27.瑞希への想い
僕は瑞希からの申し出に頭を悩ませていた。
その夜、舞依と眠る時、瑞希からの申し出のことを相談した。
「そう・・・瑞希がそんなことを」
「舞依はどう思う?」
「瑞希の気持ちは良く分かるわ。地球で月の都に住むのでしょう?いくら瞬間移動で好きなところへ行けると言っても、普通の暮らしができる訳ではないわ。それに両親ともそう長く一緒に暮らせないのだしね」
「そうだね。現実的に考えるとそんなに良い暮らしになる訳はないのだよね」
「隠れて暮らす様なものだから、それは孤独になるということよね」
「それで子供が欲しいのか。でもな・・・子だけ作ってさようなら。って感じがなぁ・・・」
「あなたなら自分を無責任だと思うでしょうね。私たちと比べてしまうものね」
「でも、念話でいつでも話しはできるし、天照さまにお願いすれば、定期的に会いに行くこともできるのではないかしら?」
「それは僕も考えたよ。だけど、彼女の寿命は長くないからね」
「あぁ、見送るのが辛いのね。でもそれは私たちだっていつかは同じ様に見送ることとなるのよ。人の最後を看取ることは辛いけれど、それまでの人生で後悔がなければお互いに悪い思いは残らないと思うの」
「あぁ、そうだね。舞依の言う通りだね。僕は愛する人を失うことを恐れ過ぎているのかな?」
「それは仕方がないことよ。人は簡単に悲しみや苦しみから解放されるものではないわ」
「そうだね・・・」
「でもそこまで瑞希のことを考えてあげているのなら、あなたはもう、瑞希を愛しているのではなくて?」
「いや、これは多分、愛ではなく同情だよ」
「そうね。そうかも知れない。でも初めは同情でも良いのではないかしら。瑞希は私たちと関り、そして地球の人々のためにお役目につくのですから。彼女の心の安らぎを与えてあげることがあなたのお役目でもあるのでは?」
「舞依。君って神さまみたいだ・・・」
「何だか最近、そう呼ばれたりしているわね」
「ふふっ、舞依は優しいね。そんな舞依が大好きだよ」
「私も優しいまぁくんが大好きよ!」
「あぁ、舞依としたい!」
「私も!でももう赤ちゃんができてしまっているから駄目ね」
仕方なく、抱きしめてキス魔になるしかなかった・・・
それから妻たちに瑞希の願いと舞依との会話を伝えていった。皆、舞依の意見に賛成してくれて、その中でも琴葉が一番強く賛成した。
「琴葉も舞依の意見に賛成してくれるのだね?」
「えぇ、勿論です。月夜見さま。瑞希とすぐに結婚してあげてください」
「え?すぐに?何故?」
「私たち妻は、もうすぐ全員が妊娠します。今、結婚すれば瑞希はあなたを独り占めできるのですから。地球に行くまでの間は、瑞希をできる限り愛してあげて欲しいの」
「そういうことか。分かったよ」
僕は妻たち全員と話しているうちに瑞希との結婚を心に決めた。
そしてある夜、瑞希を部屋に呼び、ソファに座らせてスパークリングワインをグラスに注いだ。
「瑞希。僕の子が欲しいと言ったね」
「はい。あ!奥さまたちに聞いて頂けたのですね?」
「うん。でも僕の子を瑞希に授けるには条件があるんだ」
「はい。どんなことでしょうか?」
「僕と結婚すること」
「え?」
僕はソファに座った瑞希の前に跪き、瑞希の手を取って言った。
「瑞希、僕と結婚してくれますか?」
瑞希は明らかに動揺していた。テーブルの上に置かれたグラスのスパークリングワインの泡がグラスの底から沸き立つのを見つめて必死に心を落ち着けようとしていた。
「月夜見さま・・・そ、そんなこと・・・私・・・どうしましょう?」
「瑞希は僕の子が欲しいのでしょう?僕のことはどう思っているの?」
「あ。そ、それは・・・あ、あ・・・」
瑞希は言葉を発しようとしているが、動揺していてでてこない。彼女は一度、深呼吸して必死に落ち着こうとしている。
「すぅー、はぁー」
そして、意を決した様に真直ぐに僕を見つめて言った。
「月夜見さま。愛しています」
「では、結婚して頂けますか?」
「はい!喜んで!」
僕は座ったままの瑞希を抱いてキスをした。
「さて、では結婚を祝して乾杯しましょうか?」
「はい」
「では、瑞希との結婚に乾杯!」
「かんぱい!」
「瑞希、今、八人の妻のうち五人が妊娠していて、二人が結果待ちなんだ。詩織ももうすぐだね。瑞希は地球に行ってから生みたいかな?それともこちらでひとりは生んでおきたいかな?」
「それならば、来年の十二月に地球へ行くのですから、三か月前の九月くらいに生みたいです」
「それだと、今年の十一月くらいに妊娠すれば良いのだね」
「もしかして、結婚して頂けるということは、十一月まで夫婦生活もして頂けるのですか?」
「勿論だよ。でも妻が九人になるから一緒に眠れるのは九日に一晩だけなのだけどね」
「はい。それでも嬉しいです」
「今夜はそのつもりなのだけど、心の準備はどうかな?」
「はい。お願いします」
瑞希は真っ赤になっている。それが恥ずかしいからかスパークリングワインのアルコールのせいかなのは分からないけれど。
そしてふたりはベッドに入った。服を脱がせると瑞希はとてもスマートな身体をしていた。折れそうに細いウエストを抱きしめてキスをした。
瑞希は初めての体験に息も絶え絶えになっている。これは時間を掛けないといけないな。
緊張を解すために全身をマッサージしていった。そして丁寧に時間をかけてひとつになった。
瑞希は一瞬、痛そうに顔を歪めたが、自分で治癒をかけて癒すと、じきに幸せそうな穏やかな顔になった。
「痛かったかな?大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です。満たされていて幸せです」
それからは休憩を挟んで何回か愛し合った。瑞希は何度も絶頂を迎えていた。
「月夜見さま。こんな幸せがあるのですね・・・」
「瑞希が幸せを感じてくれているならば良かった」
「はい。沢山、幸せを頂きました」
そしてその夜は、そのまま瑞希を抱いて眠った。
翌朝、目覚めると瑞希の顔が目の前にあり、笑顔で僕を見つめていた。
「おはよう。瑞希」
「月夜見さま。おはようございます!」
「気分はどうかな?」
「はい。とても充実しています」
「僕の顔を見ていたの?」
「はい。なんて美しいお顔なのでしょう。私、ずっと見ていたいです」
「ごめんね。長く一緒に居てあげることができなくて」
「あ、そういう意味で言ったのではないのです!」
「でも、天照さまにお願いして、定期的に会いに行くからね。念話はいつでもできるのだしね」
「え?地球に行ったら二度と会えないのではないのですか?」
「そんなことはないよ。常に一緒には居られないし、頻繁に行き来はできないけれど、定期的に訪れることは認めてくれると思うよ」
「それならば、二人目の子も作れるかも知れないのですね?」
「そうだね。瑞希が望むだけ作ろうね」
「あぁ!嬉しい!」
そう言って瑞希は抱きついて来た。やっぱり可愛い娘だな。こうしているうちに僕はどんどん引き込まれて愛していくのだろうな。そう思いながらまた愛し合った。
朝食の席で皆に瑞希を妻に迎えることを発表した。
妻たちは笑顔で祝福し、侍女たちは大変な驚き様だった。特にアルカディアの侍女たちは。
「今日は午後に瑞希とグロリオサ服飾店へ買い物に行って来るよ」
「えぇ、ウエディングドレスを買うのね」
「そうだね」
「え?ウエディングドレスを買って頂けるのですか?」
「結婚するのだから当然だよ」
「まぁ!」
瑞希は思ってもみなかった。という様子で驚いていた。自分は結婚には無縁だと思い込んでいたのだろう。
午前中の神宮の仕事を終えて瑞希が帰って来た。昼食を済ませてから買い物へ出掛けた。
「さぁ、カンパニュラ王国へ買い物に行こうか」
瑞希を抱きしめて、グロリオサ服飾店へ飛んだ。瞬間移動の時に相手を抱きしめるのは久々だ。
「シュンッ!」
「アリアナ。久しぶりだね」
「まぁ!月夜見さま。いらっしゃいませ。ご無沙汰しております」
「アリアナ。こちらは瑞希。神の力を持つ人だ。嫁に迎えることとなったんだ」
「それはおめでとう御座います!ではウエディングドレスと婚約のドレスで御座いますね」
「そうですね。寸法は今のままで良いですよ」
「あら?今回は大きく仕立てなくて良いのですね?」
「うん。そうなんだ。それと普段着として着られるものも五、六着見繕ってください」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
ウエディングドレスは、Aラインで肩を出したロールカラーに深いドレープの入ったスカートとなっている。瑞希の細さを生かし、可愛らしさを強調している感じだ。とても好感が持てるデザインだった。
「瑞希、とても綺麗だね。気に入ったかな?」
「はい。ちょっと恥ずかしいですけれど、こんなドレスが着られるなんて嬉しいです」
「うん。日本のご家族にも見て頂けるからね。楽しみだね」
「まぁ!本当ですか!」
「他のドレスや衣装も気に入ったものは全て買っていこう」
「ありがとう御座います」
それから靴店と宝石店にも行って結婚式に相応しい品を揃えた。宝石はプラチナシルバーの髪と青い瞳に合わせて、ブルーサファイアとダイヤモンドを組み合わせた最高級品だ。
「こんなに高級なものをよろしいのですか?」
「結婚式に使うものなのだからね。当然だよ」
その翌日には屋敷で結婚式をした。
妻たちと侍女、フェリックスと水月、舞依とフェリックスのお母さん、村長夫婦、屋敷の使用人に参列してもらった。
瑞希の今後のことを考えると彼女のアルカディアの両親は式には呼べないし、侍女たちにも栞が僕と結婚したことは極秘にしてもらった。
僕は白い燕尾服、瑞希はウエディングドレスを着て、村長に認め人となってもらった。皆の前で結婚を宣言し、キスをして結婚は成立した。
その後は侍女たちも一緒に皆でダンスを楽しんだ。瑞希も静たちに教わって、ダンスが踊れる様になったそうだ。
その夜は妻たちが気を使って、また一日ずつずらしてくれた。
「月夜見さま。今夜もまた、夜を一緒に過ごさせて頂けるのですか?」
「うん。結婚式をした日だからね。妻たちが気を遣ってくれたのだよ」
「嬉しいです。私、本当に幸せです!」
「これからもっと幸せにしてあげるからね」
「私、正気を保てる自信がありません!大丈夫でしょうか?」
「気絶しても良いのですよ」
「まぁ!そんなこと・・・もったいないです」
瑞希は本当に真直ぐで可愛らしい人だ。結婚して良かった。そんな思いを噛みしめた夜となった。
六月になり、アルカディアの侍女たちの結婚式の日となった。僕らは総出でアルカディアに出向いて式に出席した。
結婚式は神前式で宮司の美月殿が祝詞を奏上し、雅楽が奏でられる中、厳かに進行した。この辺の儀式は先代の神が持ち込んだものなのだろう。
ただし、神宮で行われる神前式の結婚式で、その進行も見聞きした覚えのあるものなのだが、新郎新婦の衣装が、洋式のドレスにスーツなのだ。僕と妻たちだけは、大変な違和感を持って見守ったのは言うまでもない。
「とても不思議な結婚式でしたね」
「きっと先代の神もそう思っただろうね。結婚式の様式はこれしか知らないけれど、着物の説明ができなかったのではないかな?」
「ここでは着物を仕立てることは難しいのでしょうね」
式が終わった後で屋敷の大広間に新郎新婦とその家族を呼んだ。大広間には総勢二百人以上が集まった。皆、緊張した面持ちで立っている。椿さんが司会をしてくれた。
「皆の者、今日の結婚式は月夜見さまのご厚意にて執り行われたものです。これより月夜見さまからお言葉を頂いた後、ダンスパーティーを開催致します!」
「月夜見です。本日は私の愛する侍女たちが結婚しためでたい日となりました。静、蘭、凪、凛、海、澪、杏、律、詩、茜、希、環、渚、菫、咲、優、碧、唯、鈴。みんな、おめでとう。これからの君たちの幸せを願います」
僕はひとりずつ名前を呼びながら顔を見ていった。彼女たちは自分の名前を呼ばれると軽く目を伏せて目礼した。
「月夜見さま。ありがとう御座います!」
侍女たちが声を合わせて礼を述べた。
「彼女たちは引き続き、私たちの侍女として働くと言ってくれています。夫となった者、その家族には予め言っておきますよ・・・」
僕は真顔で十九人の夫とその後ろに立つ家族を見回しながら言った。
「この娘たちを泣かせる様なことがあれば、この私が許しません。分かりましたね?」
「は、はーっ!」
夫たちが半ば青い顔をして頭を深く下げた。
「今日はおめでたい日です。これくらいにしておきましょう。ではこの後はダンスパーティーとします。お好きに食事やお酒を楽しんでください」
「月夜見さま。ありがとう御座います!」
CDでダンス用の音楽を流し、長いテーブルには料理が並んだ。飲み物も用意され、皆、思い思いにパーティーを楽しんだ。
「月夜見さま。さっきのお言葉。また思い出して胸が熱くなりました!」
「詩織。同じ言葉を使ってしまったね・・・」
「良いのです。彼女たちもこの言葉を胸に抱いて、生きて行けるのですから」
「月夜見さま。今日、栞は来ていないので御座いますか?」
「椿さん。栞は治癒の能力だけでなく、我々と同じ神の能力を持っていることが分かったのです」
「何と!栞が神の力を?」
「そうです。ですから、今はその力を使える様に訓練しているのです。栞の親がそれを知ったならば、またおかしなことを考えるかも知れません。ですからこのことは内密に願います」
「かしこまりました」
そして、その日は陽が落ちるまで皆で楽しく酒を飲みダンスに興じた。
その日を境に二十六人の侍女は、六人ずつ一週間交代で月の都に来てもらうこととなった。僕らは子供たちをアルカディアに連れて行けないので長くは滞在できない。だからアルカディアに行くのは、特別に用事がない限り、春と秋の祭りの時くらいに限定することにした。
その頃には瑞希以外の妻が全員、二人目の子を妊娠していた。二人目の子は舞依は女の子を希望し、他の妻は皆男の子を希望した。
舞依にはピンクゼリーを使用したが、男の子を希望する他の妻たちにはグリーンゼリーは使わなかった。恐らく使わなくとも自然に男の子が授かるだろうと予測されたからだ。
八人の妻たちが妊娠している間、僕は瑞希と三日に一度は昼間にセックスした。
「月夜見さま。私、昼間からこんなこと・・・もうおかしくなってしまいそうです」
「瑞希。それなら昼間はやめておくかい?」
「あ、嫌です。やめないでください。今しかできないのですから・・・」
「そう思ってしているのだからね。だけど瑞希、考えたのだけど、瑞希は自分の子が九月に生まれる様に作りたいと言っていたけれど、それだと早いと思うんだ」
「何故、早いのですか?」
「九月に生まれると地球へ行く頃に、生後三か月になってしまうでしょう?他の子の影響を受けるから、三か月だともう空中浮遊ができる可能性があるんだ。そしてそれくらいの能力が使えるならこの屋敷のことを鮮明に覚えているかも知れない」
「あぁ、地球からこの屋敷に瞬間移動しようとするかも知れないのですね?」
「そうだよ。それは死を意味するからね」
「では、ギリギリの十一月に生まれる様にした方が良いのですね」
「その方が安全だと思うよ」
「分かりました。では来年の一月に妊娠する様に調整するのですね」
「そうだね」
「それまでは、このままなのですね」
「それだと瑞希が溺れてしまうかな?」
「はい。月夜見さまに溺れてひとりで生きて行けません・・・なんて、冗談です!」
「ふふっ、瑞希は可愛いね」
「え?私、可愛いなんて言われたこと今までにないです」
「僕は初めて会った時から瑞希を可愛いと思っていたよ」
「本当ですか?」
「本当だよ。だからこんなに愛しているのだからね」
「あぁ、嬉しい・・・嬉しいです」
可愛い瑞希が必死になってしがみついて来る。愛おしい瑞希を抱きしめた。
そして、八人の妻の子育てをしながら瑞希との愛を育んでいった。
そして十一月になり、詩織以外の妻が次々と二人目の子を出産した。舞依は女の子を、舞依以外の妻は男の子だ。そしてまた妊娠七か月で小さいまま生まれた。でも髪の色は全員、妻と同じ色だった。妻たちは皆、とても喜んでいた。
その翌月、僕と舞依が十九歳になる直前、詩織が男の子を出産した。
舞依の子は蘭華、桜の子は斗真、花音の子は翔琉、琴葉の子は蒼羽、幸ちゃんの子は千隼、紗良の子は俊輔、陽菜の子は陽翔、詩織の子は伊織と名付けられた。
今回の八人も全員、力が強いのだが、もう月の付く名前とかに拘るのはやめにして皆、好きな名前を考えて名付けをした。
僕は十九歳にして、十六人兄弟の父親となったのだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました!