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17.本の発注

 本の職人を呼ぶ際に服飾職人も一緒に来てくれる様に連絡して頂いた。


 当日はお母さんもドレス姿で同行するのだが、お母さんが着用している舞依のブラジャーは、服飾店の職人に預けてしまうつもりなので神宮で着替えも必要になる。


 結局、侍女のニナも同行することとなり、僕は三往復しなければならなくなった。


 まずはオリヴィア母さま、次にお母さま、そしてニナ。の順だ。

オリヴィア母さまは例によって必要以上に絡みついて来る。


「オリヴィア母さま。どうしてそんなに僕に抱き着きたがるのです?」

「だって。可愛いのですもの・・・」

「あぁ、そういうことですか。そう言ってくだされば、いつでも抱かれて差し上げるのに」

「ほ、本当ですか?嬉しい・・・」


 読心術で何を考えているかは分かるのだが、いつでも他人の声が聞こえて来るのはいささかしんどいものだ。だから意図的に聞こえない様にしていたのだ。まぁ、今度、探りを入れるとして今はさっさと運んでしまおう。

「シュンッ!」


 そしてすぐに屋敷に戻る。

「シュンッ!」

「お母さま。行きますよ」

「はい」

「シュンッ!」

 お母さまを送り、もう一度屋敷へ戻る。


「シュンッ!」

「さぁ、ニナ。行きましょうか」

 僕は立ったままのニナに抱きつこうとした。

「ひ、ひゃぁっ!」

 僕が手を広げて近付くと、ニナは思わず後退あとずさりした。顔が真っ赤だ。


 ニナはとても若い。いや、若いと言うよりはまだ子供なのでは?


 そうだった。ニナはまだ子供だ。いつもお母さんや僕の世話をしてくれているけど、こうして真正面に立って改めて見ると、やっぱりとても可愛く、まだあどけなさが残る少女だ。もしかしたら男性に触れたことが無いのかも知れない。それはそうか。


「あ。あぁ、ニナは僕に触れられることに慣れていないから緊張するよね。大丈夫?」

「は、はい。大変、失礼いたしました」

「ニナ、僕がまだ歩けない時はよく抱っこしてくれていたじゃないか。それと同じだよ」

「あ。そ、そうでした・・・も、もう大丈夫ですので」

 僕は真っ赤な顔をしたニナにゆっくりと近付き、そっと抱きしめた。


「ひゃあ・・・」

 ニナは小さく声を漏らした。

「では、行くよ」

「は、はい」

「シュンッ!」

 一瞬で神宮へと到着した。


「大丈夫?」

「はい。本当に一瞬なのですね」

 ニナの顔は真っ赤なままだ。

「ニナって、可愛いね」

「ええっ?!」

 僕に可愛いと言われて恥じらう顔がまた可愛い。


「月夜見さま、お待ちしておりました」

「あ。あぁ、はい」

 神宮では既に巫女が僕とニナの到着を待っていた。そして前回と同じ客間へ通された。


 部屋で待っていた人たちは前回と同じ顔触れにひとりだけ、初めて見る人が居た。この女性が本の職人なのだろう。三十歳代くらいだろうか。イメージ通りというか、派手さのない服装だ。


「月夜見さま。何か特別なものをご用意頂いたとのことで、急遽、ジェマとサンドラも連れて参りました。そして、こちらが本の職人のパトリシアで御座います」

「パトリシア。私が月夜見です。よろしくお願いします」

「初めてお目に掛かります。本職人のパトリシアと申します」

「ジェマ、サンドラ。急に呼び出してすみません」

「いいえ、とんでもございません」


「先に本の話をしてしまいましょうか。パトリシア。私はこの原稿を本にして世界中に配布したいのですよ」

「配布?で御座いますか?無償で配るので御座いますか?」

「えぇ、そうです。ただ、本とは言っても内容はこの原稿だけですので、それ程の量ではないのです。本という程の厚みにはならないかと思います」


「原稿を拝見してもよろしいでしょうか?」

「えぇ、勿論です。どうぞ」

「ありがとうございます」

 パトリシアは原稿をめくって見て行く。明らかに目が見開かれているのが分かる。


「月夜見さま、これは何が書かれているのでしょうか?」

「これはこの世界の人口を増やすため、女性の身体の仕組みについての知識を世界中の人々に知ってもらい、もっと多く子を生んで頂くためのものです」

「この絵は何ですか?」


「それは女性のお腹の中の臓器です」

「な、何故、身体の中がお分りになるのですか?」

 パトリシアは気味の悪いものを見る様な目になっている。


「ヘレナさま。パトリシアには私の正体を話していないのですね?」

「え、えぇ、本を作るだけだと思ったものですから」

「それは仕方がないことです。でも造本するからには中身には目を通しますからね。内容に疑問を持ちながら本を作るのは気持ちの良いものではないでしょう。分かりました。ではこれからパトリシアに私の話をしましょう」


 多少、端折はしょりながら、パトリシアに駆け足で僕の正体と女性の身体の仕組みを説明した。パトリシアは徐々に落ち着きを取り戻し、最後にはとても感動してくれた。


「月夜見さま。この本を作る目的が良く分かりました。是非、協力させて頂きたく存じます。造本なのですが、原稿を拝見しましたところ、とても絵が多いので木版画を使って色を付けましょう」


「紙の枚数は少な目ですので大和綴やまととじで良いかと思います。あと装丁そうていは、やはり豪華なものがよろしいのでしょうか?」

「いえ、平民も手にする本ですから豪華さは不要です。もしこの世界にあるならば桜の花の色をした和紙で作って頂ければ、女性向けとして良いと思うのですが」

「御座います。それは素敵ですね」


「それで、どのくらいの数を作れますでしょうか?」

「はい。ひと月で百冊程でしょうか」

「それをもっと早く、もっと多く作るためには何が必要ですか」


「そうですね。まず人手は必要です。ですが技術を要しない作業もありますので人は直ぐにでも増やせます。ただ、紙とインクについては他国にも協力を頂かないと集められないかと思われます」


「それでしたら私のお母さま方が各国の姫君ですから、お声掛けは頂けると思います。それと一冊当たりのお値段は?」

「そうですね。一冊当たり銀貨一枚程度になると思います」

「分かりました」

「では、他国に依頼する材料については後程連絡をください」

「かしこまりました」




「では、ジェマ、サンドラ。お待たせしてしまいましたね。今日、急に呼び出したのは他でもありません。実は先日お話ししたブラジャーが手に入ったので見て頂こうと思ったのです」


「手に入った?ので御座いますか?それはどういうことなのでしょう?」

「実は・・・」

「シュンッ!」

「きゃーっ!」

 突然、テーブルの上に花瓶が現れた。自分の部屋から花瓶を引き寄せたのだ。


「驚かせてすみません。これは私の部屋の花瓶です。今、私の力で引き寄せました。これと同じ原理で偶然にも私の前の世界から下着を引き寄せることができたのですよ。そしてそれは今、私のお母さまが着用しています」

「まぁ、やはりそうだったのですね。アルメリアさまのお姿が余りにも美しいと思っておったので御座います」


「ヘレナさま。そうでしょう。この下着を付けるとドレスを着た時に胸の形が美しく表現できるのですよ」

「はい。とても素敵です」

 ジェマとサンドラは当然だが、他の女性たちの目も輝き笑顔になっている。


「ではお母さま、お手数ですが着替えをお願いしてもよろしいでしょうか」

「分かりました。少々お待ちください」

 お母さんはニナと別室へ向かった。


「それにしても異世界から下着を引き寄せるとは我々には想像も付かないことができてしまうのですね。流石は救世主さまです」

「またヘレナさまは。め過ぎですよ」

「シュンッ!」

「わ!消えた」

「邪魔ですからね。花瓶は戻しておきました」


 そうこうしているとお母さんが戻って来た。別のドレスに着替えている。ブラジャーがなくてもお母さんのドレス姿は美しいものだ。


「こちらがそのブラジャーです」

「さぁ、ジェマ、サンドラ。じかに手に取って見てください」

「な、なんて美しい下着なのでしょうか!」


「これはどのような生地でまれているのでしょうか・・・」

「肌触りも柔らかく、胸の形をしっかりと支える様にできていますね」

「これは刺繍ですね。何て繊細で美しいのでしょう」

 騎士の二人も侍女の二人も、パトリシアも皆、目を奪われている。


「ジェマ。サンドラ。如何でしょう?同じものは作れそうですか?」

「そうですね。全く同じものは作れないかも知れませんが、近いものでしたら作れるかと。いえ、作りたいです!」

「それは良かった。実物を見て寸法の種類の目安が分かりましたので寸法表を作って来ました。これを参考にして下さい」

「これは助かります。ありがとうございます」


「これを見れば分かると思いますが、この胸から脇を通って背中に回る部分が胸を下と脇から支えます。前回もお話ししましたが、騎士の方の様に激しい動きをされる方にはここの幅を広くするとずれにくくなります。この肩紐の部分も同じです。ただその場合は汗を吸収し易い生地を使う方が良いでしょう」

「はい。ありがとうございます。参考になります」


「ジェマ。私はこの下着をドレスに組み込んだものを作って欲しいのですよ」

「オリヴィアさま。それはどの様なものでしょうか?」

「あぁ、その話がありましたね。この下着とドレスを一体とするのです。このブラジャーの形を生かして、そこからロングスカートに繋げるのです。肩紐を美しく仕上げることが大切ですよ。あと肩や背中は大胆に見せる形となりますね」


「まぁ素敵!私も欲しいですわ」

「お母さま。これは月夜見さまが私に似合う。とお教え頂いたものなのです」

「まぁ!ずるいわ。月夜見さま。私にも似合う服をお考え頂けないでしょうか?」


「ま、まぁまぁ。ヘレナさま。今日は下着の寸法を測るくらいにとどめておかれてはいかがですか?すぐにブラジャーができ上がる訳ではありませんから」

「まぁ!今日は採寸をして頂けるのですか?」

「はい。採寸しましょう。私の家族の分は全て採寸してきました。これがその採寸表です。ブラジャーの寸法を測ってありますので、試作品が出来ましたらこの寸法の物を作ってください」


「そして、今日はお母さまとニナで採寸の方法をお教えしますので、ヘレナさまや他の皆さんも採寸されたら如何ですか。それと、採寸してこの実物と寸法が合う方は試着してみても構いませんので」

「それでは、あちらのお部屋に移りましょうか」

 ぞろぞろと女性たちが出て行った。




 恐らく、一時間くらいは掛かってしまうだろう。そう思い、僕は神宮の中を歩き、朧月おぼろづき伯母さんの居る診察室へと向かった。


「朧月伯母さま。こんにちは」

「まぁ!月夜見さま。今日は下着や本のお話だとか」

「えぇ、そうなのです。今は、皆さんが下着の寸法を採寸しているところです」

「もう、そこまで進んでいるのですね」


「えぇ、本の方も多く作る様、進めています」

「その本が完成するのが楽しみです」

「今、皆さんが採寸をしている間、僕はやることがないのです。伯母さまの診察を見ていても良いでしょうか?」

「えぇ、勿論で御座います」


 相変わらず、生理痛で訪れる女性が多いことが分かった。でも伯母さんが一人ひとり、丁寧に説明しているので徐々に生理痛での受診者は減って行くことだろう。


「月夜見さま、皆さんが客間に戻られております」

「はい。ありがとう。では、伯母さま。また参ります」

「はい。お待ちしております」


 客間に戻ると、やはり新しいドレスの話で盛り上がっていた。

「月夜見さま。この下着なのですが、私共にお預けくださるというのは本当ですか?」

「えぇ、どうぞ。もし構造を把握するために必要でしたら、バラバラにして頂いても構いませんよ。ただ、できれば元に戻して頂きたいのですけれど」


「この下着は月夜見にとって大切なものなのです。丁寧に扱ってくださいね」

「はい。月夜見さま、アルメリアさま。自分たちの手でブラジャーを完成させるまで大切に扱わせて頂きます」


「あ!いけない。忘れていました!」

「何を忘れていたのですか?」

「生理用品のことです」

「あぁ!そうでしたね・・・」


 これでブラジャーの製作はなんとかなりそうだ。次は生理用品だな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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