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17.お正月

 大晦日となり瑞希の家族が月の都に集まった。


 昨日、下ごしらえしたものを重箱に詰めていく。お昼過ぎには準備は完了した様だ。


 遅めのお昼ご飯を皆で食べてからエリーに菜乃葉と七海をゲームに誘ってもらい、子供部屋で遊んでもらった。大人たちはサロンに集合してテレビで宝くじの抽選会の様子を見守った。


 そして一等の抽選となった。


 舞台の上の的がぐるぐると回転し、ゲストがボタンを押す。一斉に的が止まり、司会者が組数と当選番号を興奮した様子で読み上げる。


「一等は!23組!155841!」

「う、うわぁっ!あ、あ、当った!本当に当たった!」

 繁さんは思わず立ち上がり叫んだ。

「凄い!本当に十億円当ったのですね!」

「分かっていたとは言え、当選するところを生で見るとは・・・凄いね」


「まぁ、冷静にいきましょう。繁さん。落ち着いてくださいね」

「あ!え?は、はい・・・そ、そうですね」

「繁さん。分かっていますよね?」

「あ、あぁ、それは勿論!大丈夫だよ」


 お母さんと早苗さんが繁さんになにか意味深な念押しをしていた。

ふふっ、そりゃぁ、十億円当っちゃったら人生狂わせる様な妄想をしちゃうだろうな・・・


「瑞希。そう言えば、早苗さんの排卵は見ているのかい?」

「えぇ、それは年明け早々くらいになりそうですね」

「それなら、グリーンゼリーの使い方を瑞希に教えるからね」

「はい。私が監修して男の子を授けますね」

「お姉ちゃん、お願いね」


「あ!でも妊娠中に引っ越しすることになっちゃうのかしら?」

「引っ越しなら念動力で飛ばしてしまうので重いものを持つことはありませんよ」

「そんなことができるのですか?」

「それよりも翼と早苗の長男、私の娘が一歳違いとなるのです。早苗の子として戸籍を作ると同じ学校に通った時に問題がありますよね」


「あぁ、そうか。容姿の問題だね。でも、翼は幼稚園や小学校は必要ないのではないかな」

「そうですね。きっとその頃には大変な知能指数になっているのではありませんか?」

「その可能性はあるよね。瑞希の子だものね。それに瑞希が英才教育をしそうだもんね」

「まぁ、英才教育という程のことをしなくても、きっとできる子になると思います。だって、月夜見さまの子なのですから・・・」


「また始まったわ・・・」

 お母さんがあきれれかえっている。

「さぁ、お雑煮の準備でもしましょうかね」


 大晦日の夜は、皆でにぎやかに過ごした。

すき焼き鍋を囲み、ビールや日本酒で乾杯した。テレビでは大晦日恒例の歌番組をやっていた。

「この歌手。まだ出演し続けていたんだね。凄いな・・・」

 大物歌手が歌っている姿を観て、感慨深げにつぶやいてしまう。

「そうですね。月夜見さまは二十年ぶり。私も十七年ぶりに観ますからね」


「これから世の中が変わって行ったら、芸能人ってどうなるのでしょう?」

「なくなりはしないでしょうね。娯楽は必要なのですから。でも収入はかなり減るはずですよ。それでもその仕事が好きだという人だけが残るのではないかな」


「どんな仕事でも収入は減るでしょうね」

「そう、分配しなければならないし、格差も是正しなければならないのですからね」

「それって北欧の国みたいな感じですか?確か消費税が凄く高くて、その代り高福祉なのですよね」

「繁さん。そうですね。全て同じにはできないでしょうけれど、それに近い形のものを受け入れられないと変われませんから」




 夜も更け、カウントダウンの時が近付いた。

「さぁ、年越し蕎麦ができましたよ!」

「僕は初めてだな・・・」

「年越し蕎麦には、蕎麦の様に細く長く寿命を伸ばす、厄災を切り良い年を迎える、それに金運上昇と無病息災の意味もあるのですよ」

「寿命を伸ばす・・・か」

 なんだか複雑だな・・・


 そしてテレビの中ではアイドル歌手がライブ中継の中でカウントダウンを始めた。

菜乃葉と七海が一緒になって声を上げる。

「5、4、3、2、1、ゼロ!ハッピーニューイヤー!」

「ハッピーニューイヤー!」


「月夜見さま。あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」

「瑞希。こちらこそ。よろしくお願いします。皆さんも始まったばかりですが、この月の都での生活を支えてくださり、ありがとうございます。今年もよろしくお願いします」

「よろしくお願い致します!」


 今夜は結城家の皆さんも月の都に泊まって頂いた。こんなにぎやかで温かい日本の年越しは初めての体験だった。




 ここは地球の日本。2023年元旦を迎えた。


 目を覚ますと目の前に美しい青い瞳がぱちくりとまばたきしていた。

「おはよう。奥さま。一年の初めに美しい瞳が見られて嬉しいよ」

「まぁ!」

 瑞希がしがみついてきた。


「私も嬉しいのです。こんなに素敵なお正月を迎えられるなんて・・・夢の様です」

「瑞希、初夢は今夜見る夢だよ」

「えぇ、今夜は素敵な夢が見られそうです!」

「ふふっ」


 着替えてサロンに向かった。昨夜は遅くまで起きていたので皆、ゆっくりだそうだ。

もう、お昼近い時間となってようやく寝室から出てきた。


 お正月ではあるが、晴れ着がある訳でもなく、僕はいつものシンプルなシャツとパンツだ。

瑞希も特別な服装ではなく、先日のアウトレットで買ってきたブラウスにスカートとセーターだそうだ。


「月夜見さま!あけましておめでとうございます!」

 瑞希の家族が揃って出迎えてくれた。菜乃葉と七海は着物を着ていた。

「あけましておめでとうございます。菜乃葉、七海。着物姿、とっても素敵ですね」

「ありがとうございます!」

 ふたりとも真っ赤な顔で笑顔になった。可愛いな。


 食堂のテーブルには華やかなおせち料理が所狭しと並んでいた。

「これは美しい重箱ですね?古いものなのですか?」

「えぇ、九条家に先祖代々伝わるものです」

「素晴らしいものですね。料理も見たことがないものばかりです」

「是非、楽しんでください」

「ありがとうございます」


「繁さん。一晩経って落ち着きましたか?」

「これは、お恥ずかしい・・・まるで自分のものの様な喜び方をしてしまって」

「無理もありません。あの様なことは中々体験できることではないのですからね」

「繁さん、仕事を辞めては駄目ですからね!」

「早苗!そんなことする訳ないだろう!」


「ふふふっ、冗談ですよ!まだまだ頑張って頂かないと!」

「そうだね。長男を授かろうというのだからね」

「えぇ、お願いします!」

「さぁ、おせち料理を頂きましょうか!」

 皆が席に着き、好きなお酒をグラスにいだ。


『月夜見さま。このお年玉を後で菜乃葉と七海にあげてくださいますか?』

『あぁ・・・お年玉。こんなものも僕には縁がなかったな・・・分かったよ。ありがとう』

 瑞希がテーブルの下でお年玉袋をそっと手渡してきた。


「では、皆さん。今年からはこの様な場所でお正月を迎えることとなりました。これから繁さんと早苗さんの新居も建てることとなり、今年は激動の一年になりそうです。では、今年一年の家族の幸せを願って、乾杯!」


「カンパーイ!」

「月夜見さま。よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

 瑞希の家族がうやうやしく僕に向かって頭を下げた。


「こちらこそ!皆さん、急にこの様なことになり、申し訳御座いません。私と瑞希、翼をよろしくお願いします!」

「わぁー」

「パチパチパチ!」

 菜乃葉と七海が歓声を上げ、拍手をした。


「ねぇ、お母さん!私たち引っ越すの?」

「え?あ、そ、そうなのよ」

「え?そうしたら学校はどうなるの?」

「それは今まで通りよ。近くの大きなお家に引っ越すの」

「転校しなくていいのね?良かった!」


「大きなお家?一軒家なの?」

「そうよ」

「じゃあ、ここみたいに私だけのお部屋があるの?」

「そうね。菜乃葉と七海、別々の部屋になるのよ。嬉しい?」


「やったー!私だけの部屋なのね!」

「え?私の部屋もあるの?」

「えぇ、七海の部屋もちゃんとあるわ」

「やったー!」


「菜乃葉、七海。良かったね。ではこれ、お年玉だよ」

「え?神さまからお年玉?良いのですか?」

「ホント!え?お母さん!頂いても良いの?」

「えぇ、頂きなさい。月夜見さま、ありがとうございます」

「いいえ」


「良かったわね。菜乃葉、七海。無駄使いしちゃ駄目よ」

「はい!だって神さまから頂いたのですから・・・大事に大事にします!」

「私もです!お菓子を買ったりしません!」


「さぁ、菜乃葉、七海。お爺ちゃんからもだ」

「わぁーい。お爺ちゃん。ありがとう!」

「やったー!これでゲームが買えるわ!」

「これ!七海!お爺ちゃんに失礼でしょう」

「だって・・・神さまのお年玉でゲームを買っては駄目でしょう?」


「菜乃葉。お金はみんな一緒だよ。菜乃葉の欲しいものを買って良いんだよ」

「神さま!本当ですか!」

「えぇ、本当です。ゲームでもお菓子でも洋服でも好きなものを買ってね」

「はーい!」


『瑞希、この神さまって呼ばれるの、なんとかならないかな?』

『それが難しいのです。早苗とも話したのですけれど「月夜見さま」はちょっと大人びているし、でも「伯父さん」とは絶対に呼ばせたくないのです』

『伯父さんで間違いはないと思うのですけど?』

『私が呼ばせたくないのです。伯父さんなんて!美しくありません!』


『でもさ、ふたりが友達と話している時にうっかりいつも呼んでいるクセで神さまと口走ってしまうのではないかな?』

『・・・』

『じゃあ、まぁくん。とか・・・』

『そう呼んで良いのは舞衣だけです』


『そうなの?それは困ったね・・・』

『二人ともまだ子供なのですから良いではありませんか』

『そうかい?』


「月夜見さま、お雑煮は召し上がりますか?」

「お義母さま、お雑煮ですか。お餅でしたっけ?」

「お雑煮を召し上がったことがないのですか?」

「そうですね。前世の記憶では無いですね。確か病院の食堂でお正月のメニューにあるのは知っていたのですが、食べようとは思わなかったもので」


「それならば是非、一度召し上がってください。九条家の味がお口に合うか分からないですけれども」

「いえ、そんなこと。是非、食べてみたいですね」


 お雑煮ができ上がるまで瑞希が小皿に取ってくれたおせち料理をつまんだ。

「瑞希、これって何かな?」

「それは伊達巻だてまきです。甘いのですよ」

「あ!卵焼きみたいだね。甘くて美味しいね」

 その他、栗きんとん、いわしの田作り、昆布巻き、黒豆・・・どれを食べても甘い!


「何だか、甘いものが多いんだね。美味しいけど」

「そう言われるとそうかも知れませんね」

「おせちに甘いものが多いのは、お正月の間食べ続けるから日持ちする様にしているのと、昔は砂糖を使うものは贅沢品ぜいたくひんだったから、お正月くらいは奮発して、ってことでしょうかね?」

「お義父さま、そうなのですね」


「さぁ、お雑煮ができましたよ。月夜見さま。どうぞ」

「ありがとうございます」

「あ!山形のお雑煮と似ていますね。僕は見ただけなのですけど、これは醤油味なのですよね?」

「えぇ、そうです」


 甘いものが多かったから醤油ベースの味に落ち着く。出汁だしも利いていて優しくて日本人が好きな味だと思う。

「この味はやはり初めてですね。美味しい・・・これ、向こうの世界の皆にも食べさせてあげたいな」

「そうおっしゃると思って、おせち料理とお雑煮の食材を用意しておきました。きっと幸ちゃんに見せれば作ってくれますよ」


「これは皆、喜ぶな。瑞希、ありがとう!でも準備が大変だったでしょう?お母さん、早苗さん、ありがとうございます」

「いいえ、とんでもない!」

「女神さまたちに是非、召し上がって頂きたいわ」




「お父さん、初詣はいつ行きますか?」

「うん?いつもの通り、午後に行けば良いのでは?」


「お婆ちゃん。神さまがここに居るのに、他の神さまにお参りに行くの?」

「え?あ!」

「そ、そうね・・・どうしましょう?」


「菜乃葉。初詣はね。自分の住んでいる土地を守る氏神うじがみさまにお参りするものなんだよ。だからいつもの通りに家の近くの氏神さまのところへ行けば良いんだよ」

「そうなのですか」

「日本にはね。沢山の神さまが居るんだよ」

「沢山?どれくらい居るの?」


八百万やおよろずの神というからね。八百万はっぴゃくまんもいらっしゃると言うことですかね」

「そんなに居るのですか!」


「日本は自然が豊かでしょう?日本人は常に自然の中で生きてきた。その自然の中で山、湖、川、瀧、古い巨木とか、土地土地のそういったものを見た時に神秘的なものを感じて、神としてまつる様になっていったんだよ。日本人は感受性が豊かだからね」

「それなら何でも神さまになっちゃうの?」


「七海。そうだね。どんなものだって、人々があがたてまつって、祈ればそこに気が集まり、ご神体しんたいになるんだよ」

「思う念力岩をも徹す。ってことわざがありましたよね?」

「早苗。それはちょっと違うと思うわ。強く願えば思いは通る。と言いたいのかしら?」


「まぁ、僕たちにはそれができてしまうのだけど」

「そうですね。原子力発電所を消してしまうのですからね」

「その様な能力があるから神と言われているだけなのです。本当は人間なのですけれどね」


「月夜見さまは、前世では神の存在を信じておられたのですか?」

「お義父さま。信じるとか信じないとかではなく、僕にはそんな時間さえありませんでしたね」

「あぁ、これは立ち入ったことをお聞きしてしまいました」

「良いのです」


「でも神さまは神さまですよね?」

「そうね。菜乃葉。そう思っていて良いわ」


『瑞希。あまり神さまを強調されると・・・』

『月夜見さま。菜乃葉たちと今後、もう会わないのならば良いのです。でもそういう訳にはいきません。月夜見さまの寿命を考えれば、神さまと思っていないと混乱させてしまいます』

『あ、そういうことか』


『えぇ、子供とはいえ、小学五年生と四年生ならば、きちんと理解させなければなりませんし、理解できる年齢ですよ』

『そうだね。分かったよ』


「菜乃葉、七海。月夜見さまと八人の女神さまはね。五百年の寿命を持つ神さまなの。私にはその寿命はないから、菜乃葉たちと同じ様に長くても八十とか九十歳くらいで死んでしまうのよ」

「え?私がお婆ちゃんになっても、神さまはそのお姿のままなのですか?」

「そうよ。月夜見さまはあと、四百三十年は今のお姿のままなの。だから伯父さんと呼んでは駄目と言ったのよ」


「そうか、私がおばさんになっても神さまは、今のままの若くて綺麗な姿なのね!それじゃ、伯父さんって呼んだら変だわ!」

「そうでしょう?」

「やっぱり、神さまなんだ・・・」

 菜乃葉と七海は目を丸くして微笑んでいた。僕は複雑な心境となった。


 食事が落ち着いたところで初詣に行くこととなったご両親と早苗さんの家族を瑞希が送って行った。


 戻って来た瑞希とまったりしていると・・・

「月夜見さま。また、九日間お逢いできないのですから・・・」

 そう言って瑞希は僕の手を取ると自分の胸に当てた。

「そうか・・・そうだね」

 ふたりで寝室に向かい、ご両親が戻るまで愛し合った。


 家族が戻り、僕も帰る時間となった。

「瑞希。良いお正月になったかな?」

「えぇ、本当に素敵なお正月でした」

「今度はまた、九日後に来るからね」

「はい。お待ちしております」


「早苗さんの妊活にんかつも頼むね」

「えぇ、グリーンゼリーも頂いたので大丈夫です」

「では、またね」

「はい。お待ちしています」


 ふたりで熱いキスをしていると、ご両親がそそくさとサロンから出て行った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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