30.愛するミラ
長いキスを終え、泣き腫らしたミラの目の周りを治癒の力で癒した。
「さぁ、そろそろ皆のところへ帰ろうか」
「はい」
「皆に結婚の発表をするよ」
「え?もうですか?」
「隠したって仕方がないよ。それにこうなることは皆、知っているんだ」
「え?皆が知っているのですか?どうして?」
「僕の妻は皆、僕と同じ異世界からの転生者で神なんだ。過去の記憶を取り戻すと神の能力が発現して、あの様に神の美しい容姿へと変わるんだ」
「だから皆さん、同じように背が高く、十代の様に若々しい姿なのですね」
「そうだよ。そしてその中の花音はね、五年に一度、現在から五年後の未来の予知夢を見るんだ。ついこの前、五年後の夢を見てね。その夢の中で見た僕の八人目の妻は君だったんだよ」
「え?私が?私も異世界からの転生者なのですか?」
「そうだよ。これから前世の記憶を取り戻せば、神の能力が発現して若返るんだ」
「どうやって、記憶を取り戻すのですか?」
「うーん。今、キスをしても記憶を取り戻さなかったね。それはそうだ。キスならもう一回しているものね?」
「あ。そ、それは・・・」
「うん。それでね。キスしただけで記憶が戻らない場合はセックス。性交するんだよ」
「え?本当に!」
「僕とは嫌かい?でも僕は既にミラの全てを見ているのだけどね・・・」
「あ!月夜見さまったら!」
ミラは真っ赤な顔になった。
「ふふっ。さぁ、帰ろうよ!」
「はい!」
「さぁ、おいで!」
僕はミラを抱きしめてサロンの前へと飛んだ。
「シュンッ!」
「あ!月夜見さま!ミラ!お帰りなさい!」
「お母さま!お帰りなさい!」
「アンナマリー、クラウス。ただいま!寂しくなかった?」
「えぇ、皆さんが動物とお話ししてくれて、小鳥やウサギにご飯をあげたりしたのです!」
「そう、それは良かったわね」
サロンに皆が集まった。
「皆、ミラの離婚は認められたよ。そしてシュルツ侯爵家は伯爵家に降爵された」
「相手が事実を認めたのですね」
「うん。そうだよ。僕の前で嘘は通用しないからね」
「それは良かったわ。それでこれからミラたちはどうするのですか?」
「ミラと話して、ミラを僕の妻に迎えることにしたよ。アンナマリーとクラウスは僕の子になるんだ」
「お母さまと神さまが結婚するのですか?」
「神さまが僕とお姉さまのお父さまになるのですか?」
「そうだよ。君たちは僕の子になるんだ。良いかな?」
「はい!嬉しいです!」
「ここで暮らせるのですか!嬉しいです!」
「あぁ、アンナマリー、クラウス。ありがとう!」
「お母さま。お母さまもこれでもう、寂しくなくなるのですよね?」
「えぇ、月夜見さまが居てくださるから寂しくないわ。あなた達も一緒なのだしね」
「お母さま。おめでとうございます!」
八人目の嫁は向こうから電撃的に現れ、そして妻となったのだった。
ミラは陽菜の隣の部屋に入った。二人の子にはそれぞれ子供部屋を与えた。
「ミラ、アンナマリー、クラウス。荷物は最小限しか持って来ていないのでしょう?取りに帰りますか?」
「いいえ、本当に必要なものだけを持って来ましたし、あの家のものをここに持ち込みたくもないのです」
「では、昼食後に当面の衣装を揃えに行きましょう」
「よろしいのですか?」
「勿論だよ!」
「ありがとうございます」
「あ、あの・・・私とクラウスはこれから神さまを何とお呼びすれば良いのでしょうか?」
「アンナマリー、それはお父さまで良いでしょう」
「ほ、本当ですか?神さまをお父さまとお呼びしても良いのですか?」
「えぇ、勿論。私はミラと結婚するのですからね。私が君たちのお父さまでも良いですか?」
「はい!お父さま」
アンナマリーは真っ赤になって、恥ずかしそうに僕をお父さまと呼んだ。六歳しか違わない子にお父さまと呼ばれるのは何かこそばゆいものだな。
昼食はかなり賑やかになった。妻が八人に子が二人、舞衣のお母さんで総勢十二人での食事となった。
「皆さん、この度はこの様なことになり、お騒がせして申し訳御座いませんでした」
「ミラ。私たちは皆、月夜見さまの妻なのだから、そんな気遣いは要らないわ」
「ありがとう。ニナ」
「あぁ、ミラ。妻たちは皆、前世の名前で呼ぶことになっているんだよ」
「ミラ、私は桜よ。またよろしくね」
「はい。桜さま。よろしくお願い致します」
「あぁ、妻同士で「さま」は要らないのよ」
「あ、そうなのですね。桜。で良いのですか?」
「えぇ、よろしく!」
「私は花音です。この月の都の前にある村の村長の娘。つまり平民だったのです」
「花音。村長の娘なのですね。よろしくお願い致します」
「私は琴葉。琴葉よ!」
「琴葉・・・そ、そう、なのですね・・・よろしくお願い致します」
僕の母であったアルメリアが、僕の妻になっていることにミラは戸惑いを隠せないでいる。後で説明しないといけないな。
「私は舞衣。この国、アスチルベ王国の第十王女です。よろしくお願い致します」
「まぁ!王女殿下なのですね。舞衣・・・よろしくお願い致します」
「私は幸子。イベリス王国第三王女です。まだ十五歳になったばかりでこれから結婚式を挙げるのです」
「幸子・・・幸子も王女殿下なのですね。よろしくお願い致します」
「ミラ。私は陽菜。まだ結婚式は挙げていないの」
「ニナは陽菜なのね。よろしくお願い致します」
「ミラ。私は紗良よ。私もまだ結婚式は挙げていないわ」
「シエナは紗良なのね。分かったわ。よろしくお願い致します」
「皆、もうすぐ幸ちゃんの結婚式だね。ドレスはどうしようか?」
「舞衣の時ので良いですよ。紗良と陽菜も仕立てたのですよね?」
「はい。婚約の時のドレスで大丈夫です」
「では、ミラだけだね。昼食後に子供たちと一緒に行ってくるよ」
「紗良と陽菜、それにミラの結婚式はどうされるのですか?」
「それなんだけどね。幸ちゃんの結婚式が終わって一か月後くらいにネモフィラ王城を借りてやろうかと思っているんだ」
「そこで三人一緒に式を挙げるのですね?」
「そうだよ」
「え?私、二度目の式なんて・・・」
「ミラ。そんなことは気にしなくて良いのです。ご両親に安心して頂くためでもあるのですよ」
「あぁ・・・月夜見さま。ありがとうございます」
「それにね、ネモフィラではお世話になった人が多いからね。八人の妻が揃ったところで、もう一度、全員がウエディングドレスを着て壇上に並んでもらおうと思っているよ」
「え?私たちも、もう一度で御座いますか?」
「そうだよ。桜のノイマン家、紗良のクルス家、花音のシュナイダー家、ミラのマイヤー家に感謝する意味でもあるかな」
「そうですね。娘が神に嫁いだことが公になることで、その家の格式が上がりますからね」
「幸ちゃん。そういうことだよ」
「月夜見さま。私が並び立っても大丈夫でしょうか?お腹はまだ、それ程目立たないとは思いますが」
「大丈夫だよ。琴葉は琴葉だ。陽菜も陽菜だし。肩書なんて無くて良いのですよ」
「月夜見さまが良いのであれば構わないのです」
「ミラ。しばらくダンスを踊っていないでしょう?練習しないとね」
「え?あ、そうね。陽菜。一緒に練習してもらえるかしら?」
「勿論よ!」
昼食後、ミラ親子を小型船に乗せ、プルナス服飾店へと飛んだ。
「シュンッ!」
「うわぁ!ここはどこ?急に景色が変わってしまったよ!」
「クラウス。ここはネモフィラ王国にある服飾店だよ」
「え?ネモフィラ王国?三日も掛けてアスチルベ王国まで行ったのに、一瞬で戻ってしまったのですか?」
「それが瞬間移動なんだよ」
「お父さま、凄いです!」
「ふふっ、凄いでしょう!」
子供って無邪気で可愛いものだな・・・
「月夜見さま。最近は頻繁にいらっしゃいますね!いつもありがとうございます」
「ビアンカ。彼女を覚えているかな?」
「あら?確か・・・月夜見さまの侍女だったお方では?」
「そうだよ。彼女はマイヤー侯爵家の娘、ミラだ。今日、彼女は離婚してね。僕の妻になるんだよ」
「え?こ、侯爵家の奥方様が離婚されて月夜見さまの妻に!そ、そんなことが・・・」
ビアンカが今までで一番驚いている様だ。
「それでね。ミラに婚約のドレスと旅の衣装をお願いします。それに月の都で普段着る衣装をあるだけください。下着なんかも全て新調してね」
「は、はい。かしこまりました。サイズは百七十五センチメートルでお作りしてよろしいですか?」
「百七十五センチメートル?」
「えぇ、それでお願いします。ミラ。すぐに大きくなるからね」
「そ、そうなのですか・・・」
「それと、この子供たちに結婚式に出席する衣装と普段着をひと揃えお願いします」
「さぁ、ミラと一緒にドレスやこれから着る衣装を選んできて」
「お父さま。私にもドレスをくださるのですか?」
「そうだよ。結婚式は王城で挙げるからね、それに相応しいドレスを選ぶのですよ。クラウスも紳士に見える格好良い衣装をね」
「私、初めてです!」
「お、お父さま。ありがとうございます」
アンナマリーは子供らしく大喜びしていた。クラウスは少し緊張している様だ。
それから二時間くらい掛けて、皆の衣装が決まった。在庫のあるものは三つの箱に詰めてもらい、各々の部屋へと念動力で送った。箱が消える様を目の前で見て、アンナマリーもクラウスも大変な驚きようだった。
次にデュモン宝石店へ行った。
「クレメント。最近、よくお世話になりますね」
「月夜見さま。いつもありがとうございます」
「今日は、また妻が増えるのでね。婚約の品をね。それとこのお嬢さんにネックレスを」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
「ミラ マイヤーさまでいらっしゃいますね。こちらの品が当店の最上等のお品です」
「まぁ!何故、私のことを?」
「以前にお見掛けしておりますので・・・」
「そうですか・・・」
「ミラ。どれが良いかな。瞳や髪の色に合わせて、ルビーとかピンクサファイアが良いかな?それとも・・・」
「そうですね、ルビーが良いでしょうか」
「では、こちらのルビーのものをお薦め致します」
「アンナマリーさまには、こちらのお品からお選び頂ければと」
「まぁ!私の名前まで!どうして?」
「それが私の仕事です故」
「どうしましょう。私、宝石なんて初めてでどれを選べば良いのか分かりません!」
「そうだね。ではアンナマリーの瞳の色に合わせて、このエメラルドにしたら?」
「お父さまがお薦めくださるのならば、それが良いです!」
「クラウスにはタイピンが良いかな?」
「ではこちらからお選びください」
「え?お母さま、どうしたら?」
「そうね、あなたの赤い瞳に合わせてこのルビーにしたらどうかしら?」
「うん。ミラの宝石とも合うから良いのではないかな?」
「では、これにします」
「ミラ、普段使いの宝石も何点か選んでおいて」
「え?そんなに頂けません」
「何を遠慮しているんだい。君は神の妻になるのでしょう?」
「あ!は、はい。それでは・・・」
そして、ミラは数点の宝石を選んだ。次に、コンティ靴店へ行った。
「デニス。こんにちは!」
「これは!月夜見さま!いらっしゃいませ」
「この三人に靴をお願いします。結婚式に使うものと普段使いのものです」
デニスが結婚式と聞いて今まで妻たちが購入したものと同じハイヒールを出して来た。
「こんなにヒールの高い靴を履くのですね?」
「ごめんね。僕の背と合わせるためでもあるんだ。これでダンスが踊れる様に練習してね」
「かしこまりました」
「お父さま。私もヒールの高い靴を買って頂いてもよろしいですか?」
「勿論だよ。アンナマリー。美しい姿のためだからね」
「嬉しいです!ありがとうございます」
そして、まとめ買いした靴を各々の部屋へと送った。
僕はミラを妻に迎えられることで気持ちが高ぶり、次々と行動を起こしていった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!