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15.カンパニュラ王国への布教

 オリヴィア母さまのお母さんである、ヘレナ王妃がなにやら興奮している。


「月夜見さま。オリヴィアより伺ってはおりましたが、月夜見さまはこの世界の救世主でいらっしゃるのですね!」

「いえ、私はこの世界に転生しても前世での記憶があるために何でもその医師という立場で見てしまうのです。この世界のひとりでも多くの人が、心や身体の不調から救われて幸せに暮らして頂きたいと思っているだけですよ」


「月夜見さま!その願いこそが、救世主そのもののお考えでは御座いませんか!」

「そうでしょうか・・・」

 ちょっと大袈裟おおげさだな・・・


「ところで、この女性の身体の仕組みの知識をまとめた本のお話なのですが・・・」

「是非、お聞かせ頂けないでしょうか!」

「他の皆さんも大丈夫ですか?女性にとっては恥ずかしいとお感じになる話でもあるのですが」

「だ、大丈夫です。是非お聞かせください」


 まだ、歳の若い服飾店の技術者や侍女たちは少し赤い顔をしている。騎士の二人は一生懸命に冷静さを保とうとしているのが伝わって来る。


「では、ここに皆さんに伝えたい内容がまとめてありますので原稿の絵を見て頂きながら説明をさせて頂きます」

 僕は家族に説明した時とほぼ同じ様に、ここに居る女性たちに説明した。


「分かり難いところはありませんでしたか?ミア。この中であなたが一番若く見えますが、何歳になったのでしょう?解らないところはありませんでしたか?」

「はい。私は十五歳です。私ももう赤ちゃんを授かる準備ができているのだということが解りました」


「そうですね。ただ、十五歳での成人というのは目安でしかないのですよ。皆、もっと早くに身体の準備はできているのです。ミアにきちんと理解してもらえて良かった。ありがとう」


「ナタリア。正騎士の仕事は厳しいものだと思います。生理不順といって毎月きちんと生理が来ない場合は仕事がきつ過ぎるということですが、その様なことはありませんか?」

「あ、あの。そ、それは・・・」


「ナタリア。毎月生理が来ていないのですか?」

 ヘレナさまが間髪かんぱつおかずに問いただす。

「王妃さま。お、恐れながら。た、たまに二か月ほど間が開く時が御座います」


「ヘレナさま。騎士の仕事にはやはり、休みというものは無いのでしょうか?」

「はい。基本的に騎士に休みは無いのです」

「そうですか。もし正しい知識を持って正しく性交を行ったとしても、そもそも生理不順で排卵が止まってしまっていては妊娠はできません」


「騎士が結婚し子を儲けたい場合は仕事を辞めるものなのでしょうか?それとも騎士は自分の生涯を王に捧げる。というようなことが?」

「いいえ、そのようなことは御座いません。そうですね。今まで休みのことは考えて来ておりませんでした」


「では騎士だけでなく、侍女にもお休みは無いのでしょうか?」

「は、はい。その通りです」

「そうなのですね。誰も文句を言えずに、もう何百年もそうして来たのでしょうからヘレナさまひとりの責任では御座いませんよ」

「い、いえ。その様なお気遣いを頂き、ありがとうございます」


「ヘレナさま。私はまだこの世界のことを何も知らないのでお聞きしたいのですが」

「はい。なんなりと」

「この世界の一国の王はというものは、やはり強いのですか?」

「強い。とはどの様な意味でしょうか?」


「いえ、この世界は女性が多いと聞いています。王にも沢山の王妃がいらっしゃるのだろうと想像します。沢山の女性に囲まれたら王とて、弱い立場になる方もいらっしゃるのではないかと。それとも自分は全ての支配者だ。とばかりにその立場に君臨されている方が多いのでしょうか?」

「そうですね。多く聞かれるのはやはり後者かと・・・」


「ふむ。そうですか。それでは女性の苦しみを理解してくださるとは考え難いですね。やはり、王妃さまの権限で使用人に休みを与えることは難しいでしょうか?」

「どのくらいの休みを与えることが良いのでしょうか?」


「そうですね。まずは週に一日です。でもそれが難しいならば、生理の初め二日間だけでも休ませるべきです。ただ、ご存知の通り生理は突然始まります。前もって休みの日を決めることは難しいのでしょうね」


「週に一日、最低でも生理の初め二日間ですね」

「まずは。ですね。私の前世の世界では週に二日の休みが推奨すいしょうされていました。ですが、それも全ての国に浸透してはいませんでしたが・・・」


「あとは一日の仕事の時間を減らすのでも良いのですよ。ひとりの人間が朝から夜遅くまで働き続けていては疲れ果ててしまいます」

「分かりました。城に持ち帰り、陛下と相談させて頂きます」


「ナタリア、アリアム、ベラ、ミア。すぐにあなた方の働く環境を良くしてあげられるかどうか分からないのに期待をさせる様な話をしてしまいました。申し訳ない」

「そ、そんな!私たちなどに勿体もったいないお言葉です」


「ナタリア。神も、王も、騎士も、侍女も職人もその様な肩書の前にひとりの人間なのですよ。同じ人間として、誰か一方が犠牲になって、その上でもう一方が幸せになってもそんな世の中では本当に幸せな世界とは言えないのですよ」


「この世界では男性が少ないと聞いています。そうであれば、その中には勘違いして自分が偉いとか選ばれた人間だと言って思い上がる者が必ず居るでしょう」

「はい。残念ながら・・・」


「私の前世の世界には、七十億人の人間が暮らしていました。この世界では五十万人しか居ないと聞いています。もっともっと人を生み、増やさねばなりません。このままではこの世界は滅びます」


「ほ、滅びるのですか!この世界は・・・」

「ヘレナさま。このまま何もせず、男どもが勘違いをしているままでは。です。今しばらくは、一夫多妻制やひとりの男が多くの女性に子種を授けなければならない状況は続いてしまうかも知れません」


「でもこの本が広く世界に渡って、皆が正しい性の知識を持つ様になれば、十年から十五年後には状況は好転して来るはずです」


「あぁ!救世主さま・・・」

 ヘレナさまの目がトロンとしている。あれ?これって宗教的な感じなのかな?


「は、母上!しっかりしてください!」

「ヘレナさま。この原稿を本にして沢山作りたいのです。それこそ五十万人の人間が居るならば五十万冊作りたいのですよ。製本できる者をご存知ありませんでしょうか?」

「はい。本は専門の職人が居りますのですぐに手配致します」


「それにしても七十億人とはどれくらいの多さなのでしょうね」

「そうですね。ヘレナさま、この世界にはいくつの国があるのですか?」

「三十の国が御座います」

「その中で一番、人が多い国では何人くらいの人が居るのでしょうか?」


「恐らく、北の大国。ネモフィラ王国で三万人程と聞いております」

「なるほど。私の前の世界では、二百近い国がありました。そして私が暮らした国で一億二千万人程居ました。その国ではひとつの街で、この世界の全ての人口五十万人より多い人が住んでいるのですよ」


「ひとつの街だけで、この世界全ての人よりも多いのですか!」

「えぇ、そうです。人が多過ぎて、歩いているだけで人にぶつかるから人を避けながら歩かねばならない程ですよ」

「そ、想像がつきません。それで男性も多いのですか?」


「えぇ、どの国でも男性と女性は、ほぼ同じ比率で居ますからね」

「で、では一夫多妻制ではないのですか?」

「はい。勿論、一夫一婦制ですよ」

「それは、どんな世界なのでしょう。想像もつきません」


「今は想像がつかないかも知れません。でもこの世界もその様に変えて行くのですよ。ご協力頂けますか?」

「はい!勿論で御座います!救世主さま!」

「それは、やめて頂けないでしょうか・・・」


「では、製本の職人の手配ができましたらお知らせ致します」

「はい。お待ちしています。下着の方もよろしくお願いします」

「かしこまりました」

「本日は、ありがとうございました」


 最後は皆、笑顔で帰って行った。これで本の方も進むかも知れないな。それにしてもこの世界の文化は地球の中世くらいなのだろうか?いや、あの空を飛ぶ船は中世の文化レベルで造れるものではなさそうだが。まだまだ分からないことが多いな。


「さぁ、月夜見さま。帰りましょうか」

「えぇ、オリヴィア母さま。今日はありがとうございました」

「そんな。お礼を申し上げるのはこちらの方です。母上も感動していた様です」

「使用人の休暇のことで無理を言ってしまったのではないでしょうか?王に意見をして大丈夫でしょうか?」


「まずは、母上がお話しすべきと思います。それでも叶わなければ玄兎さまにも入って頂かないと」

「そうですね。三歳の子があまり引っ掻き回してもいけませんね」

「えぇ、とても三歳には見えませぬが・・・」


「さぁ、おいでください」

 オリヴィア母さまが腕を広げる。

「なんだか、恥ずかしいですね」

「まぁ!何をおっしゃいますか!」

 そしてオリヴィア母さまに抱かれる。


「ちょっと、まだ飛ばないでくださいまし・・・」

「どうしたのですか?」

「今しばらく、月夜見さまを抱きしめていたいのです・・・」

「え?えー・・・」


 ぎゅーっと、抱きしめられる。ブラジャーをしていないから胸の感触というか、それよりも圧迫感の方が強い。このままでは圧死しかねない!と思う程に。

「も、もう、良いでしょう!飛びますよ!」

「あ!あーっ!もうちょっと!」


「シュンッ!」

 僕たちは月宮殿に戻った。


「さぁ、着きましたよ!」

「あぁ、着いてしまいましたね・・・」

「今日はありがとうございました。とても有意義な場になったと思います。造本業者の手配ができた時には、またご同行をお願いします」

「えぇ、そうでしたわね。また次もありましたわね」

 どれだけ僕を抱きたいのだろう。どういう意味なのかな?




 部屋に戻ると窓辺に座り、いつもの様に月を見上げた。今日も幻想的な眺めだ。

月を眺めながらぼんやりと先程のオリヴィア母さまに抱きしめられた時の胸の感触を思い出していた。そこから前世の舞依のことが連想された。舞依と結ばれた時のことだ。


 あれは高校三年の夏だった。舞依は学校を休みがちになっていた。勉強も遅れ、将来を考えるだけで不安がつのり、進学先を決めることもできなくなっていた。


 そうしてストレスが増していたある日。学校帰りに家に来ないかと誘われ、言われるまま寄ってみると、今日は家族が皆、遅くまで帰って来ない。と告げられた。


 舞依は泣いていた。不安をずっと我慢して明るく振舞っていたのだろう。ストレスは限界に達していた。僕は舞依に抱きしめられ、ただ一言。「お願い」と言われた。


 僕は舞依の想いを察し、ふたりはベッドへ入った。そして身体を重ね初めて結ばれた。無我夢中で愛し合った。全てが終わると舞依は穏やかな微笑みをたたえていた。


「まぁくん。ありがとう。今日のこと。一生忘れないね・・・」

 舞依は笑顔で言った。

「そんな。こちらこそ。なのかな?」

「嬉しかった」

 ふたりはお互いの手の指を絡めあった。愛を確かめ合った瞬間だった。


 事が落ち着いて服を着ようとお互いに自分の下着を探した。僕が舞依のブラジャーを発見した。僕はブラジャーを手に取って目の前にかかげた。


「この色、とても好きだな・・・」

「ありがとう!これね。実は勝負下着。なんだ!」

「勝負下着?なにそれ?」

「ふふっ。今日はそうなる。って思った時に着ける下着。飛びっきりのお気に入りなんだ!」


「へぇ、そうだったんだ。下着のことはよく分からないけど。この色は好きだよ」

 それは薄いブルーと濃いブルー、それにホワイトの三色が上手く調和している、きれいで可愛らしいデザインだった。今日はブラジャーのデザインの話をしていたせいか、やけに鮮明に思い出したのだ。


 すると、次の瞬間!

「シュンッ!」

 自分の手の中にその時のブラジャーが現れた。


「えーーーっ!嘘だろ!これ、舞依のブラジャーじゃないか!」


 何故だ?どうしてこの世界に・・・一体、どうなっているのだ。ここは地球ではないのに。あっ!念動力か!さっき、やけに鮮明に舞依の部屋の様子と、このブラジャーの映像が頭に浮かんだのだ。僕が念動力で引き寄せたということなのか!


 え?では地球にあるものも僕は引き寄せることができるってこと?


 いや、ちょっと待て。何故今、舞依のブラジャーがまだ地球、いや日本にあるんだ?


 あぁ、そうか!舞依の部屋を片付けずそのままにしてあるのだろう。そこへ僕がやけに鮮明に思い出したものだから、念動力が発動して引き寄せてしまった。ということか。


 でもそれだったら僕は舞依の部屋へ瞬間移動できてしまうのでは?

待て待て!行けるとしてだ。行ってどうするのだ?舞依はもう居ない。僕は日本に帰りたいのか?どうだろう・・・


 父親に会いたいとは思わない。ずっと会っていない母も勿論同じだ。友達?病院の仲間の医師たち?いやいや。この姿で日本に行ってどうするのだ。行っても仕方がないではないか。


 冷静になれ!日本に行けたとしてもそれは止めておこう。


 それにしてもこのブラジャー。どうしようかな。

服飾店の職人のジェマとサンドラに見せれば参考にはなるよな。次の機会に持って行こうか。その前にお母さま達に見せてみようかな。


 でも相当、驚くだろうな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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