22.子供たちの能力
初めに生まれた五人の子は生後七か月を迎えた。
凛月、月乃、月音、月葉、静月は、全員歩けるようになっていた。
それと同時に急に話す様になった。それまでは念話でひたすらに話し掛けるだけで、返って来るのは返事と父さま、母さまくらいだったのだ。
でも歩く様になったのをきっかけに、単語だけでなく二言三言話す様になった。
今までずっと話し掛けて来たものが蓄積されていて、それが歩く様になったことで脳が活性化した。という感じなのだろうか。
「父さま、お空を飛びたい」
「リッキー、空を飛びたいのかい?よし!では飛んでみよう!」
僕はリッキーを抱いて宙に浮かび庭を飛び回った。リッキーはキャッキャと大喜びだ。
庭から部屋に戻ると舞依が抱っこしようと近付いた。
するとリッキーは舞依の手をするりと抜けると、ひとりで宙に浮かんだ。舞依も皆も驚いた。
「え!リッキー!飛べるの?教えていないのに!」
「母さま!僕飛べるよ!」
「凄いわ!リッキー!」
舞依も宙に浮かんでリッキーを追いかけ始めた。
サロンの天井付近をグルグル飛び回って追いかけっこになっている。皆、とても複雑な気持ちだ。すると、それを見ていた桜の娘、月乃がそれを追う様に飛び始めた。
「月乃!」
桜も驚いて叫ぶ!そして月乃を追って桜も宙を舞った。
それを見ていた、月音、月葉、静月までもが一斉に飛び始めたのだ。これには花音、琴葉、幸ちゃんも唖然として動けなくなった。
サロンの中を舞依と桜が、小さな天使たち五人を追いかけてグルグル飛び回っている。
「凄いね、何回か抱いたまま飛んだだけなのに、その時の感覚で飛べる様になってしまったのだね」
「それならば、楓月と月菜も飛べるかしら?」
紗良がそう言うと、紗良に抱っこされていた楓月がフワフワと浮き始めた。
続けて陽菜が抱っこしていた月菜も浮かびだした。
「え?楓月と月菜も?まだ生後三か月だよ?」
「これは、凛月たちに影響を受けているのではありませんか?」
「そうですね。いくらなんでも三か月で飛ぶなんて!」
「ちょっと驚いたね。これからは目が離せないね」
「そうですね」
それからは、どこへ行くにも宙に浮かんでフワフワと移動する様になってしまった。屋敷の中だけでなく、庭や畑の方まで行ってしまうので、皆が度肝を抜かれてしまうのだ。その度に母親たちが念動力の力技で引きずり戻している。
使用人や月の都の住人は段々と見慣れて来て、子供たちを天使さまと呼ぶ様になった。
その他、念動力が使える様になってきた。自分の欲しいものや近くで見たいものがあると引き寄せてしまうのだ。
この前は、リッキーが庭の池でカエルを見つけ、興味を持ったのか引き寄せてしまい、自分に向かって飛んでくるカエルに舞依が悲鳴を上げた。
月乃も桜と同じ能力があるのか、誰も見えていなかった茂みの中のウサギを見つけ、念動力で引き寄せて皆を驚かせた。
妻たちは自分の子が起きている限り、目が離せなくなってしまい、少々、お疲れ気味だ。
それともうひとつ問題がある。娘たちの父さま争奪戦だ。サロンに皆で集まっている時など、食事の時以外は娘たちが僕の膝の上を奪い合うのだ。
兎に角早いのが月乃だ。真っ先に飛んで来て僕に絡みついて来る。次は月音、月葉、静月の順だ。
膝の上のポジションが確保できない時は、腕にしがみついたり、肩に乗ってきたりする。
それを見ていて、新しい遊びだと思ったのか、楓月と月菜までフワフワと浮かんで寄って来ては肩や頭に乗って来た。
それだけならまだしも、皆がキス魔になっている。皆が代わる代わる僕の頬っぺたにキスをしてくるのだ。勿論、キスをされたらお返しにキスをしてあげる。するととっても嬉しそうな顔になるのだ。これは可愛くてやめられない。
「皆、そんなに月夜見さまが好きなのね」
「でも、少し将来が心配だわ」
「まぁ、今だけでしょう?」
「何だか少しだけ妬けてしまうわね」
「分かるわ・・・」
妻たちとしても複雑な様だ。
妻たちとの夜の生活は全てストップしていた。一番の理由は子の世話に集中するためだ。
僕らの月の都の屋敷では乳母は居ない。日本と同じ育て方をしているのだ。だから夜中だって母乳をあげるし、泣けばオムツも交換する。今は子育てに集中したいのだ。
それに前回の琴葉の出産では、七か月していない間に琴葉は処女に戻ってしまったのだ。他の妻もそうなるのか確認したいということもある。
そして今夜、一番早く出産した舞依と夜の生活を復活させる。
とは言ってもリッキーも一緒に寝ている舞依の部屋なのだ。中断されることは織り込み済みだ。
「舞依。凄く久しぶりだね」
「えぇ、この日が待ち遠しかったわ」
「僕もだよ」
「琴葉はね。前回の出産から七か月経ったら処女に戻っていたんだよ」
「え?では私も処女に?」
「そうかも知れない。痛かったらごめんね」
「まぁ!私、まぁくんに二度も処女を捧げられたと思っていたのだけど、二度あることは三度あるのね!」
「いや、琴葉はそうだったけど、舞依はまだ分からないからね」
「そうね。では試してみましょう」
「それと、琴葉は天照さまが七か月で居なくなってしまったから、すぐにまた子を作ったけど、今回は難しそうだね」
「そうね。リッキーや他の子のあの活動状況では、次の子を身籠るのは少し危険ね」
「やはり、一歳くらいになって落ち着いてからとする方が良さそうだね」
「では、また避妊が必要なのね」
「そういうことだね」
そして、久しぶりに舞依をマッサージした。
「あぁ・・・まぁくんのマッサージは最高なの・・・」
「リッキーを追い掛け回すので疲れているよね」
「この身体は疲れないの。だけど気を緩めることができないので気疲れはするわね。でも、とっても楽しいわ。だってリッキーはあなたにそっくりなのですもの。愛おしくて堪らないわ」
「うん。見ていて分かるよ」
「あぁ、とっても良い気持ち・・・」
そして、そのまま愛撫を続け愛し合った。やはり舞依は処女に戻っていた。
「い、痛いわ!本当に処女に戻ってしまうのね」
「うん。身体が完全に元の状態に戻ってしまうのだね」
「では、まだまだ何度もあなたに処女を捧げることになるのね」
「それって、どうなのだろうね?だって痛いのでしょう?」
「それならば、出産直後から再開しましょうか?」
「そうだね。少しだけすれば良いのだね?」
「それは無理。一度始めてしまえば少しだけなんて・・・止められた試しがないでしょう?」
「はい。そうですね・・・」
そしてふたりは再開し、何度かリッキーに中断させられたが朝方まで愛し合った。
翌日の夜は桜と再開しようとしたのだが、こちらは別の問題があった。
月乃が目敏く起きてしまうのだ。そして、気が付くと僕のすぐ横に来ていてビックリした。
「月乃!起きてしまったの?」
「父さま、母さまと仲良しなの?」
「う、うん。そうだよ」
「私も父さまと仲良しする!」
月乃が布団に潜り込んでくる。これは困ったな・・・
「月乃。あなたはもうねんねの時間なの。お父さまと仲良しはまた明日よ」
「いやよ。母さまは仲良ししているもの」
「分かったよ、月乃。僕と一緒に寝よう」
「はい!父さま!」
『桜、月乃の知能の高さは凄いね。まだ一歳にならないのにこんな風に考えていて、会話もできるのだからね』
『本当ですね。毎日、驚くことばかりです』
『あ!父さまと母さま、頭でお話ししてる!』
『あ!念話に入って来ちゃったよ!』
『まったく!この子は!』
『それでは月乃、月のお話をしてあげるよ』
『え?聞きたい!』
僕は琴葉から赤ん坊の時に聞いた、月の童話を月乃に話して聞かせた。月乃はとても楽しそうに聞いていて一向に眠くならない様だった。結局最後まで話してしまい、月乃は嬉しそうに笑っていた。
「さぁ、もう夜も遅いから今夜は眠ろうか」
「はい。父さま」
月乃は僕の腕の中で安心したのか、しばらくして小さな寝息が聞こえて来た。
「月夜見さま、ありがとうございます」
桜が小さな声で言った。そして月乃を動かさない様に念動力で宙に浮かべ、そのままベビーベッドへ移した。
「桜、月乃を出産してから七か月以上経っているでしょう?」
「えぇ。そうですね」
「琴葉も舞依もそうだったのだけど、七か月もしないでいると、処女に戻ってしまっているんだ。だから、今日は久々だけど初めは痛いからね」
「え?そんなことが・・・でもそんな痛みならいくらでも我慢できます」
「ふふっ、でも初めだけだから、すぐに良くなるさ」
「そうですね」
そして、舞依と同じ様に初めだけ痛そうにしていたが、すぐに快感に変わり、朝方まで愛し合ったのだった。
翌日以降、花音、琴葉、幸ちゃんと一緒に眠る度、子供たちに月のお話を聞かせてくれとせがまれた。どうやら月乃が自慢げに他の子たちに話したらしい。
皆、夜に僕が来れば話してもらえると思ってしまった様だ。でも皆、可愛くて断れる訳がない。
まずは月の童話を聞かせて子供を寝かしつけてからということになってしまった。
そして、花音も琴葉も幸ちゃんも皆、処女に戻っていた。
皆、日頃の気疲れをマッサージで解して、リラックスさせてから事に及んだ。
痛みを乗り越えてしまえば、やがて以前の通りに戻り満足するまで続けた。
僕と舞依は十八歳となった。詩織の子、緋月も生後二か月を越えたので、お父さんとお爺さんに会わせることとなった。お爺さんはもう八十歳になる。一度会わせて安心させてやらないといけない。
動力のない船に皆で乗り、月宮殿へ飛んだ。
「シュンッ!」
「さぁ、着いたよ。僕はお爺さんを呼んでくるから先に屋敷に入っていて」
「はい」
「シュンッ!」
「お爺さま。お久しぶりです!」
「おぉ、月夜見か。今日は曾孫の顔を見せてくれるのだったな」
「えぇ、宮殿へ参りましょう」
「うむ、ダリア、カルミア。行こうか」
「はい。用意はできていますよ」
「シュンッ!」
「さぁ、宮殿に着きました」
妻たちは先にサロンに入っていた。お父さんとお母さま方も揃っていた。
まずは、子供たちを皆へ紹介した。
「おぉ、月夜見!流石だな。一人目に世継ぎの男の子、その後も続けて作れるとは。しかも、何だ、この子たちのこの力は?まだ一歳にもなっていないのだろう?」
「本当だな。もう空中浮遊ができるのか。それも全員か?」
「お父さま、お爺さま、全員念話ができますし、まだ生まれて間もない詩織の子、緋月以外は、既に空中浮遊と念動力もできます」
そう言っている間にも、子供たちが空中浮遊して僕の周りに集まって来た。
「皆、月夜見さまが大好きなのですね」
「その様です。こうやってくっ付きたがるのです」
「その気持ちは良く分かります」
「それにしても、皆、月夜見さまに似ているのですね」
「そうなのです。不思議なことに」
「特に凛月さまは、月夜見さまの生まれた頃に瓜二つですわね」
「本当に可愛いわ!」
「養子に欲しいわ・・・」
また、オリヴィア母さまが不穏な発言をしている。とりあえず無視だ。
「月夜見。お前は立派に成長し、この様な素晴らしい世継ぎを作ってくれたのだな。本当にありがとう。私はもう八十だ。先はもうない。だがこんなに素晴らしい世継ぎが居るのだからな・・・私もこれで安心だ。ありがとう」
「お爺さま・・・」
「うん。私からも礼を言わせてくれ。素晴らしい世継ぎをありがとう」
「お父さま。まだまだ、現役で頑張ってくださいよ」
「息子たちが学校を卒業して、一人前になれば私も隠居できるな」
「それではあと、五年ではありませんか。少なくともあと十年はお願いします」
「あと十年?それでは私は六十二歳になってしまうよ」
「それくらいは大丈夫でしょう?」
「その間に月夜見はあと何人、子を儲けるのかな?」
「そうですね、あと十六人は作りますよ」
「それは素晴らしい!それならば、私も頑張ろう」
「えぇ、お願いします!」
その足でネモフィラ王国へも挨拶に行った。
「シュンッ!」
神宮の中庭に出現した。
「あ!お父さま!お母さま!あーっ!もしかして私の妹ですか?」
「アンナマリー、そうだよ。君の妹、緋月だよ」
「まぁ!可愛い!お父さまと瞳と髪の色が同じなのですね!」
アンナマリーの大騒ぎに月影姉さまにロベリア殿、良夜と秋高も出て来た。
「月夜見さま、皆さま。お久しぶりで御座います。お子さまもお揃いで!」
「ロベリア殿、お久しぶりです。子が八人揃いましたので挨拶に伺いました」
「これはこれは!どうぞ、応接室へ」
大きな応接室のソファーに座ると、娘たちが早速、妻の腕を離れて僕の所へ競争する様に飛んで来た。弾き飛ばされない様に念動力を掛けてやらないといけない。
「まぁ!皆、そんなに力が強いのですか!」
月影姉さまが驚いている。良夜や秋高、クラウスとアンナマリーも声をだせない程驚いている。
「全員、僕らと同じ力と能力を持っている様です」
「まぁ!大変!」
「そうなのです。起きている間は何をするか分からないので目が離せないのです」
「大変とはそう言う意味で言ったのではないのですが、それはそれで大変ですね」
「クラウス、学校には慣れたかな?」
「はい。お父さま。良夜と秋高が教えてくれるので楽しいです」
「そうか、良夜、秋高、クラウスの面倒を見てくれてありがとう」
「お兄さま、クラウスが優秀なのですよ」
「秋高、そうなのかい?」
「えぇ、政治や法律、税のしくみなんかにも興味がある様です」
「それは、レオに教わっていたからです」
「あぁ、レオの影響か。それでクラウスはよく役場へ行っていたのだね」
「はい。そうです」
「学ぶことは良いことだよ。沢山、勉強しておくと良いよ」
「はい。お父さま」
「では、僕らは王城へ挨拶に行って来るよ」
「お兄さま、またゆっくり遊びに来てくださいね」
「そうしますよ。月影姉さま、アンナマリーとクラウスを頼みますね」
「かしこまりました」
僕らは神宮から渡り廊下を渡って王城へ入った。衛兵にフォルランかステュアート王を呼んでくれる様に頼み、応接室へ向かった。
「応接室でお茶を頂いていると、ステュアート伯父さんと三人の王妃、フォルランと柚月姉さまがやって来た。柚月姉さまは赤ちゃんを抱いていた」
「月夜見さま。皆さま、ようこそお出でくださいました」
「伯父さま、八人の妻に皆、子が生まれましたのでご挨拶に伺いました」
八人の子の紹介をしていった。
「フォルラン、子ができたのだね」
「うん、ファビアンだよ。一歳になったばかりだ」
「お兄さま、ファビアンの力の大きさを見て頂けますか?」
「うん。見てみようか」
柚月姉さまに抱かれたファビアンは一歳だが、リッキーとほぼ同じ大きさだ。リッキーの成長が早いのだ。ファビアンに治癒の力を掛けてみる。すると力が反発してくる。その大きさは柚月姉さまと同じくらいだ。
「柚月姉さま、ファビアンは姉さまと同じくらいの力がありますね。宮司の能力は十分にあります」
「そうですか。ネモフィラ王国の世継ぎですから力は必要ないのですけれど、あれば身の回りの者を癒すことくらいはできますものね」
すると娘たちがファビアンに興味を持ったのか、ひとり、またひとりとファビアンのところへ飛んで行った。
「まぁ!皆、飛べるのですか!」
「えぇ、この子たちは私たちと同じ能力を持っているのです」
「ファビアンに興味があるのかしら?」
「能力があることが分かるのでしょう。この子たち同士でも影響を与え合っていますから」
「凄いのですね」
ひとしきりファビアンを眺め、触れたりしてから結局は僕のところに集まって来た。
「やはり、お兄さまはモテモテなのですね」
「ありがたいことにね」
「琴葉、離宮にも挨拶に行こうと思うのだけど」
「はい。構いません」
「伯父さま、離宮に挨拶へ伺いたいのですが伝令をお願いしても?」
「分かりました。両親もきっと喜びます。顔を見せてやってください」
それから歩いて離宮へ向かった。サロンへ通された。
「ヴィスカムお爺さま。お久しぶりです」
「おぉ、月夜見。それに皆さんも!何!もう皆に子ができたのか!」
子供たちを一人ずつ紹介していった。琴葉も終始笑顔で座っている。琴葉のお母さん、ウィステリアお婆さんも嬉しそうな顔で見守っている。
すると琴葉の子、月葉がフワフワと浮き上がり、僕のところへ来るのかと思ったらウィステリアお婆さんの膝の上へと飛んで行った。
「まぁ!もう飛べるの?そんな力が!」
「えぇ、皆、僕らと同じ力と能力がありますので」
月葉はウィステリアお婆さんの膝の上で、じっとお婆さんの顔を見ている。
「まぁ!とっても可愛い子ね。私の娘と似ている気がするわ・・・」
「そうですか・・・」
誰も何も語らずにただ笑顔で見守った。すると月葉が声をだした。
「お婆さま・・・嬉しい?」
「えぇ、月葉が来てくれてとっても嬉しいわ」
ウィステリアお婆さんは月葉を優しく抱きしめて言った。
それから少し世間話や船と電気製品配布の進捗の話をしてから離宮を後にした。
「琴葉。来て良かったね」
「えぇ、ありがとうございます」
色々あったが結局は丸く収まった様で良かった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!