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1.高校入学

 僕は、結城 翼。十五歳になった。


 お父さんとお母さんに相談した結果、学校は高校から行くことにした。


 でも、妹の葉留はるは中学校から行っている。私立の進学校だ。葉留も学校の勉強は不要なのだが、僕みたいに研究に没頭する訳ではないので普通に地球人としての暮らしを楽しむためだ。


 僕は五年前から国立国会図書館に通う様になっていた。国会図書館は十八歳未満は基本入館できないことになっているのだが、研究に必要な資料や本の閲覧を都度申請して許可を取っているのだ。


 そこへ通い続けたいので、お母さんが東大に進学するために通ったという私立の進学校に行く話は無くなり、図書館の近くにあった都立の進学校を受験したのだ。


 すると入学試験の結果が主席だったそうで、新入生代表の挨拶を頼まれてしまった。学校で目立ちたくないので辞退したかったのだが、お母さんから言われてしまった。


「翼。あなたは入学試験の時から周りの注目を一身に集めていたわ。身長も生徒の中で一番大きいし、その髪と瞳の色なのよ。目立ちたくないなんて初めから無理なの」


「それならば、代表の挨拶で無難なことを話した方がかえって目立たなくて済むわよ。挨拶文は私が考えてあげるから」


「そうですね、お母さま。分りました」

 地球での暮らしのことはお母さまに聞くのが一番だ。


 ブレザーとスラックスの制服を着て入学式へ向かった。母親として出席するのは、日本での戸籍上の母の早苗お母さんだ。


「翼、あなた身長は何センチになったの?」

「え?確か百九十ですね」

「あぁ、お父さま譲りなのね」

「そうですね。お父さまと同じ背丈になるのも時間の問題ですね」


「でも、お父さまと違って髪は短くしているのね」

「長いと目立ち過ぎますからね」

「あまり目立つことを気にしない方が良いと思うわよ」

「そうは言っても五年前から国立図書館に通っていますけど、じろじろ見られたり、後をついて来る人が居たりもするのですよ」


「まぁ、少しはそういう人も居るでしょうね。気にしないことよ」

「そうですね。それしかないですよね」


 学校に到着し、校門に入る前から他の生徒たちから注目を浴びた。

そして校門から入った途端、黄色い歓声が沸き起こった。

「きゃーっ!」

「来たわ!」

「王子さまだわ!」

「あの人なのね!何組なのかしら!」

「素敵!なんて綺麗な髪なの!」

「あぁ、あの青い瞳!」


「翼、何だか凄い人気ね!」

「あぁ・・・嫌だな・・・」

「どうして?モテて良いじゃない?皆、入学試験の時から目を付けていたのね」

「僕はあまり目立ちたくないのです」


「まぁ!折角の高校生活なのに恋もしないの?」

「それは・・・出会いがあって、なる様になればということで・・・」

「もっと積極的に高校生活をエンジョイしないと!」

「まぁ、気の合う人が居たら徐々に交流して行きますよ」


「そうね。慌てることはないわ。兎に角。楽しんでね。さぁ、行ってきなさい!」

「はい。お母さん」


 校門の手前くらいから同じ制服の生徒で僕を見つめる者は、軽く読心術で心を読んでいる。お父さんと僕を結び付けて考える者が居るかどうかを知っておくためだ。


 だが、今のところは天照とか神さまというワードはヒットしない。少し警戒し過ぎなのかも知れないな。


 お父さんが初めて地球に現れてから十五年が経っている。今の高校生には記憶にないことだ。でもその父兄には記憶に残っているかも知れないのだ。


 お母さんは会場へ、僕は教室へ向かった。すると先生に呼び止められ、一度職員室へ連れて行かれた。


「結城君。私が担任の八神です。よろしくね」

 三十代くらいの女性の先生だった。身長は百六十センチメートルもないので下から見上げてくるのだが、目つきが少しおかしい。


『この子が全科目満点で合格した天才なのね・・・それにしても綺麗な顔。きっと親が外国人なのね。あぁ、この子の担任で良かったわ・・・惚れてしまいそう・・・』

 ま、まぁ、味方になってもらえると思えば良いのかな・・・


「はい。結城です。よろしくお願いします」

「今日は新入生代表の挨拶をしてもらうのだけど、準備は良いかしら?」

「はい。挨拶文を作って暗記してきましたので」

「そう。あなたならきっと大丈夫でしょう。では教室へ行きましょうか」

「はい」


 先生に連れられて教室へ向かった。

「ガラッ!」

 先生が先に立ち、教室の扉を開けて入ると。

「きゃーっ!」


「ちょっと!静かに!」

 女子生徒が僕の姿を見て一斉に叫んでしまった。本当にビックリした。


「皆、喜ぶのは分かるけど他の教室に聞こえてしまうでしょう?さ、結城君、あなたの席はあそこよ」

 僕の席は窓際の後ろから二列目だった。男女で一列ずつ縦に並んでいる。僕は黙って自分の席まで歩き、座った。


「今年の新入生代表は結城君です。結城君には式で代表の挨拶をして頂きます」

「先生!代表って、入学試験の主席合格者なんでしたっけ?」

「そうです。結城君は歴代で最高得点でした」

「おぉーっ!」

「最高得点?満点とか?」

「ふふっ」


「ま、満点?そうなのか?」

 前の席の男子が怪訝けげんそうな面持ちで振り返り、僕に聞いてきた。如何にも秀才そうな、銀縁の眼鏡を掛けた少年だ。


「解答用紙が返される訳ではないのだからね。僕には分からないよ」

「おー!ミスターパーフェクト!」

 他の男子生徒がはやし立てた。


「これ!茶化さない!さぁ、そろそろ時間です。会場へ向かいますよ」

「はーい」


 僕は努めて冷静に。いちいち反応しない様に心掛けた。

入学式が始まり、校長先生やPTA会長の挨拶の後、僕の出番となった。

「新入生代表、結城 翼」

「はい」


 登壇するとまたしても女生徒の黄色い歓声が響いた。

「きゃーっ!」

「翼くーん!すてきーっ!」

「カッコイイ!」


「う、うぉっほん!お静かに!」

 教頭先生が注意を促した。


 そして僕は模範生徒を演じながら、お母さんが作ってくれた無難な挨拶を暗記したままに話した。


 挨拶が終わって一礼すると、またも黄色い歓声が上がった。

女子生徒の皆が笑顔で僕に手を振っている。仕方なく笑顔を作って手を振り返すと・・・

「どさっ!」

 あちらこちらで失神した女生徒が倒れていった。僕は気がつかない振りをして自分の席へと戻った。


「おい、結城。お前凄いな!成績優秀で女子にモテモテか!」

 こいつは確か、僕の後ろに座っていた男子生徒だ。進学校には珍しい、体育会系の雰囲気で頭の毛をツンツン立てた少年だ。


「興味はないかな・・・」

「マジか!勿体ない!」


「一体、何に興味が?」

「物理・・・かな」

「え?物理?将来は博士さまか!」

「単に作りたいものがあるだけさ」

「ふーん」


 会場は大騒ぎになり、先生方が倒れた女生徒を保健室へと運んで行った。

しばらく式は中断したが、一通りの式次第を終了し、入学式は幕を閉じた。


 教室に戻り、八神先生が今後の予定を説明している。その間も女子生徒はちらちらとこちらを見ている。


 そして自己紹介というものが始まった。

先生からは名前と趣味か好きなこと、入ろうと思っている部活を話す様に言われた。


 一人ひとり前に出て教卓のところで話す決まりの様だ。

何人かの自己紹介が進んだところで、次にでてきた女子にざわめきが起こった。


神代新奈じんだいにいなです。趣味は歌を歌うことでしょうか。部活は仕事があるので入れません。皆さん、よろしくお願いします!」


「結城、あれが財閥の娘でモデルの神代じんだいさまだ」

「え?財閥?それは昔のことだろう?神代って、神代銀行とか神代重工の?」

「そう。神代重工業社長の娘だよ」

「普通、そういう家柄の子は私立校に行くものじゃないの?」


「まぁ、普通はね。でも彼女は頭が良いからお嬢様校に行かなくてもいいらしいよ。それよりモデルとか芸能活動を好きにやりたいんじゃないかな?」

「ふーん」

「ふーんって!興味ないのか?」

「いや、特には・・・」

「ほら、お前のことガン見しながら自己紹介してるじゃないか!あれ、絶対気があるぞ!」

「ふーん」


 確かに彼女は自己紹介が終わり、席に戻る時も僕を見つめてきた。そして心の中で、

『あれが、結城 翼・・・うん。いいわね!』


 そう言って、僕に向かって自信たっぷりに微笑み掛けた。確かに美人だ。背丈も百七十五センチメートルはあるだろうか?他の女子は、ほとんどの子が百六十に届いていないので凄く目立つ。


 校則違反では?といった短いスカートに茶髪。ん?染めたのではなく地毛の様だ。切れ長の目。その瞳はヘーゼルと言って良い薄い茶色だ。


 肌も白く鼻筋の通った美人だ。そして兎に角、細い。スカートが短いので細くて綺麗な足が目立つ。体重は五十キログラムには届いていないのではなかろうか。最早、完成されたモデルさんだ。


 そして僕の前に座っている銀縁眼鏡の秀才君の番だ。

「僕は、神宮寺巧じんぐうじたくみ。趣味は・・・化学。部活は化学研究部に入ります。よろしく!」


 ほう。秀才君は理系なのか。僕と話が合うかも知れないな。髪は少し長め、背は高め、百七十五位かな。そして線が細い。でも言いたいことは、はっきり言うタイプの様だ。


 いよいよ僕の番がやって来た。ゆっくりと教室の前に向かって歩き教卓の前に立った。女子たちの瞳がキラキラしている。何か落ち着かない。


「僕は、結城 翼。趣味はもの作り。部活は・・・もし入るなら物理研究部に入る・・・かも。皆さん、よろしくお願いします」

「ぶ、物理・・・」

「えーっ!何で!」


 物理と聞いて女子たちの一斉ブーイングとなった。これは丁度良いのかも知れない。でも、部活をやっている時間が勿体ない。とも思うのだ。まだ入ると決めた訳ではない。


「結城君。先生が質問しても良いかな?」

「はい」

「もの作りって、何を作っているの?」

「いろいろですが、反重力装置・・・とか」

「え?反重力・・・あ、あぁ・・・将来、作りたいのね?」

「え?あ!ま、まぁ・・・そうですね」


 次は僕の隣の席の女子だ。この子は他の女子たちと違い、何故か僕のことを一度も見ない。それはそれで不自然で気になっていたのだ。教卓まで歩く姿がぎこちない。どうやらかなり緊張している様だ。


「わ、私は・・・九十九結衣つくもゆいです。趣味はもの作りです。部活は・・・物理研究部に入ります。よ、よろしくお願いします・・・」

「えーっ!それじゃ、結城君と一緒じゃない!」


「え?何?恋人宣言的な?」

「きゃーっ!積極的!」

「負けてられないわ!私も物理・・・って、それ無理だから!」

「アハハ!」


「あーはいはい!九十九さんはそんなつもりで言ったんじゃないでしょう!」

 先生が助け舟を出すが、九十九さんは真っ赤な顔をしてうつむいたまま耐えている。


 可哀そうなことをしたな。僕とまるかぶりになったばっかりに・・・って、え?もの作りと物理?女子で?それはそれで珍しいな。ちょっと心を覗いてみようかな・・・


『あぁ・・・初日から何てこと・・・目立たない様にしていたかったのに・・・これも全部結城君のせいだ・・・でも、反重力装置って言っていたな・・・話を聞いてみたいけど・・・』

 彼女は席に戻るなり、俯いてしまった。当然、僕を見ようともしない。


 九十九さんの身長は恐らくだが百七十センチメートル位。結構背が高いのに、わざと猫背にしている感じがする。まるで目立たない様にしているみたいだ。どうやら背が高い女子は神代さんと九十九さんだけの様だ。


 長く伸ばしたストレートな黒髪は、肩甲骨けんこうこつの下側まで届いている。二重で大きな瞳だ。それがチャームポイントになりそうなのに、黒縁の眼鏡で隠している。おや?それも伊達眼鏡だてめがねだ。


 あれ?この子、かなり美しい娘なんじゃないかな?それを隠しているみたいだ。

さっきも心の中で目立たない様にしていたかったと言っていたものな・・・これは何かあるのだな・・・まぁ、そのうちに話すきっかけはあるだろう。


 後ろの席の体育会系の彼の番になった。

「俺は、榊徹さかきとおるだ。趣味はeスポーツ。部活もeスポーツと言いたいところだけど、eスポーツ部が無いんでね。中学でやってたバスケでもやっとこうと思ってる。以上!よろしく!」


 榊君が席に戻って来た。

「eスポーツって、大会とかに出ているの?」

「いいや。通信でやっているだけさ。趣味だよ。今までは息抜きって奴なのかな?」

「あぁ、受験勉強の息抜きか」

「そうだよ。中学ではバスケをやっていたからね」

「あぁ、背、大きいもんね」


「結城には負けるよ。結城は何センチあるんだい?」

「僕は今、百九十かな?」

「負けた!俺は百八十五だ。あ!そうだ。結城もバスケやれよ!」

「いや、僕は体育会系は遠慮しておくよ」

「え?苦手なのかい?」


「いや、バスケは大好きだよ。でも時間が・・・ね」

「あぁ、研究に没頭しているのか?」

 その時、隣の九十九さんが初めて僕に振り向いた。きっと研究というワードに引っ掛かったのだろう。僕は九十九さんの瞳を見つめながら答えた。

「そう、研究で忙しいんだ」


 そして九十九さんはすぐにまた俯いてしまった。九十九さんの顔は耳まで真っ赤になっていた。


「それならさ。たまに顔を出してプレーだけするなら良いだろ?研究の息抜きにさ」

「息抜きか。まぁそうだね、遊びならばやりたいかな」


 バスケットは繁お父さんが大好きで、庭にバスケットゴールを作ったのだ。その影響で遥馬はるまと三人で散々やって来たのだ。


 やり出すと面白くなり、研究熱が湧き出してNBAのビデオを観たり、図書館で教本を読んで、遥馬と一緒にテクニックを身につけたのだ。遥馬は中学校でバスケ部に所属し、現在キャプテンなのだそうだ。


「よし!決まりだ!俺のことは徹って呼んでくれよ」

「徹。だね。分かった」

「じゃ、俺も翼って呼ぶよ」

「あぁ、構わないよ」


 学校でとりあえず、気になったのはモデルで神代重工の娘、神代 新奈。そして秀才君の神宮寺 巧、隣の席の物理少女、九十九 結衣。そして既に友達となった、榊 徹だ。


 明日から学校生活が始まる。今日は図書館に寄って帰ろう。




 翌朝、駅から学校までの通学路は大変なことになっていた。僕を待ち構えて自分の部に呼び込もうと先輩たちが次々と話し掛けて来るのだ。


 その中には部活なんてそっちのけで、自分をアピールしてくる女子の先輩も多かった。

「あ!翼!朝から大変だな!」

「あぁ、徹。おはよう」

「おはよう!」

「あ!榊!お前、結城君の友達なのか?一緒にバスケ部に入ってくれる様に言ってくれよ!」

 どうやら榊は、昨日のうちに入部届を出した様だ。


「先輩!翼は研究で忙しくて部活に出られないんですよ。でもバスケ部には顔を出してくれることになってますから!」

「え?そうなの!それじゃ入部届だけでも出してよ!幽霊部員で構わないからさ!」

「え?幽霊部員で良いのですか?」


「部員になっておけば、急遽試合に出ることも可能になるじゃないか!」

「先輩、それって・・・」

「翼、まぁ、良いじゃないか。毎日部活に出なくていいって言ってくれてるんだから」

「それも、そうか・・・」


「え!結城君バスケットボール部に入るの!やった!」

「おいおい、結城君は男子バスケに入るの!女子じゃないよ!」

「いいのよ。練習場所が隣になるんだから!」

「え!それでいいの?」

「いいのよ!近くで見られるだけでもね」

「・・・」


 教室に入ると皆が一斉に振り向いた。

「結城君、おはよう!」

「おはよう。みんな」


 自分の席に座ると、女子が群がって来た。

「結城君、バスケ部に入ったって本当?」

「いや、入ったというかね・・・幽霊部員なんだ」

「幽霊部員?」

「そう。たまに研究の息抜きで顔を出すってだけの部員さ」


「それじゃぁ、やっぱり物理研究部に入るの?」

 その時、九十九さんが自分の席に座れずに後ろでもじもじしているのが見えた。


「みんな、九十九さんが座れないよ。少し、下がってもらえるかな?」

 九十九さんは僕の方を見ず、何も言わずに自分の席に座った。皆は九十九さんを含めて僕たちを囲い直した。

「まぁ!九十九さん!結城君に名前を覚えられているなんて!昨日の自己紹介の成果ね!」


 九十九さんは赤い顔をして俯いたままだ。

「そんなんじゃないよ。君は松下 由香里さんでしょう?」

「え?私のフルネームを覚えているの?昨日一回、自己紹介しただけなのに?」

「うん、自己紹介を聞いていたからね。クラス全員の顔と名前を覚えたよ」

「うそでしょ!全員のフルネームを?」


「え!じゃぁ、私は?」

「君は、田村 香織さんだよね」

「うそ!当たった!」

「わ、私!私は?」


「あなたは、鈴木 加奈さん」

「あ、当たり!凄い!」

「それって特技なの?」

「別に特技ではないかな。単に記憶力がいいってだけだと思うけど・・・」


「だから主席なのね!」

 後ろからかぶせる様に登場したのは、神代 新奈さんだ。彼女の登場に女の子たちは、モーゼの十戒で海が真っ二つに割れるかのように道を作った。


「結城 翼君。私の友達になってくれる?」

「きゃーっ!また恋人宣言なの?」

「え?まぁ、恋人でも構わないけれど・・・」

 神代さんはそう答えながら少しだけ赤い顔をした。でも堂々としている。


「それじゃぁ、まずは友達で。っていうか、クラスメイトって、もう友達なんじゃないの?」

「え?何その定義!翼はどこ中なの?」

「徹。どこ中って何?」

「え?出身中学だよ・・・」


「あ、あぁ・・・僕は学校に通うのはここが初めてなんだよ」

「えーっ!」

「うそ!登校拒否?」

「うーん。ずっと家で勉強して・・・研究ばかりしていたんだ」

 また九十九さんが反応して、こちらをちらっと見た。


「もしかして・・・勉強はもう要らないとか?」

「うん。そうだね。学問というものはほとんど修得したかな・・・」

「だから主席なのね・・・それじゃぁ、何で高校に入ったの?」

「うーん。友達を作るため?」


「まぁ!あきれた!そんな人が存在するなんて!」

「変わっているかな?」

「かなりね!」

「じゃぁ、このクラスの皆は既に翼の友達なんだな?」

「それじゃ、駄目なのかな?」


「いいんじゃないか?九十九さんも友達だよ!な!」

 徹は九十九さんに向かって笑いながら言った。


「ひっ!」

 小さく呼吸音がしたかと思ったら、真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。

「あらら・・」

「徹。ぶしつけ過ぎるよ。九十九さん。ごめんね。少しずつ慣れてくれたら良いんだ」

 九十九さんは小さくうなずいた・・・と思う。


『あぁ、どうしよう・・・こんな凄い人が隣の席なんて・・・もう無理!』


「ねぇ、九十九さん。私が席を代わってあげましょうか?」

「グイグイ来るね!」

「榊君。あなたにはお話ししていないのよ」

「ひゃー手厳しい、女神さま!」

「あ、あの・・・」


『あ、いっそのこと代わってもらった方が楽かな・・・』


「キーンコーン!」

 丁度、チャイムが鳴り、ホームルームの時間となった。皆、蜘蛛くもの子を散らす様に自分の席へ戻って行く。中には別の教室へ走って行った子も居た。道理で名前の知らない子が居るなと思ったんだよな。


「皆、おはよう!今、他のクラスの子が沢山、走り出て行ったけど何かしら?」

「先生。結城君に群がる女子たちを何とかしてあげてください!」

「あぁ、そういうことなのね。気持ちは分かるわ!」

「うわぁ!問題発言!」


「はいはい。じゃ、改めて。おはようございます!」

「おはようございます!」


「さて、今月末の校外ゼミの話をしましょうか」


「校外ゼミ?それ何?」

「あぁ、二泊三日で校外学習に行くんだよ」

「ふーん」

「もしかして、翼は欠席か?」

「どうしよう?行った方が良いの?」


「先生!翼が行った方が良いのか迷っているそうです!校外ゼミの意味とか目的は何ですか?」

「えーっ!結城君行かないの?」

「それじゃ、私も行かない!」

「私も!もう意味ないわ」


「ちょっと、ちょっと!何言ってるの!目的ね。それは良い質問よ、まずは友達を作る。班のメンバーと協調して行動することにより、集団生活に馴染む。自ら考えて行動する。などなど沢山の課題や意味があるわ。だから結城君も必ず参加してね」

「あ、はい」

「友達も作るってさ。丁度良いじゃないか」

「まぁ、そういうことなら」


「では、一班五人の班を六つ作ります。必ず男女混成にすること。来週の金曜日までにこの用紙にメンバーを書いて私まで提出してください。仲間外れは無しよ!」

「へーい!」

 その後、いくつかの説明があり、ホームルームは終了した。


 校外ゼミか。その間、研究ができないな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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