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20.おめでた続き

 静たちが来てから初めてのダンスレッスンをした。


 静たちは休みの日もダンスをして楽しんだと言うだけあってとても上達していた。

シルヴィー以外の侍女たちもかなり踊れる様になって来た。


「これは月の都と村にもダンスホールを作った方が良さそうだね」

「月夜見さま、それは私たち使用人が使うダンスホールですか?」

「シルヴィー、そうだよ。それと村にもね」

「それは楽しいですね!」

「では、大工組合のマルクを呼んで早速、建設してもらおう」


 それから二週間毎にアルカディアの侍女は入れ替わりながら、それぞれ滞在中に一回はピクニックに出掛けた。フロックス王国のサバンナのサンクチュアリで野生動物を見たり、ネモフィラの湖へも行った。




 そして秋が訪れ、アルカディアの秋祭りの日が近付いていた。

妻たちと侍女たちを連れてアルカディアに向かった。屋敷には二泊だけ滞在することになった。前夜に到着し、椿さんと美月殿から祭りの概要を聞いた。


 秋祭り当日は午前中から神宮にどんどん人が集まった。

神宮の中に皆が入れる訳はないので、神宮の大広間の前の戸を開け放ち、神宮の前の広場から中が見える様にして宮司の美月殿が祝詞のりと奏上そうじょうする。


 その後、椿さんがこの祭りの趣旨とこれからの流れを説明した。

「皆の者、今日はアルカディアで初めての祭りを開催します。今年からアルカディアの主となられた月夜見さまのご発案です」


「祭りとは、春にはアルカディアでの五穀豊穣と全ての仕事場での安全を祈願し、秋には収穫を祝うものです」


「先程、宮司の美月さまによって祝詞のりと奏上そうじょうされました。この後は各配給所より食事と酒が提供されます。皆で今年の収穫を祝いましょう」


「この祭りを作ってくださった月夜見さまに感謝を捧げましょう!ありがとう御座います!」

「月夜見さま!神さま!ありがとう御座います!」

 僕と妻たちは民に手を振った。

「さぁ、ではこちらに用意された食事と酒を好きなだけ召し上がってください」

「うわぁ!月夜見さま!感謝致します!」

「収穫万歳!月夜見さま万歳!」


 僕たちは神宮の大広間の一角に座って、その光景を眺めていた。沢山の民が本当に嬉しそうに食事をし、酒を飲んで楽しんでいた。


「今回は初めてだからこれだけの行事なのだけど、そのうちに神輿みこしを作って担ぐとか、地域によって新しい祭りになって行くのだろうね」

「そうね。日本の祭りも地域によって全く違うものになっているのですよね」

「これから五百年近くあるのだからね。どんな祭りになって行くのかも楽しみだね」

「そうですね」


 その後、僕たちは屋敷に戻り、祭りの賑わいを聞きながらサロンでお酒を飲み、軽食を食べてのんびりした。

「舞依、ベルナデットの様子を見に行くかい?」

「私は遠慮しておくわ」

「そうだね。では、僕は少しだけ見に行ってくるよ」

「えぇ、よろしくお願いします」


「シュンッ!」


 僕はひとり配給所の中へ飛んだ。

「うわぁ!」

「あぁ、驚かせてすまないね。莉子りこ殿は居ますか?」

「あ!は、はい!少々、お待ちくださいますか?」


 配給所の周りは人でごった返していた。ここでも秋祭りの最中だったのだ。

「月夜見さま!お久しぶりです!」

「おぉ、莉子殿。今日は祭りで大忙しでしたね」

「いいえ、もう私のやることはありませんから大丈夫です」

「ベルナデットの様子は如何ですか?」


「それでしたら、あちらに居りますよ」

 莉子殿が指し示す方を見ると、そこには莉子殿の息子、孝希殿とその横で華やかに笑っているベルナデットの姿があった。二人でお酒を飲んで周りの者と歓談している様だ。


「思ったよりも元気そうですね」

「えぇ、一か月くらいで慣れて徐々に明るくなってきました。今では楽しそうに仕事をして孝希といつも一緒に居るのです」

「それは結婚するということですか?」


「まだはっきりとは言わないのですが、お互いにそのつもりはあるのではないでしょうか?」

「そうですか。それは良かった。ではまた様子を見に伺いますね」

「はい。ありがとう御座いました」


「シュンッ!」


「月夜見さま。お帰りなさい!ベルナデット姉さまの様子は如何でしたか?」

「舞依、莉子殿の息子と結婚するかも知れないって。遠目で見ても良い雰囲気だったよ」

「莉子殿の息子って姉さまと歳が近いのですか?」

「それが同い年で独身だったんだよ」

「まぁ!そんな偶然が?」


「これも運命なのだろうね」

「でもそれを聞いて少し、気が楽になったわ」

「うん。彼女がこれで幸せになってくれたら、僕らも胸につかえていたものが取れるというものだね」

「そうなってくれることを願うわ。月夜見さま。私と姉さまのためにありがとうございます」

「僕と舞依のためなのだからね、当然だよ」


 そして賑やかな祭りの日は過ぎていった。僕らはその翌日、月の都に帰った。




 僕はそろそろ自分の仕事を進めようと思った。それは、サンクチュアリの二十九か国を回って、人口の増加を確認し、増えている場合は農業と漁業用、それに人が乗る船の追加が必要かを確認するのだ。更に冷蔵庫や洗濯機などの電気製品の供給の時期を検討しなければならない。


 僕は事前に各国へ訪問する旨の連絡を入れておき、ひとりで瞬間移動して一時間ずつ聞き取り調査をしていった。


 まずは、やはりネモフィラ王国からだ。応接室にはステュアート王と王妃三人、フォルラン王子と柚月ゆつき姉さま、それに宰相さいしょうが並んだ。


「月夜見、今日はどうしたのですか?」

「伯父さま、フォルラン、私は始祖の天照さまより、この星の管理を託されました」

「この星の管理?どういうこと?」

「フォルラン。あの灯りは何故光るか知っているかい?」


「それは天照さまが供給してくださる光で灯りをともしているのだろう?」

「そうだね。その光を生むのは御柱みはしらだ。それを創ったのも天照さまだし、人が乗る船も農業や漁業で使う船も天照さまが造って供給して来たものだよ」

「それは知っているよ」


「そうだね。それをどこで造って、保管しているかを天照さまから教わったんだ。そして、今後人口が増えて追加の神宮や船が必要になった時、僕がそれを分け与える役目を担うこととなったんだ」


「おぉ!そういうことか!」

「それでね。ネモフィラでは今、人口がどれくらい増えているのか、船に不足はあるのかを聞きたいのです」

「なるほど。宰相、現在の人口はどうなっている?」

「はい。月夜見さまがネモフィラ王国にいらっしゃった約十年前は、人口は三万人でした。それからこの十年間で八千人増えて現在は約三万八千人となっております」


「もうそんなに増えていたのですね。それでは、この十年で亡くなった人数も含めて考えれば、生まれた子は一万人以上ですね。その男女比はどうなっていますか?」

「はい。男性が約六千五百人、女性が約四千五百人と少し男性の方が増えております」

「お兄さまの本の知識のお陰ですね」


「それは良かった。ではこのままいけば、男女比は同じくらいになっていきますね」

「本当にありがたいことです」


「では、この十年で人口は三割近く増えている訳です。それだと食料生産を増やさねばなりませんし、十年前に生まれた子が成人する五年後からは活動する若者がどんどん増えて行くのですから、農業と漁業用の船と人が乗る船も増やさねばなりませんね」


「その船を提供して頂けるのですか?」

「えぇ、これから毎年、新しい船をお送りしましょう」

「ありがとう御座います」


「月夜見。神宮も増やして行きたいのだが」

「うん。それも屋敷の建築は大工ができると思うけれど、光の供給の部分はこちらで提供しましょう」

「それはありがたい!」

「お兄さま、ありがとう御座います」


「では、現在の船の数も種類別に確認して教えてください。人口の比率を考えて各国へ配分しますから」

「では宰相、確認してお知らせする様に」

「かしこまりました。すぐに取り掛かります」


「それと、これはまだ少し先になるのですが、電気製品というものを提供する用意があります」

「電気製品?それは何ですか?」

「まずは、冷蔵庫と冷凍庫。これらの中に肉や魚、野菜を入れて冷やしたり、凍らせることで、それらを日持ちする様にできるものです」

「それは便利ですね。もうできているのですか?」


「柚月姉さま、できているのですが、これを皆さんに与えるにはまず、教育して頂かないといけないのです」

「教育しないと使えないものなのですね?」

「いいえ、使うだけなら教育は不要です。箱に肉や魚、野菜を入れるだけなのですからね」


「では何を教育するのですか?」

「肉や魚、それに野菜を何日間保存できるのか、またそれらが腐ってしまって、それを人が食べたらどうなるのか、そもそも食品が腐るとはどういうことなのか。それを学ばないといけないのです」


「この箱に入れておけば肉や魚が長持ちするのです。と言って渡したら、人はどうするでしょう?」

「うーん。いつまでも入れておいて取っておこうとする・・・でしょうか?」

「そうです。それは動物の本能なので仕方がないのです。でも実際には食品ごとに保存できる日数は違うのです。それを越えて入れたままにしておくと結局は腐らせてしまうのです」


「そして腐るということが分からない人は、知らずに腐った肉や魚を食べてしまい、お腹を壊してしまうのです。まだ体力のある大人はお腹を壊したくらいで済む場合もありますが、子供やお年寄りの場合は命を落とすこともあるのです」

「それは恐ろしいですね」

「えぇ、便利な道具も正しく使わないと危険なものになってしまうのです」


「それで教育が必要なのですね?」

「そうです。姉さま。私としてはこの冷蔵庫は全ての国民に与えたいのです。それで全国民に教育ができるまでに何年掛かるのだろうというところなのです」

「その教育をするための本はお兄さまが作ってくださるのですか?」

「はい。作ります」


「これから各国を回り、教育ができるかどうかを聞きます。教育ができないと言った国には与えません。できる場合は全国民に教育が完了した時点から配布を始めます」

「お父さま、あとどれくらいで全ての領地に学校が作れるでしょうか?」

「そうだね。あと三年くらいだろうか」

「それから一年あれば、教育はできそうですね」


「そうだね。では、ネモフィラ王国では三年後から教育を始めて、四年後にその冷蔵庫とやらを頂けると良いかな」

「伯父さま、分かりました。では、それまでに全家庭に配布するために必要数も算出しておいてください」

「分かりました」


「宰相、各領主に人口と家族数については、厳格に統計を取る様に指示を出してくれ」

「かしこまりました」


「では、船の方は配布の手続きに入りますので、お渡しする段になりましたらお知らせします」

「ありがとう御座います。よろしくお願い致します」

 そしてネモフィラ王国を後にした。




 それから、二十九か国を全て回った。どこも人口の増加が著しかった。中でもオリヴィア母さまの母国のカンパニュラ王国が、一番人口が増えていた。


 しかも男性の比率が一番高くなっていたのだ。やはり月の都のお膝下の国だけはある。まぁ、オリヴィア母さまのお母さん、ヘレナ王妃が熱烈な応援をしてくれたからな。


 他の国も皆、一様に好意的に捉えてくれて、教育の方も前向きに取り組んでくれることとなった。大体どこの国でも、遅くとも五年後には電気製品の配布ができる様になりそうだ。

僕は、紗良と幸ちゃんと三人で、冷蔵庫と冷凍庫の正しい使い方という題名の本を作ることになった。


 船の方は各国の人口増加に合わせて毎年、必要数を届けて行くこととなった。

僕がその配布計画を国毎に作成し、ファクトリーから各国王より指定された場所へ送り届けることとなる。


 必要数が算出できた時点で一度、ファクトリーへ飛んで、あのアンドロイドに生産計画を指示する予定だ。それらを週に一度の休みを挟みながら粛々と進め、休みの日には妻や侍女を連れてピクニックに出掛けてのんびりと過ごした。




 そうして忙しく過ごしているうちに、僕と舞依は十七歳になった。


 年が明けると妊娠している妻たちの子の性別も判明した。桜、花音、琴葉、幸子の子は女の子で舞依の子だけが男の子だった。そして皆、口々に成長が早いと言っている。


「琴葉、また天照さまの時みたいに成長が早いのかい?」

「えぇ、だってまだ妊娠四か月なのよ。それで性別が分かるのですもの」

「もしかして皆、暁月ぎょうげつお爺さまの様に宮司以上の力を持っているのかもね」

「その可能性はあると思いますよ」

「それは楽しみの様な、怖いような・・・」


「でも、力の強い私たちの子なのですから、大きな力を持つことは当たり前なのではありませんか?」

「陽菜、そうではなくて、僕たちの様にお役目を持つ神と以前に神であった人だけが強い力を持って生まれて来るのだよ」

「あ!そうでしたね」

「でも能力の強さなんてどうでも良いです。元気で生まれてくれたらそれだけで十分です」

「花音、そうだね」




 月の都の使用人と村でもおめでた続きになっている。ネモフィラ王国の捨て子四人組のミモザ、プリムラ、アイビー、アミー、それにアミーと一緒にスヴェンと結婚したエミリーも妊娠した。


 更には、レオと結婚した法律の先生ペネロペ、歴史の先生アイヴァンと結婚した、グロリオサ服飾店のサンドラ、屋敷の厨房のジーノの妻ケイト、侍女のノエミも妊娠した。


 基本的には屋敷と村の妊婦は、紗良と幸ちゃんが検診をしてくれている。紗良と幸ちゃんの白衣姿がとても素敵なのだ。


「紗良さま。私、大丈夫でしょうか?ちゃんと生めるのでしょうか?」

「ペネロペ先生。まだ二十三歳なのでしょう?三十歳でも普通に生めるのです。二十三歳なんて若いのですよ」

「そう・・・でしたね。勉強はしたのですけど、まさか私が結婚して子を生むなんて考えもしていなかったので不安で・・・」


「大丈夫よ。私や月夜見さまも居るのですからね。必ず、無事に生めますよ」

「そうですね。神さまが診てくださるのですものね」

「えぇ、安心して良いわ」


「幸子さま。私、本当に妊娠しているのですか?」

「もう何度も言っているでしょう?確かに妊娠していますよ。もうお腹がこんなに大きくなっているではありませんか」

「でも・・・私、三十二歳なのに」

「三十二歳の出産は特に問題ありません。普通に生めますよ。それより、ご主人が喜んでいるでしょう?」


「それはもう!でもアイヴァンがあんまり喜ぶものだから、少し不安になるのです」

「大丈夫。もうここまで育っているのですからね。もう男の子か女の子か分かりますよ」

「え?どっちなのですか?」

「男の子です」

「え!男の子!まぁ!嬉しい!」


「男の子が欲しかったの?」

「アイヴァンが、自分の子は先生にするって。男の子が良かったみたいだから」

「それは良かったわね。おめでとう!」

「ありがとう御座います!」


「次はあなたのお店を継ぐ、女の子も生むと良いわ」

「え?私、まだ生めるのですか?」

「えぇ、三人でも四人でも生めますよ」

「本当ですか?」

「でもこの子が生まれてから一年は空けるのですよ」

「はい!そうします!」


 紗良は陽菜に相談した。

「陽菜、今、月夜見さまに頼まれて、幸ちゃんと妊婦の検診をしているじゃない?」

「えぇ、その様ね。それがどうかしたの?」

「皆の幸せそうな顔を見ていたら、私も自分の子が欲しくなって来たわ」

「あぁ、そういうことね。では次の排卵で作るのかしら?」

「そうね。そうしようかしら。陽菜はまだ良いの?」


「紗良が作るのなら私も作ろうかしら」

「えぇ、一緒にしましょう」

「詩織にも声を掛ける?」

「でも詩織はクラウスがネモフィラ王国へ移ってからでしょう?」

「あぁ、そうだったわね」




 そして、紗良は排卵の日を迎えた。

「紗良、では女の子で良いのだね」

「はい。お願い致します」

 事が終わって紗良を抱きしめて安静にしていた。


「本当に作業の様にするのですね」

「そうだね。味気ないよね」

「でも仕方がありません。女の子を作るためですもの」

「陽菜ももうすぐ排卵なのだよね。二人で合わせたのかい?」


「えぇ、そうです。使用人や村の妊婦を診察しているうちに、うらやましくなってしまったのです。陽菜に話したら、もう私たちも作ろうということになったのです」

「そうか。紗良との子は楽しみだな」

「え?そうですか?」


「だって紗良の子だもの。相当可愛い女の子になるよね」

「それは私が可愛いってことですか?」

「勿論だよ。紗良は初めて会った時から可愛いと思っていたからね」

「え?初めての時を覚えていらっしゃるのですか?」

「勿論!ネモフィラの神宮に瞬間移動した時に廊下でぶつかってしまったよね」


「まぁ!それを覚えていてくださったのですね!」

「紗良。興奮しないでね。落ち着いて」

「あ!私ったら!ごめんなさい」

「良いんだよ。でもあの時からずっと変わらず、いや、あの時よりももっと可愛くなっているよ」


「でも、母親になるのに可愛いなんて・・・」

「ふふっ、可愛いお母さんなんて素敵じゃないか」

「月夜見さまがそうおっしゃるなら・・・嬉しいです」

「うん。可愛い紗良。愛しているよ」

「私も愛しています」

 紗良は安心したのか僕の胸の中で眠りに落ちた。


 可愛い紗良と陽菜が揃って妊娠できる様に願わないといけないな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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