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15.アルカディアの改革

 アルカディア四日目、朝食後に役場のオウムを通じて椿さんを呼んだ。


 応接室に妻たちも入り、椿さんを取り囲む様に座った。侍女には珈琲を淹れてもらった後、退室してもらった。


「椿さん、忙しいところすみませんね」

「そんな、滅相も御座いません」

「今日はお聞きしたいことがありましてね。アルカディアでは、全ての仕事で休みがないとお聞きしました。そうなのですか?」

「休み?で御座いますか?それはどういうものでしょうか?」


「椿さんも知らないのですね。週に一日はお休みといって仕事をしない日を作るのですよ」

「それで、その日は何をするのでしょう?」

「お休みというのは、仕事をしないで自分の好きなことをするのです。何もしないで一日寝ていても良いし、好きな料理を作って食べるとか、やりたいことをする日です」

「それは初めて伺いました」


「先代の神から休みについて何か聞いていないのですか?」

「はい。お聞きしたことが御座いません」

「月夜見さま、五百年前の日本には休みなんてないのだと思います」

「あぁ、そうか」


「五百年前って何時代かな?」

「室町時代の終わり頃ですね」

「流石、幸ちゃん!室町時代か・・・それは休みなんてなさそうだね」


「現代の映画や音楽からお休みの概念を知ることは難しいでしょう」

「そうだろうね。まぁ仕方がないね。先代の神々が悪い訳ではない。ということだね」

 椿さんは話が分からず、きょとんとしている。


「椿さん、役場には何人の人が働いていますか?」

「二十名の者が居ります」

「そうすると、週に一日の休みを取らせると、毎日誰かしら三人が休んでいるので、十七名出勤となるのです。今より三名少ない状態で毎日の仕事は回りますか?」


「そうですね。やってみたことがないので分からないのですが、何とかなる様に思います」

「そうですか。では、やってみてもらえますか?それで人手が足りなくなるのであれば、考えないといけません」


「他の仕事ではどうでしょう?そもそも、仕事を持っていない人というのは居るのでしょうか?」

「いいえ、学校を卒業する時、やりたい仕事に就かせます。たまには人手の足りないところへ行かせることもあるのですが、全ての者に仕事を与えます」

「あれ?それって、人手が足りている工場にも入りたければ入れている。ということですか?」

「はい。左様です」


「なんだ。では、人手が余っている可能性はあるのですね」

「そうですね。仕事が早く終われば早く帰る日もありますから」

「それなら休みを取ることは可能みたいですね。あとは農家だな。農家の仕事に休みは取れないものかな?」


「月夜見さま。農家の仕事はその生産する作物や季節によって手の掛かり方が違います。ですが、アルカディアでは農業用の船や機械が十分にある様ですから、休もうと思えば休めると思います」


「幸ちゃん、そうよね。収穫時期だけは早朝に収穫だけすれば、その後は休めるはずよね」

「あれ?舞依も農業に詳しいの?」

「農家の親戚が居たから私は田植えを手伝っていたし、夏休みには早朝に夏野菜の収穫を一緒にしていたから分かるの。農家って一日中忙しい訳ではないのよ」


「そうか、では休みの概念を根付かせれば、アルカディアでは週に一日の休みは取れるかも知れないのだね。椿さん、どうですか?」

「はい。まだ良く分かりませんが、可能かも知れません」

「では椿さんなら、そのお休みの日に何をしたいですか?」

「え?私で御座いますか?そうですね・・・海へ行って、貝やエビを獲って食べたいですね」


「おや、海に入って泳ぐのですね?そんなことができる人も居るのですね」

「えぇ、私の様に海が近いところに住む子供は、遊びとして海に入って貝やエビを獲っていたのです。仕事に就いてからはやっていませんが」

「あぁ、それは良いですね。そういうことですよ。各々おのおの、自分の好きなことを自由にする日。それが休日です」


「その休日とやらをアルカディアの全ての民に与えてくださるのですか?」

「はい。そう考えています」

「他にも何か娯楽は作れないものでしょうか?」

「舞依、そうだったね。何か考えよう」


「ダンスはどうですか?CDプレイヤーが沢山ありましたよね?足りなければ日本から取り寄せられるのですから、各地域にダンスホールを作ってCDで音楽を流して踊るのです」

「陽菜。良い考えだけど誰がダンスを教えるんだい?」


「それなら、私たちが侍女たちに教えて侍女が各地で講習会をすれば良いのでは?」

「あぁ、そうか。当面、僕らはここでずっと生活する訳ではないから侍女は屋敷の保全をするだけだものね」


「そうすれば、ただのお見合いではなくて、お見合い舞踏会もできますよ。更に、侍女にも結婚相手が見つかるかも知れません」

「良いね。それは良いことくしだね」

「それなら、春と秋にお祭りをしましょうよ。春はその年の豊作や工場の無事故を願って、秋は収穫祭ですね」


「まつりとは何でしょうか?」

「神にその年の豊作を願い、秋の収穫時には、その収穫に感謝する。その思いを神に捧げる行事です」

「それは、素晴らしいですね!それで、そのまつりでは何をするのですか?」

「本来であれば、神宮の宮司が祝詞のりと奏上そうじょうするところから始める神事があるのですが、僕らがそこに居ますからね。特には必要ないかな」


「あの・・・その祝詞のりとであれば、先代の神より宮司が教わり、春と秋に神宮で奏上そうじょうされておりますが・・・」

「あぁ、そうか。神宮の中だけで行われていたのですね。では、そこへ民が集まって酒を飲み料理を楽しむのです。歌や踊りがあっても良いですね」

「その酒や食事はどの様に調達するのでしょうか?」

「各配給所で、そのために貯めておくのですよ。そして年二回の祭りで民に振る舞うのです」


「それは、素晴らしい!」

「では明日、宮司と治癒の能力を持つ者に話をする際に、休日と娯楽、それに祭りのことも話しましょう」


「椿さん、もう少し時間はありますか?」

「はい。何なりと」

「珈琲豆の焙煎をやってみたいのですが今、できますか?」

「はい。準備はできておりますのですぐに取り掛かれます」

「では、お願いします」


「かしこまりました。では、離れに参りましょう」

 屋敷の隣の離れには、様々な作業ができる設備が整っており、その中に焙煎機はあった。


「焙煎機の使い方はこちらの書に先代の神、嘉月かげつさまが事細かに記録されております。生豆はこちらに御座います」


 焙煎機の横に生豆の入った麻袋が置いてあった。焙煎機の説明書もあったので、そちらを一通り読んでから先代の残した記録を読んだ。


 使い方は大体理解した。でも好みの珈琲にするには、かなりの経験が必要なのだろうと推測された。でもこれも楽しみのひとつとなるだろう。


 熱源が日本から取り寄せたカセットコンロというのが、若干引っ掛かるが、この星でガスを使うのがこれだけなのであれば許せるか・・・まぁ、自分には甘くなってしまうな。


 昼食を挟んで、珈琲の焙煎に没頭した。夕方には初めての珈琲が完成した。

その時、頭の片隅に僕を呼ぶ声が聞こえた。これは山本宅のインコだ。


 インコの視界に入ると、目の前に山本が、その横に高島女子が息子を抱っこしていた。

『山本、呼んだかい?』

『頼まれていたものが揃ったよ。またお金を沢山頂いた様だね』

『いつも面倒な買い物を頼んでいるのだからね。当然だよ。本当に助かっているよ』

『ピンクゼリーということは女の子を作りたいのかな?』

『そうだね。どちらも欲しいのだけどね。一人目は女の子が良いって言うから念のためね』


『そうか、生まれたら写真を送ってくれよ』

『うん。そうするよ、ありがとう!』


「シュンッ!」


 山本の家から大きなダンボール箱を引き寄せた。中にはピンクゼリー、下着とサニタリーショーツ、サングラス。それに水着だ。侍女用の水着はキャンバス地のトートバッグにひと揃え入ったものが十九セットあった。


 中のものを確認していると、桜から念話が入った。

『月夜見さま。今、よろしいですか?』

『何だい?桜』

『あの、私、先程、排卵したのですが・・・』


『あれ、少し早く来たのだね。では、夕食後にしようか』

『よろしいのですか?』

『皆には話して、一日ずつずらしてもらうよ』

『ありがとうございます』




 夕食時に皆に桜のことを念話で話して、一緒に眠る順番を一日ずつずらしてもらった。

皆、笑顔で快く承諾してくれた。


 夕食後、まだ早いけれど一刻を争うのですぐに風呂に入り、お酒はやめておいて事にのぞんだ。


 まずは桜にピンクゼリーを挿入そうにゅうし、僕はトイレに行って一度射精しておいた。性交は一切の愛撫はせず、桜に感じさせない様に全てを作業の様に淡々と進め、最後に浅く挿入して射精した。


 その後は、桜に腕枕をして抱きしめ、眠くなるまでふたりで話していた。

「月夜見さま。私に子が授かるのでしょうか?」

「勿論、授かるよ。僕が保証するよ」

「まぁ!保証してくださるのですか?」

「うん。万が一、今回受精しなかったとしてもできるまで何度でもするからね。安心して」


「はい。私、本当に幸せです」

「僕もだよ。愛する桜に子を生んでもらえるなんてね。夢の様だ」

「あぁ・・・月夜見さま・・・」

「僕の娘だと、やっぱり僕と同じ青い瞳に銀の髪になるのだろうか?」

「そうだと嬉しいです。琴葉の様に美しい女性になりますね」


「うーん。桜と同じ瞳と髪の色の女の子も捨てがたいのだけど」

「ふふっ。月夜見さまは、本当にこの髪の色がお好きなのですね。でも舞依と詩織以外の妻にそれを言ってはいけませんよ」

「あ、あぁ、そうだったね。気をつけるよ」

「まぁ皆、良く分かっていると思いますけれどね」


「月夜見さま。妊娠したと分かるのは何日後ですか?」

「そうだね。受精してから着床して妊娠と確認されるのは七日から十日後が普通だけど、僕らの身体だから五日から七日で着床するかも知れないね。五日後に一度診てみようか」

「では、それまでは安静にしていないといけませんね?」

「そうだね。一応、お酒も控えておいてね」

「分かりました」




 アルカディア五日目、今日は昼食時に宮司と治癒の能力を持つ者に集まってもらう日だ。

午前中の内に、女性の身体の仕組みの本を人数分、月の都から引き出しておいた。


 また、パソコンとプロジェクターを食堂に準備して映写ができる様に準備した。


 昼食は侍女の分も用意した。食後に色々と話す予定なので、一緒に食べないと侍女たちが昼食を食べ損なってしまうからだ。


 テーブルは僕らと治癒の能力を持つ者で埋まってしまうので、侍女たちには簡易なテーブルを並べて食事してもらうこととなった。


 お昼が近付くと、治癒の能力を持つ者が続々とやって来た。そのほとんどが、日本人顔ではなく、瞳や髪の色が黒ではない者だった。先代の神々の容姿を受け継いでいるのだろう。そして五人程男性も居た。


 僕たちの今日の衣装はいわゆる普段着だ。ドレスアップしても皆が身構えてしまうだろうと日本の服を着た。僕は白いワイシャツに濃紺のパンツ姿だ。妻たちも皆、すっきりとしたOLの様な衣装だ。


 サロンに控えていて全員が揃ったところで静が僕たちを呼びに来た。僕が先頭になり、食堂に入って行くと、全員が起立し貴族の挨拶をしていた。皆、明らかに困惑の表情を浮かべていた。神らしくない衣装だと思ったのだろうか。


 妻たちが各々の席の前に立つと皆に声を掛けた。

「皆さん、お集まりくださり感謝します。月夜見です。まずは妻を紹介しましょう。こちらから、桜、花音、紗良、詩織。こちらは、舞依、琴葉、幸子、陽菜です。以後、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願い申し上げます!」

 皆が一斉に声を上げた。


「では皆さん、着席ください。今日は侍女たちもこの話に入って頂くので一緒に食事をします。侍女は食事とお茶を配膳次第、自分の食事を始めてください」

「かしこまりました!」

 侍女が全員の食事とお茶を配膳し、自分の席へ食事を持って座った。

「では、頂きましょう!」

「頂きます!」


 しばらくは余計な会話もせず、皆、黙って食事を頂いた。侍女は品数が少なめになっていたので先に食べ終わり、食事の済んだ食器を下げると再び、お茶を配り始めた。


 僕も食事を終え、皆が食事を終えたのを確認して立ち上がり話を始めた。

「皆さん、今日お集まり頂いたのは他でもありません。私たちがこのアルカディアの新しい主となり、今後五百年近く管理をすることとなります」


「神が変われば、ここの暮らしも変わります。どう変わるのかをまずは、神々の末裔まつえいである、あなた方に聞いて頂きたく、お集まり頂いたのです」


「まずは、大きな違いからお話ししましょう。先代の神々も我々も、元は天照さまがお創りになった、異世界の日本という国で暮らしていた人間です」


「ですが、先代の神々は同じ国でも五百年前に生きた人たちです。我々とは国の様式から文化、知識。その全てが全く違うのです」


「私たちの生きた世界では、実体としての神も実権を握る王や貴族も存在していないのです。ですから生き方も考え方も全く異なります」


「また、我々は皆さんとは少々違った能力があり、天照さまよりこの世界を守るお役目を頂いています。ですが、暮らしの上では皆さんとそう大きくは変わらないのです」


「ですから皆さんは、我々を神として必要以上にうやまうことはありません。話し掛けてはいけないなどということもないですし、問題があれば我々に相談して頂いて良いのです」


「それとアルカディアでは、文化が少々遅れている様です。これから女性の身体の仕組みについてお教えします。特に治癒の能力を持つ貴方たちには知っておいて頂きたい知識となります」


 頼んでいた通りに静が食堂の窓のカーテンを閉め灯りを落としくれた。僕はプロジェクターを使い本に沿って説明を始めた。


 一通りの説明が終わると、本と生理用品を全員に配り使い方も説明した。

「皆さんには、この本をよく読んで頂いた上で、各地域に戻ってから民を集めてこれを教え広めてください。そしてこの生理用品は今後定期的に無料で配布します。役場を通じて各配給所に毎月、必要量を届けてください」

「かしこまりました」


「それとこれは、今後時間を掛けて進めていきますが、全ての民にお休みの日を作りたいのです。週七日のうち一日はお休みにするのです。休みの日とは仕事をせずに自分の好きなこと、やりたいことをする日のことです」


莉子りこ殿、あなたは一日仕事をしなくて良いと言われたら何をしたいですか?」

「そうですね。私は花が好きなので庭の花壇で一日過ごしていたいです」

「良いですね。そういうことです。椿さんは海で貝やエビを獲りに行くそうですよ。そうやって、好きなことができる日を休みというのです。勿論、一日寝ていても良いのですよ」


「春と秋にはお祭りをしましょう。美月みつき殿、祝詞のりと奏上そうじょうされているそうですね」

「はい。父上から教わって続けております」


「その祝詞のあと、民に酒や食事を振る舞って、春には豊作や一年の無事故、安全を祈願し、秋には収穫を祝うのです」


「役場が主導して、各配給所で酒や食料を貯めておき、祭りの時に民へ振る舞うのですよ」

「それは素晴らしことで御座います」


「それと結婚についてですが、宮司や治癒の能力を持つ者が、子孫を多く作るために無理に結婚することはありません。本当に好きで結婚したいと思う相手が居るならば結婚すれば良いのです。強制はしません」


「侍女は今まで結婚しないでいた様ですが、良いお相手が居たら結婚して良いのです。その結果、ここから離れた場所で暮らすならば、侍女を辞めても構いません。つまり、全ての民が結婚は自由なのです」


「月夜見さま。では、私たちがお見合いをしても良いのですか?」

「勿論です。これからダンスホールを作ってお見合い舞踏会を開催します。結婚適齢期の男女がダンスホールに集まり、気に入った相手が居たらお話ししたり、ダンスを踊って、お相手を見つけるのです。そのダンスホールを各地に作りますからね」


「でも私たち、ダンスなんてしたことがないのです」

「私たちが、ここで侍女たちにダンスを教えます。ダンスホールができたら侍女たちは私たちがここに居ない時に、各地のダンスホールを回って皆にダンスを教えるのですよ」


「では、ダンスをお見せしましょうか。舞依。着替えて大広間へ来てくれるかな?」

「はい」

「シュンッ!」

「うわ!消えてしまわれた!」


「では、私も着替えて来ましょう。琴葉、大広間でダンスのCDを用意してくれるかな?」

「はい」


 皆が、ぞろぞろと大広間へ移動している間に、僕と舞依は着替えた。僕は先に着替えると舞依の部屋へ飛んだ。

「シュンッ!」


「キャッ!」

「あぁ、ごめん、着替えがまだだったね。手伝おうか」

「では、後ろのリボンを結んでくれますか?」

「お安い御用だ」


 着替えが済むと舞依を抱きしめてキスをした。

「舞依。綺麗だよ」

「ふふっ、嬉しいわ。ありがとう」

「さぁ、ダンスに行こうか」

「はい」


「シュンッ!」

「うわぁ!」


「素敵!何て美しいのでしょう」

「パチン!」

 侍女が隣の侍女の頬をはたいている。

「鈴、しっかりして!」

 あぁ、気絶しそうだったのだな・・・


 そして、CDの音楽が流れ始め、ふたりはダンスを踊った。皆が僕らを見守り、笑顔になった。


 うん。これは良い娯楽になることだろう・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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