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10.東京観光

 国連での演説の翌日、詩織の前世の家族を探しに行くこととなった。


 瑞希と同じで東京出身なので、まずは瑞希の実家へ飛んだ。そこから電車に乗って詩織の実家へ向かう。瞬間移動だと実家の場所に今、何があるのかが分からないからだ。


「月夜見さま。電車に乗るなんて大胆ですね!」

「久しぶりに乗ってみたかったのもあるけれどね」


 瑞希の実家から駅へ向かう。すれ違う人たちの内、何人かが振り返り、立ち止まって僕たちを見つめた。


 切符は瑞希と詩織に買ってもらった。元々、電車に乗る機会の少なかった僕や舞依は人の多さも相まって気後れしてしまい、自動販売機に並ぶ気になれなかった。


 瑞希の実家の最寄り駅から詩織の実家まではそれ程遠くもなかった。一度乗り換えて四十分程で到着した。流石、東京だけのことはあり、人ごみにまぎれたこともあるのか、心配した程には人に注目されることはなかった様だ。


 東京の人は電車の中で常にスマホと呼ばれる携帯電話を凝視していて、全く周りを見ていない様だった。


『思ったよりも視線を感じないものだね』

『ほとんどの人が、ずっとスマホを見ていますね』

『瑞希、あれは電話なんだよね?何を見ているんだい?』


『あれでゲームをしたり、動画や写真、それにネット上の情報を見られる様ですね』

『え?電話機でゲームができるのですか?どういうことかしら?』

『ふーん。たった二十年で変わるものだね・・・』


『あれなら有名人が居ても気が付かないのではありませんか?』

『でも、丁度良かったね。これならばスカイツリーに遊びに行っても大丈夫なんじゃないかな?』

『それなら良かったです』


 僕たちは事前に打ち合わせし、誰も一言も言葉を発しないのは不自然なのではないか。とのことで、瑞希と陽菜には英語で会話してもらった。

これで見た目は海外旅行に来た外人かモデルの一行といった風に見えていたことだろう。


 ただひとつ、問題という程のことではないのだが電車の出入り口が低い。いや、自分の背が高いのだ。乗り降りする度に頭をぶつけない様、暖簾のれんをくぐる様に首をかしげないといけないのが面倒に感じた。


 それは妻たちも同じだ。互いに念話で声を掛け合って、忘れて頭をぶつけない様に注意した。そうこうしているうちに詩織の実家の最寄り駅に到着した。


『詩織、駅からは遠いのかい?』

『いいえ、五分も歩けば着きますよ』

 そして五分程歩いた先で詩織は立ち止まり、きょろきょろと周りを見渡している。


『詩織、ここなのかい?』

『えぇ、多分、そうなのですが家が変わっていますね』

『建て替えたということかな?』

『えぇ、建て替わっていて表札の名前も違うのです。私の苗字は如月きさらぎですが、この表札は加賀見かがみになっています』

『聞いてもわからないかな?』


『あ!お隣の家が当時と同じですね。その家の子は私の二歳上の男の子だったのです』

『それなら私が日本語で聞いてみれば良いのではありませんか?』

『あぁ、そうか。花音の顔なら日本語で話しても違和感はないよね』

『えぇ、如月さんはどうしたのか?って聞けば良いのよね?』

『花音、ありがとう。お願いできるかしら』

『任せておいて』


 花音はお隣の家の呼び鈴を押した。

「ピンポーン!」

「はーい」

「あのすみません、お隣のことで少しお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「は?はい。ちょっと待ってくださいね」


 少しして五十代の男性が出て来た。

「はい。何でしょうか?」

『あ!この人は恐らく、さっき話していた二歳年上のお兄さんです。面影があります』


「あのすみません。私、如月さんにお世話になった者なのです。近所に用事があって寄ってみたのですが、家が変わってしまっている様で・・・」

「あぁ、如月さんのお知り合いでしたか。如月さんご夫婦は共に亡くなられましてね、娘さんも随分前に事故で亡くなっていて、お家は売りに出されたのですよ。今では他人のお住まいになっていますね」


「そうですか、お父さんとお母さんはいつ頃亡くなったのかご存じですか?」

「あぁ、確かお父さんは八年程前で、お母さんは四年前でしたね。この家は二年前に建ったのですよ」

「そうですか。ありがとうございました」

「いいえ」

 その男性は何故か、詩織の顔を不思議そうに見つめていた。


『やはり亡くなっていたのですね』

『残念だったね。それではお墓参りに行こうか?』

『え?よろしいのですか?』

『勿論だよ。お寺は遠いのかな?』

『いえ、お寺はここからすぐ近くなのです』


 お寺に向かう途中、花屋を見つけてお供えする花を買った。

十分程歩いてお寺に到着した。如月家の墓に花を供え、皆で祈った。


『お父さん、お母さん。私は日本では不幸な事故で若くして命を失ってしまったけど、新たな世界では、とても幸せに暮らしているの。それも全て月夜見さまのお陰なのよ。だから心配はせず、安らかに眠ってね』


「月夜見さま。皆さん、私のためにお付き合いくださって、ありがとうございました」

「良いんだよ。詩織」

「ご両親にご挨拶できて良かったわね」

「はい。琴葉。ありがとうございます」


「さて、ではまだ時間も早いからスカイツリーへ行ってみようか」

「はい!」


 事前に瑞希が調べてくれていたので地図アプリの案内に従って電車を乗り継ぎ、スカイツリーに到着した。


『うわぁー高いです!』

『とは言っても御柱に比べたら大したことはないね』

『でも展望台は行きますよね?』

『そうだね、お上りさんみたいだけど、僕や舞依は実際のところお上りさんだものね』

『一度は東京の景色を眺めておいて損はないと思いますよ』


 展望デッキに昇り、周囲の景色を見渡すと、やはりすぐに目に付いたのは月の都だった。他の客たちも月の都ばかり見ている。かなり距離はあるのだが、東京湾にあんなものがぽっかりと浮かんでいると相当に目立つのだ。


『ここからでも月の都は凄く目立っているね』

『先程から皆、その話題しか話していませんね』

『丁度良いから日本人の生の声を聞いておきましょうか?』

『あぁ、そうか。それも良いね』


 景色を眺めながら周りのカップルや親子連れの会話をこっそりと聞いてみる。


「あれが月の都か!天照さまがいらっしゃるのだろう?」

「素敵ね。空に浮かぶお城なんて!」

「昨日の演説を聞いたかい?」

「それは勿論!頭の中に直接話し掛けられるのですもの」


「ちょっと衝撃的だったよね」

「そうね。地球の生物は滅亡するのでしょう?」

「それはこのままであれば。ということだろう?」

「そうなの?まだ私たちは助かるの?」


「一番は環境問題なのだから、これから変わっていけば滅亡は防げるのではないかな?」

「それは誰がやってくれるの?」

「当然、政府なんじゃないかな?」

 やっぱり他人事ひとごとの様に捉えている者も居るのだな。


 こちらは親子かな。子供はまだ小学生か。

「お父さん、あそこに神さまが居るの?」

「そうだよ。もうアメリカから戻って来ているのだね」

「神さまは何をしてくれるの?」

「神さまは何もしてくれないんだ。我々地球人が自分たちで地球をきれいにしていかないといけないんだよ」


「どうすれば地球はきれいになるの?」

「そうだな。まずは化石燃料を使わない様にすることだね」

「化石燃料?それ何?」

「自動車や飛行機、船のエンジンを動かす、ガソリンとか航空燃料、重油などだね」


「使わなければきれいになるの?」

「うーん。まぁ、燃料だけでなくプラスチックとかもだな」

「そうか。僕も大きくなったら、プラスチックを無くす様に頑張るよ!」

「そうだな。達也。頑張るんだぞ!」

「うん!」

 ふふっ、子供は純粋で良いな・・・


 あれは女子高校生のグループかな?

「ねぇねぇ、あそこに浮かんでるのってなーに?」

「え?愛菜まな知らないの?天照さまのお家だよ」

「アマテラス?それ、何?」


「昨日の夜だって声が聞こえていたでしょ?」

「え?あれ、妨害電波とかってやつじゃないの?あたしのイヤフォンに紛れて入って来る雑音かと思ったし!」


「マジか!今、ニュースで繰り返しやってるじゃん!」

「そんなこと知んないし!」

「こりゃ、ダメだ。愛菜は真っ先に滅亡候補だわ」

「めつぼう?って何?新しいお菓子?美味しいの?」


『あぁ・・・大丈夫だろうか・・・日本!』

『月夜見さま。昨日の話を聞いても深刻になることなく、この様な場所で遊んでいられる人は所詮こんなものでしょう。参考にはなりませんよ』


『まぁね。こういう人たちも一定程度は居るだろうね』

『折角ですからこんなことしていないで水族館にでも行きましょう』

『そうだね。今日は楽しまないとね』


 僕らは展望デッキから地上に降りると、その足元にある水族館に入った。

『もしかしたら僕、水族館は初めてかも知れない』

『そうね、まぁくんは行ったことはないかも知れませんね』

『水族館って凄いんだね。大きい水槽が並んでいるだけだと思っていたよ』

『ここはかなり新しく洗練された水族館ですよ』


『なんてきれいなんでしょう!』

『地球にはこんなに多くの種類の魚が居るんだね』

『神星にも私たちが知らないだけで同じ様に沢山の種類の魚が居るのかも知れませんね』

『あぁ、幸ちゃんそうだね。海の中を見たことはないからね』


『それにしてもここって、何かとてもロマンチックな感じじゃない?』

『調べたところ、ここは若者に人気のあるデートスポットらしいですよ』

『瑞希はここでデートしたとか?』

『いいえ、私が生きている時にここはまだ、出来ていませんでしたから。大体、出来ていたとしても、前世の私にそんなお相手ができる訳がありません』

『そうなの?』


『私は女性らしさゼロでしたから・・・デートどころか、男性を異性と意識して話す機会すらありませんでしたね』

『それは残念なことね』

『でも今は、こんなに素敵な旦那さまが居るのですからね。良いのです!』

『そうね。私たちは皆、同じね』


『きれい!クラゲね!こんなに沢山!』

『あぁ、イベリスの湖の光るクラゲを思い出すね』

『それならば私も大好きでした。お城からも見えたのですよ』


『えぇーっ、そんなところがあるのですか!行ってみたいです!』

『そうだね。陽菜にも見せてあげたいな』

『でも、あそこには悪い思い出もありますからね・・・』

『あ!そうだった。もう忘れかけていたよ』


『あぁ、月夜見さまが子種を取られそうになったお話ですね。私の国でそんなことになり、申し訳ございません』

『幸ちゃんのせいではないよ!気にしないで』

『でも、宿から見る眺めは本当にきれいだったから、もう一度、皆で行くのは良いと思うよ』

『本当に行くのですか?』


『桜にとっては腹立たしい思い出になってしまったのだね』

『いえ、景色は素晴らしかったのですよ・・・』

『そうだな。例えばもう一度あの酒場に行って、あの娘たちがどうなっているかを見てさ、まだ独身だったら、アルカディアへ連れて行くのも良いよね』


『あぁ、アルカディアは外からの血が欲しいし、男性も余っているのですものね』

『それならば・・・どこだったかしら。食堂で子種を売って欲しいと言ってきた二人組も居ましたよね』

『あぁ、花音。そうだね。あれは確か・・・リナリア王国の酒場だったね。確か彼女たちはあの時、十五歳と言っていたから、今は二十三歳か。まだ間に合うかも知れないね』


『でもあの娘たちは仕事もありましたし、まだ幸せな方ですよ。アルカディアに連れて行くならやはり、奴隷とか恵まれない子の方が良いのではありませんか?』

『桜。ごもっともだね。神星に戻ったら、まずは奴隷商が残っている国を回って、女の子はアルカディアに、男性はとりあえず月の都に引き取っていこうかな』

『はい。それが良いと思います』


 その後、お洒落なカフェに入って軽くランチを頂いてから電車に乗って浅草観光に行った。

『うわぁー!賑やかですね!』

『浅草に来たことがある人は居るかな?』

『私は一度、友達と来ていますね』

『私も看護師仲間と来たことがあります』

『そうか、陽菜と紗良だけなんだね。どこか良いところがあったら案内してくれるかい?』


『はい。まずは雷門かみなりもん浅草寺せんそうじですよね。仲見世なかみせ素見ひやかして、下町情緒を味わう感じでしょうか』

『そうだね。では陽菜のガイドで見て回ろうか』


 僕たちは雷門の前で記念写真を撮り、仲見世を歩いた。途中、人形焼や芋ようかんを買った。浅草寺では特にお参りはしなかった。元々、神や仏を信じる人でもないしね。


 浅草寺を抜け商店街を歩いていると、デパートの前を通り掛かった。一階には女性の下着専門店があった。

『皆、最新の下着を見てきたらどうかな?気に入ったものがあれば買って帰れば良いよ』

『でも、月夜見さまが退屈になってしまいますよね』

 その時、その先に喫茶店があるのを見つけた。


『それなら、僕は翼を連れてあそこにある喫茶店で休憩しているから、ゆっくり見て来ると良いよ』

『よろしいのですか?』

『是非、そうして欲しいな』


『ありがとうございます!月夜見さま。大急ぎで行って来ます!』

『慌てなくて良いよ。久々にゆっくりと買い物を楽しんでよ。ついでにデパートなんだから洋服も見て来ると良いよ』

『はい!ありがとうございます!』


 妻たちには買い物でもしてリフレッシュしてもらいたいな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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