表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/329

16.異世界の下着

 突然、僕の目の前に現れた舞依のブラジャー。やはり皆に見てもらうのが良いだろう。


 僕はお母さま付きの侍女ニナに声を掛け、大事な話があるので家族全員に食堂に集まって欲しいと伝えてもらった。


 それから程なくして家族が集まった。僕は後ろ手にブラジャーを持ち、最後に食堂へと入った。


「急にお集まり頂き申し訳ございません。ちょっと驚くことがあったのでご報告しないと、と思いまして」

「あぁ、今日はオリヴィアと神宮へ降りていたのだったな。何かあったのかい?」

「お父さま。神宮では大きな問題はなく、オリヴィア母さまのお母さまに仕切って頂いたので、お話は全て上手くいきました。でもそのお話ではなく、宮殿に戻ってからのことなのですが・・・」


「どうしたのだ?」

「実はとても言いにくいお話なのですが・・・部屋の窓から月を眺めていたら、前世の恋人のことを思い出してしまいまして、色々とその・・・思い浮かべていたのです」

「そ、それは・・・辛いことだな・・・」


「あ!い、いえ、そういうお話ではなく。今日は下着の話ばかりしていたもので、それであの・・・彼女とのベッドの中でのことを思い出してしまいまして・・・」

「はぁ?」

「そうしたら彼女の着けていた下着のことがやけに鮮明に思い出されてしまい、そしてこれが引き寄せられてしまったのです」

「そ、それはなんだ?」


「これが、前世の世界での女性専用の下着であるブラジャーです。そしてこれは僕の彼女のものなのです」

「な、なに!別の世界のものを引き寄せたというのか?お、お前はなんという力を持っているのだ!」


「お兄さま。それがお話ししてくれたブラジャーなのですね!」

「そうです。折角なので皆さんに見て頂こうと思いまして」

「素晴らしいですわ。なんて美しい下着なのでしょう!」


「本当に!こんなに素敵な下着を着けられるとは、なんてうらやましい世界なのでしょう!」

「お兄さま、近くで見せてくださいませ!」

「月夜見さま、触ってもよろしいかしら?」

「勿論です。皆さん順番にじっくり見て、触ってください」

 しばらくは女性たちが、わーわーきゃーきゃーと黄色い声を上げて楽しんでいた。


「如何ですか?これは欲しくなるものでしょうか?」

「欲しいです!」

 全員の声が重なりびっくりした。


「では服飾店の職人に見て頂いて、これを見本にして近いものを作って頂きましょう」

「もう同じものを発注しておいた方が良いのではありませんか?」

「そ、そうですね!早く注文しないと納品が遅くなってしまいますよね!」

 うーん。なんか我先に。って感じになっちゃったな。


「いや、まだ同じものができると決まった訳ではないのですが・・・うーん。まぁ、この見本があれば近いものはできるでしょうか。そうですね。では皆さんの寸法を測って、注文書を作りましょうか」

「寸法はどうやって測るのですか?」


「裸になって頂いて胸の下の胸囲と乳房の高さを測るのですよ」

「え?月夜見さまが私たちを?」

「い、いや、それは問題ですね。では僕がお母さまを測り、お母さまとニナに測り方を覚えて頂いてから皆さんを測る。ということで良いのではないでしょうか?」

「お母さま。よろしいですか?」

「えぇ、構いませんよ」


「ではお母さま。参りましょう」

 僕はお母さんの手を引いて僕たちの部屋へ行った。ニナに巻き尺を持って来てもらった。


「さぁ、お母さま。脱いでください」

「な、なんか。月夜見ったら・・・」

「え?変な気を起こさないでくださいよ」

「それは月夜見の方でしょう!」

「お母さま。既に親子の会話じゃないですよ・・・」


 僕は椅子を持って来てその上に立ち、お母さまの背中に巻き尺を回そうとした。が、まだ腕が短いのでお母さまの胸に顔をむにゅっと埋める様になってしまった。


「ほら、そうなるではないですか・・・」

「お母さま。僕が嫌なのですか?」

 お母さんの表情が少し意地悪に見えた。


「だって、月夜見は前の世界の彼女を思い出してその下着を引き寄せたと言っていたではありませんか・・・」

「あ!お母さま。僕の彼女に焼きもちを焼いているのですね?」

「ま、まぁ!その様なことは!」


「彼女はもう亡くなっているのです。今の僕にはお母さましか居ないのですよ」

「そ、そうでしたね。ごめんなさい」

「良いのですよ・・・お母さま」


 気持ちを切り替えて計測の要点を覚えてもらった。


「お母さま、測る時は巻き尺が緩んだり、肌に食い込んだりしない様、優しくあてがってください。そして胸のすぐ下の位置で胸囲を測り、次に乳房の一番高い位置の胸囲を測るのです。こちらの方は胸が柔らかくて計測値が狂い易いので、ニナに背中側で支えてもらいながら測ってください。そしてこの紙に名前と上と下の寸法を書きとめてください」

「分かりました」


「あ。そうだ。お母さま、このブラジャーを着けてみてもらえますか?今、測ったお母さまの寸法とこのブラジャーの大きさが合っていると思うのです。確かにお母さまは、身長以外は彼女と同じくらいの寸法のような気がしますので」

「そうなのですか・・・」


「あ。着方が分からないですよね。では、この紐の中に両腕を通してください。通したら僕に背中を向けてください。背中のホックを止めますね。はい。できました。またこちらを向いてください」


「自分でこうしてブラジャーの中に手を入れて、乳房を脇の方から持ち上げてブラジャーのカップの中に乳房を収める様に入れてください」


 僕は自分の手でそのしぐさをお母さんに見せる。するとお母さんは見よう見真似みまねで右手を左胸の下へ入れ、脇から持ち上げて乳房をカップに収めた。


「上手くできていますよ。今度は左手で右胸を収めます。はい。できました。」

 きれいな胸の谷間のできあがりだ。

「では肩紐の長さを調整します。お母さまは、舞依より背が高いから肩紐を長くしないといけないと思います」


「月夜見の彼女はマイというお名前だったのですね・・・」

「え?あ!そ、そうです・・・舞依です。今、僕は彼女の名前を口にしていたのですね・・・」

 あー気まずいな・・・僕は黙ってストラップの長さを調整した。


「これでどうでしょう?胸が支えられて重さが少し軽くなる感じはしますか?」

「えぇ、とても付け心地が良いです。胸に当たる部分もとても柔らかいのですね」

「ではお母さま、この屋敷用ではなく、今日のオリヴィア母さまの様なドレスを着てみませんか?その方がこのブラジャーの良さが分かり易いと思いますので」

「えぇ、分かったわ」

 お母さんは、ニナに言ってドレスを出してもらい着付けられた。


「お母さま。とてもお綺麗ですよ」

「アルメリアさま、その下着があると胸の線が美しく出てドレスも引き立ちますし、本当にお美しいです」

「そう。ありがとう」


「お母さま、そのまま、お母さま方の寸法を測りに行かれると良いですよ。皆さんもこの下着を付けてドレスを着るとどの様な姿に見えるのかが分かって参考になると思うのです」

「そうですね。分かりました。そうしましょう」

「では、僕はこの部屋でお待ちしています」

「えぇ、分かりました」




 結局、夕方まで掛かって寸法は測り終えた。僕は待っている間に服飾店の職人に渡すため、アンダーバストでのブラジャーのサイズとカップの大きさのサイズ表を作った。


 舞依のブラジャーに付いていたサイズタグの表示からアンダーの方では一インチ刻みになっているのではないかと推測された。カップは確かとても細かくサイズが分かれていると聞いたことがあるので二センチメートル刻みにした。


 計測が終わると既に夕食の時間となったので、僕はお母さんをお父さんに見せるため、そのままドレス姿で食事に行く様、うながした。お母さんも応じてくれた。


「アルメリア母さま。とても素敵です!」

「うん。本当に美しいな」

「お母さま。今度、神宮で服飾店の職人に会う時、その姿で同行して頂けないでしょうか?」


「私は構いませんが、オリヴィア姉さまはどうするのです?」

「勿論、同行して頂きますよ。僕が二往復してお連れしますから」

「分かりました。その職人もさぞ驚くことでしょうね」


「お兄さま。私はブラジャーを作って頂けないそうなのです・・・」

「あぁ、月華げっか姉さまは十歳でしたか。ブラジャーは一番小さな寸法でも上と下の差が九から十一センチメートルは必要なのです。もう少し膨らんで来てから作りましょうね。そうしないと寸法が合わなくなってしまいますから」


 流石にこの世界にジュニア用のブラジャーは時期尚早じきしょうそうであろう。


「そうなのですね。残念です。私も早く大きくなりたいです。お兄さま、私の胸を大きくしてくださいませんか?」

「い、いや、そんな方法はありませんよ」


「だってお兄さまは異世界からあの下着を引き寄せる程のお力をお持ちなのでしょう?なんとかできないものでしょうか?」

「うーん。そんな方法は知らないですね。お父さま、ご存知ですか?」

「私もそんなことは知らんよ。月華。もう少し待てば自然に大きくなるものだよ」

「はい。分かりました・・・」


 可哀そうだが、揉んだら大きくなるとか根拠のないことは言えないし、もし言ったらやってくれと言われるだろう。そんなことできる訳がないしね。


「それにしても、この下着は素晴らしいですわね。ドレスの下に着けると美しさが際立ちます。今後はこの下着なしでは社交界は成り立ちませんね」

「この下着は、この機能をそのままドレスに取り込むこともできるのです。例えば、この胸の下から足元まで長く伸びるスカートになっているものなんかもできるのですよ」

「まぁ!それは素晴らしいわ」


「そうですね。そのドレスは恐らくオリヴィア母さまにお似合いになると思いますね」

「月夜見さま、是非にそのドレスのお話を職人にしてくださいませ。私その場で注文致しますわ」

 その後もこの下着ありきでのドレスの案が次々に考案されて行った。




 食事やその後のドレス談義が終わり、お母さんと部屋に戻った。


 お母さんは舞依のブラジャーを外して僕に渡した。受け取った僕は何も言わずに窓辺に行き、月を眺めた。今、お母さんがブラジャーを外す仕草が舞依の姿と重なり、より鮮明に舞依の姿を思い出してしまった。そして月の中に舞依の姿を見ていた。


 僕の前世の中で一番多くの時間を共に過ごした女性だ。忘れられる訳がない。いや、この世界に生まれ変わってから、余計に思い出される様になってしまった。


 特に月を見ている時は必ず思い出してしまう。何故なのだろうか・・・


 あぁ、そうだ。舞依が亡くなって舞依の家族を病院の玄関まで見送った後、夜空を見上げた時に月を見たな。あれが地球での最後の景色だった。そのことはずっと忘れていたな。


 舞依はどうなったのだろう。日本で生まれ変わっているのだろうか。この世界に生まれ変わってくれてはいないものだろうか?また逢いたい・・・


 その時、自分の頬に涙が伝わり落ちていることに気付いた。


「月夜見。マイを思い出していたのですか・・・」

 いつの間にか僕の横に立っていたお母さんは、そう言って床に膝を付くと、僕を抱きしめた。


「お、お母さま・・・」

 言葉が出て来ない。今日はどうしたというのだろう。下着の話やオリヴィア母さまの胸の刺激から舞依を強く思い出し、舞依の下着まで引き寄せてしまった。その上、舞依の下着を付けたお母さんと舞依を重ねて見てしまうなど。最早重症ではないか。


 お母さんはそのまま僕を抱き上げると、そのままベッドへと連れて行き僕を抱きしめてくれた。

「お母さま・・・ぼ、ぼくは・・・うっ、う・・・う・・・」


 自分の心の奥底に閉じ込めていた記憶が思いがけずよみがえり、感情が抑え切れなくなってしまった。


 僕はお母さんの腕の中で声を上げて泣いた。お母さんは何も言わずに僕をその胸に抱きとめ、いつまでも背中を優しく撫でてくれた。


 ニナはその一部始終を悲痛な表情で見守り、一礼すると静かに退室していった。


 そして僕はお母さんの腕の中で、いつの間にか気を失うかの様に眠りに落ちた・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ