」

「勿論だよ。では行こうか」

「ありがとう」


 庭に出て歩き出したものの二人は何も話さない。心は読みたくないしな。

あ、そうだ。こういう時は山の頂上だな。


「二人とも。僕の手を取って」

「え?何をするの?」

「あ!うわぁ!浮かんだ!」


「絶対に落とさないから大丈夫だよ、あの山の頂上まで行くからね」

「うわぁー!空を飛んでいるわ!」

「凄い!ちょっと怖いけど・・・でも楽しい!」


 新奈、結衣と手を繋ぎ、三人両手を広げてゆっくりと滑空する様に飛び、徐々に高度を上げながら川に沿って山を登って行った。高い山ではないのですぐに山頂に着いた。


「さぁ、山頂に着いたよ」

「わぁーきれいな景色!」

「ここって外から中は見えないのに、中からは外が良く見えるのね」

「そうだね。光学迷彩のシールドで覆われているんだよ」


 しばらく三人で黙って景色を眺めていたが、新奈が意を決して話し始めた。

「翼。この前、結婚の話をしたよね」

「うん?あぁ、そうだね」


「私は翼を愛していて、その気持ちは生涯変わることはないわ。でも今はまだ、高校生活やモデルの仕事があるし、アーティストになる夢も捨てられない。だからその夢に向かって頑張るわ」


「でも翼のことも絶対に諦めたくないの。結婚がいつになるのかは分からないし、急がない。私は二番目でも三番目でも良いし、戸籍上の妻になれなくても良いわ。でもいつか、翼のお嫁さんとして一緒に暮らしたい。今日は結衣の居る前でそれを言っておきたかったの」


「翼君。私も新奈と同じよ。私には翼君しか居ないわ・・・心から翼君を愛しています。私にはもの作りくらいしかできないから翼君のお手伝いができれば嬉しいし、自分でも何か作ってみたいと思っているわ」


「その先に結婚というものがあるのなら、私も戸籍とかにはこだわらないし、二番目でも三番目でも構わないわ」


「新奈、結衣。ありがとう。二人ともそんなに僕を想ってくれているんだね。嬉しいよ。僕だってその内に結婚を考える時が来るのだと思う。その時に二人が僕のそばに居てくれたなら結婚してくれますか?」


「え?二人ともでも良いの?」

「僕は構わないよ。戸籍のことはどうにもならないかも知れないけれどね。でも今の僕の戸籍だってインチキしたものだからね。そんなものに拘る必要なんてないんだ」


「翼!本当に?」

 新奈は大粒の涙をこぼしている。

「翼君・・・嬉しいよぉ・・・」

 結衣も泣き出してしまった。


 僕は二人を一緒に抱きしめた。新奈と結衣は両側から僕の頬にキスをした。


「ねぇ、翼。どっちと先にキスをするとか考えたことある?」

「え?それはないかな?」

「勿論、誰かとキスしたことは無いでしょう?」

「うん。無いね」


「私も無いわ。結衣もでしょう?」

「うん」

「じゃぁ、三人同時にファースキスをしたいの」

「え?同時に?どういうこと?」


「三人で一緒にするのよ。じゃぁ、翼はそのままで居て」

「結衣、来て!一緒に!」

「できるかな?」


 そして新奈と結衣は少しずつ顔を近付けていき、三人は同時に唇を付けた。

僕の鼻と新奈の鼻がちょっと当たってしまった。


 二人は笑顔になった。

「新奈、結衣。ちょっとじゃんけんしてみて」

「え?何で?」

「いいから」

「え?じゃぁ、じゃんけんぽん!」

 新奈はチョキ。結衣はパーを出した。

「新奈の勝ちだね」


「ん!」

 僕は新奈をきつく抱きしめてキスをした。


 新奈は初め目を白黒させていたが、やがて目を閉じて応じた。


 結衣は僕の腕に手を掛けて寄り添ってきた。


 数十秒の長いキスを終えて、顔を見合わせると。新奈は笑顔になった。

もう一度、新奈を抱きしめた。


「翼、ありがとう。愛しているわ」

「新奈。ありがとう」


 そして新奈と離れると今度は結衣と向き合った。優しく抱きしめるとキスをした。結衣はもう分かっていたから深く抱きしめてきた。


 新奈は僕の背中に自分の背中を合わせ寄り添った。


 新奈とは胸の感触が違う。同じ様に数十秒間の長いキスをした。

終わると結衣は一筋の涙を流した。そしてもう一度抱きしめた。


「翼君、ありがとう。愛しています」

「結衣。ありがとう」


「新奈も結衣も二人の意識を僕に繋いだよ。二人がどこに居ても繋がっていて、君たちが見ているものを僕も見られる。そして、その場所に瞬間移動することもできる。つまり、何かあればいつでも助けに行けるからね」


「まぁ!究極のストーカーね!」

「ふふっ、ストーカーか。何か身の危険を感じたら頭の中で僕を強く呼ぶんだよ」

「いつでも助けに来てくれるのね」


「ねぇ、それなら今夜、私の部屋で翼を強く念じて呼ぶから来てくれる?」

「そうだね。一度、行って場所を確認しておいた方が良いかな」

「ねぇ、新奈。夜に翼君を部屋に呼ぶって・・・キス以上のことをする気じゃないわよね?」


「え?あ!夜って・・・そ、そんな気はなかったのよ!ホントよ!」

「まぁ、良いわ。翼君が応じるとは思えないから」


「それを言ったら結衣だって!翼といつでも二人きりになれるのですからね。翼を誘惑しては駄目よ」

「私は誘惑なんて・・・しないわ」

「ねぇ、それもさ。初めは三人一緒にしよう。なんて言わないよね?」

「さ、流石にそれは・・・」


「それじゃ、またじゃんけんで?」

「ちょっと、翼君!結婚はまだ考えられないって言ったのに、そういうことはしても良いの?」

「それは・・・キスで目覚めてしまったかも・・・いや、実は兄弟からそういう影響とか刺激は受けていると言いましょうか・・・」


「え?そうなの?」

「だって、僕の兄弟は十五歳で結婚してすぐに子を作っているからね」

「翼、赤ちゃんが欲しいの?」

「それは・・・そのうちには・・・ね」

「赤ちゃんを授かる作業も?」


「まぁ、それは男だからね」

「私はいつでも良いわよ」

「あ!それなら私だって・・・」

「でも、日本では十五歳では早いよね?」


「多分、そうだと思うけど・・・している子はしているわね」

「まぁ、それは自然の成り行きでいいんじゃない?」

「自然な・・・ね」

「それだと・・・早そうね」

 二人は真っ赤な顔になった。


 何だか盛り上がり過ぎてしまったので、クールダウンのために庭園に降りて散歩をした。

その後、家族で昼食を一緒に食べたが、お父さんと一緒だと二人ともカチコチになってしまって、食べたものの味も分からなかったらしい。


 そして結城邸に結衣を、新奈は彼女の家まで瞬間移動で送った。




 ある朝、いつもの様に朝食を済ませると葉留と一緒に結城邸へ飛んだ。


 食堂に顔を出すと家族が朝食中で、結衣が先に終わり席を立とうとしていた。

「翼、葉留、おはよう!今日は少し早いのね」

「おはよう!少し結衣に用があってね」

「翼君、葉留ちゃん、おはよう!私に用?」


「うん。ちょっと部屋へ行こうか」

「はい」

 部屋へ入ると結衣が僕の顔を見上げる。


「翼君、どうしたの?」

「結衣。この前、猫背を治してって言ったよね」

「あ!まだ猫背かしら、ずっとそうしていたから・・・」

「うん。それでね、僕には治癒能力もあるから少し治療してみようと思ったんだ」

「まぁ!猫背が治せるの?」


「結衣の場合、骨の状態を透視して見たのだけど、胸椎きょうついが曲がってしまっているね。両肩も少し内側へ巻き込んでいるしね」

「治るのかしら?」

「治るよ。僕が治癒の力を掛けて矯正していくからね。そのまま真直ぐに立って」

「はい」


 僕は骨の状態を見ながら力を掛け、軟骨の形を整えて支える様にイメージしていく。肩も背中側から掴んで、ゆっくりと力を掛けて矯正する。


「よし、これを毎日やっていこうか」

「うん。ありがとう」


 そして家を出て二人で学校へ向かった。

今では毎日一緒に登校している。新奈とは駅で待ち合わせして学校までは三人一緒だ。二人だけだと付き合っていると噂されてしまうので、なるべく三人で歩いている。


「新奈、今、結衣の猫背を矯正しているのだけど、モデルの歩き方とか姿勢矯正する運動とかってあるんじゃない?」

「あるわ。それを結衣に教えれば良いのね」

「うん、頼むよ」

「でも結衣がどんどん綺麗になって来ているって、皆、話しているわよ」

「それは、僕らのことがバレているってこと?」


「それはバレてはいないと思うわ。結衣が翼に恋をすることで綺麗になっていっていると思われているのよ」

「あぁ、私が翼君に相手にされる訳ないと思われているのね?」

「そう思われているのも今だけでしょう。結衣ってどんどん変わって行っているから」


 今では結衣は、伊達眼鏡は掛けていないし、制服の着方やスカートの短さも新奈と同じにしている。


「そうだね。見た目だけでなく、性格も明るくなったし、誰とでも話せる様になってきたものね」

「私、このまま変わっても大丈夫かしら?」

「いや、変わっているのではなくて、元に戻っているのでは?」

「あ!そうか。そう言えば私、前は誰とでも話はできていたわ」


「やっぱり。そうだよね。良かった。結衣にも新奈みたいにもっと明るく、元気になって欲しいな」

「翼君がそう言うなら・・・」


「でも最近では、私たち三人がいつも一緒なのは公認になってきたと思うわ」

「そうかい?それなら楽だけど」

「これ以上、他の女子が近付けない様にしないとね」


「普通は近付けないものだと思うわ」

「結衣、それはどうして?」

「翼君って、どう見ても外人じゃない。皆、自分とは釣り合わないと思うのが普通よ」

「あぁ、結衣は初めそう言っていたわね」


「でも新奈は初めから躊躇ちゅうちょがなかったね」

「私はモデル事務所に所属しているから、外人のモデルは見慣れているもの」

「あぁ、そういうことか・・・」

「でも、翼はダントツに美しいけれどね!」

「ふふっ、ありがとう」




 それから二週間後の体育の時間、体操着姿となった新奈と結衣が立っているのを遠目に見て気がついた。


「結衣!新奈!」

「あ、翼君、どうしたの?」

「新奈と結衣、二人の背丈が同じになっているよ」

「え?私と新奈が?」

「うん。結衣はもうすっかり猫背が治ったみたいだ。肩もすっきり矯正できている。そうしたら実は結衣って新奈と同じ身長だったんだね」


「そうね。最近、目線が同じ高さだなって思っていたのよ」

「私が新奈と同じ背丈?そうなんだ・・・」

「結衣、ハイヒールは持っている?」

「えぇ、買って頂いたから。でもまだ履いていないのだけど」


「それじゃ、今度それを履いて出掛けましょうよ。それで三人で並んだら、モデルの三人組に見えるわ」

「え?私がモデル?それは無理があるでしょう?」

「結衣。無理なんかじゃないよ。君は今でも制服のモデルみたいに美しいし、可愛いよ」

「え?嘘でしょう?」


「僕が嘘をつく?」

「あ。ごめんなさい・・・まだそんな自信はないから・・・」

「いや、別に自信なんて持たなくても良いんだよ。だけど卑下することだけはしないで」

「そうよね。結衣、モデルの仕事をしていても自分の容姿に自信がある訳じゃないのよ?」

「そうなの?新奈が?」


「え?私って自信タップリに見えているのかしら?」

「うん、ちょっと、そうかなって・・・」

「そうなんだ。でも自分では自信はないのよ。でも周りが認めてくれるからやれているだけよ。それで不安だから歌の実力を付けたいの」

「そうなんだ」


「集合!」

「あ!それじゃ、また」

「うん」


 新奈も結衣もとても美しくて素晴らしい女性だ。この二人が僕の妻になってくれるなんて・・・嬉しいことだな。


 僕は二人を大切にしていかなければな・・・


 僕は毎日、授業が終わると急いで家に帰らなければならなくなった。ほぼ毎日、夕方から神代重工のWeb会議に出席するからだ。資料や図面などは社長宛てに送ってある。


 プロジェクトは六つあるから、毎日一つは会議があるのだ。今はまだ、新規で立ち上げる工場の仕様と部材の調達など初期の打ち合わせだ。


 僕は、鳳城翔吾ほうじょうしょうごと名乗り、全てのプロジェクトのマネージャーを務めている。Web会議では顔を出さずに手順書や指示書、図面をPCの画面上で見せながら説明していく。


 会議ではなるべく質問や疑問が発生しないよう、先回りして資料を揃えているので、大体はスムーズに進行する。


 最近では、この資料作りを結衣が手伝ってくれる。だから休み前などは結城邸の地下室に二人で夜中まで籠っていることも増えた。


 そんな時は大抵、早苗お母さんが様子を見るために夜食を持ってきてくれる様になった。


「翼、結衣もそんなに根を詰めていたら身体を壊してしまうわよ」

「あぁ、お母さん、すみません。来週の会議で必要な資料なんです」

「プロマネを一人でなんて、大丈夫なの?」

「結衣が手伝ってくれているので助かっています」


「ねぇ、翼。そのプロジェクトは神代重工の中だけで完結しないといけないの?」

「いや、今のところはまだ外注に出せる段階ではないのです」

「あぁ、外注するものもあるのね?」

「えぇ、でもまだ外注先は決まっていませんけど・・・」


「一ノ瀬電機でもできることがあればやるって、繁さんは言っているわよ」

「そうですね・・・一ノ瀬電機もありますね」

「翼の名を出さずにプロジェクトを進めれば良いのでしょう?」

「あぁ、偽名はあるので、顔だけ出さなければ良いのです」

「それなら、いつでも言ってね」


「でも・・・このプロジェクトに顔を突っ込むと、本業の家電事業が疎かになってしまうかも知れませんよ?」

「何を言っているの。繁さんは既に海洋プラスチック除去事業の責任者なのよ?」

「あ!そうでしたね。それももとを正せばお父さまの差し金か・・・」

「えぇ、だから遠慮なく言ってね。それと息抜きも必要よ。たまには遊びにも行きなさいね」

「はい。分かりました」


「ふーっ。そうだね。ちょっと忙しかったかな。結衣。なんだか巻き込んでしまってごめんね」

「そんなこと言わないで!」

 そう言って結衣は僕に抱きついてきた。


「私はもう、全てあなたを中心にして生きて行くと決めたの。私はあなたのためなら何でもするわ。それが私の幸せだから・・・」

「ありがとう。結衣」

 僕は結衣を抱きしめたまま話した。


「でも、そうだね。息抜きは必要か・・・明日カラオケでも行こうか?」

「今から皆に連絡するの?」

「駄目かな?もう遅いかな?」

「うーん。そうね・・・大丈夫じゃないかな。そんなに早く寝る人も居ないでしょう?葉留ちゃんも誘うの?」

「あぁ、そう言えば一緒に行こうって新奈に言っていたね。葉留に聞いてみよう」


『葉留!まだ起きているかい?』

『あら?お兄さま。こんなに遅くに珍しいわね』

『明日って何か予定ある?』

『特には無いわ』


『カラオケに行くかい?』

『新奈さんたちと?』

『そうだよ』

『行くわ!』

『分かった。それじゃ、皆に声を掛けてみるよ』


「行くって。新奈は空いているかな?メッセージを送ってみよう」


「突然なんだけど、明日、カラオケに行かない?」

「スイッ!」

「ピコン!」

「早っ!もうリターンが来た!」

「行く!」


「それじゃ、徹と巧は・・・と」

 たまたま、皆、暇をしていた様だ。喜んで参加してくれることになった。


 僕たちは息抜きとして、二度目のカラオケに行くこととなった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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