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25.シエナとの新婚旅行

 僕は紗良を連れて旅に出た。ふたりだけの旅だから船も要らない。


 紗良を抱きしめて、まずはネモフィラのプルナス服飾店へ飛んだ。

「シュンッ!」

「ビアンカ。こんにちは!」

「まぁ!月夜見さま!いらっしゃいませ!あら?今日はお二人だけなのですか?」


「えぇ、こちらの今まで侍女だったシエナは、異世界からの転生者であることが分かったのです。私の妻にしますので、今後ともよろしくお願いしますね」

「まぁ!新しい奥さまですのね。それでお名前は?」

「紗良です。紗良 クルスとなります」


「紗良さまですね。今後ともよろしくお願いいたします」

「それでビアンカ、紗良に旅の衣装を用意したいんだ。今は紗良の背丈は百六十センチメートル位だから、前の花音の衣装で寸法が合うと思うのですが在庫はありますか?」

「はい。それでしたら二着御座います」

「では、それと異世界の衣装を五着程用意してください」


「それでは、これから桜さまたちの様に成長されるのですね?」

「はい。そうなると思いますので、百七十五センチメートルのものも用意しておいてください」


 紗良は花音の予備の旅の衣装を着て出て来た。

「うん。紗良。似合っているね。素敵だよ」

「月夜見さま。ありがとうございます」

 照れてはにかんだ笑顔が可愛い。


「さぁ、紗良。旅に出発しよう」

「はい!」

「シュンッ!」


 始めに来たのはビオラ王国だ。前に桜と花音と三人で泊まった宿の裏に出現して、歩いて宿の受付へ行く。


「こんにちは!部屋はありますか?」

「あ!お久しぶりで御座います!」

「私を覚えていたのですか?」

「それはもう!勿論で御座います。お部屋ですね。一部屋でよろしいでしょうか?」

「えぇ、一部屋お願いします」


「はい。では最上等のお部屋をお取りできます」

「ありがとう!」

 僕たちは部屋に一度入り場所を確認すると、再び紗良を抱きしめて瞬間移動した。

「シュンッ!」


 そこは、ビオラ王国のジャカランダの木が立ち並ぶ場所だ。

「うわぁーっ!素敵なお花ですね!」

「うん。ジャカランダという木だそうだよ。ここでお茶にしようか」

「シュンッ!」


 そう言って、ニナに用意してもらっていたお茶のセットを引き出した。僕が絨毯を敷くと紗良がお茶を淹れてくれた。


「月夜見さま。お茶です。どうぞ」

「紗良、ありがとう」

 ふたりでお茶を頂きながらジャカランダの花を見上げた。


「紗良、君の日本での暮らしはどんなものだったのかな?」

「はい。五人兄弟の末っ子で、あまり裕福な家庭ではありませんでした。家も狭かったので、なんで五人も作ったんだって不満に思っていましたね」

「紗良らしいね。はっきりしてる」


「このまま家には居られないと思って、早くから家を出ることを考えていました。中学の時の友達のお母さんが看護師をしていて、看護師なら病院の寮があるから家を出られると教えてもらったのです」


「家を出る手段として看護師になることにしたのかい?」

「きっかけはそうでしたね。でも学校の保健室の先生に憧れていたのです」

「あぁ、それで看護師の資格を取ろうと思ったのだね」


「はい。でも専門学校で学んでいくうちに保健室の先生ではなく、普通に看護師になりたいと思いました。人の病気を治すお手伝いができることが嬉しかったのです」


「もしかして、その記憶から無意識のうちに神宮で働きたくなったのかな?」

「えぇ、恐らくそうなのだと思います」

「では、日本での生活はあまり恵まれていなかったのかい?」


「そうですね。親にはこうやって旅行に連れて行ってもらったこともなかったですね。でも友達同士で東京へ遊びに行ったりはしていましたから、不幸というほどの辛いこともありませんでしたけど」

「そうか、ではいわゆる普通の暮らしではあったのだね」

「はい。そう思います」


「日本ではお付き合いした男性は居たのかな?」

「私、一度も男性とお付き合いしたことがなかったのです」

「それは何故?」

「自分から男の人に話し掛けたことがないのです。恥ずかしいというか、自分に自信がなかったのだと思います」

「では、キスもしたことがなかったの?」


「はい。日本とこの世界で丁度二十五年ずつ、五十年生きて月夜見さまが初めての男性です」

「うわ!それは責任重大だね」

「月夜見さま。私なんかを妻にされても良いのでしょうか?」

「紗良。自分で「なんか」などと言っては駄目だよ。紗良は美しくて頑張り屋さんで素敵な女性だよ」

「え・・・でも・・・」


「そう言えば、日本の記憶を取り戻すと大抵は皆、僕に質問攻めになるのだけど、何か分からないことや不思議に感じていることはないかな?」

「今まで十年近くご一緒していますので、これまでに見たり聞いたりしたことで大体分かっています。それに分からなかったことも日本の記憶を思い出したことで全て分かるようになりましたから大丈夫です」


「それならば能力の習得も一番早いかも知れないね」

「そうですね。治癒に関わることならばすぐにできる自信はあります」

「幸ちゃんと同じで医学の知識があるから、多くの命を救えるだろうね」

「それは嬉しいことです」


「紗良。ここにおいで」

「はい」

 絨毯に横になり腕枕に紗良をいざなった。ふたりで寝そべり、空とジャカランダの花を見ながら会話を交わした。


「紗良。日本であった辛いことを僕が忘れさせてあげられる様、精一杯君を愛するからね」

「はい。嬉しいです。月夜見さま」


「そう言えば紗良のご両親は健在なのかな?」

「どうでしょう?二人共私が死ぬ時に六十歳を過ぎていましたから、もう八十六歳と八十八歳ですね」

「連絡を取ってみるかい?」


「いいえ、もう良いのです。その歳では異世界に転生したと説明しても理解ができないと思います。混乱させるだけです。兄弟は小さいうちは私を末っ子として可愛がってくれましたから、少しだけ心残りはありますが・・・」


「うん。ゆっくり考えたら良いよ。自分で能力が使える様になってから、舞依の様に自分で鳥を使って日本の人と直接話すこともできるのだからね」

「えぇ、あれって凄いですね。落ち着いたら考えてみます」


「そうか。今世のご両親やご兄弟とはどうなのかな?もう随分と会っていないのでは?」

「今世の家族も前世の家族も似ていますね。どちらも貧しく、親子とも兄弟とも関係が希薄な気がします」


「そう言えば、ご両親は紗良の結婚に意欲的ではなく、生涯、僕の侍女で居られるならそれで良いと言っておられたのでしたっけ?」

「はい。そうです。子爵家をどう残していくかにしか興味がない様でした。何だか一度も親身に考えて頂けなかった様な気がします」


「それは寂しかったね。でも貴族社会はそれが一番重要で関心の高いことなのだろうね」

「はい。そう思います。でもニナはご家族が居ませんし、桜さまや他の方も皆、日本でもこちらでも月夜見さまに出会うまでは、幸せだったというお話は伺っていない様に思うのです」


「あぁ、それは確かにそうかも知れない。皆、親との関係性や病気など、決して幸せとは言えないことが多い様だね」


「こう考えてはどうかな?僕と結婚してからが余りにも幸せになるから、それまでの人生では幸せが少し割り引かれてしまっていたのだと・・・」

 あれ?これって自分でハードル上げちゃったね・・・頑張らないと。


「ではこれからは今までの分も割増しで幸せになるのですね?」

「うん。必ずそうなると約束できれば良いのだけれどね。でも僕にできることは努力しますよ」

「あなたさまは本当にお優しいお方なのですね・・・」


「あ、そうだ。この国にはもう一か所、きれいな景色の場所があったんだ。昼食を食べたら午後はそちらへ行こうか」

「はい!」


 前にも入ったジャカランダの並木が見えるカフェで昼食となった。サンドウィッチとケーキとお茶を注文した。


「ここのサンドウィッチは美味しいんだよ」

「前にも来たのですね」

「うん。そうだよ」

「月夜見さま。私、月夜見さまがまだ行ったことのない国へ行ってみたいです」

「行ったことがない国?それはどうして?」


「だって、ここは桜さまや花音さまも来たことがあるのでしょう?」

「あぁ、そうだね」

「新婚旅行なのですから、私と月夜見さまふたりだけの思い出が欲しいのです」

「あぁ、そうか。配慮が足りなかったね。ごめんよ。では明日はまだ見回っていない国へ行こうか」

「はい。ありがとうございます」


 結局、昼食後は紗良の希望で部屋へ戻った。

「紗良、午後は出掛けなくて良いのかい?」

「はい。月夜見さまとベッドで過ごしたいのです」

「分かったよ。もう痛くはないかな?」

「はい。大丈夫だと思います。でも痛くても良いのです」


 何だか積極的になったというか、紗良ってこんな感じの娘だったんだな。でも、自分からこうしたいって言ってくれて振り回されるのは今までにないし、悪くないな。


 そして、まだ明るい午後の時間だというのにふたりは始めてしまった。やはり能力に目覚めたせいなのか紗良は簡単に絶頂に達した。


「月夜見さま。私、どうかなってしまいそうです」

「それは良かった。存分に堪能してください」


「それなら明日は一日、このままベッドで過ごしたいです」

「え?新しい国へ行くのではなかったの?」

「それは明後日にしましょう。もっと月夜見さまが欲しいのです」

「え?そりゃぁ、紗良がそうしたいと言うならば構わないよ」

「嬉しい!月夜見さまは何でも私の言うことを聞いてくださるのですね」


「紗良って可愛いね」

「あぁ、月夜見さま、もっと。もっと愛してください!」


 もしかしてこれって死の記憶を吹っ切ろうと必死になっているのだろうか?それならばとことん好きな様にさせてあげよう。何でもわがままを聞こう。


 そして、晩御飯も翌日の朝食も昼食も食べずに愛し合った。途中何回か意識を失う様に眠ってしまったが、目が覚めると求められ、続けてしまった。こんなこと初めてだ。でもできてしまった。この身体って凄い体力だな。でも辺りは暗くなってきたし、流石にお腹が空いたよ。


「紗良。もう何回したか分からないね。お腹は空かないかい?」

「はい。空きました!夕食を食べに行きましょう!」

 宿のすぐ近くにあった酒場へ行った。前にも桜と花音と三人で入り、牛肉の煮込みシチューを食べた店だ。


「ビール二つください。それと牛肉の煮込みシチューも二つね」

「はーい。かしこまりました!」


「紗良、僕らは胃に何も入っていないから、先にビールを飲み過ぎない様にね」

「はい。でも月夜見さまが居るから大丈夫です」

「まぁ、それはそうだけどね」

「このシチュー美味しいです!」

「それは良かった。他にも食べたいものがあったら頼んで良いよ」

「はい!」


「紗良。明日から能力の訓練をしていかないか?」

「はい。能力を使ってみたいです!」

「紗良はどの能力を一番使ってみたいかな?」

「やっぱり、透視能力ですね。身体の中が見えれば様々な治療ができるのですから」

「今、僕の身体の中を見てご覧よ」


「え?今ですか?」

「うん。紗良は手術に立ち会った経験も多いだろうから、人体の中身を直接見ているでしょう?それが見えると思えばそのまま見えるんだよ」


「はい。やってみます・・・あ!見えました!月夜見さまの肺の中が肺胞まで鮮明に見えます!」

「うん。気管支炎や肺炎は多いからね。そこに炎症がないかを診れば良いのだよ」

「本当に見えるのですね!」


「これなら他の能力もすぐに習得できそうだな。この旅行中に全てできる様にしてしまおうか」

「えぇ、だって一日中ふたりきりで居られるのですものね。できる様になっていないと、ずっとふたりで何していたんだって思われてしまいますよね」

「そうだね。さっきまではそれしかしていなかったけれどね」


「月夜見さま。私、もう落ち着きました。沢山、沢山愛して頂いて満たされたのです」

「うん。でも無理はしないでね。この旅行中はどれだけ甘えても良いのだからね」

「月夜見さま・・・愛しています。部屋に帰ったらまたお願いできますか?」


「勿論だよ。何度でも構わないよ」

「嬉しい!」

「紗良は本当に可愛いな。愛しているよ」


 夕食は早めに切り上げ、宿に帰ると再び愛し合った。でも流石に日付が変わる頃には眠ったのだった。

「さぁ、では初めての国へ行ってみようか」

「シュンッ」


 小型船を引き寄せ、ふたりで乗り込むとプルメリア王国へ飛んだ。

「紗良。ここはプルメリア王国だよ。僕も王城と神宮にしか行ったことがないんだ」

「では、どこにも行く当てがないのですね」

「うん。そうだね。取り敢えず時計回りに東から南の方面へ回って行こうか。上空から景色を眺めてきれいな場所があったら降りてみよう。紗良が気になるものを見つけたら教えてね」

「はい。見ていますね!」


「紗良は日本の学生時代に部活とか好きだったことはあるの?」

「私、専門学校の学費を親に出してもらえなかったので自分でバイトして稼いだのです。だから部活はしていないし、好きだったことも特にはないです」

 あちゃ~地雷を踏んでしまった!聞いてはいけない質問だった!


「でも、バイト先では良い人が多かったので楽しく働いていました」

「どんなバイトをしていたの?」

「ファミリーレストランのウエイトレスです」

「では侍女の仕事も何となく好きだったりしたのかな?」


「はい。そうです。でも月夜見さまの侍女を希望したのは、月夜見さまをお慕いしていたからです。私が余りにも何度も月影さまに月夜見さまのお話を聞きたがるので、月影さまがアルメリアさまに相談してくださったのです」


「へぇ、そんなことがあったのだね。そう言えば、紗良っていうかシエナはことあるごとに僕に執着していたというか・・・」

「しつこくしていて、すみませんでした・・・」

「いや、良いんだよ。実は内心、シエナのことは可愛いなと思っていたんだ」

「え!本当ですか!」


「本当だよ。だから、妻になってもらえるのは嬉しいんだよ」

「あぁ・・・月夜見さま!夢の様です・・・」

 そう言って腕にしがみついて来た。正直言って紗良はさっきから外を見ていない。


 紗良は僕とふたりきりで、他の妻の影が見えない状況を作りたいだけなのだろうな。でもそれっていじらしくて良いな。

「あ!紗良。海が見えるね。海岸へ降りてみようか」

「あ!良いですね!」


 その海岸は白い砂浜が長く続いていた。上空から見渡したが近くに民家はなく、人の気配が全くない海岸だった。


 お茶のセットを引出し、砂浜の木陰に絨毯を敷いた。紗良がお茶を淹れてくれて、まったりと過ごした。


「月夜見さま。この世界の人は海水浴とか川遊びとかしないのでしょうか?」

「そう言えば、見たことがないね」

「こんなにきれいな海があるのに入らないなんて勿体ないですね」


「そう言えばそうだね。僕は山形出身だから海水浴ってあまりしたことがないんだ」

「それを言ったら埼玉は海なし県ですからね。それに親に連れて行ってもらったこともないので私はプールくらいしか経験がありません」


「紗良。能力を試してみようか?」

「はい。教えてください!」


 それから念動力、空中浮遊、念話、読心術とその止め方、火の出し方、雨の降らし方を一通りやって全て習得した。今後は自己訓練を積んで、能力が大きく自由自在に操れる様になったら瞬間移動をやってみることにした。


「月夜見さま。海に入ってみませんか?」

「え?水着がないよ?」

「誰も居ないのだから裸で良いではありませんか!」

「え?紗良。君って大胆だね」

「お嫌いですか?」

「大好きだよ!」


 すっかり、わがまま娘の紗良のペースにはまってしまった。もう紗良のすること、言うこと全てが愛おしくて仕方がない。


 そして大胆に服を脱ぎ捨て、紗良は海へ一直線に走って行った。僕も慌てて服を脱ぐと、紗良を追いかけ、そのまま海へ飛び込んだ。


 この国はかなり南の方にあるので、今日の様に晴れていれば、春でも遊泳ができる程に暑くなるのだ。ふたりで水遊びをし泳いだ。そして海の中で抱き合ってキスをした。


「こんなことをしたのは初めてだ!最高に気持ち良いな!」

「えぇ、嫌なことなんて全て忘れられます!」

「あぁ、僕が紗良の嫌な記憶を全て忘れさせてあげるよ」

「はい。私の中をあなたさまでいっぱいにしてください!」


 僕は海の中で紗良を抱きしめると、そのまま絨毯の上に瞬間移動し、燃え上がったふたりはそのまま、誰も居ない砂浜で夢中で愛し合った。



 結局七日間。ふたりだけの甘い新婚旅行は続き、月の都へと帰った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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