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16.星を汚すもの

 ブランカの心を取り戻す作戦を次々に実行していった。


 月宮殿の庭園での動物とのふれあいは、ほぼ毎日実行している。ブランカは無言のままでも自分からエサを動物にあげる様になったし、たまに嬉しそうな表情をする様になっていた。


 そして夏の海に行った。小型船を二隻出し、ネモフィラ王国の奴隷商から来た、ローラント、スヴェン、トヴィアスとエーファにフィーネ、カンパニュラ王国の奴隷商から来た、八人全員、それにケイトとジーノも連れて行った。


「うわぁ!何てきれいなんでしょう!」

「世界にはこんなところがあったんだ!」

「これって何なの?何でこんなに水がいっぱいなの?」


「これは海っていうんだよ。水をめてごらん。しょっぱいよ」

「うわぁ!本当だ!何これ!しょっぱい!」

 子供たちが海水を舐めて顔を歪めている。でもすぐに笑顔になってはしゃいでいる。皆、海を初めて見て有頂天になって喜んでいた。


 小白はカニを追いかけて走り回り、それを追いかけて男の子たちが走り回っている。女の子たちは、きれいな貝殻探しに夢中だ。その中でブランカもアリシアと一緒に貝殻を探していた。


「あ!これ、きれい!」

 ブランカが思わず、声を上げた。皆が一斉にブランカに振り返った。ブランカは満面の笑みとなっていた。


「ブランカ!声が!話せる様になったのね!」

「アリシア!見て!」

「えぇ、とてもきれいな貝を見つけたのね!」

 アリシアは心から喜び、涙を浮かべていた。


「皆、集まってくれるかな!」

「はい!月夜見さま!」

 皆を砂浜に並んで座らせた。僕の横には桜たちが並び立っている。


「ケイト、ジーノ、ローラント、スヴェン、トヴィアス、エーファ、フィーネ、アルフレッド、セシリオ、コンラード、エミリオ、ハビエル、アリシア、リディア、ブランカ」

 ひとりずつ顔を見ながら名前を呼んだ。


「今、ここには十五人居るけれど、他にも三つの国で学校に行っている子やイベリス王国の漢方薬工場で働いている子、ネモフィラ王国の城で仕事を学んでいる子も居る」


「皆のこれまでの境遇も色々だ。奴隷だった子、親に捨てられた子、誘拐された子、親から離れて独立したい子も居る。つまり、今は親が居ない子ばかりなんだ」


「私は今、新しい月の都に屋敷や神宮、学校、村も新しく創っている。そこでは、これまでの境遇や身分など気にせずに勉強して、仕事ができる様にするよ。ここに居る皆はこれからもずっと一緒だ。そうだ。結婚も自由だからね」


 成人の近い子は、顔を見合わせて赤い顔になった。今のところ、集めた子の男女比はほぼ同率になっているのだ。全員が結婚できる可能性はあるのだから。


「月夜見さまは、皆の名前を覚えてくださっているのですか?」

「ジーノ。勿論だよ。皆との出会いは全て覚えているし、一人ひとりの顔や名前も覚えているよ。それにこれからずっと一緒に暮らすのだからね」


「はい。全て月夜見さまのお陰です。毎日、楽しく暮らせています」

「皆、これからもよろしく頼むね」

「はい。月夜見さま」


「では、お昼にしようか。ケイトとジーノがお昼ご飯を作ってくれたんだよ」

「さぁ、ひとりずつお弁当を取りに来てね」

 ケイトとジーノ、それにエーファとフィーネが皆にお弁当を配って行った。


「皆、食べる時は木陰で食べるんだよ。あまり長く陽に当たっていてはいけないよ」

「はい!」

「では、僕たちも頂こうか」

「はい。月夜見さま。こちらへどうぞ」

 ニナに促されて桜たちと並んで座り、お弁当を食べた。


「月夜見さま。集めた子たちは既に五十名を超えていますね。役割毎の必要人数を出して、希望と合わせて行かないと今度は人が余ってしまいますよ」

「幸ちゃん、そうだよね。一度、整理をして、既に希望が決まっている子は担当を決めていかないとね」

「幸ちゃんは、漢方薬工場と研究所で必要な人数を考えておいてくれるかな?」

「分かりました」


「桜、月の都は日中、海に浮かべて橋で地上と繋げるから関係者以外の者が入れない様に警備をする者が必要になるよね。その人数を考えておいてくれるかな?」

「はい。今のところ、フェリックス、アベルとアルフレッドしか居りません。あと一年ありませんので、子供を今から鍛えても実際に警備を任せることはできません。例えば、ネモフィラの騎士団で募集をするとかを考えませんと」


「引き抜きか・・・うーん。伯父さまに迷惑を掛けることになるかなぁ・・・」

「月夜見さま。それでしたら私が騎士団長と話して無理がない人数で希望者を出してもらえば良いのではありませんか?」


「月夜見さま。アスチルベの騎士団からも出しますよ。新しくできる村はアスチルベ王国の村なのですから、警備をするのは当たり前です」

 フェリックスもしっかりして来たな。もうお父さんになるのだからな。


「そうか、では村の警備は主にアスチルベ王国出身の騎士に担当してもらって、月の都の警備は桜が認めた者だけにしようか」

「はい。そうして頂けるとやり易いです」


「そろそろ屋敷の設備も決めていかないといけないな。一度、ルドベキアのウィリアムズ公の工場へ行って製品開発の進捗を確認しに行こう」




 ルドベキア王に連絡を入れ、ウィリアムズ公に一週間後に伺う旨を伝えてもらった。ルドベキアの工場を訪問する前夜、その夜は琴葉と夜を過ごす日で二人で部屋に居たところ、

「コンコン」

 窓を小さくたたく音がした。ふたりで窓を見ると、そこにはフクロウが居た。


「うわ!何だろう?こんな時間に」

 僕は怪訝けげんな顔をして窓を開けた。フクロウは一度大きく羽ばたくと、部屋に入り、テーブルに降り立った。


『冷蔵庫の話なのだがな』

『冷蔵庫?』

『あれは駄目だ』


『駄目なのですか?』

『あれは大気を汚す』

『大気を汚す?冷蔵庫が?』


『うむ。冷やすために冷媒れいばいガスを使う。それが大気を汚す』

『あぁ・・・聞いたことがある様な・・・』

『あれは駄目だ。代わりのものを提供しよう』

『代わりのもの?』

『そうだ。安全な冷蔵庫の製造方法を教えよう』


「シュンッ!」

「うわ!びっくりした!あ!これって図面と製造方法の書ですか」

 驚いて思わず、声に出して話してしまう。


『そうだ。明日、これにもとづいて造る様に指示するのだ』

『分かりました。従います。でも今ある冷蔵庫はどうしましょう?』

『こちらで処分する』

『処分?どうやって?』

『簡単だ。太陽の軌道へ転移させる』


『あぁ、それならば一瞬で燃え尽きますね』

『そうだ』

『え?と言うことは僕の力でも太陽の軌道まで物を飛ばせるのですか?』

『できる』

『はぁーなるほどー』

『では、頼むぞ』


「相変わらず、好き勝手だな」

「でもこれで、この世界は徹底して自然を守っていて、それができる科学力も技術もあるということが分かりましたね」

「うん。この世界というより、このフクロウ君の、だけどね」




 翌日、イベリスへ寄って幸ちゃんを拾い、婚約者五人だけを連れて、ルドベキアの工場へ飛んだ。玄関には大勢の従業員が待ち構えていた。


「月夜見さま。ようこそお越しくださいました!」

「ウィリアムズ公、お久しぶりですね。その後、開発の方は如何ですか?」

「はい!それが大変なことが起こったので御座います!」

「大変なこと?」


「はい、今朝工場に入ったところ、月夜見さまから拝借しておりました冷蔵庫と冷凍庫が無くなっており、その代わりに何かの部品と思われるものが入った箱が大量に置かれていたので御座います」


「あぁ、それですね。これからお話ししようと思ったのです。ではまず、その部品とやらを見せて頂けますか?」

「はい。こちらで御座います」


 工場の一角に箱に入った大量の部品が積み上げられていた。

「この中身は皆、同じ物でした。こちらになります」

 ひとつの部品を見せてくれた。それは箱状でくだが何箇所か取り付けられる様になっていて電気のコードが出ているだけのものだった。


 僕は昨夜、フクロウ君からもらった冷蔵庫の製造方法の書をめくって見ていくと、冷蔵庫の箱自体は地球のものと大差はなかった。


 そして冷蔵、冷凍の冷却装置の心臓部がこの部品となっている様だ。これは恐らく、冷媒れいばいガスを使わないで冷やすことができる装置なのだろう。


「ウィリアムズ公、見本としてお渡しした冷蔵庫にはこの世界では使わない方が良いものが一部に使われていることが分かったのです」


「それで、その代わりとなる部品を送らせて頂いたのです。そしてこちらが製造方法を記した書になります」

「おぉ!製造方法がここに?それはありがたいことです」


「箱の部分については大きく変わらないと思います。そちらの進捗は如何ですか?」

「はい。箱の方は既にステンレス鋼が入荷しており、設計もできております。ですが冷やす装置が難しく難航しておったのです」

「ではこの部品があれば、すぐにでも製品は完成させられますね」

「はい。もう半年も掛からずにできるかと思います」


「それは良かった。では今の月宮殿と新しい月の都の屋敷、それに神宮と村役場、魚屋にも必要ですから、冷蔵庫と冷凍庫を七台ずつ注文します」

「かしこまりました。最優先にてお作り致します」


「あと、扇風機と換気扇、それにドライヤーはできましたか?」

「はい。それはできております。月夜見さまから頂いた新しいお屋敷での注文分は確保して御座います」

「ではもう販売を始めているのですね」

「はい。大変な勢いで売れております」

「それは良かった」

「何から何までありがとうございます」


「あの、月夜見さま。私の作っている漢方薬工場でも冷蔵庫と冷凍庫、それに換気扇が欲しいのですが」

「あぁ、そうだよね。幸ちゃん。では注文していくと良いよ」

「あの、月夜見さま?そう言えば今日は初めてお目に掛かるお方がいらっしゃる様にお見受けいたしますが?」


「あぁ、これは失礼致しました。私の婚約者が増えておりまして、こちらから、ネモフィラ王国王女琴葉、イベリス王国王女シンシア、アスチルベ王国王女ソフィアです」

「お初にお目に掛かります。私はルドベキア王国大臣で、この工場の主、オリバー ウィリアムズ公爵で御座います。お美しい王女殿下にお会い出来ましたこと、光栄に存じます」


「琴葉 ネモフィラで御座います」

「シンシア イベリスで御座います」

「ソフィア アスチルベで御座います」


「月夜見さま。また新たな製品のご提案は御座いますでしょうか?」

「そうですね・・・皆、何か作って欲しいものはあるかな?」


 その時、花音が念話で皆に話し掛けて来た。

『月夜見さま、洗濯機ってこの世界に無いのですが如何でしょうか?』

『洗濯機か・・・この世界で洗濯をしているところを見たことがないから気がつかなかったよ。あれ?ところでこの世界に洗剤ってある?』

『はい。一応、ありますね。日本のものよりかなり悪いですけど』

『それは科学薬品が作れないから仕方がないね』


『月夜見さま。冷蔵庫と同じ観点で見ると、水を汚す。と言われませんか?』

『琴葉、そうだったね。これはフクロウ君に要相談だね』

『はい。先にお伺いを立てた方が良いと思います』


「ウィリアムズ公、それでは新製品については考えてみます。良いものがありましたらご連絡差し上げますよ」

「はい。ありがとうございます。お待ちしております」


 幸ちゃんは工場から直接イベリスへ飛んで帰って行った。僕らは船に乗って月宮殿に帰った。戻るとサロンに小白と一緒にフクロウが居た。早速洗濯機について聞いてみる。


『今日、冷蔵庫について話をして来ました。それで今度は洗濯機を考えているのですが、如何ですか?』

『洗濯機?』

『箱の中に水を貯め、汚れた服と洗剤を入れてグルグル回して汚れを落とすのです』

『それは効率が悪いな。それに水を汚す』

『やっぱり!何か他に良いものはあるのですか?』


『ある。だが、どうかな?』

『教えたくないと?』

『冷蔵庫は食べ物を無駄にせず、人間の健康にも寄与する。だから教えた』


『洗濯機は違いますか?』

『城や大人数の洗濯物を洗う施設ならば有効だろう。だが、一般民衆に広げるのはまだ早いな』

『それでは却下ということですね?』

『では、五台だけ試しに使わせてやろう、それで考えると良い』


「シュンッ!」

「ドコッ!」

 サロンに洗濯機と思われる箱状のものが五台出現した。


「うわ!これ洗濯機か!五台あるな」

「月夜見さま、これが洗濯機なのですか?」

「うん、フクロウ君がくれたよ」

「月夜見さま。もうフクロウ君とお呼びするのは・・・」


「あ!そうだね。これは僕らと同じ能力だものね。そして地球の科学技術を超える世界を知っている、あるいは支配している人だ。始祖の神、または創造神と言った方が良いのかもね」

「えぇ、ですからフクロウ君とお呼びするのは失礼ですよね?」


「琴葉、でも名乗ってくれないのだから推測で勝手な呼び方もできないでしょう?」

「では、フクロウさまで・・・」

「ぷぷぷっ!さま?フクロウさま!まぁ、そうだよね。見た目はフクロウで、偉いなら、さまだ!」


「・・・」

「ほら、これだけ笑っていても反応しないのだから呼び名なんかにはこだわっていないのだよ」


 頂いた洗濯機の内、四台は倉庫に置いておき一台を使ってみることにした。

「では、洗濯機を使ってみようか。ニナ。洗濯場に案内してくれるかな?」

「はい。こちらです」


 ニナの案内で洗濯場に入った。そこは結構な広さになっており、平べったくて広い流し台みたいなものが三か所作ってあった。後からフクロウも飛んで来た。


「ニナ、これってどうやって洗濯しているのかな?」

「はい。この洗濯台に洗濯ものを広げて置き、水に濡らして洗剤を振り掛け、手で揉み洗いします」

「ふむ。そうだよね。分り易いね」


「シュンッ!」

 洗濯機一台を空いているスペースに据えた。電気コードならぬ光のコードが出ているので宮殿の設備係の巫女を呼んで繋いでもらった。

「さて、これはどうやって使うのだろうね」


『その中に洗濯したいものを入れ、蓋を閉めるだけできれいになる』

『え?蓋を閉めるだけ?どのくらい待つのですか?』

『入れた衣類の量と汚れによる。終わればランプが光る』

『なるほど、簡単ですね』


「ニナ、今何か洗濯物はあるかな?」

「はい、ではここにある調理担当の服を」

 その服は調味料や油の跳ねた跡で結構な汚れ具合だった。


「では、その洗濯機に入れて蓋を閉めてくれるかな?」

「はい」

 ニナは恐る恐る洗濯機の蓋を開くと料理人の服を入れて蓋を閉めた。すると三十秒も掛からずに蓋の横の緑のランプが光った。


「あれ?もう終わったのかな?ニナ、開けて出してみて」

「はい」

 ニナが洗濯機から先程の服を出して広げて見る。


「あ!汚れが全くありません。あんなに汚れていたのに!」

「これは凄いね。水も洗剤も使っていないのに真っ白じゃないか。どういう仕組みなのだろうね」

「これで洗濯が楽になりますね」


「いや、楽になるどころではないだろう。ニナ、洗濯の仕事って、今まで何人でやっていたの?」

「はい。四人です」

「四人か。でもこれを使ったら一人か二人で十分にできてしまうよね。そうしたら仕事を失う人が出てしまうよ」

「あ。そうですね・・・」

「まぁ、この宮殿で人が余ったら僕の屋敷に来てもらうから問題はないけれどね」


「確かに仕事が楽になるのは良いことと思いがちですが、それを仕事にしている人も居るのですものね」

「琴葉、そうなんだ。フクロウ君はそういうことも考えろと言ったのかも知れないね」

「ただ、これを使うと月宮殿の様に多くの人の洗濯をするところでは大量の水を汚さないで済むのですから、それは良いことですよね」


「そう。だからフクロウ君は、ここならばと思って洗濯機をくれたのでしょう」

「では、ルドベキアで作って売るのは止めておくのですね?」

「うん。少し、時間を掛けて考えよう。この世界の秘密が分かってからでも遅くはないと思うよ」

「新しい屋敷や神宮では使うのですか?」

「使うよ。あと四台あるから、屋敷、神宮、孤児院、それと村役場に置こう」


「月夜見さま、お父さまのところへ?何故でしょう?」

「花音、譲治殿のところというよりは村役場に置いて、例えばお年寄りや病気の人で洗濯が大変な人に使ってもらえればと思ったのだよ」

「あぁ!素晴らしいです。月夜見さま!」


 そうして新しい屋敷の準備は着々と進んでいった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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