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18.嫁探しの再開

 引越しをしてから二か月。フェリックスと水月の結婚式を迎えた。


 結婚式はアスチルベ王城で開催される。前夜の晩餐もあり、二人は神宮から城へ向かった。お父さんとルチアお母さまは、前日に僕が月宮殿まで迎えに行き王城へ送った。


 僕たちは晩餐には出席せず、当日屋敷で支度をして時間になったら個別に飛んで行くことにした。


「さて、そろそろ時間だね。準備は良いかな?」

「はい。大丈夫です」

「では、アスチルベ王城のサロンへ飛ぶよ」

「シュンッ!」


「シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!」

「月夜見さまと婚約者の皆さまのお着きです!」

「おぉーっ!」

「うわぁーっ!

 僕が現れると、その隣に舞依から順番に姿を現した。舞依のお姉さま達とその主人たちがざわつく。


「な、なんてお美しい!あれが神々なのだね」

「ちょっと!あれってソフィアなの?婚約の時よりも更に背が高くなっているわよ!」


 舞依たちは皆、ハイヒールを履いているので見た目の身長は百九十センチメートル近いのだ。しかも、この日のために五人全員がカンパニュラ王国のグロリオサ服飾店で最新のドレスを仕立て、最高級の宝石を身につけている。


 その上、花音が高級化粧品を駆使してメイクを仕上げたので、更に美しくなっているのだ。全てが輝いており、見る人を魅了していた。


 水月は出産の後であることが全く分からない程、スッキリと元に戻っていた。

ドレスはフェリックスから贈られたもので、やはり水月の青い瞳に合わせたのか青を基調とした美しいものだった。宝石は本人の希望で僕が贈ったものを身に付けていた。


「水月、綺麗だね。幸せになってね」

「お兄さまの神宮で宮司になるのですもの。それにフェリックスさまとジュリアンも居るのですから、もう既に幸せです!」

「そうでしたね。心配はしていませんよ」

 水月は晴れやかな笑顔となった。


 結婚式は盛大で華々しかった。神の天照家から当主と僕も揃って出席しているのだから、世紀の大結婚式と言った感じの盛り上がり方だった。


 王とフェリックス王子、水月に祝辞を述べるための貴族の長い列が続いた。途中からダンスが始まり、僕は五人の婚約者と順番に踊った。会場の視線は全て僕たちに集まってしまい、大きなため息をついたり気を失って倒れるご婦人が続出した。それらのざわめきは気にせず僕たちはダンスを楽しんだ。


 最後にフェリックスと水月が中央でダンスを踊り、締めとなった。


 結婚式が一通り終了し、家族はサロンへ集まってお茶を頂いていた。舞依の姉たちが数人集まってひそひそ話していたが、三人が僕と舞依を目指して近付いて来た。


『月夜見さま、長女のヴァネッサと次女フランシーヌ、三女ベルナデットが来ました』

『舞依、何だろうね?』


「月夜見さま。月夜見さまは何故、ソフィアをお選びになったのですか?」

 長女が直球で質問をぶつけて来た。その顔は貼り付けた様な引きつった笑顔だった。美人だけど性格のキツさが顔に出ている。


「何故?見て頂ければお分りの様にソフィアは特別に美しい女性です。そして神になるに相応しい美しい心、そして私の心を癒す特別なものを持った女性なのです」

「そ、そうなのですね・・・ソフィア。おめでとう・・・」

「お姉さま。ありがとうございます」


 姉たちは笑顔のまま、頬を引きつらせていた。こちらの世界では一応、この人たちは舞依の姉なのだ。無理に好きになる必要もないが嫌いにもなりたくない。そう思い、姉たちの心を読むことはしないでおこう。そう舞依や桜たちと事前に決めていた。知らぬが仏だ。


 その後、舞依たちは自分たちで屋敷へと瞬間移動で帰って行き、僕はお父さんとルチアお母さまを大型船で送った。




 夏の終わりには、僕より先に成人するフォルランと柚月ゆつき姉さまの結婚式があった。


 僕は少し悩んだが、今回は婚約者を伴わず、お父さんとメリナ母さま、マリー母さまだけを連れてネモフィラ王城へ向かった。琴葉に会ってウィステリアお婆さまが悲しむ姿を見たくなかったのだ。


「フォルラン、柚月姉さま。結婚おめでとう御座います!」

「月夜見、ありがとう!」

「お兄さま、ありがとうございます!」

「幸せになってくださいね」

「はい!もう幸せです!」

「そうですね。もう既に幸せそうだ!」


 流石、大国の世継ぎだ。ドレスも宝石も最高級のものを贈った様だ。ドレスも宝石も全て輝いている。メリナ母さまも本当に嬉しそうだ。


 式が進み、貴族たちがフォルランたちに祝辞を述べるために並びだし、僕は暇になった。ダンスを踊る相手も居ない。と思ったら月影姉さまに猛アタックされ踊ることになった。


「月影姉さまも子を二人も生んだのに若く美しいままですね」

「まぁ!そんな!お兄さまに美しいと言われても素直に喜べないわ!」

「ふふっ。でも姉さまも幸せそうで良かった」

「えぇ、幸せですよ。お兄さまも、舞依さまが見つかったのですから幸せになってくださいね」

「ありがとう!」


 月影姉さまとのダンスが終わり、皆を眺めていると三人の女性が近付いて来た。

「月夜見さま!」

「あ!リア!レイラ!それにベロニカ!皆、元気だった?久しぶりだね!」

「元気です!月夜見さま、今日はおひとりなのですか?婚約者の皆さまは?」

「今日は僕だけなんだ。皆、アスチルベの屋敷でお留守番だよ」


「そうなのですね。それにしても、一段とお美しくなられましたね!」

「え?そうかい?皆も綺麗だよ。お子さんは皆、元気かな?」

「はい。元気です!」

「あれ?リア、ミラは来ていないのかな?」


「えぇ、そうなのです。シュルツさまは先程お見掛けしたのですが、ミラは来ていない様なのです」

「そうなんだ・・・」

 ミラに会えず残念な様な、でも少しホッとした様な複雑な心境になってしまった。


 四人で雑談をしていると、たまたま横を通り掛かったシュルツ殿と目が合った。

「これはシュルツ殿。お久しぶりです」

「あ!月夜見さま。ご無沙汰しております。その節はお世話になり、ありがとうございました」


「そちらの方は?」

「あぁ、これは私の妻でアンネリーゼと申します」

 エミール シュルツは金髪に緑の瞳、アンネリーゼは同じく金髪に青い瞳、何かとても自然でお似合いな二人だった。


「月夜見さま。初めてお目に掛かります。アンネリーゼと申します」

「月夜見です。よろしく。シュルツ殿。今日、ミラは?」

「ミラはシュルツ領の屋敷に居るもので、今日はアンネリーゼを帯同させました」


「そうですか。ミラは元気なのですね?」

「はい。元気にしております」

「それは良かった」

「それでは、失礼致します」


「月夜見さま!お久しぶりです!」

 その声に振り向くと、アナベルとサミュエル殿だった。

「アナベル!サミュエル殿も!元気でしたか?」

「はい。お陰さまで!」

「男の子が生まれたのですよね?」

「はい。レオナルドを授かりました。月夜見さまのお陰です」


「それは良かった。サミュエル殿、アナベル。世継ぎを授かったのは良いことですが、今度はそのレオナルドに過剰な期待をかけ過ぎない様に注意してくださいね」

「月夜見さま。それはどの様な・・・」


「脅す訳ではないのですが、まれに息子が母親と同じ性質になる。と言うことはあるのですよ。期待をかけ過ぎるがあまり、レオナルドを追い込むことがないようにアナベルが気を掛けてあげてくださいね」

「は、はい!そ、それは・・・私も心配していたのです」


「えぇ、アナベルのことだから、そうだろうと思っていましたよ。サミュエル殿。良いですね。ゆっくり、のびのびと育てるのですよ」

「はい!肝に銘じます!ありがとうございます。月夜見さま!」

「幸せになってくださいね」


 結婚式も終盤となり、挨拶が終わったフォルランと柚月姉さまが舞台から降りて来た。

「お兄さま!フォルランさまの前に私と踊ってくださいませ!」

「え?フォルランを待たせておいて私と踊るのですか?」

「えぇ、まずはお兄さまです!最後にフォルランさまと踊りたいのです!」

「分かりました」


 フロアの中心で僕たちが踊り出すと、自然に人が集まり大きな輪ができた。

「お兄さま。この結婚は全てお兄さまのお陰です。それに月影姉さまのこともネモフィラ王国のことも全てです。感謝しかありません!」

「柚月姉さま。僕もこの国の人たちに沢山助けられましたよ。フォルランにもお姉さまにもです」


「お兄さまは、私だけでもこの国だけでもなく、この世界の救世主です!ありがとうございます!」

「どう致しまして!」


 そして僕はフォルランと交代し、二人は今日の主役としてダンスを踊る。


 二人は互いを見つめ合い、一度はにかみ、そして笑顔になる。フォルランが手を差し出し、柚月姉さまが応えると息の合った美しいダンスを披露した。


 次代の王と王妃になる二人のダンスを皆、暖かい微笑みで見守った。




 新しい屋敷はかなり落ち着いて来た。月の都の入り口を警備する騎士は、桜がネモフィラ王国の騎士団長と相談して四人の騎士を譲り受けた。


 その内の一人は僕が訓練中に妊娠していることを見つけたシェイラだった。彼女はベニートという男の子を生み、パートナーのアウロラと月の都の住人となった。


 シェイラの息子は騎士志望だそうで、アルフレッドと一緒に剣術の訓練を始めている。その他、独身の女性騎士三人は、どうやら桜について来たい者たちだった様だ。


 ある日の午後、サロンで珈琲を飲んでくつろいでいた。

「月夜見さま。もう夏も終わり、月夜見さまの成人まで数か月です。あと三人の嫁探しはどうされるのですか?」

「琴葉。そうだよね。いつまでも放置はできないよね。でも手掛かりもなくどうやって探すかだよ」


「月夜見さま。もしかして日本での前世がある女性ならば、花音や幸ちゃんみたいに、既に能力の一部が発現している人も居るかも知れません。その様な女性が居ないかを各国に聞いてしまうのはどうでしょうか?」

「桜。それは良い案かも知れないね。でも結婚相手を探していると思われないかな?」


「それならば結婚相手として探している訳ではない。と断った上で年齢や独身者であることなど、条件を細かく指定して探してもらえばかなり絞り込めるのでは?」

「花音。そうだね。普通の人が持ち得ない特別な能力を持った女性。独身で歳は十歳以上にしようか。身分は問わない。これを付け加えれば結婚相手とは思われないでしょう」


 これらの条件を書面にし、僕が瞬間移動で各国へ飛んで王へ捜索を依頼した。


 能力者発見の連絡を待つ間、暇になったので舞依は国へ戻り、学校で試験を受けて卒業してくることになった。


 桜と花音は幸ちゃんを呼んで、アスチルベ国内で自分の馬を買いに行った。


 僕は琴葉を連れて温泉作りに取り掛かった。山間の湖の周辺はそろそろ秋の紅葉こうようの季節が近付いているのだ。紅葉が見頃となる前に温泉を仕上げてしまいたいのだ。

「シュンッ!」


「琴葉、どの辺に湯船を作ろうか?」

「まずは、どこから温泉が湧き出しているかでしょう?」

「あ。そうだったね。えーと、どの辺だったっけ?」


「確かこの辺りでは?あ、ほら、湯気が出ていますよ」

「あぁ、そうだったね。では、湯をそこから引くとして、景色が一番きれいに見える位置に湯船を作りたいね」

「秋の紅葉だけでなく、春の桜の季節のことも考えた方が良いですね」

「そうだね!満開の桜を観ながら温泉にかれるなんて最高だな」


 しばらく二人でうろうろし、桜やもみじ、銀杏いちょうかえでの木の位置を見ては戻り、地面にしゃがみ込んで木を見上げる。そんなことを繰り返した。


「この辺が良いのではありませんか?」

「そうだね。ここにしよう。湯船の大きさはどうしようか?」

「嫁八人と一緒に入りたいですか?」

「それはないかな?でもあまり小さくても風情がないでしょう。では四、五人が入れるくらいの楕円形にしようかな」


「まずは、穴を掘るのだね」

 念動力で土を掘り起こす様に持ち上げる。五十センチメートルも掘れば良いだろう。一部はスロープの様に段々と浅くしていき、寝そべって入れる様にした。


「琴葉、これくらいの平べったい石を集めて浴槽に敷き詰めていこう」

「分かりました」


「これって石を並べるだけではお湯が地中に染み出していってしまうのでは?」

「いや、お湯が沸き出ているのが地表だからそうなっても良いんだ。源泉かけ流しってやつだよ。それに湖面ともほぼ同じ水位だから、水もしみ込んで来て温泉と合わさって丁度良い温度に調整できるでしょう」

「なるほど、そうなのですね」

 源泉を引き込む水路を作って湯を流し込んだ。


「あ。そうだ。琴葉、ちょっと待っていてくれる?小白を連れて来るよ」

「小白を?どうするのですか?」

「この辺一帯が、熊や狼の縄張りになっていないか確かめてもらうんだ」

「あぁ、それは大事なことですね」


「シュンッ!」

 僕は小白を抱き抱えて瞬間移動して来た。


『小白、この一帯を走って熊や狼の縄張りになっていないか確かめて来てくれるかな?』

『わかった!』


 小白は走って山の中へ消えていった。僕は小白が帰るのを琴葉と雑談しながら待ち、最後にポツリと聞いてみた。


「琴葉はもう、ヴィスカムお爺さまやウィステリアお婆さまとは会わないつもりなの?」

「えぇ、そうね。そのつもりです」

「仕方がないのかな・・・」

「こういう運命なのですから仕方がありません」

程なくして小白が戻って来た。


『小白。お帰り。どうだった?何か居たかい?』

『いのしし いた なわばり つくった』

『そうか、ありがとう。助かったよ』


 そして小白をうまやへ帰して来た。すると温泉が溜まってきた。湯が透明になるのを待ってから湯に手を入れて温度をみた。


「温度はどうかな?あ!ちょっと熱いな・・・」

 湖の水を流し込む水路を作って水を流し込んだ。混ぜていって適温になったところで水の通路をき止めた。


「これで丁度良いね。入ってみようかな?」

「え?今、入るのですか?まだ昼間で明るいですよ」

「でも、誰も居ないのだから大丈夫でしょう?」

「ま、まぁ、そうですけど・・・」


「琴葉は無理して入らなくても良いよ。先に帰っているかい?」

「え?嫌です。私も入ります!」

 結局、二人で入ることになった。脱いだ服を部屋へ飛ばして温泉に浸かった。


「あー気持ち良いな!極楽だ!」

「日本人まる出しね」

「琴葉、結婚式はどうしたいかな?」

「結婚式ですか?私はしなくて良いです。それに相応しい場所もないですしね」

「それで良いのかい?」


「えぇ、私はあなたと一緒に暮らせればそれだけで良いの。子も神のお告げのひとりだけで良いわ」


「それでは神に言われるままに運命を受け入れているだけの様に感じてしまうのだけど」

「私にも良く分からないの。天満月あまみつつきの記憶はほとんど無いし、日本での琴葉も親がどこの誰かも分からない孤児でずっと寂しかった。巫女になっても同じだったわ」


「ネモフィラの王女に生まれてからも寂しいのは同じ。王女として生まれ、何不自由ない暮らしだったというのに何故、こんなに寂しいのだろうと自分でも分からなかった。心が休まったのはソニアと一緒に居る時だけだったの」


「でもあなたが生まれて全てが変わったわ。今までにこんなに満たされたことはないの。あなたと一緒に居るだけで心から幸せを感じるのです」

 そう言って、琴葉は僕に寄り添った。僕はこの人を守る。そう思いを固め、琴葉を抱きしめた。

「そう・・・分かったよ」


 その後、二人は各々の部屋の風呂へ飛び、着替えてサロンヘ行くと桜たちが戻って来た。

「良い馬は居たかい?」

「えぇ、フェリックスの紹介で良い馬を譲って頂けました」

「名前は決めたのかい?」

「私の馬はマリルにしました」

「マリルか、桜、良い名前だね」


「私の馬はノエルです」

「私はララです」

「花音の馬がノエルで幸ちゃんのはララか、良いね。これでうまやには六頭の馬が入ったのだね」

「えぇ、エミリーとアミーそれにスヴェンにお願いしておきました」

「あぁ、そうか、スヴェンも馬番になってもらったのだったな」


 談笑していると舞依から念話が入った。

『月夜見さま!聞こえますか?』

『学校の試験は全て合格して卒業証書を頂きました』

『そうか、おめでとう!』

『それで、城に戻ると探してもらっていた能力のある女性が見つかったというのですが』

『え?もう、見つかったの?』


『はい。子爵令嬢で十四歳だそうです。どうしましょうか?』

『舞依、その子爵家の場所を聞いておいてくれるかな?近々、皆で行こう』

『では三日後に伺うと伝えても構いませんか?』

『うん。お願いするよ』

『分かったわ』


 ちょっと気が重いけれど、嫁探しの再開だな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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