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7.原発の後始末

 瑞希の家族を月の都見学ツアーへ招待した。


「シュンッ!」


「うわぁーっ!凄い!ここはお城の舞踏会をするところなの?」

「ホントだ!お城だわ!」

「そうだね。ここで舞踏会ができるよ。君たちもダンスを習うかい?」

「え?教えてもらえるのですか?」


「いいですよ。でも、あともう少しだけ。背が伸びたら・・・かな?」

「私、頑張って牛乳沢山飲む!」

「あぁ、牛乳の飲み過ぎは良くないと思いますよ。それよりも適度な運動の方が大切です」

「はい!神さま!」


「さぁ、ではご両親のお部屋から見て回りましょう」

 両親の寝室には衣裳部屋と書斎もあり、衣裳部屋には全ての衣装が揃えられていた。

「まぁ!これってドレスなのでは?これを私が着るの?もう六十三歳のお婆ちゃんなのに」

「先程の大広間でダンスでも如何ですか?」


「お母さん、私が教えてあげるからお父さんと踊ると良いわ」

「それは楽しみだね」

「あなた。ダンスなんて何十年ぶりなのでしょうね?」

「まだ、先は長いのですからね。楽しみは多い方が良いでしょう?」


「お姉ちゃん。私たちにも教えてね」

「えぇ、いいわよ」


 皆で大きい方のサロンに入った。

「妻たちと瑞希の家族が一堂に集まってお茶を頂いた」

「あれ?初めて見る女神さまが居るよ!」

「ホントだ。家には来なかったね」


「あぁ、あれは人間ではないんだ」

「人間じゃない?」

「あれはね。アンドロイド。ロボットだよ」

「え?ロボット?どう見ても人間の様ですが・・・」


「初めまして。私はエリーです。瑞希さま。ご家族をご紹介頂けますでしょうか?」

「そうね。エリー。こちらから私の父の九条友治くじょうともはる六十五歳、母の九条直美くじょうなおみ六十三歳、妹の結城早苗ゆうきさなえ三十六歳、早苗の夫の結城繁ゆうきしげるさん、早苗、お歳は?」

「あ、繁さんは三十八歳です」

「それに早苗の娘の菜乃葉十歳と七海九歳よ」

「登録致しました。皆さま、よろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」

「本当に人間じゃないの?それでこの人は何をするの?」

「私は、家事全般、育児補助、料理、家屋や庭園の保全、情報提供を担当します」

「まぁ!料理はこのロボットが?」

「お母さん、そうなの。私って料理なんてしたことないでしょう?」

「そうだったわね・・・」


「お姉ちゃん。つまり、全てエリーさんがやってくれる。ってことなのね」

「ま、まぁ・・・平たく言うと、そうなる・・・かも知れないわね・・・」

「私も老後は絶対、ここに住むわ!」

「これ!早苗!都合の良いことを言っていてはダメだぞ!」

「はーい。お父さん」


「瑞希。そう言えば、翼やこれから生まれて来る子たちの学校はどうするんだい?」

「お父さん、それは既に翼が生まれた時にお母さんに連絡して、早苗の子として出生届を出してあるのです。だから地球では結城 翼として戸籍に記録され生きて行くことになりますね」


「そうか。では結城家に子供たちの部屋が必要になるね」

「あぁ、そうか。学校に通うのに部屋は必要でしたね。でもうちには、そんなに部屋はないわ」

「子供たちが、ずっと結城さんのお宅で暮らす訳ではないのです。でも部屋は用意したいですね・・・引っ越しして頂くのはどうでしょうか?」


「そうですね。今の近所で大きな物件に引っ越せば良いと思うわ」

「費用はこちらで出しますので。できれば一軒家が良いでしょう」

「え?憧れのマイホーム?お姉ちゃん。良いの!?」

「月夜見さま。一軒家ですか?東京なのですよ?」

「三億円くらいで買えるかな?」


「え?さ、さ、三億!ご、豪邸が建てられてしまいます!」

「あぁ、そうだね。注文住宅が良いね。色々と設備が必要になるかも知れませんから」


 その時、エリーが一歩前に出た。

「月夜見さま。天照さまより伝言が御座います」

「うん?何かな?」

「結城邸につきましては、天照さまがお建てになるそうです。土地だけ選んでくれとのことで御座います」

「あぁ。翼や娘が住んで、瑞希やエリーもお邪魔するだろうから、向こうの世界の基準で建てたいのだね。ではお任せしましょう」


「結城さん、大変申し訳ないが、今住んでいる地域で土地を探してもらえますか?」

「月夜見さま。土地の広さは最低でも三百坪は欲しいとのことです」

「え?三百坪?東京で?エリー、天照さまがそう言っているのだね?」

「はい。左様です」


「結城さん、近所にそんなに広い土地があると思いますか?」

「そうですね。住宅用では難しいでしょうけど、商業施設などの土地などでしたら、あるかも知れません。まぁ、東京とは言っても中心部ではありませんから。まずは不動産屋に当たってみます」


「さ、三百坪の豪邸・・・に私たちが住むのですか?」

「まぁ、神の一家ですから、安全を考えると仕方がないこととなりましょうか」

「あ!い、いえ、嬉しいことではあるのです。はい!ちょっと驚いてしまって」

「早苗。迷惑を掛けてすまないわね」

「いいえ。迷惑だなんて、そんなこと・・・」

 妹の早苗さんは顔が紅潮し、明らかに興奮していた。


 翼やこれから生まれる娘が一生、月の都から出られないことは避けなければならない。妹さん夫婦の協力は不可欠なのだ。


 皆で月の都の庭園に出て散歩した。


 まずは山の頂上に行って全景を見ることにした。

「シュンッ!」

「凄い!いつの間にか山の上に立っているわ!」

「良い眺め!」


「テレビで観ていたけど、外からは月の都の中はほとんど見えなかったの。でも、中からは外が良く見えるのですね」

「あ!東京タワーやスカイツリーも見えるぞ!」

「あぁ、あの高い塔はスカイツリーと言うのですか?」


「えぇ、そうです。あの下には水族館もあるのですよ。デートスポットですね」

「へぇ、そんなものが・・・」

「相変わらず、沢山のヘリコプターが飛び回っているのですね」

「富士山も見えますね」


「この月の都は目に見えないシールドで覆われているのです。外からは中を見られないし、どこからも入って来ることはできないのです」

「どこからも?私たちは入りましたよ?」

「えぇ、瞬間移動でないと出入りできないのです」

「ヘリコプターで飛んで来ても入れないのですか?」


「ここに航空機が千メートル以内に近付くと、一万キロメートルの彼方に転移させられてしまうのです。また、軍隊がミサイルなどの火器で攻撃した場合、その発射した場所へ転移させて破壊するのです。ですからその様な行為をしない様に初めに忠告してあるのですよ」

「凄い!要塞の様だな」


「それだけ安全ということですね」

「えぇ、瑞希や翼を守るためです」

「さぁ、庭園に降りましょう」


「シュンッ!」


「うわぁ、きれいなお庭!あちらは畑になっているのね」

「まぁ!花がこんなに沢山咲いているのね!」

「お母さん。土いじりが好きでしょう?天照さまが用意してくださったのよ」

「え?私のために?何だか申し訳ないわね。とても素晴らしい畑と庭園だわ!でも、広過ぎてお水をやるだけで大変そうね」

「それはスプリンクラーで自動散水しますので問題御座いません」

 エリーが優しい微笑みを浮かべながら説明してくれた。


「ここに好きなものを植えても良いのかしら?」

「それでしたら、一度こちらの装置の中に入れて殺菌してからであれば、お好きな植物を植えて頂けます」


 その装置の見た目は異世界の洗濯機の様だった。箱状になっていて箱の上部半分が上に開く様になっていた。


「エリー、その装置は何だい?」

「洗濯機の様なものです。害虫や菌を殺す装置です」

「確かに洗濯機と見分けがつかない形だね。でもやはり、そういうものがあるのだね」

「左様です。瑞希さま。持込む植物は外から直接この中へ転送してください」

「あぁ、そうね。それでなければ意味がないわね。分かったわ」


「池もあるのね」

「はい。川と池には、ます山女魚やまめ岩魚いわななどが生息しておりますので、釣りを楽しむことも可能です。釣り道具もご用意しております」

「ほう。魚釣りもできるのか。それは楽しみだな」

「お父さん、お母さん、良かったわね」

「これは至れり尽くせりだな」


「そう言えば、早苗さん。男の子は作らなかったのですか?」

「月夜見さま。欲しかったのですけど、できなかったのです。三人目は学費のことなど考えると躊躇ちゅうちょしてしまって・・・」


「早苗、それなら今からでも作ったらどう?月夜見さまは前世では婦人科のお医者さまだったの。生み分けにもお詳しいのよ。それに私もあなたの子宮や卵管を透視して見ることができるから、確実に妊娠できるわよ」

「ほ、本当なの!お姉ちゃん!」


「瑞希、妊娠は確実かも知れないけれど、男の子の生み分けは百パーセントではないからね」

「あ!そうでした。確率が上がる。でしたね」


「もし、本当に作りたいのでしたら、私たちの子がお世話になるのですから、菜乃葉、七海と一緒に学費の援助はさせて頂きますよ」

「え!本当ですか!繁さん、どうする?」


「え?そ、そりゃぁ、男の子は欲しいけれど・・・そんなに甘えてしまって良いのだろうか?」

「良いのですよ。三億の家と比べたら学費の数千万円位、どうと言うことはないでしょう」

「す、数千万・・・ま、まぁ、確かに最高の学校ならばそれくらいは掛かるのでしょうか?」


「では瑞希、分かっているよね?」

「はい。早苗、これから基礎体温表を付けて、排卵が近付いたら毎日私が確認するから」

「それって排卵を目で見て確認して狙い撃ちする。ってことかしら?」

「そうよ。でも早苗。菜乃葉と七海が聞いているから詳しくは後でね」

「え?あ!は、はい。そうでした・・・よろしくお願いします」

 早苗さんが真っ赤な顔になった。


「ねぇ、お母さん!私たちに弟ができるの?」

「え?そうね・・・菜乃葉はどう思う?」

「欲しいわ!弟!」

「でも、翼も弟になるのよ?」


「二人も弟ができるの?嬉しいわ!」

「私も弟が欲しい!でも、妹も欲しいな」

「翼の妹ができるから妹もできるよ」

「神さま!本当ですか!やったー!」

 七海がジャンプして全身で喜びを表現している。可愛いな。


「それなら早苗は男の子を、私は女の子を作ることは決まりね。それでお父さん、お母さん、どうかしら?引っ越して来るのに何か準備するものはあるかしら?」

「衣装も何もかもあるものね。思い付かないわ」

「そうね。必要なものがあればいつでも取りに戻れるし、買い足すこともできるのだから、まずは住んでみたら良いのではないかしら」


「そうだな。では、皆さんが向こうの世界に戻ってからということで良いのではないかな」

「それが良いかしらね」

「では、それで決まりですね。では、結城さん。土地探しの方は急ぎませんので、お休みの時などにお探し頂ければと思います」

「かしこまりました」


「では、今日はこれで帰りましょうか」

「月夜見さま。何から何まで、ありがとうございます」

「とんでもない。こちらこそ、これからお世話になります。よろしくお願いいたします」


「瑞希。今日は実家に泊まるのだろう?」

「はい。そうします」

「では、皆さんをお送りしてね」

「はい。では失礼します」

「シュンッ!」


「月夜見さま。瑞希の家族は皆さん、良い人たちでしたね」

「そうだね。安心したよ」

「これから瑞希は女の子を作り、早苗さんは男の子を作るのですよね?それならその二人が結婚するなんてこともあり得るのですね」

「え?あ!そうか。瑞希と早苗さんは前世での家族だから、今では肉体的な血の繋がりはないのだものね」


「でも日本の戸籍上では兄弟になってしまいますよね」

「あぁ、花音。そうだよね・・・」

「でも、もし結婚するとなれば、どちらかが一度籍を抜けば良いだけでしょう」

「幸ちゃん。そうなのかい?」

「えぇ、大丈夫なはずです」


「まだ、生まれないどころか、妊娠もしていないうちから娘の嫁入り先の心配ですか?」

「琴葉。そうは言うけれど、地球で神の能力を持った子の生活や結婚を考えたら心配せずにはいられないでしょう?」

「それは勿論、そうですね。私たちの子供たちでさえ、あの人数の結婚相手を考えると心配になりますものね」

「そうだよ!」

 妻たちが何やら意味深な笑みを浮かべている。なんだかなぁ・・・


「まぁ、まだ十年以上先の話だものね。それよりも明日の原発消去だね」

「まずは福島へ行くのですね」

「そうだよ。午前十時に福島へ瞬間移動しよう」

「瑞希に十時までに戻って来るように伝えておきます」

「花音。頼むね」




 翌朝、朝食を食べていると瑞希が翼を抱いて戻って来た。

「今日は原発を処分しに行くのですね」

「うん。そうだよ。十時に瞬間移動するからね」

「私たちに何かすることは御座いますか?」

「いや、何もないかな?皆はサロンでテレビを観ていてよ」

「はい。分かりました」


 十時丁度に日本地図を見ながら福島の原発が目の前に見える海の上に瞬間移動した。


「シュンッ!」


 やはり、ここにもヘリコプターが沢山飛んでいた。だが、分かっている様で発電所の真上や千メートル以内には入らない様に遠巻きに周回して飛んでいた。


 僕は月の都の山頂へ移動し、原発の全景と汚染された土壌の範囲を示すマーカーが全て見渡せる高さに月の都の位置を調整した。


「そう言えば、太陽の軌道まで飛ばすとのことだったけど。太陽の軌道ってどの辺なんだろうか?」

 そうひとり言をつぶやくと、頭に天照さまの声が響いた。


『そう考えるだろうと思っていましたよ。軌道とは考えずに一度太陽を見て、そこまで飛ばすイメージを持つのです』

 そう言われて空を見上げると・・・ん?曇っていて太陽が見えない・・・


『天照さま。曇っていて太陽の位置が分かりません』

『月夜見は雲くらい吹き飛ばせるでしょう』

『あ!そうでしたね。分かりました。ありがとうございます!』


 では、と。まずは雲を散らして晴天にした。

「さてと。では太陽はあそこにあるから、まずは原発の周辺のマーカーに沿って地下百メートル程の土壌ごと持ち上げるか」


 意識を原発に集中して、土壌深くから持ち上げるイメージを思い浮かべる。


「ゴゴゴゴゴーッ!」


 大きな地響きが起こり、周辺には小さな地震が発生した。そしてマーカーに沿って地割れが起こり、ゆっくりと原発とその周囲の大地が空中に浮かび始めた。


 福島の原発は海岸沿いに建っている。地下百メートルの深さで穴が開いたために、その穴へ勢いよく海水が流れ込んでいく。


「ドザザザザーッ!」


 次の瞬間、原発は消えて無くなった。


「シュンッ!」


 跡地には大きな半円上の湾が出来上がった。


「シュンッ!」

 僕はサロンに瞬間移動した。


「月夜見さま。お帰りなさい。テレビで観ていました。一度持ち上げてから飛ばすのですね」

「そうだね。その方がイメージし易かったんだよ」

「でもとても分かり易くて良かったと思います。実況中継のアナウンサーが絶叫していて面白かったです」


「それは良かった。では次はウクライナだな」

「ウクライナとの時差は六時間程あると思います。向こうはまだ朝の四時ですよ」

「流石、陽菜。世界を飛び回った客室乗務員だけあるね」


「そうだな。まずは黒海のオデーサオデッサ前に月の都を飛ばして、日の出と共に船でチョルノービリチェルノブイリへ向かおうかな」


「シュンッ!」


 まずは一つ目。福島の原発は無事処分できた。次はウクライナだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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