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28.子供たちの紹介4

 プリムローズ王国を訪問した。


 国王アレキサンダー プリムローズ、第一王妃エレオノーラ、第二王妃クラーラとその息子で王子のウィリアム、妻ミレーヌ。その子供たちで、長女クラリスと長男フィンリーが出迎えてくれた。


 庭園に降りてまず目を引くのは花だ。一面にプリムローズが植えてある。

ほとんどがピンク色の桜草プリムローズだ。そして、国王と王妃、王子も王女も全員がそれと同じ色の髪。つまり、舞依、桜や詩織と同じだ。


 何故なのだろう?と前々から疑問には思っていた。でも人の容姿のことだから、今まで触れずにおいたのだ。


 家族で何かこだわりの様なものがあるのだろうか?全員というのは凄いことだ。だって、ここに居る王妃と王女の三人は嫁なのだ。わざわざ三人ともその髪の色の人を選んでいるということだからだ。


 流石に妻も子供たちも念話で「これはどういうこと?」といった会話で盛り上がっていた。

そして向こうの家族は当然の様に、同じ髪と瞳の色をした、斗真とうま伊織いおりに注目が集まっていた。


『伊織、既にクラリスはあなたにぞっこんの様ね』

『え?緋月ひづき姉さま。僕ですか?』

『あなた、心を読んでいないの?』


『いや、皆、僕と同じ髪と瞳の色をしているから驚いてしまって・・・』

『まぁ、無理もないわね。兎に角、クラリスに集中していなさいな』

『はい』


 僕らは応接室に案内された。応接室に入るまで、廊下で使用人に会うことはなかった。

これは、こちらから僕が来る時は廊下に余計な人は出ない様にお願いしているからだ。僕を見て気を失う女性の姿を子供たちに見せたくないのだ。


 いつも通りにお父さんから挨拶を、僕から子供たちの紹介をした。

「クラリス。お前はどなたを気に入ったのかな?」

「え?お父さま・・・ここで申し上げるのですか?」

 クラリスは真っ赤な顔になった。


「是が非でも、天照さまのご子息さまに我が国へ就学して頂きたいのだ。しかも我々と同じ髪と瞳の色をしたお方がお二人もいらっしゃるのだからな」

「アレキサンダー殿。その是が非でも。というのはどの様な意味合いなのでしょう?」


「天照さま。我が国では王家の者がこの容姿であることは、国の象徴として重要なことなのです。それを代々守ってきているのですが、高位貴族の中では子供たちと同年代でこの容姿の者がもう居ないのです。このままではクラリスとフィンリーを結婚させなければなりません」

「あぁ、それで他の血を必要としているのですね」

「左様でございます」


「何故、王家の者の容姿がそれ程までに重要なのでしょう?」

「我が国のこころざしは「自然の美しさを失うことなく、清らかであり続ける」そう願う心を大切にする国なのでございます」

「なるほど。分からないこともないですね」


 うーん。王家の人間の容姿にこだわることが自然の美しさであるとは思えないのだが・・・国の志だと言われてしまえば、文句を付ける訳にはいかないな。


「おぉ!天照さま!ご賛同頂けるのですね!」

「えぇ、まぁ、気持ちは分かると・・・」

 凄い圧だな。名前からしてアレキサンダーだものな。それなのにあの髪の色・・・見た目が合っていないのだよな・・・


「あ、あの・・・わ、わたしは・・・その・・・い、伊織さまが・・・」

 クラリスは真っ赤になってうつむいたまま、やっとの思いでつぶやく様に言った。


『伊織。どうする?』

『お父さま。そうですね・・・第一印象としては良いですけれど・・・』

『けれど?』

『この感じでは、将来、国王になるのは王子のフィンリーではなく、僕になるということでしょうか?』


『そうか。そのつもりかも知れないね。聞いてみようか。でもそうだったら嫌なのかい?』

『いえ、国王になるのが嫌なのではなく、フィンリーがどうなるのかが気掛かりなのです』

『そういうことか。分かったよ』


「アレキサンダー殿。仮定のお話しですが、伊織がクラリス殿と結婚したとして、王位を継ぐのは誰になりますか?」

「それは勿論、伊織さまでございます」

「それでは、長男であるフィンリー殿は?」


「宰相となれば良いと思います」

「フィンリー殿。それで良いのですか?」

「私はその方が嬉しいです」

「それは何故かお聞きしても?」

「あ、そ、それは・・・自分で好きなお相手を探せるからです」

 あぁ、宰相となって城から出るということか・・・やはり、髪色にこだわることに嫌気がさしているのではないか。


「そうですか・・・では、クラリス。あなた自身に髪や瞳の色にこだわりはあるのですか?」

「いえ、特にそういったものは御座いません。でも・・・」

「でも?」

「い、伊織さまは素敵だな・・・って、思います」

「ふむ。伊織。どうする?」


「はい。僕はこの国に就学したいと思います。ただし、結婚はまだ分かりませんが」

「おぉ!我が国に来て頂けるのですか!ありがとうございます!」

「そうか、伊織。良いのだね。では、アレキサンダー殿。就学はしますが、その先のクラリスとのことは当人同士の意思に任せるということでよろしいですか?」

「はい。勿論でございます!」

「では、伊織をよろしくお願いいたします」


 これでまたひとり、行き先が決まった。


 挨拶回りが進んできたので、既に就学する国を決めた子を確認しておくことにした。


 リッキーと月乃つきのはカンパニュラ王国へ行くことが決まった。リッキーはお父さんの居る月宮殿に移る予定なので丁度良いかも知れない。リッキーは月宮殿から通い、月乃は王城に住むこととなった。


 月葉つきははフラガリアへ、月音つきねはネモフィラ、静月しづきはマグノリア、楓月ふづきはグラジオラス、月菜つきながイベリス、緋月ひづきがリナリアだ。これで娘たちは蘭華らんか以外、全員が就学先を決めた。


 息子は、斗真とうまがユーフォルビア、蒼羽あおばがビオラ、翔琉かけるがルピナス、俊輔しゅんすけがエーデルワイス、陽翔はるとがグースベリー、伊織いおりがプリムローズに就学する。まだ決まっていないのは、千隼ちはやだけだ。




 フロックス王国へやって来た。

ここは火事の現場でジーノを救い出し、更に子供たちが誘拐されていたのを開放した。色々あった国だ。あぁ、それにサバンナの動物たちのサンクチュアリもあったな。


 庭園に降りると、そこには王エドアルド フロックスと王妃ヴィオラ。王子アントニオと妻ミラベル、その娘のクローデットが待っていた。

「天照さま、ようこそ我が国へお出でくださいました。さぁ、応接室の方へどうぞ」


 応接室に入り、まずはお父さんから天照家の継承の挨拶を、そして僕から子供たちの紹介をした。


「天照さま、この時を心待ちにしておりました」

「待って居られた?何をでしょうか?」

「はい。ご子息さまにお越し頂けることを、で御座います」

「子供たちを?」


「はい。既に他国から聞いております。ご子息さまは皆、王家に年齢の合った異性の居る国へ就学を決めておられることを・・・」

「あぁ、そういうことでしたか・・・時に、アントニオ殿、世継ぎはクローデット殿だけなのですか?」


「はい。この子が産まれる一か月前に天照さまのご子息さまが大勢お生まれになったことは世界を騒がせました。そのすぐ後にこの子が生まれたのでございます」


「クローデットは天照さまのご子息さまと結婚させたい。その一心で他に子を儲けなかったのでございます」

「え?」

 その言葉に僕と妻たちは、思わず一斉に声を上げてしまった。


「私の息子と結婚させるために?つまり跡取りは、私の息子にさせたいと?」

「左様でございます」

「何故、その様なことを?」


「天照さまもご存じである通り、我が国は目立った産業もない小さな国でございます。以前には天照さまにお救い頂いた様な誘拐事件もありました」


「あの時、子供の引き取りを拒否した親が多かったことに我々は驚き、また我が国の民の暮らしが、その様な状況になっていることにも気付いていなかったことを悔いたのでございます」


「ですが、今の我々にはそれを良い方へ導く知恵がないのです。どうか、ご子息さまのお力で我が国を救っては頂けないでしょうか」

「・・・」


『お父さま、これ、どうしましょうか?』

『うむ。他力本願たりきほんがんにも程があるな・・・これが一国の王とは・・・だが、このまま捨て置くこともできないだろう。さて、どうしたものかな・・・』


『お父さま、それならば僕がこの国を救いましょう』

千隼ちはや。本気なのかい?』

『クローデットは既に千隼を気に入ったみたいよ』

『そうですね。お姉さま。このままではクローデットが可哀そうです』


『千隼、クローデットとこの国のどちらが大事なんだい?』

『どちらもです』

『そうか、それならば良いんだよ』


「よろしいでしょうか?」

「は、はい!」

「あの、クローデット殿と二人でお話をさせて頂けないでしょうか?」

「ど、どうぞ!勿論で御座います!シンディー。庭園へご案内しなさい!」

「陛下、仰せの通りに」


 シンディーはクローデットの侍女の様だ。勿論、本当に二人きりにしてくれる訳はない。

シンディーの案内で二人は庭園に出た。一定の距離を保って、シンディーがついて来る。


「クローデット。とお呼びしても?」

「はい。勿論です」

「先ほどの王の言葉には驚きました」

「本当に申し訳ございません。自分の国の行く末を神さまのお力にゆだねるなんて・・・酷い王だと思われましたよね?」


「はい。正直言ってそう思いました」

「それなのに何故、私とこうしてお話しをして頂けるのですか?」

「はい。クローデットの考えを聞きたかったのです。あなたは自分の国の未来を会ったこともない男に託されて、それで良いのですか?」


「そうですね・・・人には向き不向きがあると思うのです。お爺さまもお父さまも王には不向きなのだと思います。それは今まで見ていて判りますから・・・」


「私としても、この国を背負うのは大変なことです。でも私はこの家に生まれてしまったのですから・・・この運命から逃げることはできないのです」


 クローデットは庭園から視線を移して空に浮かぶ月を見つめ、風に吹かれたブルネットの髪を抑えながら少し憂いのある顔をした。そして力強い口調で言った。


「でも、結婚相手は誰でも良い訳ではございません。例えそれが神さまだとしても、結婚は自分で判断したいと思っています」


 クローデットの言葉を借りるならば、この娘は王妃に向いている。いや、女王もできるのではなかろうか。


「そうですか。それを聞いて安心しました。それでは二年後から私がこの国に就学させて頂こうと思うのですが、私でよろしいでしょうか?」

「千隼さまが来てくださるのですか!」


「はい。この国に就学したいと思います。あなたとのことはその間に、僕という人間を見定めて頂ければと思います」

「そんな・・・私だって選んで頂けるのか心配です・・・」


「クローデットはとてもしっかりしているのですね」

「そのお言葉はそのまま、千隼さまにお返しいたします。本当に八歳なのでございますか?」

「僕たち兄弟は、ちょっと変わっているのですよ」

「学校で学ぶ必要はあるのですか?」

「学問はもう必要ありません。主に人間関係を作りに行く・・・感じでしょうか」


「あぁ、やはりそうなのですね」

「クローデット。僕たち、髪の色が似ていますね」

「えぇ、瞳の色も・・・」


「あの、クローデットさま」

「あ、シンディー。もう時間ね?」

「はい。そろそろ」


「千隼さま。手を繋いでも?」

「え?あ、あぁ・・・構いませんよ」

 千隼はクローデットに手を引かれて、城へと戻って行った。


 クローデットに手を引かれたまま、応接室へ戻ると、皆がこちらを見て目を丸くした。

「おぉーっ!」

「クローデット!そういうことなのか!」


「お爺さま、そういうこととは、どういうことでしょうか?」

「け、結婚・・・」

「あの!私は二年後より、フロックス王国に就学したいと存じます」

「ほ、本当でございますか!あ、ありがとうございます!」


「千隼、良いのですね?」

「はい。お母さま。決めました」

「では、エドアルド殿、アントニオ殿。千隼をよろしくお願いいたします」

「ありがとう存じます」


 幸ちゃんの母国イベリスはユーストマを併合し、幸ちゃんは母国を助けた。その息子の千隼もまた、一国を救う役割を担うこととなる様だ。


 これで残るは、蘭華らんかだけとなった。だが、スカーレット、ローゼル、アイリス、アザレア、ロータス王国と回ったが、蘭華と年齢の合う子息は居なかった。




 そして最後の二十九か国目、イキシア王国に訪問した。

イキシア王国は北に位置し、北の海沿いには北限のサンクチュアリがあった国だ。


 庭園に降り立つと、王ローレンツ イキシア、王妃ディアドリー、王子マティアスと二人の妻シェリルとマリアンヌ。マリアンヌの息子のエリオットが出迎えてくれた。シェリルとの娘は皆、嫁に出たそうだ。


「ようこそお出でくださいました!」

 それにしても王宮騎士団の人数が多い。騎士の人数だけでも他国の倍は居る。男性の比率も多めで、ちょっと威圧されるくらいだ。桜が少しピリピリしているのが伝わってくる。


「ローレンツ殿、騎士の数が多いのですね」

「はい。この国は北限の国です。冬場は雪の災害も多く、騎士の出番が多いのです」

「なるほど、では猛者も多いのですかな?」

「そうですね。冬場は城に籠って訓練を行うことも多いですから、剣術の腕前は一流であると自負しております」

「ほう。そうですか」


 応接室に移り、挨拶と紹介をしていった。

そして子供の就学先が決まっていないのは蘭華だけなので、そのことも伝えた。すると・・・


「そうですか。丁度、我が国にはエリオットが居ります。蘭華さまとは同じ歳になるかと」

「お父さま、そのお方が私の妻になるのですか?」

「これ!エリオット。まだその様なことは決まっていないのですよ。失礼ではありませんか!」

 母のマリアンヌが血相を変えてエリオットをたしなめた。


「天照さま、息子が大変失礼なことを・・・申し訳ございません。エリオットは年の離れた二人の姉に可愛がられてきたもので、少々、甘えたところがございまして・・・」


「お父さま、私は甘えてなどおりません。剣術だって、もう一流の腕前だと褒められたのです」

「まぁ!剣術がお得意なのですか?」

 あ!始まってしまった・・・蘭華は剣術好きなのだった。余計なことを言わなければ良いのだが。


「はい!蘭華さま。王宮騎士団でも私より強いものはそう多くないのです!」

「そうなのですね!それでは一度、お手合わせ頂きたいものだわ」

「え?蘭華さまと私がですか?それは止めておいた方がよろしいかと」

「まぁ!どうしてですの?」


「それは蘭華さまにお怪我をさせては一大事ですから・・・」

「そうかしら?やってみなければ分からないと思いますけれど」

「え?では模擬戦をやってみますか?」

「えぇ、是非!」

 あぁ!エリオットに火をつけてしまったよ!


『ちょっと、蘭華!こんな席で何を言い出すの!』

『だってお母さま!あの子、生意気なんですもの。ちょっと鼻っ柱をへし折ってやらないと!』

『蘭華、本当にやる気なのかい?』

『お父さま、このままだと私はこの国に就学することになるのでしょう?あの子にあなどられたままなのは嫌なのです』


『いや、もし、エリオットの方が強かったらどうするんだい?』

『その時は大人しく嫁になって差し上げますわ』

『いや、それってそんな決め方をするものではないのでは?』

『お父さま。蘭華はこうなったら聞きませんから、やらせてみましょう』

『リッキー、それで良いのかい?』

『多分、蘭華が勝ちますよ』


『蘭華って、そんなに強かったっけ?』

『月夜見さま。蘭華は強いですよ』

『え?桜。そうなの?桜が言うなら大丈夫か・・・』


 子供たちは剣術を桜とフェリックスに、瞬間移動での咄嗟とっさの対応は僕から訓練を受けている。学校に行くまでに一人前に成る様に五歳から訓練を始めていた。


 男の子は基本的に剣術に力を入れていたが、月乃と蘭華は男の子に交じって剣術に燃えていたのだ。この一年は身体も出来てきたので、訓練用の剣で本格的な模擬戦をやっていた様だ。


 王宮騎士団の室内訓練場に移って、模擬戦をやることとなってしまった。

騎士団の騎士たちは興味津々な様子で周囲を取り囲むように立って見学を始めた。


 王宮騎士団の団長と思わしき男性が、審判を務める様だ。

「あの・・・蘭華さまは、そのお姿のままでよろしいのでしょうか?」

「えぇ、構いませんわ」

 エリオットは騎士服に着替えてきている。


 訓練場の中央に二人が対峙して立つ。蘭華の方が、かなり身長が高い。ヒールの高いブーツを履いているからだ。


「シュンッ!」

 蘭華は自分の剣を出現させた。

「おぉ!」

 観衆の騎士たちが驚きの声を上げる。


『桜、蘭華はあのブーツのままで戦えるのかい?』

『はい。月乃と蘭華は、その様に訓練していますから問題ありません』


「では模擬戦は五分間とする」


「始め!」

「いやぁー!」

 エリオットが真っすぐに踏み込んで三歩で蘭華に迫り、上段から斬り掛かった。


 蘭華はそれを余裕でかわすと、エリオットがきびすを返し、横から斬り掛かる。だが、それも一回転してひらりと躱す。その後三分程経過したが、エリオットの攻撃は一度も蘭華を捉えられない。


 そして一瞬の隙に蘭華はエリオットの懐に入ると、下から剣を振り抜き、エリオットの剣を宙へと弾き飛ばした。

「キンッ!」

「おぉーっ!」

 騎士たちがどよめいた。


「それまで!勝者、蘭華さま!」


 エリオットは剣を飛ばされ、肩で大きく息をしながら、しばらく呆然と自分の両手を見つめていた。

「エリオット。もっと訓練した方が良いわね。私で良ければ相手になるわよ」

「お、お願いします。蘭華さま・・・」

 エリオットは真っ赤な顔になっていた。


『良かった。負けた悔しさから癇癪かんしゃくを起こされたらどうしようかと思ったよ!』

『そうですね。変に止めに入らなくて済んで良かったです』

『それにしても蘭華って男らしいね・・・』


『あら?月夜見さま。それって私のこともそう思っていらっしゃるのですか?』

『そんなことはありませんよ!桜ほど女性らしく可愛らしい人は居ないのですからね』

『ふふっ、それならば良いのです』


「素晴らしい!蘭華さま、一体どこでその様な剣術を?」

 マティアスが興奮している。剣術好きな家族だったのだな。


「これは、桜お母さまから習ったのです」

「桜さま・・・」

「マティアス殿、私の妻の桜は、元ネモフィラ王国王宮騎士団の剣聖なのです」

「け、剣聖・・・そ、それは・・・素晴らしい!」


「桜さまは、今でもその剣聖の実力を?」

「現役の時よりも強くなっていますね。模擬戦をしてみたいですか?」

 桜がマティアス殿に視線を向けた。目が合った瞬間、マティアス殿は身震いした。

「そ、それは・・・え、遠慮しておきます」


「蘭華は、こちらでお世話になる二年後には身体は出来上がっていますから、剣聖のお墨付きを与えるまでに上達しているかも知れません。エリオット。相当な訓練を積まなければ蘭華には勝てませんよ」

 桜は真顔でエリオットに告げた。


「騎士団長!もっと僕を鍛えてください!」

「かしこまりました。殿下」

「蘭華さま、あなたに勝てる様、精進いたします。それまでは結婚の話は一切致しません」

「分りました。次に会う時が楽しみですね」


『おいおい、それでは一生、蘭華は結婚できないかも知れないじゃないか!』

『まぁまぁ、月夜見さま。そのうちきっと、蘭華が歩み寄りますよ』

『それは、エリオットがそこまで強くなれないってこと?』

『この王宮騎士団にそれだけの実力のある者が居ませんから・・・』


『それでは仕方がないね。蘭華。大人になってあげてね』

『お父さま。それは言われなくても分かっています』

『そうか・・・』

 こんな八歳の女の子は、日本には居なかったぞ・・・


 そして、子供たち十六人全員の就学先が決まったのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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