33.ネモフィラ王城での結婚式
ネモフィラ王城での結婚式を迎えた。
王城の大広間を借りて式を挙げることとなったが、主役とその家族が多過ぎて前日から泊まるにしても迷惑だろうということになり、屋敷で全ての準備を整えてから王城へ飛ぶことになった。
今回の式のことを事前にお父さんに話し、出席をお願いしたところ、僕の妻が全員揃い最後の結婚式になるのならば、是非自分たちも出席したいとお母さま達が懇願した。
まずは月宮殿に飛び、お父さんとお母さま達を乗せた大型船をネモフィラ王城へ飛ばして先にサロンに入っていてもらった。
その後で、僕たち専用の船に舞衣のお母さんとアンナマリーとクラウス、花音の両親と祖父母を乗せて、ネモフィラ王城へ飛んだ。それでもまだ三十分も掛かっていない。
こちらは王城のサロンで待たせたら変な緊張をしてしまうだろうと気を使って、月影姉さまに頼んで、神宮の応接室で待たせてもらった。
「お兄さま、この子達は?」
「あぁ、月影姉さま。ミラの子供です。アンナマリーとクラウスです」
「あら、アンナマリーは幾つなのかしら?」
「九歳ですね」
「そうなのね。良夜のひとつ上かしら。丁度良いから連れて来るわ」
「良夜、こちらはアンナマリーよ、あなたのひとつ年上なのですって。神宮を案内して差し上げて」
「はい。良夜です。アンナマリーさま、こちらへどうぞ」
「クラウスも一緒に神宮を見学してくると良いよ」
「はい。良夜さま、お願い致します」
アンナマリーが真っ赤な顔で良夜について行った。ふふっ、可愛いな。
「では月影姉さま、時間になったら大広間へ案内をお願いしますね」
「えぇ、分かりました。式を楽しみにしていますね」
僕はサロンに入り、時間までお父さんたちと歓談している。
桜たちは事前の打ち合わせで全員が大広間に収まり、結婚式を始める直前に僕が桜へ念話で連絡し、妻たちはひとりずつ壇上へ出現してもらうこととなっている。最後の結婚式くらいはこんな演出があっても良いだろう。
招待客は、ネモフィラ王国の貴族全員とプルナス服飾店のビアンカ、デュモン宝石店のクレメント、コンティ靴店のデニスも招待している。
貴族は全員だが、伯爵に降爵されたシュルツ家やエミールが出席するかは微妙なところだ。王宮騎士団の騎士たちも全員招待している。ただ、警備をしながらになってしまう者も居るのだが。
「皆さま、お時間となりました。お式の準備が整って御座います」
サロンに集まっていた王族たちがぞろぞろと大広間へ移動していく。
大広間の壇上の左端には王族が並び、右端には天照家の者が並んだ。その中にはアンナマリーとクラウスも居た。僕はネモフィラ王と中央に立った。
「皆さま、ようこそお越しくださいました。これより、天照家月夜見さまの結婚式を執り行います」
「皆さま、月夜見です。今日は私たちのためにお集まり頂き、ありがとう御座います。これより、私の妻をひとりずつご紹介致します」
『桜、おいで!』
「シュンッ!」
「トンっ」
これも演出なのだが、壇上の十センチメートル程の高さに出現し、床にトンっと降りる様にする。そうするとスカートやベールがふわっと揺れて、女神が舞い降りた様に見えるのだ。
「おぉ!」
会場の出席者が驚きの声を上げる。
桜は壇上の中央に出現すると、挨拶のカーテシーを決めた。
「こちらは、ネモフィラ王国ノイマン侯爵家の次女、ステラリア ノイマン。王宮騎士団の剣聖でもありました」
『琴葉、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、琴葉です」
少しだけ会場がざわついたが、無視してすぐ次に移る。
『花音、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、ネモフィラ王国シュナイダー子爵家の孫でアスチルベ王国出身の絵里香 シュナイダーです」
『舞衣、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、アスチルベ王国第十王女、ソフィア アスチルベです」
『幸ちゃん、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、イベリス王国第三王女、シンシア イベリスです」
『紗良、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、ネモフィラ王国クルス子爵家次女、シエナ クルスです」
『陽菜、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、陽菜です」
『詩織、おいで』
「シュンッ!」
「おぉ!」
「こちらは、ネモフィラ王国マイヤー侯爵家三女、ミラ マイヤーです」
「本日、新たに私の妻へ迎えるのは、シエナ、陽菜、ミラの三人ですが、今日は特別な日ですので、私の妻八人全員をご紹介差し上げました」
「今、ご覧頂きました通り、八人の妻は神の力が使えます。ご存知の通り、私は異世界からの転生者ですが、この八人の妻も同じ世界から転生して来た転生者なのです」
「そして、前世の記憶を取り戻した時から神の力が宿り、この様な神の姿となったのです。私たちは千五百年前にも夫婦であり神でした。この世界に生まれ変わり、また夫婦となったのです」
「私は、このネモフィラ王国に五歳の時から住まわせて頂き、皆さまにお世話になりました。今はアスチルベ王国の郊外に新たな月の都が見つかり、そこに居を構えました」
「ですが、ネモフィラ王国の皆さまとは特別な繋がりを持っておりますので、これからもその関係は続くものと思っております」
「私と八人の妻をこれからもよろしくお願い致します」
僕はネモフィラ王にひとつ頷いた。
「では、天照家月夜見さまとシエナ クルス、陽菜、ミラ マイヤーはここに結婚し、夫婦になることを宣言する」
「うぉー!月夜見さまーっ!」
「シエナさまーっ!おめでとう!」
「ミラさまーっ!おめでとうございます!」
しばらく祝福の声と歓声が鳴り止まなかった。
「皆さま、今回、月夜見さまのご意向で参列者の皆さまからの祝辞は辞退されております。これより、月夜見さまが会場を回られまして皆さまへご挨拶されたいとのことです」
ダンスの楽曲が流れ出し、皆、酒や食事を楽しんだ。僕は紗良とダンスを踊るとそのまま紗良を伴って紗良の知り合いに声を掛けて行った。紗良の家族を見つけてその輪の中へ入る。
「お父さま、お母さま、如何ですか?」
「信じられないくらい、美しいわ。女神さまなのね!」
「お母さま!ちょっと大袈裟ですよ!」
「そんなことはない!シエナが一番美しいよ!」
「まぁ!お父さまったら」
「月夜見さま。ありがとう御座います。娘の結婚式を王城で挙げることができるとは」
「良い思い出になったのでしたら良かったです」
次に陽菜とダンスを踊った。周囲の貴族たちは陽菜を見ても誰なのか分からず、不思議そうな顔をしていた。ダンスが終わって会場を歩くとレイラを見つけた。
「レイラ!久しぶりだね」
「あ!月夜見さま!もしかして?ニナなの?」
「そうよ!驚いた?」
「だって、陽菜って紹介されたし、ニナに似ているけど背は高いし、凄く若くなっているから、ニナではないのかと思ったの」
「そうだね。神になってこの姿に変わってしまったから分からないよね」
「ニナだけではないです!ミラとシエナまで!」
「ふふっ。何だか侍女に片端から手を付けている節操無しみたいだね」
「あ!そんな意味で言ったのではないのです!すみません!」
「レイラ。そんなことは分かっているよ、大丈夫だよ」
「では、陽菜、レイラに説明してあげてくれるかな?僕は詩織と踊って来るからね」
「はい。月夜見さま」
そして詩織と踊った。
「シュルツ家の人を見かけたかい?」
「いいえ、見ていません。来ていないのではないでしょうか」
「あぁ、その方が良いよね」
「えぇ、話すこともありませんし、アンナマリーたちが戸惑うでしょうから」
「そうだね」
その後、会場をふたりで歩いたが、やはりシュルツ家の者は出席していなかった。
「あ!リア!お久しぶり!」
「まぁ!ミラ!月夜見さまの妻になるなんて!」
「驚いたでしょう?」
「それはそうよ。フォルラン王子殿下の結婚式の時に、シュルツさまにミラのことを聞いたの。でも元気にしていると言うだけだったのよ」
「えぇ、私は領地の屋敷に閉じ込められていたから・・・」
「そう、大変だったのね・・・でも、どうして月夜見さまの妻に?」
「屋敷から逃げて月夜見さまの月の都へ助けを求めに行ったのよ」
「え?助けを求めて逃げて行ったら妻にしてもらえたってこと?」
「リア。そう単純なことではないよ。元々、私はミラが好きだったんだ」
「まぁ!羨ましい!」
「リアは幸せではないのかい?お子さんは?」
「いいえ、幸せです!息子も大きくなったし、娘も生まれましたので。全て月夜見さまのお陰です!」
「それならば良かったよ!」
「あれ?詩織。あれってアンナマリーかな?」
「あら。ダンスを踊っているわ。相手は誰?」
「あぁ、あれは月影姉さまの長男だ。良夜だよ」
「何だかギクシャクしているわね。踊ったことないのだから仕方がないけれど」
「ふふっ、可愛いな。あの二人、良い雰囲気なのかな?」
「でもアンナマリーはまだ九歳ですよ」
「うん。良夜は八歳だよ」
それから桜と踊った。
「桜、騎士たちに取り囲まれていたね」
「皆が祝福してくれたのです」
「それは良かったね。そう言えばベロニカを見たかい?」
「えぇ、居ますよ。今は何か食べているのではないかしら?」
「後でベロニカと踊ろうかな?」
「えぇ、是非、踊ってあげてください。良い思い出になります」
桜の後に琴葉と踊った。
「琴葉、踊ろうか」
「え?私、妊娠しているのに?」
「激しく動かなければ大丈夫だよ。一曲だけ踊ろうよ」
「えぇ、嬉しいわ」
「今日は誰かに話し掛けられたかい?」
「いいえ、誰も。きっと私が誰だか分からないのよ」
「あぁ、紹介もしなかったからね」
「余計なことを言わなくて済むから良かったわ」
「でも、こうしてネモフィラ王城の大広間で踊るのは初めてだね」
「えぇ、素敵な思い出になるわ」
花音がお爺さんと弟のアントンと一緒に居た。
「花音!」
「あ!月夜見さま」
「月夜見さま。本日はご招待を賜り、ありがとう御座います」
「シュナイダー殿。本日はありがとうございます。そして、子爵への陞爵、おめでとうございます」
「月夜見さま。ありがとうございます」
「おや、アントン。そちらは?」
「あ、お兄さま。こちらは、カタリナ シュワルツさまです」
「初めてお目に掛かります。私は、イエルク シュワルツ子爵の次女でカタリナと申します」
「あぁ、アントンの!もう結婚は決められたのですか?」
「はい。婚約させて頂きました」
「そうですか。おめでとうございます。では私の義妹になるのですね」
「え?私が月夜見さまの妹に?」
「えぇ、アントンは花音の弟なのですからね。カタリナは私の義妹ですよ」
「まぁ!嬉しい!」
「今後ともよろしくお願いしますね」
「はい。ありがとう御座います!」
「花音、踊ろうか」
「はい!お願いします!」
「アントンは美しい子爵令嬢と結婚できるのだね」
「えぇ、月夜見さまのお陰です」
「いや、アントンの魅力だろう。勉強も頑張っていたのでしょう?」
「それはもう。だって月夜見さまの義弟になるのですからね。恥ずかしくない様に。と念を押していたのです」
「あぁ、そういうことか!でもその結果があれならば良かったよね」
「えぇ、私も安心です」
花音とのダンスが終わって、幸ちゃんを探すと・・・あぁ、いかん!幸ちゃんが壁の花になっている。
「幸ちゃん!放っておいてごめんね。ここには知り合いが居なかったね」
「大丈夫です。皆さんが楽しそうにされているのを見ているだけで楽しいですから」
「ふふっ。幸ちゃんって本当に良い子だね・・・さぁ、踊ろうよ」
「はい」
「ネモフィラ王城って、大国だけあって大きいですね。圧倒されます!」
「そうだね。この世界で一番人口が多いのだからね」
「今後も一番付き合いが多くなりそうですね」
「そうだね。僕個人としては、この国との関係は深いものがあるね。でも、イベリスも国が大きくなったから、もう大国のひとつと言って良いのではないかな?」
「えぇ、国土の大きさではそうですね。でも人口はまだまだ少ないですけれど」
「これから、漢方薬の生産量が増えれば、人口も国力も大きくなっていきますよ」
「私、本当に幸せです」
「どうしたんだい?改まって」
「前世の記憶が戻る前は自分の性格や薬のこと、全てがもやもやしていたのです。でも月夜見さまと出会ってからは全てがはっきりしてやりたいことができて、愛する人と結ばれて、何もかもが充実しているのです」
「それは嬉しいな。僕も幸ちゃんを見ていると自分のやるべきことをしっかりやらないといけないなと感じるよ」
「そんな風に思って頂けるなんて・・・嬉しいわ」
「幸ちゃん、ありがとう!」
「そろそろ、他の方と踊って差し上げてください」
「うん。そうだね」
幸ちゃんとのダンスが終わったところで振り返ると、丁度そこでベロニカがご馳走を食べていた。
「ベロニカ!」
「あ!月夜見さま!」
「食事中に悪いのだけど、一曲踊らないか?」
「え?私とで御座いますか?」
「うん。大好きなベロニカと踊りたいんだよ」
「また、からかって!」
「ふふっ、からかってなんかいないよ。さぁ、踊ろう!マシュー殿、ベロニカをお借りしても?」
「も、勿論で御座います!」
「ありがとう」
ベロニカの夫のフィリップは、突然のことに驚いて硬直していた。
僕はベロニカの手を取り、腰に手を当ててダンスを始めた。
「ベロニカ、上手じゃないか!」
「月夜見さまのリードがお上手だからです!」
「楽しいね。ベロニカ。僕は本当に君が大好きなんだよ」
「え?そ、そんな・・・私なんか」
「だめだよ。ベロニカ。僕は君の持ち前の明るさが好きなのだからね。私なんか。と自分を卑下してはいけないよ」
「は、はい!ありがとう御座います!」
「お子さんは元気ですか?」
「えぇ、すっかり大きくなりました。月夜見さまのお陰です」
「それは良かった。ベロニカ。お幸せにね」
ベロニカをフィリップに返すと、丁度そこにアナベルとサミュエルが通り掛かった。
「あぁ、サミュエル殿、アナベル」
「月夜見さま。本日はおめでとう御座います」
「ありがとう。アナベル。先日はジゼルに絵の指導をありがとう!」
「いいえ、私もレオナルドも楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました」
「ジゼルはどうだったかな?」
「はい。色彩感覚が普通とは少し違うのですが、それが新鮮だし描き上がる絵が素晴らしいのです」
「そうですね。先日、ネモフィラの丘に連れて行って絵を描いてもらったのですが、本当に美しい絵を描いたのですよ」
「えぇ、素晴らしい才能だと思いますわ」
「今度、ジゼルを連れて美しい景色の絵を描きに行く時、ご一緒しませんか?」
「え?よろしいのですか?嬉しいです。是非、お誘いください」
「分かりました。ではご一緒しましょう」
ビアンカがクレメントとデニスと一緒にお酒を飲んでいた。
「ビアンカ。一曲踊りませんか?」
「月夜見さま!わ、私の様な平民と踊っても良いのですか?」
「私は貴族ではありません。身分など関係ないのですよ。さぁ、踊りましょう」
「あ、は、はい。では・・・」
「ビアンカ、今日のドレスは素晴らしいですね。新しいデザインなのですか?」
「はい。左様です」
「ビアンカいつも無理を言って済まないね。今日はお礼がしたくてね」
「滅相も御座いません!私は月夜見さまのお役に立てることが嬉しいのです」
「ありがとう。ビアンカ。とってもダンスがお上手なのですね。楽しかったですよ」
曲の終わりに、ぎゅーっとハグをした。ビアンカは真っ赤な顔をして腰砕けの様になり、息も絶え絶えに、そこにあった椅子にすがる様に腰掛けた。
最後は王家の家族のところへ行き雑談に加わった。
「月夜見、嫁は八人で最後なのかな?」
「お爺さま、そうですね。転生者はそう居るものでもありませんしね」
「うむ。神がそんなに多くても困るかも知れないな。それにしても我が国から四人も神が生まれていたのだな」
「はい。やはり、この国は僕が来ることが運命として決まっていたのでしょうね」
「そうであろうな。でも皆、見つかって良かったな」
「はい。ありがとう御座います」
「それで、琴葉・・・なのだがな。ウィステリアが言うには妊娠しているのではと・・・」
「えぇ、妊娠しています」
「そうか。それも運命なのだな」
「はい。そういうことです。今はそれしかお答えできません」
ステュアート伯父さんにお礼を言っておく。
「伯父さま。今日はありがとうございました。とても良い結婚式になりました」
「そうだね。とても良い式だと思うよ。皆が笑顔で楽しそうだ」
「はい。良い思い出になりました。お爺さまにも言われたのですが、この国に僕の嫁が四人も居たのですから。余程、この国に縁があるのだと思います」
「うん。私もそう思うよ。これからも月夜見の国だと思っていつでも来て欲しいな」
「はい。ありがとうございます」
そうして最後の結婚式は今までで一番暖かい、良い結婚式となったのだった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!