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7.プロジェクトの始まり

 新奈のお父さんとの面会の件のメッセージが新奈から届いた。


 お父さんとの面会の日時と場所が書いてあった。面会は出勤者がほとんど居ない土曜の午後、神代重工本社の社長室で会うこととなった。


 僕はお父さんと念話で打ち合わせをした。お父さんからは、まずは僕一人で新奈のお父さんに会い、できる限りの人払いをしておくことと、社長室の監視カメラの有無を確認して、あれば録画を切ってもらう。そして反重力装置を見せたところでお父さんが登場することとなった。


 面会前日、新奈が悲しそうな顔をして僕の席までトボトボと歩み寄って来た。

「新奈、どうしたの?」

「つばさぁ~明日、仕事入っちゃったよ!」

「そうなんだ。でも僕とお父さんの面会だからね。新奈は居なくても・・・」

「えーっ!同席したかった!」


「でも仕事なら仕方がないよね。お仕事、頑張ってね!」

「うん。頑張るけどさ~」

 新奈には悪いけど丁度良かったな。


「それじゃぁ、夜に電話してもいい?結果が知りたいの」

「あぁ、構わないよ」

「やった!」

 新奈はスキップして自分の席に戻って行った。


「翼。結局、神代さんと九十九さん。どっちにするんだ?」

 徹がまた、ひそひそと話し掛けてきた。結衣は今、席に居ない。


「どっちって、どういう意味?」

「そりゃ、勿論、どちらを彼女にするんだって話だよ」

「そんなこと、考えていないよ」


「考えてない?どうして?」

「まだ、早いよ」

「え?そんなこと言っていたら、あっという間に青春は終わるんだぞ!」

「青春という定義はよく分からないけど、少なくとも僕にとって彼女はイコール妻になる女性かな?」


「え?もう結婚を考えているのか?」

「え!」

 徹が驚いて大きな声で反応してしまった。それを聞いて女子たちが色めき立った。

丁度そこへ結衣も戻って席に着いた瞬間だった。


「結婚?」

「徹!声が大きい!」

「あ!ごめん!」


 新奈を始め、女子たちが一気に走って来た。あっという間に結衣を含めて円陣を組むように取り囲まれてしまった。


「ちょっと!結婚ってワードが聞こえたのだけど!翼!どういうこと?」

「いやいや、逆だよ!結婚なんて考えられないって話さ」

「そう。翼にとって、彼女は結婚相手と同じ意味なんだそうだ」

「え!それじゃ、青春は?」

「翼の辞書に「青春」という文字は存在しないそうだ」


「えーそんな!」

「でも、彼女になれたら結婚できるってことね!」

「あ!そうか!じゃ、私、立候補するわ!」

「私も!」


「はいはい。じゃぁ、紙に名前を書いて僕まで申し込みしてくださーい!」

「こら、徹!何を悪ノリしているんだ!お前が翼を困らせてどうする!」

「はーい!すんませーん。巧さま。冗談でございまーす」

「全く!」


 女子に取り囲まれながら、その中で結衣がクスクスと笑っていた。そんな結衣を見て僕もつい笑顔になった。




 土曜日の午後、新奈のお父さんと面談するため神代重工の本社へ向かった。東京の丸の内にある高層ビルだ。土曜日で企業自体はお休みのため、警備室の脇にある従業員用の入口に来て欲しいとのことだった。


 今日の僕の格好は学校の制服姿だ。受付に行って名前を告げた。

「はい。結城さまですね。伺っております。担当をお呼び致しますので、少々お待ちください」


 すると数分後に四十代とおぼしきスーツを着た男性がやって来た。

「結城さまで御座いますか?」

 その男性は僕の姿を見るなり驚いたのか、少し目を見開いた。


「はい。結城 翼です」

「私は社長秘書室の筆頭秘書で、東雲しののめと申します。ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ」

「はい。ありがとうございます」


 廊下を何回か曲がり、奥まった場所にあったエレベーターに乗った。最上階まで上がり扉が開くと、そこには更に男女二名ずつ、四名の秘書と思われる人たちが待ち構えていた。

「結城さま。お待ちしておりました」


 四人が声を揃えた。何だろう?こんな子供に対してこんなにうやうやしく挨拶するなんて。少し不安になるではないか・・・


 お父さんは既に地球の月の都に待機していて、お母さんと一緒に僕の意識に入り込んで同じ映像を見ているはずだ。


「こちらが社長室になります」

「社長、結城さまをお連れしました」

「どうぞ!」

 部屋の中から社長のしっかりした声が響いた。僕は初めて緊張するという体験をした。


「どうぞ、お入りください」

「失礼します!」


 広い社長室の中央。その奥の大きな机に社長である新奈のお父さん、神代徳人じんだいのりとが座り、僕に笑顔を向けていた。


 その向こうは一面大きなガラス窓となっており、窓の向こうに皇居が見渡せた。


 さぁ、交渉の始まりだ。ドキドキするな!

やはり社長も僕の容姿を見て驚きは隠せない様だ。それでも笑顔は絶やさない。


「君が結城 翼君か、よく来てくれたね」

「結城 翼です。本日はお忙しい中、お時間を頂きまして、ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方ですよ。私は神代重工業株式会社社長の神代 徳人です」


 そうにこやかに挨拶しながら机を回りこんでこちらに近付いてきた。机の手前は豪華な応接スペースとなっていた。


「さぁ、そちらのソファにお掛けください」

「結城君に珈琲をお出しして」

「かしこまりました」


 女性秘書が珈琲を出してくれ、少々、大袈裟なお辞儀をして下がっていった。

今、壁際には秘書の方五名がずらっと立ち並んでいる。


「あの・・・大変失礼なのですが、できる限りの人払いをお願いできないでしょうか?」

「うん?おぉ、そうか。分かった。ですが、この東雲だけは残しても構わないでしょうか。この男は私の腹心で、信頼のおける男なのです」


「勿論それは構いません。それと、もし、この部屋に防犯カメラがある様でしたら、切って頂きたいのですが、可能でしょうか?」

「ということは・・・うむ。分かった。東雲君、今から二時間。監視カメラを止める様に警備室へ連絡しなさい。他の者は退室していてくれるか」

「かしこまりました」


「初対面でいきなり、この様なお願いばかりしまして申し訳御座いません」

「いや、話の内容の重要性をかんがみれば当然でしょう。これからする話にそれだけの信憑性しんぴょうせいがあるという裏付けになりますからね。これは期待が膨らみますな」

「ありがとうございます」


「いつも娘の新奈の相手をしてくれているそうですね。ありがとう」

「いいえ、こちらも新奈さんのお陰で、楽しい高校生活を送れています」

「娘に聞いたところ、結城君は入試では歴代最高得点で合格され、学問は既に習得済み、世界の言語を全て話せる・・・とか?」

「はい。事実です」


「そ、そうなのですか!これは驚いた!」

「私は高校に入るまで、学校に行かず、ずっと家で勉強と研究に明け暮れていましたから」

「そうだとしても、十五歳でそこまでできるとは・・・あ、それで今回は、反重力装置が既にできているとのお話でしたね」


「ご覧になりますか?」

「拝見できるのですか?」

「えぇ、そのために防犯カメラを切り、人払いをお願いしたのですから」

「え?でも今日は何もお持ちではないですよね?別の場所にあるのですか?」


「今、ここへ転送します」

「転送?」


「シュンッ!」

「おぉ!」


 反重力装置が出現し、社長と東雲さんが思わず声を上げてった。


「これが反重力装置です。浮いていますよね?」

 コントローラーを手に持ち、床から一メートル程の高さに浮いている装置をポンポンと叩いた。


「い、今、どうやってここへ?」

「あの、僕の父をここへ呼んでも構いませんか?」

「え?お父上を?勿論、構いませんが、お近くに来ていらっしゃるのですか?」


『お父さま、よろしくお願いします』

『うん。今、行くよ』


「シュンッ!」

「ひゃぁー!」


「神代殿。初めまして、天照です。息子がお世話になりますね」

「あ、あ、あ、あなたさまは・・・あ、天照さま!」

 筆頭秘書の東雲さんは顔を引きつらせ、直立不動で立ち尽くしていた。


「驚かせてしまいましたね。でも反重力装置を高校生が創ったと言って信用できるものではなかったでしょう」

「そ、それは勿論、そうなのですが・・・娘があまりにも懸命に話すので真実なのだろうとは思ったのです。まさか天照さまのご子息さまとは・・・」


「では、この反重力装置が本物であると信じて頂けるのですね?」

「それは勿論!ですが、これを我々にお与えくださるのですか?」

「そのつもりでこうして神代殿とお会いしているのですよ」


「あ、あの・・・天照さまは我々人間に手を差し伸べないのでは・・・」

「えぇ、私の立場としてはそうです。ですが息子は私とは別人格の人間です。こうして地球で暮らし、学校にも通い、いつか結婚もして子を儲けるのでしょう。その彼が自分の力で創ったものをどう使おうと自由なのです」


「え?そうしますと、翼君はこのまま人間として日本で暮らして行かれるのですか?」

「えぇ、今のところはその予定です。急に地球が滅亡する様なことにならない限り、というお話ですが」

「め、滅亡・・・」


「脅してしまいましたか、すぐそうなることはないでしょう」

「で、では、反重力装置は翼君がひとりで創ったものなのですね?」

「そうです。私は一切手伝っておりませんし、異世界の技術も教えていません」


「それでは、その反重力装置を我々に提供頂き、飛行機を製造しても良いのですか?」

「えぇ、これから翼が述べる条件を受け入れられるならば構いませんよ」

「そ、それは、どんな条件なのでしょうか?」


 僕らはやっと落ち着き、再びソファに座って話し始めた。

「まず開発者が僕であることを公表しないとお約束頂くこと。これは社内でもです。今後のメールのやりとりは偽名で、Web会議の場合は顔を出さずに出席し、僕の情報は一切公表しません」


「次に反重力装置の製造装置は設計済みです。この装置により全て自動で完成品まで仕上げます。つまり、製造方法は見せませんし、お教えしません」


「また、完成した装置はご覧の通り、ブラックボックスになっています。複製防止のため、中身を見ようと分解を試みると、自壊して原理が分からなくなる様になっています。勿論、地球上の技術で中身を透視することも不可能です」


「これを使って飛行機と船を合わせた新しい乗り物を多数製造していきます」

「全世界で必要な数を全て我が社で生産するのですか?」

「はい。秘密保持のためです。二十年や三十年掛かっても良いのです。そして販売はしません。全てリース契約とします。その数も相手の求める数は貸しませんし、個人契約も認めません。契約先は国家に限定します」


「契約数を制限しても、転用されてしまったら意味がないのではありませんか?」

「この様な装置はすぐに軍事転用や宇宙開発に使おうとするものです。先程、説明した通り複製はできない様になっていますし、運用面でも独自の航行システム上でないと動かせない設計になっています。勿論、システムも改造しようと手を掛けた時点で自壊し、その国の全ての船が日本に戻される仕組みになっています」


「それは凄い!それらは全て国家と契約し、運用されるのですね?」

「はい。それも今後、国連で策定する環境改善策と新安全保障条約に署名した国だけです。これにも厳しい制約を付けますので、すぐに全世界に広がることはないでしょう」


「分りました。先程、飛行機と船を合わせた新しい乗り物というお話でしたが、それはどの様なものでしょうか?」

「イメージとしては現存する一番大きな輸送船がそのまま空を飛ぶ様なものでしょうか」


「あぁ、なるほど!この装置があれば、月の都の様にそれだけの重量があっても空中に浮かぶのですね?」

「そうです。移動速度も今までより格段に速く飛べます。勿論、化石燃料は使いません。少量の電気で良いのです」


「同時にそのまま宇宙空間まで行ける、宇宙輸送船も作る必要があります」

「宇宙船も?それは何に使うのですか?」

「オービタルリングと低軌道エレベーターの建造のためです」

「もしかしてその設計も?」

「はい。宇宙船が出来次第、すぐに建造に取り掛かれます」


「そ、そうですか・・・ちょっと、想像を大きく超えるプロジェクトとなりそうですね」

「えぇ、プロジェクトは大きく分けて六つです」


「大型輸送船の建造と航行システムの構築」

「国内で使用する小型・中型輸送船の建造と航行システムの構築」

「人の移動用の小型船の建造と交通システムの構築」

「宇宙輸送船の建造」

「オービタルリングと発電、無線電送システムの建造」

「低軌道エレベーターの建造」


「まずは、これらのプロジェクトメンバーを選定してください。勿論、秘密保持の点で信頼できる人を厳選頂くことは言うまでもありません」


「神代殿、如何ですか?翼が言った条件を受け入れ、事業を起こしますか?」

「天照さま。私の残りの人生、全てを賭けて取り組ませて頂きます」

「一番大変なのは、各国の要求を如何にかわして、提供数と時期を調整するかに懸かっていると思います」


「はい。それにつきましては、首相と外務大臣それに国土交通大臣とも連携を取る必要が御座いますね」

「そういうことです」


 お父さまのお陰で半ば強制的にプロジェクトがスタートすることになりそうだ。

だが、社長にはまだ何か話がある様だ。


「あの・・・ところで、翼君の結婚などは・・・」

「先程もお話しした通り、翼は私と違い、人間と同じ寿命なのです。人間と同じ様に結婚し、子を儲けることでしょう」


「翼君の今の結城様というお家はどの様なご関係で?」

「それはちょっとややこしいのですが、私の妻、翼の母の前世の家族なのです。妻の前世の父は、神代殿もご存じの九条 友治殿ですよ」

「九条?え?あの元農水省の?あ!九条さんの弁護士だった娘さんが?」

「えぇ、そうです。九条殿はご健在ですよ。今は翼の祖父です」


「さ、左様でしたか・・・」

「えぇ、ですから結城家と九条家については、あまり調査や詮索をされません様、配慮をお願いしたいのです」

「かしこまりました」


「それと娘さんのことなのですが」

「は、はい」

「できれば、翼の正体は知らない方が良いと思うのですが」

「そ、そうですか?・・・実は娘はもう、かなり・・・」


「それならば尚更です。恐らく、翼は日本の若者の様に恋をして、お付き合いをということには不向きだと思います。結婚するとなればそれを期に妻となる女性は表には出られなくなってしまうでしょう」


「娘さんはまだ十五歳なのですから、将来の夢もあるでしょうし、その選択肢は多い方が良いと思います。親としてそうは思いませんか?」


「それは・・・確かにおっしゃる通りで御座います。それでは、娘に事実を伝え選択させることは構わないでしょうか?」

「勿論、構いません。絶対に他言しないと約束できるならば。ただ、結婚はお互いの意思が尊重されなければなりません。それだけは忘れないでください」


「はい。それは心得て御座います。親馬鹿な発言をお許しください」

「良いのです。では、私はこれで失礼します」


「シュンッ!」


「あ、あぁ・・・消えてしまわれた・・・わ、私は本当に天照さまとお話ししていたのだな・・・」

「突然のことで驚かれたでしょう。すみません」


「とんでもない!あ、あの・・・翼君も天照さまの様に消えたり?」

「はい」

「シュンッ!」

「あ!消えた!」

「シュンッ!」


「この様に。そして瞬間移動の他にも父と同様に、読心術、念動力、空中浮遊、透視ができます」

「そ、それでは・・・」

「はい。私に嘘や建前は通用しません」


「つ、つまり、翼君も神なのですね」

「自分では人間だと思っていますよ。少し普通の人よりできることが多いだけです」

「そ、そうですか・・・」


「では、今後のWeb会議や連絡先が決まりましたらお知らせください」

「かしこまりました」

「今日はお忙しい中、お時間を頂きまして、ありがとうございました」


「シュンッ!」

 僕は反重力装置を自分の研究室へと転送した。

「玄関までお送りしましょう」

 社長と東雲さんと三人でエレベーターに乗った。


「翼君。娘は・・・如何なものでしょうか?」

「えぇ、とても素敵な女性です。頭が良くて努力家で、人に気遣いもできる優しい人です」

「そうですか、ありがとうございます」


 エレベーターの中で新奈のお父さんを再度見て気付いた。

新奈はお父さんに似たのだな。髪や瞳の色が同じだ。色素が少し薄い。両親のどちらかが外国の方なのかも知れない。


 玄関に着き、そこでお別れとなった。

「では、失礼致します」

「あの・・・電車でお帰りに?お送りしましょうか?」

「いえ、新奈さんと同じ様に僕も電車で学校へ通っていますから」

「そ、そうですか。お気を付けて」




 そして夕方、まだ早い時間に新奈から電話が入った。

「もしもし、翼?」

「うん。新奈。お疲れさま。仕事は終わったんだね」


「えぇ、今日、どうだった?」

「うん。無事に話し合いは終わり、新しいプロジェクトを立ち上げることになったよ」

「本当?おめでとう!それじゃ、反重力装置は使えるのね!」


「勿論だよ。新奈のお陰だよ。ありがとう」

「翼の役に立てるなんて・・・嬉しいわ・・・スンッ」

 新奈の声は震え、鼻をすすっていた。


「え?新奈、泣いているの?」

「だって・・・本当に、本当に嬉しいんだもの」

「新奈・・・ありがとう。君のお陰で地球は救われるかも知れないね」

「え?地球が救われる?どういうこと?」


「それはまた今度、ゆっくり話そうか」

「あ、ごめんね。翼、忙しいものね。来週また学校で」

「それじゃね」

「うん。また来週」


 新奈って、本当に良い子だな・・・新奈と結衣か・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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