31.ミラの過去
ミラ親子を屋敷に送り届けた後で、僕は再びネモフィラ王城へ飛んだ。
フォルランの部屋へ出現する。
「シュンッ!」
「うわぁ!」
「急にごめん」
「月夜見か。驚くじゃないか!」
「フォルラン。また伯父さまに相談があるのだけど、良いかな?」
「さっきの女性のことかい?」
「そうだね。新たに妻にする女性たちとの結婚式をこの城で挙げられたらと思っているんだ」
「あぁ、良いじゃないか。僕たちも出席できるしね。柚月さまも喜ぶよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
フォルランが侍女に伯父さんへの謁見の打診を命じ、ほどなくして戻って来た。
「フォルランさま。陛下がいつでも良いとのことで御座います」
「ではお父さまのところへ行こうか」
「今は忙しくない時間なのかな?」
「うん。この時間は執務も落ち着いている時間だよ。最近では僕ができることは手伝っているからね」
「流石、フォルランだね。結婚して子もできると落ち着いたものだね」
「それはそうさ」
ふたりで伯父さんの執務室へやって来た。
「父上、月夜見が参りました」
「あぁ、どうぞ」
「伯父さま。先程はありがとうございました」
「彼女は落ち着いたかな?」
「はい。それでご相談したいことがあるのですが」
「何かな?」
「僕は既に四人と結婚し、もうすぐイベリスの王女と式を挙げるのです。今日のミラを含めてあと三人と結婚するのですが、その式をこの城でできないかなと思いまして。三人の内、二人は今日のマイヤー侯爵の三女とクルス子爵の次女なのです」
「あぁ、そんなことか。勿論、歓迎するよ。この城で式を挙げれば、ご両親も喜ぶことだろう」
「ありがとう御座います」
「それと、シュルツ家の降爵の件だけどね」
「えぇ、どうなりましたか?」
「シュルツ家の西側は、シュナイダー男爵家の領地なんだ。シュナイダー家は確か月夜見の奥方の実家だったよね」
「えぇ、花音のお爺さまです。花音の弟、アントンが後を継ぐ予定です」
「それならば、シュルツ家の領地の一部をシュナイダー領に移し、シュナイダー家を子爵に陞爵させることとするよ」
「それは嬉しいことです。ありがとうございます」
「神の親戚なのだからね。それが相応しいと思うよ」
それから式の期日と内容を打ち合わせし、僕は屋敷へと帰った。
「シュンッ!」
「皆、ただいま」
「月夜見さま。お帰りなさい!」
「紗良、陽菜、ミラ。結婚式の日取りが決まったよ。ネモフィラ王城で式を挙げるからね」
「月夜見さま。ありがとう御座います」
その夜、僕は妻たちに夜を共にする順番を一日ずつずらしてもらって、ミラと眠ることにした。お風呂を済ませてからミラを呼んだ。
「ミラ、初めに話しておかないといけないのだけど、前世の記憶が戻ると過去に辛いことがあった場合、その記憶に苦しめられる可能性があるんだ。それを受け入れてもらえるだろうか?」
「月夜見さまも前世の記憶に苦しんでいらっしゃいましたものね。でも私は大丈夫です」
「ミラ。子供たちを守るために無理をしているということはないかい?」
「そんなことは御座いません。私はそれよりも月夜見さまと結ばれたいのです」
「ミラ・・・君は・・・とても魅力的な女性だ・・・」
「本当ですか?もう二十五歳なのですよ・・・二人も子を産んでいるし」
「それならば記憶が戻ったら、そのまま僕と性交しなければ処女に戻るのですよ」
「え?本当ですか?それならば、そうしたいです」
「では、今日はするけれど、それで若返りが始まったら処女に戻るまで僕としないのですね?」
「あ!やっぱり嫌です!」
「ふふっ。それなら、してから考えたら良いよ」
「う!」
僕は不意打ちの様にミラを抱きしめて唇を奪った。前は僕が唇を奪われたから、今度は奪ってやったのだ。そのまま二人は長くキスをしてベッドに倒れこんだ。
「ミラ。五年以上していないのでしょう?もう処女みたいなものだよね」
「そうなのでしょうか。それなら優しくしてくださいね」
「言われなくても優しくしますよ」
それからは、ふたりとも夢中になってお互いを求めた。僕は本当にミラが好きだったのだな・・・そしてミラも僕を愛してくれている。それに気付き、愛おしむ様にミラを愛した。
ミラの身体は前に見た時より豊満になっている。大人の女性の体つきだ。それがまた刺激的なのだ。もしかしたら他の妻たちとする時より興奮してしまっているかも知れない。
「あぁ、ミラ。君は美しいね・・・」
「月夜見さま・・・あなたさまもです。美し過ぎます・・・ちょっと刺激が強いです」
そして、ふたりはひとつになった。そのまま深く抱きしめてあげるとミラは、大粒の涙を零した。
「あぁ・・・月夜見さま。この時をいつも夢見ていました。クラウスを授かったその夜も月夜見さまとこうなる夢を見たのです」
「あ!僕もだよ。あの日ミラの屋敷から帰ったその夜に僕もミラとこうなる夢を見たんだ」
「あぁ!嬉しい。その時から繋がっていたのですね?」
「うん。そういうことなのかな。ミラ。こうなりたかった。愛しているよ」
「はい。私もあなたさまを心から愛しております」
そして次の瞬間、ミラに異変が起こった。
「あ!あ、あ。わ、私は・・・あ!ここは?あ、あなたは?なんて美しい人・・・あっ・・・」
「あ!ミラ!あ・・・気を失った。今の反応は記憶を取り戻した様だな」
一時間後、僕の腕の中でミラは目を覚ました。僕は念話でミラに話し掛けてみる。
『ミラ。気がついたかい?』
『月夜見さまが頭の中でお話ししているわ。これも夢なのね』
『ミラ。これは夢ではないよ。念話という神の能力だよ』
『え?念話?どうして私がその念話を?』
『ミラ。前世の記憶が戻っているでしょう?』
『あ!はい。思い出しました。私も日本人でした』
『そう。これで君も神になったんだ。だから能力が使えるのだよ』
「え!私が神に?」
「そうだよ。ミラ。それで日本では何という名前だったのかな?」
「あ。はい。私は、如月詩織という名前でした」
「しおり?どういう字なのかな?」
「ポエムの「詩」に織物の「織る」という字です」
「詩織か、美しい名前だね。とても好きだな・・・」
「嬉しいです!月夜見さま・・・愛しています」
詩織が襲い掛かって来て、二回目が始まってしまった。ミラって、侍女の時はほとんど話さない大人しい娘だと思っていたけど、キスのことと言い、実は大胆な人だったのかな?
そのまま、何度も絶頂を迎え、なかなか終わらなかった。もう真夜中を過ぎてしまった頃、漸く、満足してくれた様だ。
「詩織って、激しいね」
「あ!ごめんなさい!嫌でしたか?」
「そんな訳ないじゃない。愛しているよ」
「それで、詩織。日本でのことを聞いても良いかな?」
「はい。私は東京で保育園の保育士をしていました。ある日、いつもの様に園児を連れて公園に行く途中、交差点で二台の車が接触事故を起こし、一台が歩道に突っ込んで来たのです。私は子供たちを守って車に轢かれて死んだのです。二十五歳の時でした」
「二十五歳か、それならば紗良とは日本でもこちらでも同い年だね」
「そうなのですね。だから彼女とはすぐに仲良くなったのかしら?」
「詩織はその事故のショックがトラウマになってはいないかな?」
「えぇ、本当に一瞬のことでしたから・・・それ程、記憶にも残っていない様です」
「それならば良いのだけど・・・紗良はね。看護師だったんだよ。彼女は担当した患者の男が勘違いして紗良を好きになってね。ストーカーになってしまって、最後はナイフで刺されて亡くなったんだ。彼女は今でも心の傷が癒えていないんだよ」
「なんてことでしょう・・・それは辛いですね。私も紗良を支えたいわ」
「うん、お願いするよ」
「月夜見さま。私、これからどんなことができる様になるのですか?」
「念話はもうできたね。読心術、動物との念話、念動力、空中浮遊、透視能力、瞬間移動だね。あと指から火を出したり、雨を降らせたり、雨雲をかき消したりもできるよ」
「凄いです!それでは本当に神さまなのですね」
「後は、背が伸びて若返る。身体が最適化されるみたいなんだ。病気にならないし、生理痛もない。いくらセックスしても疲れないし、夜通ししても眠くならないよ」
「え?では、これから朝までしても良いのですか?」
「詩織って、そんなにセックスが好きなの?」
「まぁ!月夜見さまが好きなのです!」
「うーん!可愛い!」
そして結局、朝まで愛し合ってしまった。朝になり明るい日差しの中、お互いの身体を点検でもするかの様に見つめ合った。
「詩織って、本当にアンナマリーとクラウスを生んだのかい?」
「え?生みましたよ。どうしてですか?」
「だって、とても若くて美しい身体をしているから・・・」
そう言って、ウエストのくびれを手で撫でた。
「嬉しい。本当ですか?」
「でも、もっともっと美しくなるよ。それが少し心配なんだ・・・」
「え?綺麗になったら何かあるのですか?」
「アンナマリーとクラウスだよ。君の姿があまりにも変わってしまうから、ショックを受けるのではないかなと思ってね。だって十代後半くらいの若さになってしまうんだよ。アンナマリーと親子には見えなくなってしまうよ」
「あぁ、そうなのですね。親子ではなく、姉妹に見られるかも知れないのですね」
「そうなんだよ。ごめんね。今更言っても仕方がないのだけどね」
「今のうちから二人にはよく話をしておきます。神の一家に入ったのですから、普通では有り得ないことが起こるのだと覚悟をしてもらいます」
「そうだね。困った時には一緒に相談に乗るからね」
「月夜見さまは昔から変わらず、本当にお優しいお方です」
「ありがとう。それは相手が詩織だからだよ。僕は生涯、君を愛するし家族を守るよ」
「月夜見さま・・・心から、心から愛しています」
翌朝、詩織は朝食前にアンナマリーとクラウスを起こし、自分の部屋へ呼ぶとこれからのことを話した。
「アンナマリー、クラウス。ふたりに大事なお話があるの」
「何ですかお母さま。こんなに早くに」
「今からお話することは、あなた達にとってはとても信じられないことだと思います。でも本当のことなの。ここは神の住まう月の都。私は神の妻になる。そして私自身も神になったのだそうです」
「お母さまが神に?」
「分からないわよね。月夜見さまと七人の妻は皆、異世界からこの世界に転生して来た人たちなの。そして私もその異世界からの転生者だったのよ」
「え?何故それが分かったのですか?」
「昨日の夜、月夜見さまのお力で、記憶の封印を解いて頂いたのです。そして私は前世では、地球という星の日本という国で暮らしていたことを思い出したのです」
「その国での私の名前は詩織よ。これから月夜見さまや他の奥さま方から、私は詩織と呼ばれるようになるわ。だから、あなた達も私の名前を覚えておいて欲しいの」
「でも、私たちはお母さまとお呼びして良いのですよね?」
「えぇ、勿論です。私が神になってもあなた達の母であることは変わらないのですからね」
「本当に神さまになったのですか?」
「そうね。では、見ていて」
詩織はその場で立つと、天井付近まで浮き上がって見せた。
「うわぁ!お母さまが浮いている!本当に神さまなのですね!」
そして花瓶の花を浮かばせて、アンナマリーまで届けたり、心の中で考えていることを読み当てたりした。
「良いわね。月夜見さまも奥さま方も皆、人の心が読めるのです。ここでは決して、嘘をついてはなりませんよ」
「分かりました」
「もうひとつ大事なお話があるの。私はこれから二か月位で背が他の奥さま方と同じくらいに大きく成長するそうです。そして十代後半くらいの容姿に若返るのだそうです」
「どうしてなのですか?」
「神の力が大きいから、その力で病気にならず、老いにも勝ってしまうのだそうです」
「え?では、私の方が先に歳を取ってしまうかも知れないのですね」
「えぇ、アンナマリー。ごめんなさい。桜は三十二歳になるのだそうよ」
「え?桜さまが三十二歳?どう見ても十七歳か十八歳くらいにしか見えません!」
「そうでしょう?私もそのくらいの若さに戻ってしまうのだそうです。そして三十歳を過ぎてもそのままなのです」
「でも、お父さまもお若いままなのですもの。お母さまにもお若いままで居て欲しいわ」
「アンナマリー、ありがとう!」
「僕もお母さまがお若い姿の方が嬉しいです!」
「クラウスもありがとう!」
「お母さま。とっても元気そう!こんなに明るくて嬉しそうにしているお母さまは初めて見ます。本当に良かったわ!」
「そうですね。お母さまが幸せならばそれで良いのです!」
「二人とも!ありがとう。大好きよ!」
詩織は両腕を広げると、アンナマリーとクラウスを念動力で腕の中へと引き寄せた。
「うわぁー!」
「きゃぁー!」
「ふふふっ!これがお母さまの力よ!」
「お母さま!凄い!」
「神さまだ!」
「あはははは!」
「ふふふっ!」
詩織の部屋からは親子の明るい笑い声が響いていた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!