19.人生のやり直し
アルカディアから戻った翌朝、目覚めると舞依がまだ眠っていた。
僕は透視をして、舞依の卵管を確認すると排卵していた。このままならば受精する可能性が高い。つまり、それは当面の間、舞依とセックスできなくなるということだ。
そう思ったら我慢できなくなった。僕は眠っている舞依にキスをし抱きしめた。
「う、うん・・・まぁくん。おはよう」
「舞依、おはよう」
「またしたくなっちゃったの?」
「駄目かな?」
「良いわ。私が拒否する訳ないでしょう?」
そして、朝だというのに濃厚なひと時を過ごした。五日後に妊娠を確認することにしよう。
そしてその翌日、幸ちゃんが排卵した。まだ昼間ではあったが幸ちゃんの部屋へ行って作業の様なセックスをした。
そのまま幸ちゃんを抱きしめてベッドで話しをした。
「月夜見さま。私、とても幸せなのです」
「それは良かった。幸ちゃんは前世でも今世でも、沢山勉強し、働いて真面目に努めてきたからね。それが全て報われているのだろうね」
「そうだと嬉しいです」
「イベリスのアルベルト王子ももうすぐ成人して、春月と結婚できるね」
「アルベルトより、先に子が作れそうで良かったです」
「あれ?幸ちゃんってそんなこと気にするの?」
「いいえ、気にするということはないのですが、春月の方が私たちより年上なのに、お姉さまって呼ばれているから・・・」
「あぁ、そうか。先に子を作って居れば、実質、お姉さんっぽいものね」
「えぇ、そうなのです」
「それじゃぁ来年、すぐにもう一人作るかい?」
「えぇ、是非!」
そしてその一週間後、琴葉が排卵した。幸ちゃんと同じ様に午前中から作業の様なセックスをしてそのまま琴葉の部屋で過ごしていた。
「琴葉と僕の子だと同じ瞳と髪の色になるね。天照さまみたいに」
「そう言えば私って、生まれてから一度も親に似ていると言われたことがないの。父と瞳と髪の色は同じなのに」
「それは天照さまが言っていたよね。僕と天満月は、魂に記録されたこの容姿に生まれるって」
「えぇ、そうだったわね」
「でも、天照さまではない僕らふたりの子の容姿はどうなるのだろう?」
「皆、天照さまと同じ顔なのでしょうか?」
「え!それじゃぁ、クローンみたいで怖いよ!」
「でも、青い瞳でプラチナシルバーの髪は一緒でしょうね」
「男の子でも女の子でも?」
「それはそうでしょうね」
「そうなのかな・・・」
「あら。がっかりしたのね?そんなにストロベリーブロンドの髪が好きなのね?」
「あ、いや・・・好きです」
「本当に分かり易いのね。でも三人もその髪の妻が居るのですから、きっと生まれるわよ」
「そうだよね!」
「ふふっ、嬉しそう!」
そして、桜、花音、舞依、幸子、琴葉の五人は揃って妊婦となった。
アルカディアの侍女も二週間が経過しようとしていたので、ネモフィラ王国のチングルマの咲く山へとピクニックへ出掛けた。
サンドウィッチと珈琲にお茶を持ち、動力のない船にクラウスと侍女たち、それに小白、フクロウを乗せた。妻たちは妊娠していない、紗良、陽菜、詩織だけを連れて行った。
「シュンッ!」
「さぁ、着いたよ、今日はここでピクニックだ」
小白が全速力で走って行く。フクロウもいつもより嬉しそうな感じで飛び回っていた。
「素敵!雲が下に見えます!」
「あの白いのは全てこの花なのですか?」
「あぁ、白い花はこの辺り一帯だけだよ。あの高いところに白く見えているのは雪だよ」
「ゆき?って何ですか?」
「雨の粒が寒いところでは凍って白い粒になるんだ。それを雪と言ってね。雪が沢山降り積もると、あの様に白い絨毯の様になるんだよ」
「雨ではなく、氷が降る世界があったのですね!」
「では、あれはみんな凍っているのですか?」
「そう、ここは高山といって、アルカディアにある山よりもうんと高いんだ。そうすると夜に凄く寒くなるから、凍った雪がいつまでも溶けないで万年雪と呼ばれるものになるんだよ」
「夏でも氷が溶けないのですね!」
「そうだよ。このネモフィラ王国では、冬には平地でも雪に覆われて真っ白な世界になるんだよ。そうなった時に連れて来てあげるよ」
「本当ですか!嬉しい!」
皆の反応がいちいち可愛いな。
「月夜見さま。この世界ではこうして外で食事をすることが多いのですか?」
「蘭、これをするのは私たちだけなんだ。この世界の人はしないよ」
「そうなのですね。とても楽しいのに」
「蘭たちがアルカディアで家庭を持ったら、お休みの日に是非、家族でピクニックに行くと良いよ」
「そうですね。そうしたいです」
そして、一日を夏山で過ごして屋敷へ戻った。
蘭たちの滞在が終わり、アルカディアへ送る日となった。
「月夜見さま、二週間後にはまたここへ来られるのですよね?」
「うん。その予定だよ」
「では、それを楽しみにアルカディアでも頑張ります」
「そうだね。向こうでもダンスの練習はしっかりとね」
「はい。練習します」
そして、十人の侍女たちを乗せアルカディアへ飛んだ。
「シュンッ!」
「さぁ、着いたよ」
「蘭、皆、お帰りなさい!」
「静、問題はなかったかな?」
「はい。九人でも十分にお掃除ができて、ダンスの練習もしました」
「お休みは取れたかな?」
「はい。二回お休みを頂きました。でもダンスが楽しくて四人で踊っていましたけど」
「そうかい。楽しいならそんなお休みでも良いのですよ」
「はい」
「静、私は少し用事があるから出発の準備をして少し待っていてくれるかな?」
「かしこまりました。準備をしておきます」
そして椿さんに連絡事項を聞いてから僕はひとりでアルカディア南部の蘭の実家のある地区の配給所へ飛んだ。配給所に入ると莉子殿を探した。
「こんにちは、月夜見です。莉子殿は居ますか?」
「あ!月夜見さま!ようこそいらっしゃいました」
「莉子殿、少しご相談があるのですが」
「まぁ!何でしょうか?では応接室へどうぞ」
応接室でお茶を頂きながら話をする。
「莉子殿には、お子さんはいらっしゃるのですか?」
「はい、娘と息子が居ります」
「どちらがここを継ぐのですか?」
「息子にと思っていたのですが・・・お相手に恵まれないのです」
「え?治癒の能力をお持ちで神の子孫であるのに?」
「それが妨げとなっているのです。皆、神の子孫と聞いただけで、畏れてしまうのです」
「あぁ、それはよく分かります。このアルカディアの民であればそうなっても仕方がないですね。それでお子さんは今何歳なのですか?」
「はい、娘の千紗は二十六歳、息子の考希は二十四歳です」
「娘さんも結婚していないので?」
「いえ、千沙は結婚して子も居ります」
「この辺で暮らしているのですか?」
「千沙の主人と共に倉庫の管理をしております」
「そうですか。それで莉子殿に相談というのは、私の世界の女性を一人、ここで生活させたいのです」
「まぁ!別の世界からの移住者で御座いますか?」
「そうなのです。莉子殿の庇護下においてもらえないでしょうか?」
「私が面倒を見れば良いのですね?仕事はどうしましょう?」
「彼女は王女だったので仕事をしたことがないのです。ですが、アルカディアの民となるからには仕事もして頂きます。ただ、いきなり農家に入れても難しいと思います。それで配給所の仕事で徐々に慣らして行ければ良いと考えたのです」
「そのお方はお幾つなのですか?」
「二十四歳です。ベルナデットといいます。結婚はしていたのですが離婚しました。子を生んだことはありません」
「何か、事情のあるお方なのですね」
「えぇ、王家の複雑な事情で心を乱してしまったのです。ですが今は落ち着いているのです。アルカディアで人生をやり直させたいと考えているのです」
「それでしたらお引き受け致します」
「そうですか。ありがとうございます」
「あの・・・もし、そのお方を考希が気に入ってしまったら・・・」
「勿論、お互いが良ければ結婚して頂いて構いません」
「かしこまりました」
「では、期日が決まりましたらお知らせしに参ります」
「お待ちしております」
僕は瞬間移動で屋敷へと戻った。
二週間前、アルカディアから戻ってすぐに、舞依のお母さんにベルナデットをアルカディアへ移住させる話を提案した。
そして舞依のお母さんは、すぐにベルナデットにこの話をしてくれたのだ。そして一週間考えた末に、ベルナデットはアルカディアへ行く決心を固めたのだ。莉子殿が引き受けてくれることになり一安心だ。
屋敷では静と八人の侍女が出発の準備を整えて待っていた。
「静、準備は良い様だね。では行こうか」
「はい。お願い致します」
「では蘭、また二週間後に迎えに来るからね」
「はい。お待ちしております!」
「シュンッ!」
「さぁ、皆、これが月の都だよ。一度外側から見てみようね」
前と同じ様に月の都と村を遊覧飛行しながら見せた。
「素敵!大地が海に浮かんでいるわ!」
「何て美しいところなの!」
「村も整然と並んでいるのね。畑もとてもきれいだわ」
「皆、この屋敷には狼の小白が居るんだ。とても大きな肉食獣なのだけど、赤ん坊の時から私が育てている友達だから、皆に襲い掛かったりはしないから安心してね」
僕は念話で小白を呼んで、船着き場に待たせておいた。
「さぁ、皆、着いたよ。これが小白だよ」
「わぁ!本当に大きい!」
「毛並みがきれいね!」
シルヴィーたちと静たちを対面させて紹介した後、使用人の部屋へ案内し、静たちの二週間の滞在が始まった。
莉子殿がベルナデットの受け入れを承諾してくれたことを受け、ベルナデットのアルカディア移住が決定した。舞依のお母さんが離宮に行き、出発の日を調整してくれた。僕は莉子殿にその日を伝えた。
そして、ベルナデットが離宮を発つ日が来た。僕はひとりアスチルベ王城へ飛ぶと、現王のウィリアム殿と結月王妃と共に離宮へ入った。
「月夜見さま。ようこそお越しくださいました。また、この度はベルナデットに恩情を賜り、神の住まう大地に住まわせて頂けるとのこと。誠にありがとう存じます」
「ロベール殿、ベルナデット殿も十分に苦しんだのです。この後の人生には、幸せがあっても良いのだと思います」
「おぉ!月夜見さま!ありがとう御座います!ベルナデット、あなたは幸せになっても良いのですって!」
「お母さま。私・・・本当に良いのでしょうか?」
「ベルナデット。向こうではあなたは王女でも貴族でもありません。あなたを知る者も居ないのです。そこでひとりの人間として、毎日仕事をして暮らすのです。それができますか?」
「はい。私は生まれ変わったものとして、人生を一からやり直したいと思います」
「それで良いのです。では行きましょうか?荷物の準備はできていますか?」
「はい。こちらに」
「では、その荷物は後で引き寄せますので先に行きましょう。ご両親に挨拶を」
「お父さま、お母さま、ご迷惑をお掛けして申し訳御座いませんでした。末永くお達者で」
「ベルナデット。私も悪かったのだ。お前の幸せを願っているよ」
「ベルナデット。向こうで幸せになるのですよ」
「お父さま、お母さま、今までありがとう御座いました」
「ベルナデット。行きましょう。では私の手を取って」
「はい」
「シュンッ!」
僕とベルナデットは、莉子殿の居る配給所の前へ出現した。
「さぁ、ここが君の新しい生活の場です」
「あ!月夜見さま!お待ちしておりました」
「莉子殿、こちらがベルナデットです」
「私はこの配給所の管理をしています。莉子と申します」
「ベルナデットと申します。よろしくお願い致します」
「こちらが、私の娘の千紗で、あちらにある倉庫の管理をしています。そしてこちらが息子の考希です。私の後を継ぐ予定です」
「千沙です。ベルナデット、分からないことがあれば何でも聞いてください」
「はい。よろしくお願い致します」
「孝希です。ベルナデットさま。よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ。よろしくお願い致します」
気のせいか、ベルナデットの顔が赤くなった気がした。
「莉子殿、ベルナデットの部屋はどちらでしょうか?荷物を運びたいのですが」
「はい。こちらへどうぞ」
配給所の隣は神宮の様な造りになっている。その奥に莉子殿の居住スペースがある様だ。
その中の一室がベルナデットの部屋になっていた。やはり平民の部屋というよりは神宮にある部屋に近く、広くて立派だった。
「この部屋ならば十分ですね。では荷物を入れましょう」
「シュンッ!」
「ゴトッ!」
「まぁ!荷物が現れたわ!」
「では莉子殿、ベルナデットをよろしくお願いします」
「月夜見さま、かしこまりました」
「ベルナデット。私はこれで戻ります。あなたがここで良い人生を送ることを願います」
「月夜見さま。ありがとう御座いました」
「シュンッ!」
月の都に戻り、僕の部屋で詩織と相談をする。
「詩織、実家に連絡はしたのかな?」
「えぇ、鳥の電話でお母さまに明日、伺うと伝えました」
「それで、詩織としてはどうするつもりなの?」
「基本的にはアンナマリーの希望の通りにと思うのですが」
「そうだね。でも相手の居ることだから、アンナマリーの思い通りにはならないかも知れないよね」
「そうですね。どちらにしても人として道を外さない様にして頂かないと」
「まぁ、そうだね。そこまでアンナマリーが先のことを考えているか・・・だね」
詩織と話しながら、僕は詩織を抱き寄せて身体中を撫でまわしていた。
「月夜見さま。それだけでやめないでくださいね」
「やめる訳ないでしょう?」
「まぁ!昼間から求めてくださるのですか?」
「だって、それがご希望なのでしょう?」
「えぇ、嬉しいわ」
そして、夕方まで愛し合ってしまった。
翌日、詩織と一緒にネモフィラ王国の詩織の実家に飛んだ。
「シュンッ!」
「あ!月夜見さま!詩織。ようこそいらっしゃいました」
「ジョアンナ殿、お久しぶりです」
「さぁ、サロンへどうぞ。すぐにお茶を」
「ありがとうございます」
サロンでお茶を頂いていると詩織のお父さん、テオ殿もやって来た。
「お母さま、アンナマリーの様子は如何ですか?」
「アンナマリーは学校から戻るとすぐに神宮へ行ってしまうの。お休みの日は朝食を食べてから夕食までずっと神宮に行ったままなのよ。だから様子を聞かれても神宮に行くのが楽しみになっている様ね。としか言えないわ」
「まぁ!それでは入り浸りではありませんか!困った子ね」
「それでは、神宮に行って月影姉さまに聞いた方が良さそうだね」
「そうですね。でもちょっと怖いわ」
「では、神宮へ行こうか」
「えぇ、そうですね」
「シュンッ!」
神宮の廊下に出現すると、丁度、巫女が通り掛かった。
「あ!月夜見さま!応接室の方へどうぞ。すぐにロベリアさまをお呼びします」
「うん。頼みます」
しばらくしてロベリア殿がやって来た。
「月夜見さま、お久しぶりで御座います」
「ロベリア殿、お久しぶりです」
「今日はどうされたのですか?」
「アンナマリーがお世話になっていると聞いて様子を伺いに来たのです。聞くところによると、学校に行く時間以外はほとんどこちらにお邪魔しているそうですね」
「えぇ、そうです。アンナマリーはとても勉強熱心ですね。すでに宮司としての知識や治癒能力は月影さまに近いそうですよ」
「え?もうそんなに?」
「はい。元々、能力が高いのでしょう。良夜よりも治癒の力が強い様です」
「そうですか」
しばらくして手の空いた月影姉さまが応接室に入って来た。
「お兄さま!来ていたのですね」
「アンナマリーの様子を聞きに来たのです」
「アンナマリーは凄いわ!私ともうそれほど変わらないくらい治療ができるのです。今年中には宮司になれると思うわ」
「え!もう?十一歳で宮司に?」
「えぇ、実際にならなくとも、その実力はあると思います」
「そうか。凄いな。それで、秋高と良夜とはどんな感じになっているのかな?」
「三人で仲良くしていますよ。特にどちらかと親密になることもないですね」
「え?そうなのですか?」
「えぇ、お兄さま、何をそんなに心配しているのですか?」
「い、いや、僕の老婆心ならば良いのです」
それを聞いて安心した僕らはマイヤー家に戻った。するとしばらくしてアンナマリーが学校から帰って来た。
「あ!お父さま!お母さま!来ていたのですね!」
そう言って僕の胸に飛び込んで来た。
「ちょっと!アンナマリー、月夜見さまに抱きつき過ぎです」
「良いではありませんか。ずっと会っていないのですから!」
「まぁまぁ、詩織。良いじゃないか」
「まぁ!月夜見さままで」
「だって、アンナマリーは可愛いからね」
「お父さま!嬉しい!」
更にきつく抱きしめられた。
「アンナマリー、これから神宮へ行くのかい?」
「はい。行きます」
「神宮の仕事は楽しいかい?」
「はい。とっても!」
「そうか、アンナマリーは宮司になりたいのかな?」
「えぇ、私は宮司になります」
「どこで宮司になるかは決めているの?」
「それはどこでも構いません。どこでだってやることは同じですもの」
「アンナマリーは偉いな」
「えへっ、お父さまに褒められました!」
「良かったわね。アンナマリー」
アンナマリーは真っ直ぐに、とても良い子に育っている。僕は余計な心配をした様だ。
お読みいただきまして、ありがとうございました!