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16.年の瀬

 今夜からは妻たちと順番に夜を過ごす日常に戻った。


 今夜は舞衣の部屋で過ごす。早速、凛月りつき蘭華らんかが抱き着いてくる。


「リッキー、私が居ない間、皆のお兄さんになってくれていたんだってね」

「お父さまもお母さまも居ないのですから、僕が皆の面倒をみるのは当たり前です」

「そうか。リッキー、偉いな。またお願いしても良いかな?」

「はい。いつでもどうぞ」

「ありがとう。リッキー」


「ほら、お父さまが褒めてくださるって言ったでしょう?」

「はい。お母さま」

「良かったわね」

「はい!」


「お父さま!私も良い子にしていたのです!」

「蘭華も良い子だね。ありがとう!」

 蘭華の頭を優しく撫でた。

「良かったわね。蘭華」

「うん!」


 ふたりを寝かせ、ワインを飲みながら夫婦の会話の時間となった。

「子供たちの能力の高さに驚いたけど、知能の高さにはもっと驚くね」

「えぇ、皆とも話していたのですけれど、前世の記憶はなくても魂のくらいが高いのではないかしら」

「そうだね。瑞希ともそれを話していたよ。前世が神さまなのは確かなのだろうけど、暁月ぎょうげつお爺さまの様な人だったのではないかなって思うね」


「私、母親として自信がなくなるっていうか。ちょっと心配なの」

「何が心配なの?」

「この子たちをきちんと育てて導けるのか・・・」

「え?それは難しく考え過ぎでしょう。母親の役目って必ずしも指導役ではないでしょう?」

「でも、自分の子の前世が立派な神さまだったと思うと、これからどう接していったら良いのか・・・」


「舞衣。特別、どうしないといけないなんて考えることはないよ。理想の母親像なんてないと思う。そうだな・・・母親として子にしてあげられることがあるとすれば、一緒に居られる時間は沢山愛して不安を抱かせないこと。あとは助けを求められたらできることをしてあげる・・・そんな感じかな」


「僕の前世を思い返すとね。両親が揃っていて愛情を注いでもらえていたならば、僕は舞衣を失った時、後を追っていただろうか?正直、分からないな・・・でもね、あれはやはり、僕のそういう幼少期からの不安定さが招いたことなのかも知れないよね」


「今の舞衣なら分かるでしょう。この世界の王家に生まれて・・・どうだった?」


「ありがとう。とても分かり易かったわ。そうね。私が何かしてあげなければいけないと思う必要はないのね。いつも目を離さず、寄り添って愛してあげれば良いのね」

「うん。それで良いと思うよ。でも過保護はまた違うからね」

「はい。気をつけます」


「何にせよ。舞衣ひとりではないんだ。僕も見ているし、他の妻たちと協力し合っても良いのだからさ」

「そうね。そうだったわ」


「さぁ、もう寝ようか。舞衣は僕が愛してあげるからね」

「まぁくん・・・ありがとう」

「大丈夫。舞衣は良いお母さんになれるよ」

「あなたも。世界一の夫でお父さんだわ」

「ありがとう」


 その後も詩織と琴葉以外の妻たちは、それぞれに不安を抱え始めていた様だ。やはり、前世でも今世でも結婚も子育てもしていないのに、自分の子が前世で神であり、幼くしてその片鱗へんりんを見せ始めていることに戸惑っていた。




 翌日は桜の番だ。

「桜も子育てに不安を感じているのかい?」

「えぇ、そうですね。私なんかに前世で神だった方を導けるのかと・・・」

「導く必要はないよ。桜、月乃つきの斗真とうまも可愛いでしょう?」

「それはもう」


「それならば、可愛がって優しくしてあげれば良いんだ。今はまだ、それだけで良いんだよ」

「それだけで?」

「うん。でもふたりが大きくなって、剣術を習いたいと言うならば、それはしっかりと教えてあげれば良いんだよ。桜が自信を持ってできること以外は無理にすることはないんだ」

「それで良いのですか?」


「愛情を注ぎ、助けを求められたら過保護にならない範囲で桜ができることをしてあげれば良いんだ。僕も居るのだし、他の妻たちも居る。自分だけで育てて導かなければ。なんて気負う必要はないんだよ」

「あぁ、そうなのですね・・・少し気が楽になりました」


 他の妻にも夜、子供が眠ってから同じ様に話をした。これってカウンセリングみたいだな。


 最後は詩織だ。でも詩織は子育ての経験があるから大丈夫かな?

「詩織。君はアンナマリーとクラウスを育てているから、緋月ひづき伊織いおりの子育てに不安はないかな?」

「不安がない訳ではありません。ただ、母親って一緒に居てあげたらそれで良いのかなと」


「うん。流石、詩織だ。分かっているね。そうだよ。子供の前世なんて関係ないんだ。必要な時に一緒に居て、愛してあげたらそれだけで良いんだ」

「良かった。それで良いなら何とかなりそうです」


「うん。詩織は良いお母さんだね」

「月夜見さまが私を愛して支えてくださるからです」

「うん。詩織を愛しているよ」

「あぁ、月夜見さま。愛してください!」

「うん。朝まで愛してあげる」


 そうして、僕は八日間ほとんど睡眠を取れなかったのは言うまでもない。日中、子供たちを抱きながら、うたた寝をして過ごした。


 アルカディアに送る女の子を探すのはまた来週にしよう・・・




 今日から二日間は瑞希のところへ行く。

「リッキー、今日と明日、お父さんは出掛けるんだ。その間、リッキーが皆をまとめてお母さん達を助けて欲しいのだけど。できるかな?」

「お父さま。僕に任せてください!」

「うん。ありがとう、リッキー。頼んだよ」

「はい!」


「皆もリッキーの言うことを聞いて、お母さん達を手伝ってあげてね」

「はい!お父さま!私も手伝います!」

「私も!」

「僕も!」

「うん。皆、ありがとう!頼んだよ」


「では、行って来るね!」

「いってらっしゃい!お父さま!」

「シュンッ!」


「あ!月夜見さま!」

「瑞希、久しぶり。逢いたかったよ」

「私もです。月夜見さま・・・お元気でしたか?」


「ちょっと、瑞希、そんな何年も会っていないみたいな・・・たった八日でしょう?」

「お母さん!それくらい寂しかったのよ!」

「ふふっ。毎回、こうなるんだね」


「月夜見さま。今日って十二月三十日なのです。月夜見さまは今日と明日はいらっしゃいますよね」

「うん。二日間は居るよ。あ!そうか。お正月なのか!」

「えぇ、そうなのです。私も忘れていたのですが、一月一日はお正月なのですよ。それで、元日には早苗の家族も呼んでここでお正月をと思っているのです。月夜見さまは元日までは居られないでしょうか?」


「あぁ、それは是非、日本のお正月を過ごしたいな。他の妻たちにも聞いてみるよ」

「えぇ、お願いします」

 琴葉に念話でお伺いをしてみた。


 琴葉いわく、また子供たちを置いて出掛けるには、前回から日が経っていない。とのことで今回は僕だけ楽しんできて欲しいとのことだった。


「瑞希、前回の地球訪問から日が浅いので、子供たちを置いて行けないとのことなんだ。僕だけ、元日の夜までここに居ることになったよ」

「まぁ!元日の夜まで居てくださるのですね!嬉しい!」

 そう言って瑞希は抱きついてきた。


「まぁまぁ、本当に仲が良いこと。ほほほっ!」

 お母さんが赤い顔をしている。

「月夜見さま。では大晦日おおみそかは、宝くじの当選発表でもありますから、朝から早苗の家族を呼んでここでおせち料理の準備をしますね」

「おせち料理か。僕は初めてかも知れないな」

「え?前世でおせち料理を召し上がったことがないのですか?」


「うん。物心ついた頃にはもう、母は居なかったからね。あ!一度だけ、舞衣が一時退院した時にお邪魔して、少し食べたかも知れないな」

「その程度しか思い出に残っていないのですね・・・」

「そうだね」


「それならば、うんと華やかなお正月にしましょう!前夜の大晦日はすき焼きにしますからね!年越し蕎麦そばも用意します!」

「うわぁ、それは豪勢だね。皆も揃うし、楽しそうだ」

「えぇ、楽しみにしていてください!」

「瑞希、ありがとう!」


「ところで、瑞希。料理はできないのにおせち料理は作れるのかい?」

「い、いやぁ・・・そ、それは・・・その・・・お母さんと早苗が・・・あと、エリーもできるって言うので・・・私は後方支援を・・・」


「そうだよね。瑞希は翼の面倒もみないといけないのだものね。仕方がないさ」

「月夜見さまぁ・・・」

「ちょっと、瑞希。いちゃいちゃしていないで、買い物をした早苗をそろそろ迎えに行って頂戴」


「あれ?明日の朝から来るのではなかったの?」

「あぁ、おせち料理で下ごしらえするものを先に持って来るのだそうです」

「そうなんだね。おせち料理って大変なのだね」


「あ!お正月で思い出した!クリスマスっていうイベントもあったよね?どうしていたの?」

「あぁ、それなら実家に集まって皆でケーキやチキンを食べましたよ」

「そうか。それなら良かった。それを思い出していながら翼とふたりきりでテレビを観ているだけだったらどうしようと思ったんだ」

「ご心配頂いて、ありがとうございます!」


「いや、僕が日本の暮らしでのそういったイベントを一切経験してきていないから、気付いてあげられなくて申し訳ないよ」

「大丈夫です。これからは私たち家族が居ますから。一緒に楽しみましょう!」

「ありがとう。瑞希・・・」

「月夜見さま・・・」


「みーずーきー。そ、ろ、そ、ろ!いいかしら?」

「あぁ!ごめんなさい!すぐに行って来ます!月夜見さま。翼を抱いていてくださいますか?」

「勿論。気をつけてね!」

「はい。行って来ます!」

「シュンッ!」


 そうか、日本では年の瀬。ってやつだったのだな・・・異世界に転生してそんなことを思い出すこともなかったな。


 そして瑞希は五分もしないで早苗さんと共に戻って来た。

「シュンッ!」


「あぁ、早苗さん。こんにちは」

「あ!月夜見さま。こんにちは」

「早苗。では下ごしらえを始めましょうかね」

「エリーも手伝ってもらえるかしら?」

「かしこまりました」


 四人は厨房へ行き、おせち料理の下ごしらえを始めた。僕は翼を抱いて瑞希のお父さんとサロンで珈琲を飲みながらテレビを観ていた。


 テレビ番組は年末の特番ばかり、それも天照さまがらみの総集編といった感じでどの局もやっていることは同じだった。


「テレビはずっとこの様な番組ばかりなのですか?」

「そうですね。今や話題は全て天照さまですね」

「再生可能エネルギーへのシフトとか、環境改善の話はまだ動き出してはいないのですよね?」


「でも環境保護団体の活動は勢いを増していますね。今までの鬱憤うっぷんを晴らすかのごとくに、先進国に対して環境改善を要求しています」

「まぁ、その様な団体はここぞとばかりに声を上げることでしょう。問題はその先進国の政府の反応ですよね」


「そうですね。実際に環境改善に向けて動き出すには時間が必要でしょう。ですが日本政府は積極的にシンポジウムを開いている様ですよ。勿論、民間もです。結局は民間の方が動き出しは早いのでしょうけれど」


「そうですよね。お上が動いてくれるのを待っていたら、ビジネスチャンスを逃してしまうのでしょうからね」

「電力会社やガス会社なんかのエネルギー関連企業が一番影響を受けている様ですね」

「それはそうでしょうね」


「一部では、再生可能エネルギーについては国営化すべきとの話が盛り上がっていますね」

「ほう、それはどうしてでしょう?」

「やはり、莫大な資本が必要となるからでしょう。それを軍事費用や宇宙開発に使っていた予算から回すべきとの考えなのでしょう」

「うん。ごもっともですね」


「それに我先にとその分野に民間企業がいくつも参入したら、今度は電気が余って食料が足りなくなるなどバランスが崩れるからですね」

「全くその通りですね」


「ところでお義父さま。お仕事は何をされていらっしゃったのですか?」

「私は、農林水産省のいわゆる官僚です」

「おぉ、それは丁度良い」

「丁度良い?」


「専門家にお聞きしたいことがあるのです。日本は食料自給率が低いと言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか?」

「あぁ、それは見方によるのです。その質問は将来的に自国のものは自国で生産する必要があるから、ということでしょうか?」

「はい。その通りです。それは可能なのでしょうか?」

「私個人としては全く問題ない。と言って良いと思いますよ」


「そうなのですか!それはどの様にして?」

「いえ、今でも例えば、米、野菜、魚、鶏肉などは十分に足りています。それ以外のものも牛肉なんて価格競争の問題で輸入が多くなっているだけでしょう。輸入品が入って来なくなるならば国内で十分に生産できるのです」


「なるほど、輸入品との価格競争が問題だったのですね?」

「えぇ、ただ、小麦と大豆は実際に不足していますね。でもこれらも他の農産品と生産調整をすれば足りる様になると思います」


「そうか、小麦や大豆は家畜の餌にも使いますからね。多く消費しているのですね」

「そうです。後はフードロスと言う、過剰生産分を上手く調整できれば何も問題なくなるのですけれどね。これも国が主導し、全農を通じて農家を指導すれば変革は可能ですよ」


「天照さまは、異世界に作った理想郷の様に・・・つまり、国や地域で自給自足を行い、無駄を出さず、環境を守り続ける社会を作らない限り、手を差し伸べることはできないとお考えの様です。それはこの地球で可能でしょうか?」


「恐らく、日本では可能なのではないでしょうか?それでも工業資源については、輸入せざるを得ないものはあると思いますが。でも地球全体となるとそこまで理解が進み、しかも国主導で改革が進められるのかは疑問ですね」


「やはり、そうですよね。日本人はこういう時、同じ方向を向いて力を合わせるのが得意ですよね。でも欧米諸国の様な個人主義や一部の独裁国家では難しいでしょうか?」


「そうですね・・・現在では日本でも個人主義的な考えは多く見られます。でも日本人は有事の時に団結できますからね。今は有事でしょうから」


「ただ、欧米諸国や独裁国家でもこれだけのインパクトのある変革のきっかけが起こったのですから、絶対変わらないということもないと思いますよ」

「そうか。やはり見守るしかないのですね」


「でも、日本が主導することは可能だし、その責務はあるでしょう」

「責務ですか?」

「だって、天照さまは日本の神さまなのですからね」

「あぁ、そういうことですか。ふむ・・・」

 日本の神さま・・・か。


「私も古巣に助言はしておきますよ」

「そうですね。よろしくお願いします」


 瑞希のお父さんが農水省の官僚だったなんて。心強い味方が居たものだな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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