21.一男七女
紗良の排卵から一週間後には着床を確認した。
紗良の妊娠を確認した日の夕方、今度は陽菜が排卵した。時間的に夕食が終わってからで良いだろうということになり、夕食と入浴を済ませて陽菜の部屋へ行った。今夜はお酒もなしだ。
「陽菜は男の子と女の子、どちらが良いのかな?」
「私も初めは女の子が良いのです」
「そう。では作業の様で嫌かも知れないけれど始めようか」
「はい。お願いします」
一通りの事を終えると陽菜に腕枕をして、ふたりで話していた。
「前にも言ったと思うけど、生まれた日からずっと見続けて来た男の赤ちゃんを生むのってどんな気持ちなのかな?」
「とっても不思議なのです。私は月夜見さまが生まれて、まだ赤ちゃんなのに空中に浮かんだ姿を見た時、本当に驚いてしまって・・・月夜見さまは本当に神さまなのだって、思い知ったのです。そんなお方の近くに居られるだけで満足でした」
「それが、今ではこうして腕の中に居て、その神さまの赤ちゃんを授かろうとしているのですから・・・」
「信じられないって感じか。そうだろうね。ねぇ、陽菜はいつから僕を好きになったの?」
「はっきり覚えています。月夜見さまが五歳になり、月の都からネモフィラ王国へ移る時、私を抱きしめて瞬間移動したのですが、抱きしめられた瞬間に身体中に電気が走る様なショックがあったのです。その時からそういう目で見る様になったのだと思います」
「あぁ、あの時か!確か、僕が陽菜を抱きしめた瞬間、陽菜は変な声をだしていたよね?」
「え?覚えていらっしゃるのですか?恥ずかしいです!」
「その時のことを頭に思い浮かべたら思い出したんだよ。そうか。ではそれからは長かったね」
「そうですね。十一年お慕い続けておりましたから・・・」
「長く待たせてしまったね」
「でも、この半年はとても充実していました。だからもう大丈夫です」
「僕が陽菜を意識したのは、ネモフィラに行って最初に侍女三人で挨拶に来た時なんだ」
「え?そんなに前だったのですか?」
「うん。だからニナが僕を好きになった日と同じってことだね。ニナがリアとミラと三人で並んで立っている時に初めて陽菜を意識して見たんだよね。その時のお仕着せ姿が新鮮で、改めて可愛いなって思ったんだ」
「本当ですか!」
「うん。それと陽菜は、ネモフィラの丘や景色の良いところへ行くと本当に嬉しそうにしていたね。その笑顔を見る度に癒されていたな」
「そうなのですか・・・とっても嬉しいです。そんな風に見ていてくださったのですね」
「そうして沢山、陽菜に癒してもらったのに、妻にしたのは七人目だなんてね。申し訳ないよ」
「そんな。だって私は身寄りのない平民の孤児だったのですから、対象外なのは当然です」
「うーん。でも僕は日頃から自分は貴族じゃない。身分なんて関係ないって言っていたのに結局は王族や貴族ばかりと結婚しているよね」
「それは出会いが限られているのですから仕方のないことです」
「僕が悪いという話なのに、さっきから陽菜に助け舟をだしてもらっているね。何だかごめんね」
「大丈夫です。私はもう幸せなのですから・・・」
「それならば良かった。陽菜。愛しているよ」
「私も愛しています」
それから一週間後、陽菜の子宮に受精卵は着床した。
アスチルベに春が訪れクラウスがネモフィラ王国へ移り住むこととなった。アンナマリーと共にマイヤー家で暮らし、学校と神宮へ通うのだ。
詩織とクラウスで引っ越し荷物をまとめると、三人でマイヤー家の玄関へ瞬間移動した。
「シュンッ!」
僕らの気配を感じた詩織の両親と使用人がぞろぞろと玄関へ出て来た。
「月夜見さま、ようこそお越しくださいました。詩織にクラウスも歓迎するよ」
「お父さま、よろしくお願いいたします」
「アンナマリーは居ないのかな?」
「もうすぐ学校から戻ると思います。サロンへどうぞ」
三人でサロンに入りお茶を頂いていた。しばらくして玄関に船が着いた気配がした。
そしてサロンに駆け込む様にして入って来たアンナマリーは、そのまま僕の胸に向かって飛び込んで来た。
「ドサッ!」
「お父さま!」
「アンナマリー!元気だったかい?」
「えぇ、元気です!お父さま、他のお母さま方の子がもうすぐ生まれるのですよね?」
「うん、そろそろ五人生まれるよ」
「五人も!お母さまも早く作れば良いのに!」
「まぁ!アンナマリーったら」
「おぉ、そうだな。詩織、まだ授からないのかい?」
「お父さま、クラウスがこちらに来てからと思っていたのです」
「あぁ、そういうことか。ではこれからだね」
「えぇ、そうよ」
「アンナマリー、学校は早く進級するつもりなのかい?」
「いいえ、五年間通いたいと思っています。学校の勉強は簡単だけど、早く卒業してもすぐに宮司になれる訳ではありませんから、お友達を作って学校生活を楽しみたいのです」
「うん。それも良いね。正しい選択だと思うよ」
「クラウスはどちらでも構わないからね。それよりも自分のやりたいことや楽しいことを見つける方が大切かな。治癒の能力があるからと言って宮司にならなければならない訳ではないからね」
「はい。分かりました」
「アンナマリー、クラウスの相談に乗ってあげてね」
「はい。お母さま」
詩織と月の都に戻った数日後、詩織は排卵した。
「詩織、男の子と女の子のどちらが良いのかな?」
「はい。女の子でお願いします」
「分かった。では準備をしようか」
作業の様なセックスを済ませて、ベッドで会話を楽しんでいた。
「詩織、アンナマリーとクラウスの出産はやはり大変だったのかい?」
「えぇ、普通に痛かったですよ。でもクラウスの時は少し楽でしたけど」
「今回は三人目なのだけど、身体は一度、処女に近い状態に戻っているからね。一人目の感覚かも知れないね。でも皆、普通の身体ではなくなったし、琴葉の時と同じならば安産で生まれるかな?」
「今回は何も不安がありません。大丈夫です」
「このタイミングで妊娠すれば、子供たちは八人皆、同い年になるかな」
「そうですね。間に合って良かったです」
その後すぐに、先に妊娠した五人の妻たちの出産が近くなった。妊娠した順番で言えば、桜が一番早く出産する筈なのだが、舞依にその兆候が表れた。
「これは生まれそうですね」
「舞依、本当かい?」
「えぇ、明日にも生まれるのではないかしら?」
「では、月宮殿から産婆の巫女を連れて来るよ」
「お願いします」
僕は急いで月宮殿に飛び、お父さんに報告して産婆の巫女三人を連れ帰った。
妻たちは今後、立て続けに出産が続きそうなので、彼女たちには二週間程滞在してもらうこととなった。
その夜は僕が舞依と眠り、万が一に備えた。
「舞依、いよいよだね。心配なことはあるかい?」
「いいえ、あなたが居るのだもの。それに普通の十か月の大きさではないから、難産になることはないのではないかしら」
「そうだね。琴葉の時も七か月で生まれて、小さかったから安産だったね」
「でもどうして私が一番早いのかしら?男の子だから?それともこの子が一番、力が強いのかしら?」
「そうだね。男の子で一番力が強いのかも知れないね」
「それなら、天照家の世継ぎとしては都合が良いのかしら?」
「僕は力の強弱とか生まれた順番は世継ぎとは関係ないと思っているよ」
「当主になりたいかどうか。なのかしら?」
「そう思っているよ」
「でも、なりたいだけでなって良いものでもないでしょう?」
「あぁ、まぁ・・・そうだね。最低条件はあるのかな?」
「そうよね」
「でも普通に考えれば、長男が継ぐのが一番自然で問題も起きないとは思いますけれど」
「うん。兎に角、決めつけないことかな。育っていく中で見定めれば良いと思うよ」
「えぇ、そうね」
「さぁ、今夜は早めに眠っておこう」
「はい。おやすみなさい。あなた」
「舞依。愛してる!」
「ふふっ、大好きよ!まぁくん!」
ふたりは抱き合ってキスをしてから眠りについた。
翌朝、早くに目が覚めた。隣で眠る舞依のお腹を透視すると、赤ちゃんはもうかなり降りて来ていた。僕は急いで身支度を整えて舞依を起こした。
「舞依、おはよう!」
「うん・・・あぁ、まぁくん。おはよう!」
「舞依、赤ちゃんがもうかなり降りて来ているよ。準備をしておこう」
「まぁ!大変!すぐに着替えるわね」
今日は早めに朝食を用意してもらえる様に頼んであったので、食堂へ行くと朝食が準備できていた。
「では、軽くお腹に入れておこうか」
「えぇ、そうね」
産婆の巫女たちも僕たちと同じ食堂で朝食を食べていた。
「今日はお願いしますね」
「はい。かしこまりました月夜見さま」
「もう、かなり降りて来ていますから間もなく陣痛が始まると思います」
他の妻たちも集まって来て朝食を食べ始めた。
そして食事が終わり、シルヴィーにお茶を淹れてもらって飲んでいると、
「あ!」
「舞依、陣痛が始まったのかな?」
「えぇ、そうみたい」
「では、このままお茶を飲みながら様子を見ようか」
陣痛の間隔を見計らうと共に、お腹の様子を透視して見守る。
そしていよいよとなってから妻たちに見送られて医務室へ移った。医務室には紗良と幸ちゃんも入った。
それからは早かった。初産ならば、大抵はかなりの時間が掛かるものだが、舞依はあっさりと出産した。巫女たちも驚いていた。まぁ、生む瞬間はそれ相応に痛がってはいたのだが。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ!」
生まれてすぐに赤ん坊は元気な産声を上げた。大きさは小さいが、とても元気な男の子でどこにも問題は見当たらなかった。僕は後処理をして舞依に向き合った。
「う、生まれたのね・・・」
「舞依。元気な男の子だ。頑張ったね。ありがとう!」
「嬉しいわ!」
舞依の瞳からは涙が一筋流れた。
「舞依、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「ありがとう!」
巫女たちが赤ん坊をきれいにしてから舞依の胸の上に抱かせてくれた。念話で他の妻たちも医務室に呼んだ。
「舞依、おめでとう!」
「月夜見さま、おめでとうございます!」
「皆、ありがとう。やはり子が小さいから安産ですんなり生まれたよ」
「それは良かった!」
「可愛いわ!」
「舞依、この子の能力を確認してみようか」
「えぇ、お願いします」
「念話の時は、皆も一緒に聞いていてね」
「はい」
まずは、治癒の力を掛けてみる。すると力を掛けただけ押し戻される感覚があった。
これはかなり強いな。では、念話で話し掛けてみるか。
『こんにちは!』
『あ・・・あぁ・・・』
『これって、この子の声かな?』
『う・・・うぅ・・・あ、あ!』
『念話に反応していますね』
『念話はできるようだね。会話はできないということは異世界転生者で記憶まで持っているということではないのだな。前世がこの世界の神なのかな?』
『では、力は強いのですね?』
『うん。僕らの様に強いから念話や瞬間移動もできるだろうね』
『では、念話でどんどん話し掛けても良いのね』
『そうだね』
舞依が赤ちゃんにお乳を含ませた。
「月夜見さま。この子の名前はどうしましょう?」
「舞依が決めるかい?」
「天照家の名付けは決まっているのではありませんか?」
「琴葉、一応はそうだね。力の強い男の子には「月」を付けるんだよね」
「それで良いのではありませんか?」
「舞依、そうかい?あまり拘りたくはなかったのだけどね」
「気にすることはないでしょう。「月」が付く名で良い名前はありますか?」
「そうだな・・・では、凛月なんてどうかな?」
「どんな字ですか?」
「凛とした、の凛に月だね。りつきなら、リッキーって呼んでも良いし」
「あら、可愛い!」
「そうですね。凛とした。という言葉には「りりしく引き締まった」という意味がありますものね。男の子には相応しいですね」
「流石、幸ちゃん。では舞依。凛月で良いかな?」
「はい。良い名前ですね」
「では、この子の名前は、凛月にしよう」
「はい!おめでとうございます!」
それから二週間のうちに、桜、花音、琴葉、幸ちゃんの順に立て続けに出産した。
皆、安産で女の子だった。
驚くのは、皆、凛月と同じ様に強い力を持ち念話もできた。ただ、記憶を持った異世界転生者は居なかった。
名前は、桜の子が月乃、花音の子が月音、琴葉の子が月葉で、幸ちゃんの子は静月と決まった。
そして結局、全ての子が僕と同じ、青い瞳とプラチナシルバーの髪だった。予想していたとは言え、ちょっと驚いた。でも妻たちはとても喜んでいた。
凛月たちが生まれて四か月、五人の赤ちゃんの世話は多忙だった。
でも、アルカディアから侍女が大勢来ているのでとても助かった。
更にそこへ紗良と陽菜の子が生まれた。二人の子は他の子たちと同じだった。
小さく生まれ、力は大きく、瞳と髪の色は僕と同じだ。
紗良の子は楓月、陽菜の子は月菜と名付けられた。
七人の子たちは皆、力が強いのだが、前世の記憶がなく言葉が話せないため、能力の使い方を教えることができない。こうなると普通の子と何も変わらない。
でも、去年のうちに山本に頼んで、妻たちのマタニティ用の下着とマタニティドレス、それに子供服をこれでもかと山の様に買ってもらったので、子が七人居てもベビー服には全く困らない。
侍女たちがキャーキャー言いながら着せ替えをして楽しんでいた。
アルカディアの秋祭りが近付いて来た頃、ダンスホールが十二か所全て完成した。
アルカディアの侍女たちは、ダンスホールで民にダンスを教えるため、アルカディアへ戻ることとなった。
僕はサンドラに依頼して、十九人全員分のダンスのドレスと男役で踊る時のパンツスタイルの衣装を作ってもらっていた。
アルカディアに着いてから屋敷のサロンに侍女を全員集め、ひとりずつ二着の衣装と靴を渡していった。
「これは君たちがダンスホールでダンスを教える時の衣装だよ。男性役と女性役で踊る時のために両方用意したよ」
「まぁ!男性役の衣装まで!」
「そうなのです。スカート同士だと足運びが見えなくて教え難かったのです」
「靴まで頂けるのですか!」
「これも君たちの大事な仕事だからね」
「今から練習すれば、秋祭りの時に踊れますね」
「そうだね、君たちも秋祭りを一緒に楽しんで踊って良いのだからね」
「はい。ありがとう御座います!」
「月夜見さま。次はいついらっしゃるのですか?」
「あぁ、秋祭りには来ますよ。妻たちは来られませんけれどね」
「はい。お待ちしております」
そしてアルカディアの秋祭りの日となった。僕はひとりアルカディアに飛び、神宮での祭りに顔をだした。今年も豊作だった様で十分な酒と料理が振る舞われていた。
一通り祭りに付き合ってから莉子殿の配給所へ飛んだ。
「莉子殿、お久しぶりです」
「あ!月夜見さま!お久しぶりで御座います!」
「ベルナデットはその後、如何ですか?」
「月夜見さまにご報告したかったのです。ベルナデットは考希 (こうき)と結婚しまして、先日男の子を生んだのです」
「え?男の子を?」
「えぇ、是非、顔を見て行ってくださいませんか?」
「えぇ、分かりました」
莉子殿について配給所へ入って行くと、奥の部屋からベルナデットが子を抱いてでて来た。
「ベルナデット、久しぶりですね」
「月夜見さま。月夜見さまのお陰を持ちまして、昨年結婚しこの子を授かることができました。ありがとう御座います」
「そうですか。それは良かった。どれどれ?」
僕はその子の力の強さを測ってみた。すると普通に宮司になるだけの力はある様だ。
「うん。宮司になるだけの力は持っていますね」
「まぁ!私の子にその様な力が?」
「そうですよ。莉子殿、立派な世継ぎができて良かったですね」
「はい。全て月夜見さまのお陰で御座います」
「いいえ、それが運命だったのですよ。ベルナデット、あなたはここで幸せになるのです」
「はい。ありがとう御座います」
「莉子殿、安心しました。では私はこれで帰ります」
「本当にありがとう御座いました」
「あ!そうだ、ベルナデット、この村にもダンスホールができたのですよね?」
「はい。完成しています」
「では、これから民にダンスを教えるために、私の侍女がこちらに派遣されます。ベルナデットも子育てが落ち着いたら、皆にダンスを教えてあげてください」
「はい。かしこまりました」
「勿論、あなたもご主人とダンスを楽しむのですよ」
「はい!」
「では、私はこれで」
「シュンッ!」
そして月の都に戻ると、数日後にはこちらでも秋祭りの日を迎えた。こちらは花音のお父さんが村長として祭りを仕切っていた。妻たちも子を抱っこして、僕と一緒に祭りの様子を眺めた。
こちらの祭りはもっとシンプルで、祝詞の奏上もなく、村長の挨拶の後、飲んで食べての大宴会で盛り上がるだけだった。ただ、ダンスホールは広場の横にできていたので、こちらでは沢山の人たちがダンスを踊っていた。
ダンスホールの様子を妻たちと見ていると、詩織の陣痛が始まった。
「月夜見さま。陣痛が始まってしまいました」
「詩織、そうか。では屋敷に戻ろう」
『皆、詩織の陣痛が始まったから手伝ってもらえるかな?』
『はい。では屋敷に戻ります』
「譲治殿、詩織の陣痛が始まったので、私たちは屋敷に戻ります」
「かしこまりました。何かお手伝いしましょうか?」
「大丈夫です。もう九人目なのですからね。それより祭りを楽しんでください」
「はい。ありがとう御座います」
これでお産も九回目だ。紗良と幸ちゃんも居るし、陽菜にも手伝いで医務室に入ってもらった。それから一時間程で詩織は女の子を出産した。
「詩織。どう?大変だったかな?」
「いいえ、やっぱり三人目だし、子が小さいから楽でした」
「え?詩織、これで楽なの?」
「あぁ、陽菜は初めてだからこれでも痛いと思ったのね。十か月で三千グラムを超えた子を生むのはこの比ではないのよ」
「そうなの?月夜見さまの子で良かったわ!」
「そうね」
詩織の子もやはり、他の子と同じ特徴だった。そして緋月と名付けられた。
これで妻が全員、ひとりずつ子を出産した。僕は一男七女の父となったのだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました!