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21.移住者

 食後は月の都を一周回って、畜産や農業の状況を見てもらう。


 まずは畜舎だ。全ての畜舎を見て回り、最後の牛舎でエミリーの妹のフラヴィを見つけた。


「やぁ、フラヴィ」

「あ!月夜見さま!」

「畜舎で男手おとこでが欲しいと言っていたよね?」

「えぇ、それは居たら助かりますけど・・・」

「このノーランは牛舎で働いたことがあるのだって。そうだよね?ノーラン」


「あ、はい。僕はノーランと申します」

「あれ?フラヴィって幾つだったっけ?」

「私は十七歳になりました」

「ノーランは?」

「私も十七歳です」


「あぁ、では丁度良いね。フラヴィ、ノーランにここでの仕事を教えてあげてくれるかな?あと、ダンスもね」

「え?ダンスもですか?」

「フラヴィ、この前上手に踊れていたよね?」


「え?月夜見さま、ご覧になっていたのですか?」

「えぇ、見ていましたよ。ではノーラン。フラヴィの顔をよく覚えておいて」

「は、はい」

 フラヴィもノーランも顔が真っ赤だ。


 次は水田と畑だ。池から水田への水の引き方や畑で生産している野菜の種類を見ていった。そこにルーシー先生と一緒に暮らしていたロージーが居た。ロージーには畑の管理を一任している。


「ロージー、ちょっとお邪魔しますよ」

「あ!月夜見さま。この人たちは?」

「ここに居る男性は、これから月の都で仕事をしてもらうのですよ」

「え?ここで?もしかして独身男性なのですか?」

「そうですよ。ここに居るアダムは農作業が好きなのだそうですよ」


「まぁ!農作業が?」

 するとロージーがきょろきょろと周りを見渡し始めた。

「エヴァ?どこ?」

「はーい。何?お母さん」

 トウモロコシの列の中からロージーの娘のエヴァが顔を出した。


「ちょっと、エヴァ。新しく男の子が入るそうよ!」

「え?男の子?あ!月夜見さま!」

 エヴァが駆け寄ってきた。

「エヴァ、こちらアダムだよ。農作業が好きだって言うから、ここで働いてもらおうかと思っているんだよ」


「アダムです。よろしくお願いします」

「アダムは何歳だっけ?」

「はい。十五歳です」


「エヴァは?」

「私は十六歳です」

「まぁ!丁度良いわね・・・」

「お母さん!何が丁度良いのよ。恥ずかしいじゃない・・・」


「まぁまぁ、エヴァ。これからアダムにここの暮らしと仕事を教えてあげてくれるかな?あとダンスもね」

「え?ダンスも私が教えるのですか?」

「そう。ダンスも。ダンスは明日からね」

「は、はい。かしこまりました」


「さて、これで畜産と農業の現場は見たね。次は村へ行ってみようか」

 村に降りる橋にはフェリックスとシェイラが居た。


「フェリックス、シェイラ。ここに居るノーラン、アダム、ルイ、オデットは今後、月の都の使用人となるから顔を覚えておいてくれるかな?他の者は一週間滞在するけど、ここには住まないんだ」

「かしこまりました」


 そして橋を渡り村へと降りた。まずは神宮と学校、孤児院、それに漢方薬工場を見て回る。

「ここには孤児院もあるんだ。これから各国を回って、奴隷となっている子を引き取って、ここで勉強させ、仕事をしてもらおうと思っているんだよ」

「それでは、私たちだけではないのですね」

「そうだよ。この世界にはまだ、君たちと同じか、もっと酷い暮らしをしていた子たちも居るのですからね」


「あ、あの・・・月夜見さま」

「なんだい?テレーズ」

「あの・・・私、できれば孤児院で働きたいのですが・・・」


「あぁ、そうか、テレーズは子供が好きだったのだね。向こうには孤児院や保育所はないか・・・そうだね。でも、確かまだ孤児の数が少ないんだ。神宮や厨房でお手伝いをしてもらうかも知れないけれど良いかな?」

「はい。構いません」


「分かったよ。ではテレーズはここで働いてもらおう」

「ありがとう御座います」


 それから漁港と魚屋を見た。漁港には漁船の漁具を作る倉庫があった。僕らがぞろぞろと歩いて見て回っていたら村長の譲治殿が役場から出て来た。


「月夜見さま。どうされたのですか?」

「あぁ、譲治殿。新しい働き手を連れて来たのです。その中でこのルイは、鍛治仕事が好きだと言っているのですけれど、ここにその様な仕事はありましたか?」


「そうですね。漁具の金属加工とか手入れをする程度でしょうか。あとは服飾工房で革製品の馬具を作っているので、それに使う金具を作るとか農具の手入れもありますね。専門にやってくれる者は居なかったので何かと仕事はあると思いますよ」


「あぁ、そうか。では譲治殿に預けて、便利屋的に動いてもらう方が良さそうですね」

「それは助かります。まずは武馬に付いて仕事をしてもらいましょう」


「おーい。武馬!こっちに!」

「はい。お父さま」

「武馬、今度この村で働くことになったルイだ。武馬と一緒に村の仕事をしてもらうよ」


「それは助かります。僕は武馬です」

「ルイです」

「ルイは幾つなんだい?」

「僕は十五歳です」

「そうか、僕は十八歳だから、弟ができたみたいで嬉しいな。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」


「それでは、仕事は一週間後からということで、よろしくお願いしますね」

「かしこまりました」

「さて、この並びには午前中に来た服飾工房と雑貨屋がある。お給金をもらったら、その店で欲しいものがあったら買うと良いよ。お休みの日に町へ出て好きなものを買っても良いんだ」


 そして畑や水田、水路や貯水池を眺めて見学は終了した。最後に村のダンスホールへ入った。

「あ!月夜見さま!」

「あぁ、ちょっと見学に来ただけなので気にしないでダンスを楽しんでください」

「ありがとうございます」


「皆、ここがダンスホールだよ。仕事が終わってからでも、お休みの日でも。いつでも使えるようになっているからね」

 村人がダンスを始めた。皆、食い入るように見ていた。


「どうだい?オクサーナ。楽しそうでしょう?」

「はい。楽しそうです」

「是非、お母さんもダンスを習ってくださいね」

「わ、私もですか?」


「お母さん。あなたはまだ若いのですから。再婚も可能ですよ」

「そうよ!お母さんも幸せになって欲しいわ」

「でも、この歳では子も産めないし・・・」

「何を言っているのですか。オクサーナを生んでいるのですから、まだまだ子は産めますよ」

「え?本当なのですか?」


「お母さん。神さまが嘘をつく訳がないでしょう」

「あ!申し訳御座いません!」

「大丈夫ですよ。本当に産めますから」

「さぁ、屋敷に戻りましょうか」

 橋を戻るとそろそろ月の都を閉めて空へ上げる時間だった。


「フェリックス。もう時間ですね」

「はい。月夜見さま。もう、全員降りましたので上げて頂いて構いません」

「お疲れ様」

「はい。月夜見さま。失礼致します」


「ではシェイラ、橋を閉めてくれるかな」

「かしこまりました」

「さぁ、月の都を持ち上げるよ」

「ズズズッ」


「うわぁー島が!島が空へ上がって行く!」

「凄いわ!」

「これが、神さまの住む天国なのね・・・」


 屋敷に戻り、大広間に入ってもらって妻たちを紹介した。皆、妻たちの美しさに口をあんぐり開けて驚いていた。


 皆には、シルヴィーの案内で夕食前にお風呂に入ってもらい、僕は椿さんにテレーズが行かなくなったことを伝えた。




 それから一週間、皆は食事をしっかり食べ、十分に眠り、ダンスを練習した。

全員一曲はなんとか形になった。


 既にノーランとフラヴィ、アダムとエヴァはちょっと良い感じになってきているかも知れない。これ以上お節介は焼かない様にしておこう。


 オデットはシルヴィーに付いて侍女の仕事を学び始めた。そして、アルカディアに行く五人を船に乗せ瞬間移動した。

「シュンッ!」


「さぁ、皆。ここがアルカディア。神の国だよ」

「神の国・・・」

「ここはね。僕たち神が住まうための国で、人々は神に仕えながら生活しているんだ」

「この大きな大地全てが神さまのための土地なのですね」


「そうですよ。でもね。神は屋敷で暮らしていて、人々は各自の仕事をして、それぞれの暮らしがあるのです。神に仕えるとは言いましたが、神との接触はほとんどありません」


「神の姿を一度も見ることなく人生を終える人も沢山居るのですよ。つまり、ユーフォルビアの様な国で暮らすのと何も変わらないのです」


「あれが神の屋敷と神宮です。降りますよ」

 屋敷の前には侍女と宮司、役場の人たちが整列して待っていた。


「月夜見さま。いらっしゃいませ!」

「皆、久しぶりですね」


「遠い国からの移住者を連れて来ましたよ。椿さん、準備は整っていますか?」

「はい。服飾工房の近くにオクサーナ親子の家を、もう一軒、レベッカには独身者用の家を用意しました」


「月夜見さまの屋敷で調理をするロザリーには、神宮に部屋を用意しました。農作業をしたいというレジーヌには、屋敷の畑の保持をお願いするので、ロザリーと同じく、神宮に部屋を用意しました」


「椿さん、ありがとう御座います。オクサーナ、リーリャ、レベッカ、ロザリー、レジーヌ。ここアルカディアで幸せに暮らしてください」

「月夜見さま、ありがとうございました」

「引き続き、ダンスは練習してくださいね」

「分りました」


 後のことは椿さんに頼み、僕は月の都へ戻ることにした。

「椿さん、一週間後に様子を見に来ますね」

「はい。よろしくお願いいたします」

「シュンッ!」




 それから一週間後、月の都に住み始めた五人は、顔色も良くなり表情も明るく、元気になった。


 ノーランとアダムはすっかり馴染んで、当たり前のような顔をして仕事をしている。それに甲斐甲斐しくフラヴィとエヴァが世話を焼いている。


 テレーズは食事を作る時間は神宮の厨房に入り、それ以外の時間は孤児院の掃除や子供たちと遊んで過ごしている。テレーズも笑顔で過ごせるようになっていた。


 ルイは武馬と行動を共にし、村の何でも屋になった。二人の後を武馬の妹のエマがずっと付いて回っている。エマは学校が終わると、ずっとルイの後を追い掛け回している様だ。きっと気に入ったのだろう。ルイは十五歳。エマは十二歳だ。


 オデットは既に侍女として、シルヴィーと一緒に僕らや子供たちに仕えている。何をするにもシルヴィーと一緒で、何でもシルヴィーにお伺いを立ててから動いている。シルヴィーにとってもオデットは可愛いらしく、常に目を離さず優しく見守っている。




 今日はアルカディアに渡った五人の様子を見に行くこととなった。


 まずは屋敷の畑に行ってみた。畑ではレジーヌが漢方薬に使う薬草を育て始めていた。これは幸ちゃんからの依頼でもある。アルカディアの気候での薬草の成長具合を調べたいそうだ。


「レジーヌ。仕事には慣れたかな?」

「あ、月夜見さま。まだまだです。他の庭師の方に教わりながら薬草を植えたところです。これから育てて記録を付けていきます」

「うん、幸ちゃんからの頼みでもあるからね。よろしく頼むよ」

「かしこまりました」


「ところで、ダンスは続けているかな?」

「あ、はい。しずかさまたちに誘われて、ロザリーと一緒に習っています」

「どこで練習しているの?」


「はい、村役場の向こうにあるダンスホールです」

「あぁ、それなら村の人たちも一緒なのだね?」

「えぇ、色んな男性に声を掛けられるのです・・・」

 レジーヌが赤い顔になった。


「それは結構だね。レジーヌが良いと思った人が居たら、一緒にダンスを踊って色んな話をしてみると良いよ」

「でも、私なんて・・・」

「レジーヌ。ここでは君たちが奴隷だったことなど誰も知らないし、言う必要もないんだ。僕に誘われてここへ来たとだけ言えば良いんだよ」

「はい。そうします」


 次は屋敷の厨房へ顔を出した。

「ロザリーは居ますか?」

「あ!月夜見さま」

「やぁ、ロザリー。少しは慣れたかな?」

「はい。皆さん、お優しいので楽しいです」


「それは良かった。レジーヌとダンスには行っているのかな?」

「はい。それも踊れる様になって来て楽しくなりました」

「レジーヌから聞いたのだけど、男性から声を掛けられているのだって?」

「えぇ、毎日・・・ちょっと恥ずかしいのです」


「そうだね。初めは恥ずかしいかも知れないけれど、一人ひとり、相手をよく見て良い人を選ぶといいよ」

「え?選ぶ?私が?ですか?」

「そうだよ。ここでは男性が余っているんだ。皆、女性と結婚したくて相手を探しているんだよ。ここではロザリーに選ぶ権利があるんだよ。好きでもない人と付き合う必要はないからね」


「私に選ぶ権利が?」

「そうだよ。だから相手をよく見てね。強く誘ってくる人が必ずしもロザリーに合う人とは限らないからね」

「私が好きになる人・・・ということで良いのですか?」

「そうだよ。困ったら静に聞いてみれば良いよ」


「あ、静さまはお優しいのです」

「そうでしょう。皆のお姉さん役だからね。先に結婚もしたしね。相談すると良いよ」

 うん。二人は上手く行っているようだな。では、服飾工房に行った三人を見に行くかな。


「シュンッ!」

 僕は服飾工房の前に飛んだ。


「こんにちは。杠葉ゆずりはさんはいらっしゃいますか?」

「あ!か、か、神さま!」

 見える範囲の数人が気絶した。あぁ、また営業妨害しに来てしまった。


「まぁ!月夜見さまでは御座いませんか!ようこそお越しくださいました」

「お久しぶりですね、杠葉ゆずりはさん」

「そんな!「さん」などお付け頂かなくても・・・清香きよかと呼び捨てにしてくださいませ・・・」

 何か、余計な色香を漂わせて来るな・・・


「今日は、先日こちらに派遣した親子とレベッカの様子を見に来たのですよ」

「その三人でしたらこちらに。どうぞ、お入りくださいませ」


 清香に案内されて奥に入っていくと、レベッカ、オクサーナとリーリャが針仕事をしていた。三人だけ日本のデザインの服を着ているし、顔立ちも違うから目立っていた。


「オクサーナ、リーリャ、レベッカ。久しぶり。ここはどうかな?」

「あ、月夜見さま。素敵なお家をご用意頂き、ありがとう御座います。こちらのお仕事も皆さんが親切に教えてくださるので、楽しく過ごしております」


「それは良かったですね。ダンスホールには行ってみましたか?」

「あ、はい。ですが、それは・・・」

「何か問題が?」

「あ、問題と言いますか、私たちはちょっと変わっている様で・・・」


「あぁ、目立ち過ぎて周りからの視線が気になる。ということかな?」

「はい。それで一度しか行っていないのです」

「それはいけませんね。では今日、仕事が終わったら一緒に行ってみましょうか」

「え?月夜見さまがご一緒されるのですか?」


「えぇ、そうしましょう。仕事はあとどれくらいで終わるのですか?」

「十七時までですので、あと一時間ほどでしょうか」

「では、私はこの辺を散歩していますよ。一時間後に戻って来ますね」

「かしこまりました」


 僕は清香に一時間後にまた来ると言って表へ出た。村の目抜き通りを歩いていると・・・あれ?ここって見たことある、いや来たことがあるな。なんだっけ?

「あ!そうだ!ここは瑞希の実家じゃないか!配給所だ」


 そうだ、栞とここへ来た時は、栞の頭の中のこの景色のイメージを見て瞬間移動したから、周りを一切見ていなかったんだ。思わず独り言をつぶやきながらきょろきょろしていたものだから配給所の人が気付いて奥へ走って行った。


「あ、これは瑞希の両親を呼ばれてしまったな・・・どうしよう・・・」

「あ!月夜見さま!」

 あぁ、両親が出てきてしまった。何を話せば良いのやら・・・


「これは、栞のご両親ではありませんか」

「月夜見さま、今日はどうされたのですか?」

「いえ、配給所に伺ったのではないのです。先日、他の世界からの移住者を連れて来ましてね、その後の様子を見に来たのです」


「あぁ、リーリャ達のことですね」

「そうです」

「この度は、この地の女性が少ないことにお気遣いを頂き、ありがとう御座います」

「この地域でも結婚できない男性がいらっしゃるのですね?」

「えぇ、どこもそうなっていると聞いております」


 それにしても、この両親は瑞希と全く似ていないな。能力は隔世遺伝とは言え、容姿がここまで似ないことなんてあるのかな?この前はそんなこと考えていなかったから気にならなかったけど、よく見ると二人とも黒髪に黒い瞳の日本人顔なのだ。


「そうですか、リーリャの歳でも結婚相手は居るものでしょうか?」

「はい。二十代後半の者が居りますので十分に結婚は可能と思います」

「それは良かった。ただ、三人が目立ち過ぎてしまってダンスホールに行っても居心地が悪いと言うものですから、今日は私が連れて行こうと思っているのです」


「それでは、お相手候補に声を掛けておきます」

「あ、いや、すぐにお見合いをしなくとも良いのですよ。徐々に慣れていった方が良いでしょう」

「そうですか?では、口出しはしないでおきましょう」

「えぇ、その様にお願いします」


「では、そういうことで。私はこのままこの辺を散歩してから服飾工房に戻りますので」

「はい。ありがとう御座います」


 それにしてもあの両親、一度も自分の娘の今の様子を聞いて来なかったな・・・そんな親って居るかな?栞のここでの人生は本当に辛いものだったのだろうな。


 そのまま配給所の周辺を歩いて見て回った。いつの間にか僕の後ろには何十人という人がぞろぞろとついて来ていた。しまった!目立ち過ぎか。いかんな。もう服飾工房へ戻ろう。


 工房に戻ると、丁度三人が仕事を終えて工房から出てきたところだった。

「月夜見さま!どうなさったのですか!その人たちは・・・」

「あ、いや、散歩をしていただけなのだけど、皆、ついて来ちゃったんだ」

「あぁ、そうなのですね・・・」


「まぁ、それはいいから、ダンスホールに行こうか」

「はい」

「ダンスホールはどこにあるのかな?」

「配給所の向こうにあります。私たちの家はその先なのです」

「オクサーナの家とレベッカの家は遠いの?」


「すぐ近くです」

「食事の用意はどうしているの?」

「レベッカはうちで食事をしています」

「レベッカは料理も覚えないといけないのだね」

「はい。料理ができる様になりたいです」


 四人で歩いていると、後について来る者が増えていった。それには構わずにダンスホールへと入った。ホールでは四組がダンスを踊っていた。僕たちが入ると、どんどん人々が押し寄せ、あっという間にダンスホールをぐるっと取り囲んだ。


 踊っていた四組は驚いて踊るのを止めてしまった。

「皆さん、ダンスを続けてください」

「さて、では折角だから踊ってみましょうか」

「え?この中で踊るのですか?」

「まぁ良いではありませんか。ではオクサーナから」


「え?月夜見さまと踊るのですか?」

「そうですよ。僕がリードしますから大丈夫ですよ」

「本当によろしいのですか?」

「勿論!」


 そして一曲ずつ三人と踊ってみた。皆、問題なく踊れたし、上手だった。

「皆、上手でしたよ」

「それは、月夜見さまのリードがお上手だからです」

「でも、楽しいでしょう?」

「はい。楽しいです」


「それなら是非、今後もここに来て踊ってくださいね」

「はい。そう致します」


 僕は民衆に振り返って話しをした。

「皆さん、こちらの三人は遠い国から私が連れて来た移住者です。あと二人、神宮で暮らし始めています」


「五人ともまだ若く、独身です。是非、良い方と出会えたならば結婚できると良いと考えています」


「彼女たちはここに来たばかりです。まだ分からないことも多くあるのです。皆さん、是非彼女たちを受け入れて頂き、優しく接してあげてください」


 するとひとり、また一人と拍手を始め、やがてそこに居る全員が拍手をした。

「歓迎しまーす!」

「ようこそいらっしゃいました!」

「僕と結婚してください!」

「和也、頑張れよ!」

「わははははっ!」


 ちょっと、おちゃらけた人も居たが皆に歓迎され、三人は笑顔になった。




 それからは移住者探しは加速していった。


 二十九か国全てに奴隷商の存在を確認したが、既にそれ程多くは残っていなかった。桜を伴って各国を巡り、全ての奴隷を引き取り、奴隷商を解体していった。更に全ての神宮にも確認し、孤児が居れば引き取った。


 男性は月の都と孤児院に入ってもらい、女性はアルカディアに移住してもらった。ただし、女性で侍女の仕事ができる者と侍女になりたい者には、月の都の屋敷で子供たちの侍女になってもらった。子供たちは既に子供部屋に移っているからだ。


 村の神宮の孤児院はかなり埋まり、男性の方が多くなって来た。結婚適齢期の村人は次々に結婚し、世帯が増えてきたので、残り三十軒の家の建設を始めた。

アルカディアに移住した女性は百名近くに達した。


 僕は毎日、忙しく動き回った。冷蔵庫などの家電の各国への配布が始まったのだ。

この頃には全ての国王の王室に鳥の電話となる鳥を配置して、連絡を取り合いながら、民衆への教育の進捗と家電の必要台数を確認し、ファクトリーから各々おのおのの指定場所に家電を送っていった。


 そうして、月の都とアルカディアの男女比問題は解決したのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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