18.生理用品の開発
ここからは生理用品の開発だな。
「皆さん、生理の知識については既にお話ししたと思います。そして新たに作りたいものが生理用品なのです。今は経血を布で綿をくるんだものであてがっている方が多いとのことですが、それよりももっと多く吸収し、少しでも長い時間過ごせるものを作りたいのです」
僕は先日、お母さま方に出してもらった希望や条件を伝えた。
「何か良いものはないでしょうか?」
「水分を吸収し易い布地はあるのですが、やはり厚さが増してしまいそうですね」
「あの。それでしたら、グラジオラス王国や南の国一帯に自生しているサボテンの一種に大きな葉の中に水分を蓄える種類があると植物の本で読んだことが御座いますが」
「あぁ、サボテンですか」
「もしかすると、その葉の中身を乾燥させれば水分を吸い込むのではと」
「それは興味深いですね。是非、実験してみましょう」
「そのサボテンの名前はご存知ですか?」
「はい。確か、ジャレス。だったと思います」
「これは良い情報を頂きました。パトリシアありがとう」
「いえ、ジャレスが使えるものだと良いのですが」
「では私の方で取り寄せて色々と試してみます。では今日はこの辺にしましょうか」
「ジェマ、パトリシア。下着も本も試作品ができましたらお知らせ下さい」
「はい。かしこまりました。本日は誠にありがとうございました」
打合せが終わり屋敷へと戻った。皆でお茶を飲みながらくつろいでいた。
「お母さま。本の造本代金が一冊当り、銀貨一枚とのことでしたが、僕はこの世界のお金のことをまだ知りませんでした。まず。お金の種類を教えて頂けますか?」
「えぇ、ではここへ持って参りましょう。ニナ、ここへ全ての種類を持って来てください」
「はい。すぐにお持ちします」
程なくして、ニナがお金を銀の皿の上に並べて持って来た。
「左から大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、銅貨です」
「五種類あるのですね。それぞれの価値はどの様になっているのでしょうか?」
「ここにはありませんが、白金貨というものもあります。高価過ぎてほとんど出回ってはおりませんが。そして銅貨からそれぞれ十枚が次の貨幣の価値となります」
「ふむ。では銅貨一枚で買えるものにどの様なものがありますか?」
「ニナ。答えてくれますか」
「はい。銅貨一枚ですと、ほとんどの野菜が最低ひとつは買えます」
「そうなのですね。では米は銅貨一枚でどれくらいの量が買えるのですか?」
「はい。麻袋ひとつ分です」
「なるほど。お母さま。では本が一冊銀貨一枚というのは安い方ですかね?」
「えぇ、高くはないと思います。今回の本は装丁を豪華にしないということですし、紙の枚数も少ないですからね」
「高くはないとは言っても、部数が多いですよね。オリヴィア母さま。お父さまにはこの造本代金を支払って頂けるでしょうか?」
「えぇ、その程度の金額ならば全く問題御座いませんよ」
「それならば良かった」
神の財力が如何程かなんて全く想像がつかないからな。でも大丈夫ならば良かった。
あとはできた本をどの様に世界へ配布するかだな。
グラジオラス王国出身のシルヴィア母さまにお願いし、サボテンのジャレスを発注した。
二週間程で二束程の大きなジャレスが届いた。ジャレスはアロエの葉をもっと大きく分厚くした様なサボテンだった。僕は早速、いかにも水分を沢山貯めそうな葉の部分を長方形の形に切り、多肉植物の様な葉の外側の皮?をナイフで削いでいった。
中身はやはりアロエの様なゼリー状で、でもそれはヘチマの中身の様な繊維質に包まれている感じだ。僕はそれを陰干ししてどういう状態になるのかを観察した。
多分、天日で干したらカラカラになってしまい、硬くて使えないだろうと想像したのだ。陰干しにしたら良い感じに柔軟性があるままにゼリーが乾き掛けた感じの物になった。
今は良い感じだが、これ以上干すとどうなるのかを確かめておかねばならない。更に時間を置いてみることにした。
そして幸いなことに二週間経過しても状態は変わらなかった。いよいよ実験だ。地球のナプキンくらいの大きさに切ってお皿に置き、コップ半分の水を注いでみた。
するとどんどん水を吸収し、あっという間にお皿の水は全てジャレスに吸収されてしまった。僕は恐る恐るジャレスを持ち上げてみる。でも水は落ちて来なかった。うん。これって良い感じなのではないかな。
あとは製品にするには、これを何でくるむかだな。やはりガーゼが基本なのだろうか。
この世界にガーゼなんてあるのかな?よし。ここからは職人のジェマとサンドラに知恵を借りるとしよう。
下着と本を頼んでから一か月半が経過した。
下着はそろそろ試作品ができるとの連絡が入った。本は二百部完成したとのことだ。
夕食が終わり、お茶の時間となったところで僕はお父さまに質問をした。
「お父さま。この世界のことでお尋ねしたいことがあるのですが」
「どんなことだね?なんでも聞くと良い」
「この世界では国と国、街と街など遠くに離れている者同士で会話をしたい場合はどうしているのでしょうか?」
「国や街で管理、保有している船にある通信機で話しができるのだ。大抵はその様な大きな船には常時乗組員が居るからそこを経由して連絡を取っているのだよ」
「では、電話とかはないのですね?」
「でんわとはなんだね?」
「つまり、船にある通信機が城や屋敷に備え付けられているという様なことですかね」
「そういったものは無いな。船は我々の作ったものではないからな」
「誰が作ったのですか?」
「我々のご先祖から受け継がれているもので、船や光を生む御柱は初めから有ったと言い伝えられている。本当は誰がどうやって作ったものなのか、その仕組みも含めて分からないのだ」
「分からないけれど、使えるから使っている。のですね」
「その通りだよ」
「それでは僕にも分からないでしょうから考えても仕方がないですね。でも、他国と連絡を取ることはできるのですね」
「そうだ。何か連絡したいことがあるのかな?」
「まだ、少し先になりますが本ができて来ているのです。どの国から、いつ頃、どれくらいの数を配布するかを考えねばなりませんし、届ける際には事前に連絡が必要かと思いまして」
「運ぶだけならば商船に任せれば良いのだが、それでは足りぬのだろう?」
「そうですね。できれば王族や貴族と宮司、学校の教師だけでも本を手渡して説明をしたいのです」
「では、例えば百冊ずつ持って月夜見が各国を回って行けば良いのではないか?」
「あの船に乗って行くのですね。ところであの船はもっと速く飛べないのでしょうか?」
「速くないといけない理由があるのか?」
「いえ、お母さま方の母国に行く時は是非、お母さま方にもご同行願いたいのですが、国によっては遠くてとても時間が掛かるとのお話でした。少しでもお母さま方の負担が軽くならないかと思いまして」
「まぁ!月夜見さまは、いつも女性の気持ちを考えてくださるのですね!」
「本当にお優しいですわ」
「いつも最大の速度で飛んでおるからな。これ以上速くすることはできないと思うがな」
「お父さま、明日にでもあの船に一度乗ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「勿論、構わないよ。では朝食後で良いかな?乗組員には伝えておくよ」
「ありがとうございます」
「お兄さま、私も一緒に乗りたいです!」
「あーずるい、私も乗ります!」
「私も!」
「あぁ、分かった。乗りたいなら乗れば良い」
「ありがとうございます。お父さま!」
結局、皆で乗ることになってしまった。
翌朝、朝食後に屋敷の裏に集まった。結局はお母さま方も全員乗ることになった。
船に乗り込むと、まずは女性の船長が船内を案内してくれた。
「月夜見さま。この船の船長でカミラと申します。船内をご案内致します」
お母さま方はもう慣れた様子で、サロンでお茶をしているとのことで行ってしまった。
僕の後ろにはお姉さま達がぞろぞろと後をついて来る。教授回診じゃないんだけどな。
「こちらが艦橋で御座います」
僕が入室すると乗組員たちが一斉に立ち上がった。
「ここで操船するのですね。後で出発する時にまたここへ来ても良いですか?」
「はい、お望みとあらば」
続けて船内の各部屋を見せて回ってくれた。どこも中世貴族の屋敷の中みたいだ。
何故、船は日本風ではないのだろうか?作った人が違うのかな?
荷物室はだだっ広い倉庫だった。これだと普通の一戸建ての家がそのまま何軒も入ってしまいそうだ。その広さは体育館よりも高く、幅広く、そして長い。
「この荷物室を使うことはあるのですか?」
「現在、この月宮殿へ運ぶものは他国の食品や生活雑貨くらいですので使ってもほんの一部に荷物を置くだけです」
「そうなのですね。ではこの船の動力源がある部屋を見たいのですが」
「それは、おっしゃっている意味が良く分かりません。その様な部屋は存在しないのです」
「え?動力源がないのですか?」
「動力源とおっしゃっているものは恐らくなのですが、月の石のことかと」
「あぁ、それが源なのですか。それはこの船のどこにあるのですか?」
「分からないのです。恐らくは船の底にあるのかも知れませぬが、見える場所にはないのです」
と言うことは、恐らく電気で回っているプロペラのモーターの電力は月の石に蓄えられていると考えるのが自然だろう。それにしてもどうやって充電しているのかな?まさか御柱から無線充電されている?いや、そんなことできるとは思えないな。
「そうなのですか。ではプロペラ、いや、回る羽のところにはどうやって行くのですか?」
「それも通路の様なものは御座いませんので近くに寄ることができません」
「では、今まで羽は故障することはなかったのですね?」
「故障とはどういうことでしょうか?」
「ふむ。そこからか。つまりこの船はどこかが壊れたり、動かなくなったりしたことがない。ということですね?」
「はい。その通りです」
うーん。分からないけど仕方がない。
「分かりました・・・」
「では艦橋に戻って出発しましょうか」
「かしこまりました」
「ちなみに何故この部屋が艦橋と呼ばれているのかも分からないのですね?」
「はい」
「やはり!」
ぞろぞろとついて来ていたお姉さま方もうろうろされると危ないのでサロンへ行って頂いた。
さて、この世界の船の実力とやらを見せてもらおうか。
お読みいただきまして、ありがとうございました!