13.子供たちの成長
僕たちは夕食を頂いてからサロンに集まり、SNSの話を再開した。
「SNSのことだけどさ。こういう情報って、エリーは既に情報として持っているのでは?」
「はい。月夜見さま。地球のその様な情報はネットワークを通じて、全て私に届いております」
「ふむ。では、華の大学での研究の内容も把握しているのかな?」
「はい。把握して御座います」
「因みに、イノベーターの持っている情報をエリーは持っているの?」
「それは天照さまに許され、共有された情報のみとなります」
「海洋プラスチックの除去についてイノベーターの情報はあるのかな?」
「現在、その情報は頂いておりません。天照さまに情報の照会を申請されますか?」
「え?そんなことできるの?では、ダメ元でお願いしてみようか」
「はい。少々、お待ちください・・・」
「データを頂きました。どの様にデータを開示致しましょうか?」
「え?貰えちゃったの?これは良いんだ!まぁ、助かるけど・・・」
「それって、私たちに教えると言うことは、地球人を助けることになるのでは?」
「幸ちゃん、そうだよね。でも教えてくれたのだから、そうして良い。と言うことなのでしょうね」
「でも、どうせ専門的な話だから、エリーから口頭で説明されても分からないでしょうね。ではエリー、イノベーターの持っている技術は、華の大学の手法とは全く違う技術なのかな?」
「原理は同じです。ただ、華さまの大学の研究では、まだその手法を大きな装置にできていないだけです」
「あぁ、やり方は同じで、イノベーターの技術では既に製品化というか装置として完成しているということだね」
「おっしゃる通りで御座います」
「なるほど、だから天照さまは、あっさり教えてくれたんだ。では、僕らが教えなくとも企業が資金提供や技術供与をしてくれたら彼等だけで完成できるのだね?」
「左様です。あとは資金と時間の問題かと」
「素晴らしいじゃないか。この調子で化石燃料から脱却して、温室効果ガスの排出が止められれば、いよいよ環境改善への道が開けるというものだよね」
「そちらの方も、地球人は既に十分な知識と技術は持っています。例えば化石燃料を売る企業が再生可能エネルギーの生産をし、化石燃料を使う機械や産業製品を製造する企業が再生可能エネルギー利用へシフトして行けば、一気に進んでいく可能性があります」
「それならば私たちは、ただ見守っているだけで良さそうですね」
「えぇ、瑞希。そうね。化石燃料を使用する国が減って行けば、それらの原産国も変わって行かざるを得なくなりますからね」
「でも、それがきっかけで戦争が起こったりはしないでしょうか?」
「花音、そうね。まぁ、小競り合い程度は起こるのではないかしら?でも月夜見さまが、大量破壊兵器を使う様なことがあれば・・・と警告はしていますからね」
「あ!そうでしたね。では少しは安心して見ていても良いのでしょうかね」
「あとは飛行機と船の問題だと思います」
「陽菜。それは?」
「飛行機や船は化石燃料で動きますが、それを使えないとなると飛行機は飛べません。その代わりとなるものも無いのです。勿論、船もです」
「あ!そうだった。今日も羽田空港に大変な数の飛行機が離発着していたね。あれは急には無くせないよね」
「飛行機や船は輸出入の要です。例えば日本なんて食料自給率が低く輸入に頼っているのですから輸送手段が無くなったら生きていけません」
「神星の船を供与せざるを得ないのでしょうか?」
「え?飛行機の数って、きっととんでもない数ですよ」
「陽菜。そうなの?エリー、今、地球上にジェット旅客機って何機くらいあるか分かる?」
「現在、毎日運航しているジェット旅客機は三万機前後と推測されます。貨物輸送機、軍用機や小型機も含めますと三十万から四十万機にも及びます」
「えーっ!そんなにあるの!」
「それは簡単に代わるものを用意することは難しそうだね」
「それに神星の船の速さでは、地球のジェット機には遠く及びません」
「でも、飛行機や船による環境への影響は大きいと思いますので放置はできないかと」
「そうか。飛行機や船の問題は簡単ではなさそうだね」
「それこそイノベーターに頼るしかなさそうですね」
あぁ・・・やはり簡単な問題ではないな・・・
地球への滞在は残り三日となった。
「皆、地球に居られるのもあと三日だけど、どうしようか?」
「私たちが何かしないといけないことはあるのでしょうか?」
「琴葉、それは特には無いと思うよ」
「それならば、私は帰りたいわ。月葉と蒼羽に会いたいの」
「そうですね。特別やることがないならば私も・・・」
「あぁ、そうだね。皆、子供たちのことは気になるよね」
「では、僕だけあと三日残って、皆は先に帰ることにしようか」
「えぇ、それで構いません」
「では、エリー。妻たちを帰してもらえる様に天照さまに連絡してくれるかな?」
「かしこまりました。すぐにお伝えします」
「月夜見さま。天照さまより伝言で御座います」
「うん?何かな?」
「それは、月夜見さまに授けた能力でできる。とのことです」
「あぁ、僕だけが行き来できるのではなく、人を送ることもできたんだね」
「はい」
「それでは、暁月お爺さまに連絡してから送ろうかな。皆、支度をしてくれるかな?」
「では、買い物したものや荷物は各自で自分の部屋へ送ってサロンに集まりましょうか」
「はい」
数分後には妻たち八人がサロンへ集まった。
『お爺さま。聞こえますか?』
『おぉ、月夜見か。どうした?』
『こちらでの用事はあらかた済みましたので、妻たち八人だけを先に帰します』
『おぉ、そうか。それは助かるな。では月夜見は、あと三日はそちらに居るのだな?』
『えぇ、そのつもりです。子供たちの御守りは大変でしたか?』
『うん。楽しくもあったが、それなりに大変ではあったな。だが、思った程ではなかったがな』
『それは良かった。本当にありがとうございました。では妻たちを送ります』
『分かった』
僕はひとりずつ抱きしめて、キスをしていった。その後、妻たちが瑞希とハグをしていく。
「皆、それでは送るよ」
「はい。月夜見さま。瑞希、お元気で!また会いましょう!」
「はい。皆さん、ありがとうございました。また来てくださいね!」
「えぇ、必ず来るわ」
「あら?これって、定期的に地球に来られて、買い物も自分たちでできるってことじゃない?」
「まぁ!そうね!そうだわ!」
「あぁ、そういうことだね。実家にも定期的に顔を出すと良いね」
「まぁ!嬉しい!」
「良かったわ!」
「さぁ、では送るよ」
「はい。お願いします」
「シュンッ!」
「あぁ、行ってしまわれた・・・」
「瑞希。またすぐに連れて来るよ」
「はい。それに月夜見さまは、あと三日居てくださるのですものね」
「その後も十日に二日は来ますよ」
「えぇ、そうでした!嬉しいわ!」
そう言って瑞希は僕に抱きつき、濃厚なキスをしてきた。
月の都のサロンに八人の妻たちが出現した。
「シュンッ!」
「うわっ!」
「お母さま!」
十六人の子供たちが各々の母親のところへと飛んで行って抱きついた。
「月葉、蒼羽!ごめんね。寂しかった?」
「皆が居たから大丈夫です。フクロウと追いかけっこするのが楽しかったのですよ!」
「まぁ!天照さまを追いかけ回していたの?」
「気にするな。疲れたのはフクロウだ。私は見ているだけなのでな」
「それでも目が離せなかったと思います。ありがとうございます」
「お安い御用だよ。それでは私はこれで」
「はい。ありがとうございました!」
妻たちが声を揃えてお礼を言った。フクロウはただのフクロウに戻った。
「暁月さま、玄兎さま、皆さまもありがとうございました」
「いいえ、皆、可愛くて!まだ遊び足りないくらいだわ。またいつでも預けてくれて構わないのよ」
「オリヴィアさま。ありがとうございます」
「何か問題はありませんでしたか?」
「いいえ、舞衣。あなたの息子、リッキーがね。あなた達が居なくなった途端に皆を集めて念話で話していたみたいなの。サロンの隅に十六人が集まっていて、その中心にリッキーが居てね。それは不思議な光景でしたよ。それからは突飛なことをすることもなく。普通に遊んでいたわね」
「まぁ!そんなことが!」
「えぇ、リッキーは既に次期当主に相応しい統率能力を持っている様ね」
「リッキー。偉かったのね。皆に何て言ったの?」
「お父さまとお母さまが帰って来るまで、僕たちだけで遊ぶよ。僕の言うことを聞いてね。そう言っただけ」
「そう。それで皆は大人しく遊んでいたのね?」
「うん。僕たちの家じゃないですからね」
「まぁ!何て良い子なのでしょう!ありがとう!リッキー」
そう言って、舞衣はリッキーを笑顔で抱きしめて頬にキスをした。
「それで、舞衣殿。地球はどうだったのかな?」
「はい。暁月さま。月夜見さまの演説で警告を発したことで、特に日本では良い反応が出始めていると思います。ただ、これから世界で同じ方向を向けるかどうかだと思いますが」
「そうか。すぐに結果がでるものでもないのだな」
「そうですね。時間が掛かることだと思います」
「うむ。そうか。ご苦労だったね」
「いいえ。さぁ、では私たちの月の都へ帰りましょうか」
「えぇ、そうね」
「皆さま、子供たちがお世話になり、ありがとうございました」
「うん。また来ると良い」
「はい。ありがとうございます」
そして、二台の船に乗ってアスチルベの月の都へと飛んだ。
僕は瑞希と翼だけで夫婦水入らずの夜を迎えた。ベッドで川の字に横になって話した。
「月夜見さま。明日から三日間どうされますか?」
「そうだね。世界を回ってみようか」
「存在を示し、人間たちに神を認知させる。と言うことですね」
「うん。まだ三か国しか行っていないからね」
「全ての国を回るのですか?」
「いや。まずは列強国でしょう。小さな国や島国、それにアフリカのほとんどは行かなくても良いかな?」
「そうですね。やはり環境破壊の原因を作っている国に行かないといけませんね」
「EUの中心となる国、ロシア、中国、インド、東南アジア諸国、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア辺りかなぁ」
「中東諸国には行かないのですか?」
「紛争地域や石油の産油国は避けておこうかと思っているよ」
「それは何故ですか?」
「原理主義者とかテロリストなんかがロケット砲とか撃って来そうじゃない?万が一、撃って来たら撃った人間のところに転移させて爆破するシステムなのでしょう?」
「それで人間を殺してしまったら新たな憎しみを生むよね。そもそも神が人間を殺しては駄目でしょう」
「確かにそうですね」
「相当な高高度を足早に駆け抜けて、ちょっとだけ姿が見える。くらいなら構わないかも知れないけれどね」
その時、エリーが部屋の扉をノックした。
「月夜見さま。よろしいでしょうか?」
「エリー、どうぞ」
エリーがベッドの前までやって来た。
「月夜見さま。天照さまがお話しされるそうです」
「え?天照さまが?」
「月夜見。今、良いですか」
「あ。天照さまですか?妻たちは戻りましたか?」
「えぇ、子供たちを引き取って自分たちの月の都へ戻りましたよ」
「子供たちの子守をして頂き、ありがとうございました」
「いいえ。凛月のお陰で楽でしたよ」
「リッキーの?」
「それは後で舞衣に聞くとよい」
「あ、はい。それでお話とは?」
「先程の中東地域には行かないとの話です」
「あぁ、それですか。行った方が良いのですか?」
「是非、行ってください。今回は攻撃されたとしても私が見ていて、全て宇宙へ飛ばします」
「あぁ、逆にそういう地域の人にこそ、存在を認知させたいのですね?」
「そういうことです」
「分かりました。ではどの様に回って行きましょうか?」
「では、こちらでコントロールして三日で回る様にします」
「では、私と瑞希はここに居て、見ているだけで良いのですね?」
「えぇ、そうですね」
「ところで、天照さま。このまま人間たちが環境改善に舵を切ったとして、化石燃料の使用を禁じると飛行機と船が使えず困ることになるのですが、何か良い案はありませんか?」
「船の提供は可能です。ですが、その前に各国で食料品や工業製品の自給率を高めることが先です。そうでなければ今のままでは輸出入量が多過ぎて船がいくらあっても足りません」
「つまり、その心配は時期尚早。ということですね」
「そうです」
「あ。そうか!アルカディアの様にある程度は、その国や地域で自給自足の生活ができないと駄目なのですね」
「分かった様ですね。では明日の朝六時から月の都を動かします」
「はい。分かりました」
「月夜見さま。瑞希さま。それでは失礼致します」
「エリー。ありがとう」
「月夜見さま。それでは今の経済活動は根底から覆されてしまいますね」
「そうだね。アルカディアの様に自活するなら、今までの様に他国に大量にものを売って利益を得ることはできなくなる。食料品でも何でも地産地消できる分だけ作って売るのだから経済成長はできなくなるということだ」
「現在の人間たちがそれを受け入れられるのでしょうか?」
「さぁね。だから天照さまは期待していないのでしょうね」
「それができるのかできないのかを見るのですね」
「うーん。でも、人間に何かヒントを与えないと、その正解に辿り着けないのではありませんか?」
「そうだね。だけど、逆にヒントを与えて早く正解を知ってしまったら、そんな世界は受け入れられないと考えて、早々に匙を投げられてしまうかも知れないよ」
「あぁ、折角、環境改善し始めても頓挫するかも知れないのですね」
「そうだね。どこまでできるのか、やはり、見ているしかないのではないかな?」
「そうですね」
瑞希が翼にお乳をあげ始めたところで、僕は神星に戻った妻たちに念話で先程の天照さまとの会話を伝えた。その後、舞衣と話してリッキーが留守番中に何をしたのかを聞いて驚いた。
リッキーがもうそんな行動を取るなんて。彼には日本の前世は無い筈だ。そんなに知能が高いなんて驚きだ。でも、暁月お爺さまの様な神さまだったなら有り得るのか。
そうであれば子ども扱いはできない。ということでもあるのかな・・・
お読みいただきまして、ありがとうございました!