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23.家族計画の成功

 グロリオサ服飾店から帰ることとなり、一階の作業場から二階の玄関へと上がった。


 先程乗って来た船が居なくなり、がらんとしたプラットフォームに立った。

そこで目を奪われる景色が目に映った。この工房は海を見下ろす高台に建っていた様で、目の前をさえぎるものがなく、海を望む景色が広がっていた。


 この高台から海に向かってなだらかに下って行く。そこには低い木や草花が生い茂り、緑の絨毯が敷き詰められている様だった。


 その先に海岸が広がり、神宮の並びに商店や家々が並んでいる。上空には月の都が浮かび、その大きな大地の川からは水が瀧の様に流れ落ち、途中から水しぶきが宙に霧散し、虹を作り出していた。


「美しい景色ですね・・・皆さんはこの様に美しい景色をいつも見ているのですね」

「えぇ、本当に美しい景色なのです」


 すると突然、後ろから初めて聞く声がした。

「月夜見さまは、あの美しい天国からいらっしゃったのですか?」

「これ、ラナ。月夜見さまに勝手に話し掛けてはなりません」

「アリアナ。良いのですよ。私はこれから頻繁にここへ来るのですから。誰でも気軽に話し掛けて良いのです」


 ラナは恐らく成人したばかりなのだろう、まだあどけなさが残る可愛らしい娘だ。


「ラナ、あの月の都を天国と呼んでいたのですか?」

「はい。神さまの住む天国だと教えられました」

「そうですね。私たちは皆さんとは少しだけ違う力を持っているために、神と呼ばれている様ですからね。でも神である前に、ひとりの人間でもあるのですよ」

「私たちと同じなのですか?」


「えぇ、そうです。神と呼ばれてはいますが人間なのです。だから皆さんと同じ人間の女性と結婚して子を儲けるのですよ」

「え!では月夜見さまも人間と結婚するのですか?」

「そうですね。良い縁があればいずれそうなりますね・・・」


「では、今日はこの辺でおいとまします。また来ますので、その時はよろしくお願いします」

「月夜見さま。本日はありがとう御座いました」

「では、また」

「シュンッ!」


「うわぁー!月夜見さま、消えちゃった!」

「えぇ、あの月の都へ一瞬で飛んで行かれたのよ」

「アリアナさま。神さまって本当に居るのですね!」


「神さまが賃金を上げてくださるって!」

「神さまは人間の娘と結婚するのですって!」

「私、今度の賃金で下着とドレスを買うわ!」

「え?ラナは月夜見さまと結婚したいの?」


「きれいに着飾れば見初めて頂けるかも知れないでしょう?」

「そんなに賃金が上がる訳ないでしょう!」

「まぁ、夢を見るのは悪いことではないわ」

「それにしても月夜見さまのお顔を見ましたか?」


「えぇ、あの肩まで伸びた美しい白銀の髪、輝く青い瞳、長いまつ毛。透き通る様な白い肌。なんてお美しいお方なのでしょう!」

「でも、まだ三歳だそうですよ」

「えぇーーーっ!三歳なのですか?」

「え?だって、あんなに小さいのですよ。そりゃぁ、三歳ですよ」

「三歳なのですか?!私の五歳の弟と同じくらいに見えたわ!」


「私は十五歳です!」

「そうね。ラナは十五歳。月夜見さまは三歳ね」

「では月夜見さまが成人する十五歳まで待ったら私は二十七歳ではないですか!」


「そうね。随分と長く待たないといけないわね」

「そんな~」

 ラナは大きく肩を落としたのだった。




 僕は月の都の宮殿へと帰って来た。

「お母さま。只今、戻りました」

「月夜見!お帰りなさい」


「もう皆さん、新しい下着を着けていらっしゃるのですか?」

「えぇ、皆さん喜んでいますよ。勿論、私も。ありがとう月夜見!」


 お母さんはそう言って僕を抱きしめてくれた。あぁ、抱きしめられると胸ではなく、下着の感触になるんだな。こればかりは前の方が良かったな・・・残念。


「それは良かったです。次は生理用品ですね」

「月夜見はそうやって、次々に新しいものを作り出すのですね」

「えぇ、実は先程、また新しいものを作ろうと思いついたところです」

「まだ、何かあるのですか!」

「えぇ、これは私も欲しいものなのです。でも女性にとっても凄く助かるものだと思いますよ」


 グロリオサ服飾店から月の都を見て地球にあったあれを思いついたのだ。


「何を作るのですか?」

「ビデです」

「びで?ですか?それはどんなものでしょうか?」

「では、家族を集めて説明しましょう」

 お母さんはビデと聞いてぽかんとしている。まぁ、分かる訳がない。


 ニナに言って皆を食堂に集めてもらった。

「皆さん。またお集まり頂き、ありがとうございます。また新しいものを考えましたので事前にお話ししようと思います」

「月夜見。また新しいものだって?よくその様に次々に思いつくものだな」

「お父さま、前世の世界にはあるものですからね。では皆さん、トイレに移動します」

 皆がぞろぞろとついて来る。


「この世界のトイレには、この様に便器があって水洗式で、用を足したら水で流すことができますね」

「えぇ、それはそうです」

「この便器の隣にもうひとつ便器を置くのですよ」

「もうひとつ。ですか?それは何故でしょうか?」


「もうひとつはお尻や性器、生理の時の血やおりものを洗い流すためのものです」

「洗うだけなのですね?」

「はい。今までの便器で用を足した後、隣のビデに座って洗うのです。また、女性は生理の時にトイレで生理用品を取り替えますよね?その時に毎回、お湯できれいに洗い流すことが大切なのです」


「更にトイレで用を足す時、女性の身体の造りでは大でも小でも性器の近くから出します。実はそれらの中には細菌といって病気の基になるものが少なからず存在するのですよ。用を足した後に紙でぞんざいに拭き取りますと、その細菌を塗り広げている様なものなのです」


「ですから理想としてはトイレで用を足した後は、小だろうが大だろが、勿論生理中の時も毎回、そのビデで洗って頂きたいのです。洗い流した後は清潔になっていますので、紙で拭くのではなく、紙をあてがって水分を吸い取るだけで良いのです。粘膜というのですが、大切な部分が擦れて痛くなることもありません。如何でしょうか?」


「大変良いと思います」

「それではお風呂に入らなくても良くなるのですか?」

水月すいげつ姉さま。お風呂が嫌いなのですか?ビデを使うとしてもお風呂は入らなければなりません!」

「やはりそうですか・・・」


 可愛い顔してお風呂嫌いとは困っただな・・・お兄さん、将来が心配だよ。


「それは清潔そうですね。とても良いと思います」

「私もです」

「賛成です!」

「では作る方向で考えましょう。お父さま、このトイレを作った方はどんな職業の方ですか?」


「それは大工の仕事だな。分かった。近いうちに神宮へ呼ぼう」

「はい。お願いいたします。お父さま。まずはここと神宮にビデを設置しましょう。そして平民にも開放して使って頂くのです。自分で簡単に洗えれば、宮司の仕事は楽になりますから」

「うむ、そうだな。ではそれで進めてくれるか」

「はい。ありがとうございます」




 実は、ルチア母さまとメリナ母さまの明るい家族計画だが、二人共僕の指示通りにお父さまと性交して頂いてから、ルチア母さまは六週、メリナ母さまは四週の間生理が来ていないのだ。


 つまり、妊娠している可能性が高い。継続して基礎体温表を記録してもらっているが、二人共高温期のままだ。


 今日は検診してみようと思う。

「ルチア母さま、メリナ母さま。僕の部屋に来て頂けますか?」

「はい。なんでしょうか?」

「お二人共、今日は検診してみましょう」


「どうすれば良いのですか?」

「お二人は何もしなくて結構です。僕が透視能力でお腹の中を見ますから」

「は、はい。分かりました。よろしくお願いします」


 まず、ルチア母さまだ。下腹部をじっと見つめ、服を通り越し、皮膚、筋肉、そして子宮に辿り着き、その中を見る。するとまだ小さい、子というか胎芽たいがが見えた。妊娠六週と計算されるだけに既に心臓が動いていた。


 こ、これは!超音波診断装置よりも鮮明に見えるではないか!うん、大丈夫だな。


 次にメリナ母さまだ。同じ様に診て行く。ルチア母さまより十日程遅いので四週とちょっとのはずだ。やはり胎芽たいがはできていた。胎嚢たいのうも形成されているので、あと二週間後に見れば心臓が動いているのが見えるだろう。うん。こちらも大丈夫だ。


「ルチア母さま、メリナ母さま。おめでとうございます!お二人共妊娠していますよ」

「本当ですか!」


 二人共声を上げ、同時に立ち上がりそうになった。僕は慌てて念動力を使って立ち上がれない様に抑え込んだ。

「お二人共、落ち着いて!」


「は、はい」

「妊娠したと言ってもまだ、子は大変小さいのです。ルチア母さまの子はまだ、心臓ができて鼓動が始まったばかりです。メリナ母さまの子はまだ心臓すらでき上がっていないのですよ」


「そして、今の様に突然立ち上がる、飛び跳ねる、重い物を一気に持ち上げる。走る。こういったことをしただけで流産といって子が簡単に死んでしまうのです」

「そ、そうなのですか!」


「はい。これ位の時期では普通は妊娠していると気が付かない人の方が多いのです。そして気がつかぬ内に流産させてしまうこともあるのです」

「ルチア母さまはあと六週間、メリナ母さまはあと八週間、安静に過ごしてください。先程言いました飛び跳ねる、重い物を一気に持ち上げる、走るなどはしない様にお願いします。お酒を飲んではいけません。あぁ、あとお父さまとの性交も控えてくださいね」


 少し大袈裟おおげさに言ったが、知識の少ないこの世界ではリスクを少しでも回避しておいた方が良いと思う。


「はい。月夜見さま、ありがとうございました」

「月夜見さまのお陰で、こんなに早く子を授かることができました。ありがとうございます」

「では、お父さまに報告に参りましょうか」

「はい!」

 お父さまの部屋を訪れた。


「お父さま、よろしいでしょうか?」

「月夜見か、どうしたのだね?おや、メリナにルチアも」

「お父さま。おめでとうございます。二人共、計画通りに妊娠されましたよ」

「なに!本当か!メリナ。ルチア。おめでとう。よくやったな!」


「玄兎さま、ありがとうございます」

「玄兎さま、ありがとうございます。これも月夜見さまのお陰で御座います」

「うん。そうだな。月夜見。ありがとう」


「お父さま、お二人共できた子はまだまだ小さく、安定していないのです。つきましては、細心の注意が必要ですので安静に過ごせる様、ご配慮をお願い致します。また、できた子が男の子か女の子かは、あと五か月は判定できません。今しばらく、お待ちください」

「うむ。分かった。では、今日の晩餐の際に皆へ発表しよう」


 晩餐の前にお母さんにだけは、こっそりと教えておいた。

「お母さま。今日の晩餐でお父さまから発表する予定なのですが、お母さまにはお伝えしておきますね。ルチア母さまとメリナ母さまが二人共、計画通りに妊娠しました」

「まぁ!本当ですか!とても嬉しいことです。月夜見は本当に凄いのですね!」

「だから言いましたよ。僕は医師です。と」

「そうでしたね!」

 お母さんが笑顔で言った。


 そして晩餐となった。食事が始まる際にお父さまが改まって皆に声を掛ける。

「皆、聞いてくれ。メリナとルチアが妊娠した」

「本当ですか!」

「お二人揃ってですか!」

「月夜見さまの計画通りだったのですね!」


「うむ。月夜見の指示に従っただけなのだ。あれ程、子を授かるのは大変だったのだが、今回はいとも簡単に授かってしまった。全て月夜見の言う通りだったのだ」

「そうですね。危惧した程、前世の世界の人間とこの世界の人間に違いがなかったのだと思います。それであれば、僕の知識で妊娠は可能なのだと思われます」


「素晴らしいですわ。これでこの世界も変わりますね」

「そうですわ。月夜見さまという救世主が現れたのですからね」


「ところで、メリナ母さまとルチア母さまには伝えてあるのですが、まだお腹の赤ちゃんはとても小さいのです。まだまだ安定していません。ルチア母さまはあと六週間、メリナ母さまはあと八週間、安静にして暮らす必要がありますので、周りの皆さんでお手伝いなどして支えて差し上げてください」

「かしこまりました」


「お二人は、二週間ごとに僕が診察して赤ちゃんの成長を診て行きますので」

「月夜見。よろしく頼むぞ」

「月夜見さま、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

「かしこまりました」


 よし!家族計画は成功したと言って良いだろう。一安心だ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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