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6.妻たちの実家訪問3

 花音の実家から戻ると妻たちと相談した。


 いつもの様にエリーが珈琲を用意してくれた。


「皆、舞依と桜、それに今日は花音の実家に行った訳だけど、やはり地球の家族と触れ合ってしまうと気持ちが揺らいでしまうね」

「そうでしょうね。月夜見さまのことですから。そうなると思っていましたよ」

「それで、何か行動を起こされるのですか?」


「いや、それはしないかな。だってこの前にも話した通り、人間たちがすぐに結束して行動を起こすとは考えにくいいからね」

「それならば、私の方で細かい変化も見逃さずに見守る様に致します。逐一、ご報告差し上げますので」

「瑞希。ありがとう」


「いいえ。私には月夜見さまへの御恩をお返しする術がそれくらいしか御座いませんので・・・」

「瑞希、僕たちは夫婦なのだからね。恩返しなんて考えなくて良いんだよ」

「あ。そ、それは・・・そうでしたね」


「そうよ。瑞希。それに言葉使いが硬過ぎるわね」

「え?あ。はい。桜さま。気をつけます」

「だ、か、ら。さまは要らないわ」

「あ!すみません!」

「ふふふっ」


「ところで紗良と陽菜、それに詩織は本当に実家に行かなくても良いの?」

「えぇ、この前お母さんの意識に入ってみたのですが、周囲を見てみたらどうやら施設に入っている様なのです。母のベッドのかたわらには父の写真がありましたから、恐らく父は他界していると思います。この姿で施設へ面会には行けませんので」


「そうか。でも紗良はご兄弟が多かったよね?確か五人兄弟だったね」

「はい。兄弟とはあまり思い出もないですし、今更会っても何を話せば良いのか分かりません。それに子供が多かったりしたら、私たちの秘密を守れないと思うのです」

「あぁ、それはあり得るね。桜や花音の甥や姪はもう十分に大人だったから問題はなさそうだったのだけどね」


「それでは会いに行かなくて良いのだね?」

「はい。構いません」

「そう。でも気が変わったら相談するんだよ」

「はい。ありがとうございます」


「陽菜はどうかな?」

「私も母の視界に入ってみたのです。父も健在でしたが、八十三歳です。そして二人とも全く会話がかみ合っていなくて、同じことを勝手に繰り返し話していました。恐らく痴呆症ちほうしょうなのだと思います」


「あれでは私の転生の話をしても理解できませんし、昔の陽菜は覚えていたとしても、今の私を見ても誰だか解らないと思います。混乱させるだけならば、このままそっとしておいた方が良いと思うのです」

「そうか、陽菜はひとりっ子だったね。確かに痴呆症は昔のことは結構覚えていても最近のことは覚えられなかったり、新しいことを理解できなくなったりするものね」

「はい。仕方がないと思います」


「詩織は?」

「私は何度か両親の意識に入ろうとしたのですが入れないのです。恐らく二人とも他界しているのだと思います。私には兄弟も居ませんし・・・」

「あれ?ご両親のお歳は?」

「生きていれば、父は九十二歳。母は八十九歳なので」

「あぁ、そうか」


「それならば時間があったら実家のあった場所へ行って確かめてみようか」

「はい。よろしいのでしたら」

「勿論、良いに決まっているよ。確認しないとね。紗良と陽菜は実家には行かないのだね」

「はい」


「では、明日は瑞希の実家へ行こうか。ここへ移り住む話もしないといけないね」

「はい。ありがとうございます」

「瑞希、ここに移り住むのはご両親だけなのだよね?」

「えぇ、妹夫婦には娘が二人居ます。まだ小学生ですから、ここから毎日瞬間移動で学校へ通わせる訳にはいきませんので」

「そうだね」


「ご両親はおいくつなのだっけ?」

「はい。父が六十五歳、母が六十三歳です」

「まだ、お若いね。あれ?お父さん、六十五歳で仕事は?」

「ついこの前、引退したそうです」

「あぁ、それならば孫の面倒を見るのには丁度良いかな?」

「実家はどうされるのだろう?」


「それは残します。両親や私が出掛ける時は、月の都から実家へ瞬間移動しますので」

「あぁ、なるほど。その辺の路上に急に現れたら騒ぎになるものね。実家は必要だね。実家の維持費とかが必要なら言ってね」

「はい。ありがとうございます。でも貯えや年金もありますから大丈夫です」

「そう。では明日。花音が帰って来たら皆で行こう」

「はい。よろしくお願いいたします」




 翌日、朝食後に花音が帰って来た。焼肉のタレやキムチを沢山抱えて。

「さて、では瑞希。皆を君の実家へ飛ばしてくれるかな?」

「はい。では、行きますね!」

「シュンッ!」


「うわーっ!きゃーっ!」

 瑞希のお父さんと姪っ子が同時に叫んだ。


 そこは東京の下町にある一軒家だった。築年数は古い様だが、リフォームしたのか古さを感じさせない。家具類は北欧の家具で統一している様でセンスが良い。これならば月の都の部屋でも趣味は合うことだろう。


「お父さん、お母さん、早苗。お久しぶりです。瑞希です」

「瑞希なの?なんて綺麗なのでしょう!」

「瑞希?瑞希なのか?本当に神になったのか!」

「えぇ、そうです。十七年ぶりですね。皆、元気にしていましたか?」


「瑞希お姉ちゃん。私たちは元気よ。私、結婚したの。こちらが主人の結城繁ゆうきしげるさん、娘の菜乃葉なのは、十歳と七海ななみ、九歳よ」

「初めまして。結城 繁と申します」

「早苗の姉の瑞希です。初めまして。菜乃葉、七海もよろしくね」


「初めまして。菜乃葉です。小学五年生です」

「初めまして。七海です。小学四年生です」


 続いて瑞希が僕らを紹介してくれた。

流石に全員座れる場所は無いので僕と瑞希以外の妻は月の都へと帰った。


「他の妻たちはこれで失礼しますね」

「シュンッ!」


「わーっ!女神さまたち消えちゃった!凄い!七海、今の見てた?」

「うん!シュンッ!って消えちゃった!」

 子供たちは身振り手振りも交えて大興奮だ。可愛い!他の大人も目を白黒させている。


「瑞希、前よりもうんと女性らしくなったのね!」

「えぇ、お母さん。月夜見さまのお陰よ」

「まぁ!そうなのね。とても幸せそうだわ。本当に良かった!さぁ、翼を抱かせて!」

「えぇ」


 瑞希のお母さんは嬉しそうに翼を抱くと瞳を輝かせた。

「まぁ!なんて美しい子なのでしょうね!真っ白で綺麗な肌。それに大きな青い瞳!髪の色も素敵ね!」

「お気に召した様で良かったわ」

「どちらに似たのかしら・・・やっぱり、月夜見さまよね?」

「そうね。そうだと良いわ」


「きゃー私にも抱かせて!まぁ!なんて可愛いの!やっぱり男の子は可愛いわ!しかも王子さまみたいじゃない!菜乃葉、七海。見てごらんなさい!」


「ホントだ!王子さまだ!」

「うん。王子さまだね。可愛いけどカッコいい!」

「良かった。翼は人気者になれるね」


「ところで瑞希。お前はどうして首相官邸に降りる時に他の女神さまと一緒に居なかったんだ?」

「お父さん。今後は私だけ地球に残って翼とあの月の都で生活するのよ。たまには街にも出たいから、地球の人に顔を知られないために同行しなかったのよ」


「あぁ、そういう話だったね。月夜見さまとは離れて暮らすのだね」

「お義父さま、お義母さま、私は向こうの世界でお役目がありましてね。長くその星を離れる訳には行かないのです。でも十日に二日はこちらに来ますよ」

「あぁ、そうなのですね」


「それに、これからお父さんとお母さんも一緒に暮らしてくれるのですから」

「それなのだが、本当に私たちがあの月の都に住んでも良いのですか?」

「お義父さま。こちらからお願いしているのです。十日の内八日は瑞希と翼だけになってしまいますので。それにこれから先、女の子も作る予定なのです」


「まぁ!女の子も!さぞかし可愛いのでしょうね!楽しみね!」

「えぇ、お母さん。面倒を掛けるけどお願いします」

「でも、あの空に浮いている月の都までどうやって行くの?」


「そりゃぁ、あの白い飛行機だろう?」

「いいえ、それだとこの家が特定されてしまって報道陣が押し寄せてしまいます。お父さんとお母さんはこの家から私の念動力の能力を使って転移させます」


「え?一瞬であそこまで飛んで行くと言うの?怖いわ!」

「お母さん、本当に一瞬で何も感じないのよ。あぁ、それならば、今、練習としてお母さんの寝室に瞬間移動させてみるわね」

「え?」

 お父さんとお母さんが顔を見合わせた瞬間、転移させた。

「シュンッ!」


 二階の部屋でふたりが何かをわめいている。それを聞いて瑞希が再びふたりを引き寄せる。

「シュンッ!」

「うわぁ!」


「戻って来たのね!」

「うわっ!お爺ちゃんとお婆ちゃんが消えたと思ったらまた出てきた!」


「これが瞬間移動か!確かに何も感じないのだね」

「ね。怖くなかったでしょう?」

「怖いと感じる暇も無かったわ。でも驚いたわよ!」


「こんな風にあの月の都へ移動できるのだね?」

「それなら毎日の買い物もいつものスーパーに行けるのね?」

「食材ならば用意されているから毎日買い物に行く必要はないわ。でも食材以外で必要なものがあれば、いつでも買い物に出ることはできますよ」


「そうなの。凄いのね。それで料理は瑞希が作るの?」

「あ、あぁ・・・それは、向こうへ行ってから説明するわね」

「そうなの?」


「お姉ちゃん、私たちもあの月の都へ遊びに行っても良いのかしら?」

「えぇ、構いませんよ」

「ホント!ヤッター!」

「ヤッター!わーい!楽しみ!」

 菜乃葉と七海が大はしゃぎだ。それはそうだろうな。


「でもひとつだけ条件があります。特に菜乃葉、七海。私が神の一家の者であることや、月の都へ行ったことを誰にも話さないと約束できるかしら?親友でも話してはいけないのよ」

「はい。約束します!」

「私も!誰にも話しません!」

 二人とも真剣な表情になった。


「お姉ちゃん。その話は私たちからも散々、言い聞かせているわ。十分に注意します」

「そうね。もしも他人に知られたら、あなた達家族は月の都から一生出られなくなってしまいますからね」

「え!一生出られなくなるの!」


「そうよ。テレビカメラに毎日追いかけられて普通の暮らしはできなくなるの。学校にも行けないし、友達にも会えなくなるわ」

「そんなの嫌です。絶対に話しません!」

「私も。絶対、絶対。話しません!約束します!」


 二人とも両手を組んでおでこに擦り付けながら必死にお願いする様に宣言した。ちょっと、脅しがキツイ様だがこればかりは仕方がない。


「そう。それならば良いのですよ。では月の都へ行くのを楽しみにしておいてね」

「はい!」

「やったー!」


 それから皆で昼食を頂くこととなった。お寿司を出前で取ってくれた。

日本のお寿司。それも特上の様だ。桁違いに美味しい。


「瑞希、このお寿司。美味しいね。本物のお寿司を頂くのは何年ぶりだろうか」

「向こうの世界にお寿司は無いのですか?」

「お義母さま、最近になって日本からお寿司の本を取り寄せましたので、調理人が勉強して作ってくれているのです。十分に美味しいのですが、こうして本物のお寿司を食べてみると、やはりまだまだの様です」


「月夜見さま。今度、このお寿司を念動力で引き寄せて調理人に食べてもらえば良いと思います」

「それは良いアイデアだね。酢飯の微妙な味付けとか、シャリの握り具合とか参考にしてもらえるかな」


「是非、向こうでも美味しいお寿司を召し上がって頂きたいです。それまでは、こちらに来た時にお召し上がりください」

「瑞希、ありがとう」

「まぁ!夫婦の仲が良いのね!」


「え!お母さん。私と月夜見さまって夫婦に見えるのですか?」

「それはそうよ。髪や瞳の色だって同じじゃない。お似合いの夫婦だと思うわ」

「まぁ!お母さんにそう見えたのなら嬉しいわ!月夜見さまはね。本当にお優しいの」

「羨ましいわ!」


 お母さんがお父さんを、早苗さんが結城さんの顔を見た。二人の男は少々、ばつの悪い顔となった。


「それで月夜見さま。瑞希はこのまま地球に残るとのお話でしたが、そのお役目はどんなものなのですか?」

「はい。地球人に神の存在を知らしめることがひとつ。もうひとつは地球人のこれからの行動を見守り、向こうの世界に報告して頂くことです」

「なるほど。それであの様に目立つ東京湾の上空に浮かんでいるのですね」


「あぁ、それですが、ずっと日本に居るのではなく世界中を飛び回ってもらいたいですね」

「え?世界中?では世界一周旅行ができるのですか?」

「えぇ、是非、楽しんで来てください。僕も十日毎に来ますので、その度に違う国に居たら楽しいですね」


「え?私も世界一周旅行、行きたーい!」

「私も!」

「それならば夏休みに一か月掛けて地球を一周して来ると良いですね」

「やったー!」

「世界一周旅行だ!」


「え?それじゃぁ僕はずっとお留守番かい?」

「あぁ、繁さんは仕事が終わったら私に連絡してくれたら職場から月の都へ瞬間移動させますから」

「え?月の都が日本に居なくても?」

「えぇ、世界中どこに居ようとも瞬間移動で行き来できるのですよ」

「そ、それは・・・凄い!」


「あの・・・パスポートとかビザは・・・」

「神にパスポートなど不要です。勝手に各国に入って人気ひとけのない所を見つけて瞬間移動で地上に降りれば良いのですよ」

「なるほど。それは便利ですね!」

「瑞希は英語も堪能だったわね。今でも話せるのかしら?」

「えぇ、大丈夫よ。既に英語圏のニュースはチェックしているわ」


「あ。そうだ。お父さん。スマホっていう携帯電話ができているのですって?それを一台、用意してもらえるかしら?」

「スマホ?月の都ではインターネットは繋がっていないのかい?」

「あらゆる通信は傍受できるからそれは大丈夫よ。私が地上に降りた時にスマホがないと不便でしょう?それにさっき、繁さんに言った様にお父さんとお母さんが地上に降りて、月の都へ戻りたい時に連絡してもらう手段としても必要なの。お金は払いますから」


「え?日本のお金があるのかい?」

「えぇ、天照さまが世界全ての通貨を準備してくださっているから、どこでも何でも買えるわよ」

「そりゃぁ凄い!分かった。スマホだね。すぐに買って来るよ」

「お願いします」


「瑞希。スマホって何だい?」

「月夜見さま。スマートフォンといって、私が死んだ2005年からできた新しい携帯電話です。今ではデジカメの機能や音楽プレイヤー、それにパソコンの様な機能も持っている多機能電話のことらしいです」


「瑞希はどこでその情報を知ったんだい?」

「地球の月の都です。テレビにパソコンの機能があったので、ネットの情報を色々と検索していて知ったのです」

「へぇ、凄いな」


「ところで瑞希。私たちはいつから移り住めば良いのかな?」

「既に瑞希と翼は月の都の住人なのです。お義父さま達も、いつから住んで頂いても構いませんよ。あ。そうだ。昼食後に一度、見に行きましょうか。必要なものを用意しないといけないかも知れませんからね」


「お父さん、お母さん、多分、何も持って来る必要はないと思うわ。何でも用意してあるし、実家にも行くのだから、そちらはそのままの方が良いと思うの」

「兎に角。これから一度、見学して頂きましょう。早苗さんたちも一緒にね」

「え?私たちも良いのですか?」

「えぇ、勿論ですよ」


 僕は琴葉に念話で連絡した。

『琴葉。これから瑞希のご家族をそちらにお連れして、月の都を見学して頂こうと思うんだけど、大丈夫かな?』

『えぇ、大丈夫です。皆に伝えておきますね』

『では、大広間へ十分後に行くよ』

『分かりました。お待ちしています』


「では、十分後に行きましょうか」

「あ、あの・・・私、この格好で大丈夫でしょうか?」

「さっき、ご紹介した私の妻たちしか居りませんから、お気になさらず」


「早苗。今日のそのスーツは一張羅いっちょうらなんでしょう?それとも月の都の宮殿だから、お城のお姫さまのドレスを想像していたのかしら?」

「もう!お姉ちゃんはデリカシーがないんだから!昔と変わらないわね!」


「あ!いけない!家族と話しているとつい地が出てしまうのね・・・」

「ふふっ、そうやっていつも喧嘩していたのかい?」

「あ!月夜見さま・・・そうですね。私、女らしさに欠けていたので・・・」

「でも、楽しそうな顔が見られて良かったよ。さぁ皆さん、行きましょうか」


 そして瑞希の前世の家族の月の都見学ツアーとなった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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