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3.鈍感な男

 校外ゼミ二日目は自然公園で放射能の影響を調査するものだった。


 広い公園を班のメンバーと歩き、写メを撮り、簡易放射能測定器を手に植物の調査をしていく。


「なぁ、翼。昨日、反重力装置を造ると言っていたよね」

「ん?あぁ、そうだね」

「それって簡単にできるものなのか?」

「簡単ではないよ」


 いつの間にか僕の隣に九十九さんが居た。こちらを見ていないが耳は大きくなっている・・・様な気がする。余程、反重力装置に興味があるのだな・・・


「それって、飛行機とかに使うのよね?」

「神代さん。そうだね」

「ねぇ、翼。私のことは新奈って呼んでくれない?」

「新奈?」

「そう」


「あと、九十九さんも結衣ゆいって」

「班のメンバーは名前で呼ぶってこと?」

「ち、が、う。私たちは翼から名前で呼ばれたいってこと」

「ひゃー、翼だけか!」

「まぁ、仕方ない・・・それが世のことわりというものさ」

 巧はニヒルな決め顔で答えた。冷静だな。


「二人が良いなら構わないけど」

「やった!良かったね。結衣!」

「え?わ、わたしは・・・」

 結衣は真っ赤な顔になっている。


「それより反重力装置の話よ。それって飛行機に使うってことよね?」

「うん。飛行機だけでなく、船も自動車もね」

「それなら、パパの会社で飛行機は造っているわ。子会社で自動車もね。翼、うちの会社に入社すれば研究し放題よ」

「あぁ、そうか。それは魅力的な話だね。でも新奈が勝手に決められる話ではないよね」


「そうね。でも反重力装置が少しでも現実的に造れそうならば、パパだって話を聞くと思うの」

「翼君、何か技術的なアイデアは持っているの?」

 結衣が全く普通に聞いてきた。もの作りの話になると普通に会話ができるのだな。


「いや、その・・・ここだけの話なのだけど・・・いや、やっぱりいかんな・・・」

「なーに?勿体もったいぶって!」


「えーっ!どうしよう。うーん。・・・この五人以外の誰にも絶対に話さないと約束できる?」

「え?そりゃ、できるよ。誰にも話さない」

「えぇ、勿論、約束するわ」

「はい。約束します」

「科学者が高度な科学技術を秘匿することは当然だよ」


 僕が真面目な顔で言うものだから皆、思わず生唾を飲み込んで真面目な顔になった。五人で円陣を組むように顔を寄せ合い。ひそひそと話し始めた。


「実は・・・反重力装置はもうできているんだ」

「えーーーっ!」

「嘘でしょ!」

「おいおい!静かに!」


「あ!ごめん!」

「は、反重力装置をその歳でひとりで造ったと言うの?翼君って一体・・・」

 結衣がドン引きだ。

「うーん。そういう反応になるよね」


「それなら、パパに話してどんどん造れば良いじゃない」

「なるほど。神代重工か・・・」

「翼はその装置をどうするつもりだったんだ?」


「うん。親が言うには、少なくとも東大辺りの大学の研究室に入って、その研究成果として発表しないとおかしいだろうって」

「そうだよね。世紀の大発明なんだからな」

「そこなんだ。僕としてはあまり表に出たくないんだよ」


「え?勿体ないじゃない!歴史に名を残せる偉業なのよ!」

「そんなものは要らない。人類の役に立てばそれで良いよ」

「お前ってやつは・・・本当にそれでいいのか?」

「僕にはまだ、作りたいものがあるんだ」


「な、何を作っているの!」

 結衣の瞳がキラキラしている。結衣って可愛いな・・・

「それは内緒」

「えーっ!」


「なんか、九十九さんが一番食いついてるな・・・」

「あ!私・・・」

「結衣、可愛いわね」


「それで、どうする?翼。パパに相談してみる?」

「うーん。そうだな・・・一度、親に相談してから決めるよ」

「そうよね。いつでも言ってね」

「ありがとう。新奈」

「ふふっ、なんだか嬉しいわ」


 そうだな。神代重工で開発したと発表すれば、個人の名は世に出ないで済むか。それに今の研究も企業の設備が使えれば助かるな。


 その後の昼食時、僕は結衣と向かい合って座り、冷媒ガスを使わない冷蔵庫の話をした。

「結衣、冷蔵庫の話なんだけど・・・」

「あ!冷媒ガスを使わない冷蔵庫ね」

「そうだね。フロンガスがもう利用禁止になったし、代替フロンも禁止になった。ノンフロンガスも毒性や強い燃性など取り扱いが難しいよね」

「やはり、冷媒ガスを使わない冷蔵庫が必要ね」


「そうだね。結衣には既にアイデアはあるのかい?」

「いくつか考えてはいるのだけど、想像の域を出ないわ。私には使える研究施設もないし」

「そうか。ではその内に僕の研究室を使うと良いよ」

「え?翼君の研究室を使わせてくれるの?」

「うん。構わないよ。そこでいくつかのヒントをあげるよ」

「ホント?」

「うん。本当だよ」


「ちょっと!聞き捨てならないわね!」

「新奈。これは研究の話さ」

「あーもう!やっぱり!」

「何が、やっぱりなの?」

「それは・・・こちらの話よ」

 新奈は何やら、悔しそうな顔をしていた。結衣は赤い顔をしてうつむいた。




 その夜、徹と巧と三人部屋でベッドに入ってから話をした。

「なぁ、翼。例の装置が飛行機や自動車に装備されたら、どうなるんだ?」

「まず、自動車が地面を走らなくなる。交通事故が無くなるよ」

「あぁ、そうか。反重力装置で浮くからか。俺はリニアモーターカーみたいに地上から数センチ浮くだけだと想像していたよ」


「いや、少なくとも建物の二階くらいの高さを飛ばないと人に当たってしまうよね」

「でも、そんなものが自由に空を飛んだら空中衝突してしまうのでは?」

「それは装置同士で一定の距離を保つ様に制御できるから、絶対に自動車同士とか人や建物には衝突しないんだ」


「そりゃぁ、凄い!未来都市になる訳だな!」

「でも今の自動車の数を造るのは大変なんじゃないか?」

「一家に一台は与えないよ」


「あぁ、個人所有はできない様にするのか?」

「そうだよ。タクシーみたいなものかな?」

「それなら、台数は抑えられるか」


「飛行機は?」

「飛行機と輸送船はひとつになる。旅客と貨物を一緒にした大型船だね。今だって燃料費の高騰で実際に動いている数は大幅に減っているよね。実はそれくらいの数で十分なんだよ」


「でもそれだとビジネスは拡大できないぞ」

「拡大しちゃ駄目なんだよ」

「あ!そうだった」

「徹が言ったんだろ!世界の不平等を是正するって!」


「そうか。これからは各国で、できる限りの自給自足をして無駄を出さない世界にしなきゃならないんだもんな」

「そう。だからこの船は欲しいだけ売ることはしないんだ」

「え?でも神代重工だって沢山売りたいだろ?勝手に売ってしまうのでは?」

「それができない様に、装置には僕しか解除できないプロダクトキーを付けるよ。それに僕の考えを初めに話して賛同してくれない限り装置は渡さないからね」


「でもさ、一台でも渡してしまえば複製はできてしまうだろう?」

「それはね。装置の核心部分はブラックボックスにしてあって、開けようとすれば自壊して原理が分からなくなる様にしてあるんだ。それに装置を解明しようとしないことも契約に含めるからね」


「凄いな、そこまで考えて造っているのか」

「そこまで考えないなら、こんなものを世に出しては駄目なんだよ」

「人間は欲深いからな・・・」

「兵器に転用しようとするかも知れないしね」

「大変な奴を友達に持ってしまったな・・・」


「友達をやめたくなった?」

「そんな訳ないだろう。でも、翼のやることをバックアップできる人間にならないといけないと思うと焦るな」

「徹。それは政治で、か?」

「そうだよ」

「それはありがたいな」


「巧も温室効果ガスの対策で行き詰ったら相談してよ」

「え?何か技術的な知恵があるのか?」

「まぁね」

「今度、詳しく教えてくれ!」

「分ったよ」


 そして校外ゼミ二日目は終わった。




 校外ゼミ三日目。最終日は息抜きの日だ。リゾートの遊園地で帰宅時間まで自由に遊べるのだ。でも遊園地なんて行ったことがないので、どうしたら良いのか分からない。


「さぁ、何に乗ろうか!やっぱジェットコースターからだよな!」

「僕、遊園地って初めてなんだ・・・」

「え?マジか!」

「うそでしょう?」


「それならばやはり、ジェットコースターから乗らないと!」

「わ、わたしは・・・パスで」

「え?結衣は乗らないの?」

「む、無理です・・・」


「俺もパス!」

「え?巧も?」

「俺は重力に弱いんだ!」

「流石、科学者!」

「関係ないだろ!」


「じゃぁ、三人で乗りましょう」

「じゃ、巧と結衣は待っててね」


 ジェットコースターは二人ずつ座る。新奈は有無を言わさず、僕と乗ると言い張り、徹は僕らの後ろの席にひとりで乗った。


 この乗り物は屋内型だ。先がどうなっているのか分からない。そして、走り出すといきなり急降下した。こういうものはテレビで見ていたので、普通はゆっくりと上に登ってから落ちるものだと想像していたので油断した。


「ひゃぁ~」

 不意打ちを食らって、思わず変な声を出してしまった。

「きゃぁーっ!」

 新奈は叫んで僕の腕を掴んだ。本当は抱きつきたかったのだろうけど、安全バーがあるので抱きつけないのだ。


 これがジェットコースターというものか。慣れたら結構面白いかも知れない。結衣は一緒に乗れなくて残念だな。


 次は横一列に座って上下左右に振り回される乗り物だ。これも巧は拒否したが、結衣は新奈に促されて渋々乗ることにした。これも新奈に指示されるまま、新奈、僕、結衣、徹の並びで座り、動き始めた。


 初めは大したことはないと思っていたが、途中からスイッチが入った様に激しさを増した。落ちる時には重力が掛かり、胃袋が締めつけられる。新奈は叫びながら僕にしがみついてきた。と同時に結衣もしがみついてきた。


 結衣は叫ぶことはしなかったが、無我夢中で僕にしがみついて耐えている。ひとつはっきりしたことは、結衣は胸が大きいということだ。どうやらいつも猫背にしているのは、それを目立たない様にしているのではなかろうか。


 そして、新奈はモデル体型なので・・・まぁ、それは個性だから良いだろう。


 今更だが、高校生は身体の成長で言えば十分に大人だ。陽翔はると兄さん以外の兄弟は、もう全員結婚しているのだ。日本なら高校生の歳なのに。僕だって神星で暮らしていたら結婚相手を選ばないといけない歳なんだな。


 今まで研究ばかりしていて、そんなことは他人事と思っていた。もしかしたら新奈ってそういう目で僕を見ているのだろうか?反重力装置のためとは言え、父親に紹介を受けたら、そんな話に持って行かれたりしないだろうか?


 それって、まずいことなのか?うーん。まずいか。そんな元財閥系大企業の社長令嬢のお相手となれば、身元調査をされるに違いないからな。これは考えないと・・・


 いやいや、それ以前の問題だった。学校にも通っていなかった十五歳の子が反重力装置を造りましたと言って信じてもらえる訳がない。絶対、調査されてしまう。やっぱり駄目かな。


「ちょっと、翼!」

「え?何?」

「もう終わったわよ」

「え?あれ?あ。そうか・・・」

 いかん、考えごとをしているうちに終わっていたよ。恥ずかしいな。


「翼って、こういう激しい乗り物も平気なのね」

「そうだね。初めて乗ったけど。問題はない様だね」

「問題ない・・・か。翼って、なんか子供らしくないのよね」

「え?そうかな?」

「全ての言動がね・・・本当に十五歳なの?」


「それは確かに生まれて十五年と八か月だからね」

「そういう発言が十五歳らしくないって言っているのよ」

「そうか・・・」


「別に責めている訳じゃないのよ・・・今まで勉強ばかりして、何も楽しいことをしていないのではなくて?」

「それを言ったら、勉強や研究が楽しかったんだよ」

「あらら・・・やっぱり変わっているわ」


 歩いていると前方に大きな観覧車があった。

「観覧車に乗りましょう!」

「あれって何人乗り?」

「あぁ、四人乗りだね」


「あ、俺はパス!高所恐怖症なんだ。ソフトクリームでも食ってくるわ」

 そう言って徹は売店へ行ってしまった。

「さっき、ジェットコースターに乗ったんだから、高所恐怖症の訳はないよね?」

「空気を読んだんだろ。あいつなりの気遣いさ」

「何に気遣いを?」


「翼って、そういうとこ鈍感なのね」

「え?そうなの?」

「私たちは五人、観覧車は四人乗り、神宮寺君はまだ何も乗っていないのよ」

「あぁ・・・そういうこと」

「さぁ、榊君が気を遣ってくれたのだから乗りましょう」

「そうだね」


 並んで待っていると、新奈が提案を持ち掛けた。

「ゴンドラが傾くと嫌だから座る位置を考えないと!そうでしょ?」

「あぁ、体重の問題か。僕と巧が並んで座ると間違いなく傾くね」

「そうでしょう?だから、私と翼、神宮寺君と結衣が並ぶのがベストじゃないかしら?」

「そうだな。僕が一番背が高くて、新奈は細いもんね」


「神代さんって、体重何キロなの?」

「ちょっと!神宮寺君!女子に体重を聞くなんて!でも四十五キログラムよ!」

「ひゃぁー!よ、四十五!その身長で?」

「これでも至って健康よ」

「確かに。元気ハツラツだもんね!」


 結局、新奈の指示に従って座席についた。ただ、足の長さを考えて男子と女子は対角線上に座った。


 すると当然、目の前には結衣が座った。僕の足が長くてどうしても結衣と膝同士が当たってしまう。結衣は終始、赤い顔をして僕を見ずに外を眺めている。ちょっと心を覗いてみようかな・・・


『あぁ・・・翼君が近過ぎる・・・真正面からなんて顔を見られないよ・・・さっきだって、無我夢中で翼君にしがみついてしまったし、今も膝が・・・あ!私、男の人に触れているのに大丈夫だわ・・・どうして?翼君だから?』


 あれ?これは問題発言だな・・・男性恐怖症なのかな?過去にそうなる問題とか事件があったということか・・・ちょっとだけ聞いてみようかな・・・


「ねぇ、結衣。君はどうしていつも背中を丸めているの?」

「え?」

 結衣は真っ赤な顔になった。


「どうしてって・・・」

「あ。何か言いにくいことだったかな?あ!こういうとこが鈍感なのか。ごめんね」

「ううん。私が悪いの・・・」


「いや、結衣が悪いことなんてないんだ。ただ、ちょっと気になってね・・・」

「まぁ!結衣。翼に気にしてもらえるなんて!良かったわね!」

「ちょっと!新奈!」


『新奈、昨日の夜に二人で話したこと、翼君に言わないわよね?!』

 ん?何か女子二人で話した内緒話があるのか・・・


「あ!今、最高地点なんじゃない?」

「おー!水平線が見えるね!」

「地球は丸いのが分かるね」

「こうして見ると海だって凄くきれいなのに。でも汚れてしまっているのでしょう?」

「そうだね・・・僕らでこれから浄化して行かなければね」


 そして校外ゼミは終わり、僕らは東京へ帰った。

家に戻り、早苗お母さんに報告すると月の都へと瞬間移動して帰った。


「シュンッ!」

「ただいま。お母さま」

 帰る度にお母さんとハグをするのはもう習慣だ。


「お帰りなさい。翼。校外ゼミは楽しかった?」

「そうですね。それよりも収穫があったのです。お父さまは、次はいついらっしゃるのでしたっけ?」


「お父さまは今日から来ているわ。今、山形へ行っているの」

「あぁ、山本さんのところだね」

「えぇ、もう帰って来ると思うわ。お父さまとお話ししたいのね?」

「はい」


 お父さんは夕食前に戻って来た。夕食中は高校に入って初めの一か月と校外ゼミであったことをかいつまんで話した。


 夕食が終わり、お父さんとお母さん、それにお爺さんと葉留も一緒に話を聞いてもらった。

「お父さま。学校で女子の友達ができたのです」

「え?まさか、結婚するの?」

「ここは日本です。この歳では結婚できません。それはお父さまもご存じでしょう?」

「あぁ、ごめん、急ぎ過ぎたね」


「その子は、元財閥系企業の神代重工の社長の娘なのです」

「ほう」

「その娘は、翼に興味があるのね?」

「そうですね。好きではあるみたいです」


「まぁ!お兄さま!もう彼女を作ったのですか!」

「いや、だからね。彼女ではなく、友達になったんだ」

「うん。それで?」


「校外ゼミの討論で僕が反重力装置を作って飛行機や船の温室効果ガスの問題を解決したいと言ったら、翌日にその新奈が神代重工に入れば研究し放題だって言うのです」

「ニーナ!名前呼びなんて、もう彼女じゃないですか!」

「葉留。成り行きで名前呼びになっただけなんだよ」

「ふーん」


「それで、どこまで出来ているんだって聞かれて、誰にも言わないと約束してもらって、もう出来ていると話したのです」

「え?完成していることを言ってしまったの?」

「はい。でも彼らは約束を破る様な人間じゃないのです」

「信頼できるのね?」

「えぇ、だから話したのです」


「そうか、高校でそんな友達ができるなんて素晴らしいことじゃないか!」

「お父さま。そうですね。それで新奈のお父さんに反重力装置を見せて、僕の名前を出さずに神代重工が開発したということで世に出せば、一気に飛行機や船、自動車まで製造できてしまうと思うのです」


「翼には何か不安材料があるのだね」

「はい。実際に反重力装置を見せれば、それ自体は信じてもらえると思います。でもそれをまだ十五歳で学校にも通っていなかった子供が造ったと言ったら、信じてくれる訳がありません。それに娘が僕に入れ込んでいるとなれば、繁お父さんの家族が調べられてしまうでしょう」


「なるほど。そうだろうね。流石、翼だ。そうなる前に相談してくれたのだね。ありがとう」

「はい。僕が大学に行き、そこで研究の成果として発表するにしても、その過程を示すことができません。製造方法が知られてしまいますから。それに共同事業を立ち上げる相手にも当てがないのです」


「だから、神代重工の力を借りられるのは大きいのです。でも、繁お父さん達に迷惑が掛かってはいけませんから」

「うん。良く考えているね」

 お父さんはしばらく考え込んでいた。


「そうだな・・・その時は、本当のことを言うしかないのではないかな?」

「え?僕が天照さまの息子であることを告げるのですか?」

「うん。そうでなければ、興信所や探偵を雇ってでも、結城家は根掘り葉掘り調べ上げられてしまうよね。そうしたら矛盾だらけの家族であることが知られてしまうし、そうなったら、翼は普通の暮らしができなくなってしまうよ」


「それは、そうかも知れませんが・・・でも良いのですか?」

「もし交渉が決裂したらその社長を脅すしかないけれど、恐らく大丈夫でしょう」

 お母さまがサラッと怖いことを口にした。


「神代重工の社長。神代徳人じんだいのりとならば知っています。彼はとても古風で男らしい人物です。神の話を軽く考えたり、自分の利益に繋げようと思う男ではありません。大丈夫です」

「お爺さま。ご存じだったのですか!」

「うん。必要とあらば、私からも口添えしますよ」


「お義父さま。ありがとうございます」

「月夜見さまも一度、お会いになられた方が良いと思います」

「そうですね。その時は同席しましょう」

「お父さま。よろしいのですか?」


「勿論だよ。翼が地球のために力を尽くしてくれているのだからね。私にできることはさせてもらうよ」

「ありがとうございます」


「でも、その席にニーナは同席させない方が良いかな」

「あぁ、お父さんへ口止めして、新奈には正体を知らせないのですね」

「うん。その方が、ニーナのためでもあるでしょう」


「分りました。では新奈にお父さんへの面会をお願いします」

「うん。日時が決まったら教えてくれるかな」

「はい。お父さま。ありがとうございます」


 新奈に携帯端末からメッセージを送った。腕時計型の端末に音声入力するだけだ。

「こんばんは。お父さまとの面会をお願いできますか?」

 よし。送信。と!

「スイッ!」


「ピコン!」

 ひゃ!もう?秒で返信が来た。メッセージは端末から好きな場所に投影し、内容が確認できるのだ。


「ホント!嬉しい!パパに聞いて日時が決まったら知らせるね!」


「ありがとう。よろしくお願いします」

「スイッ!」


「ピコン!」

「翼!愛してる!」

 え、えーっ!なにこれ?冗談だよね・・・返事はしなくて良いよね・・・


 まぁ、新奈は綺麗で可愛いだ。僕も好きだけど・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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