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14.ネモフィラ王国の奴隷商

 ネモフィラ王国の奴隷商に行くことになった。


 騎士団長と相談した結果、やはり桜を連れて行くことにした。

念話で桜を呼び、騎士団の訓練場に来てもらった。


「シュンッ!」

「桜、急にごめんね」

「いいえ、大丈夫です」


「え?ステラリアなのか?」

「えぇ、ウェーバー公、お久しぶりです!」

「何故、そんなに若くなって・・・そうか、神になったのでしたね」

 騎士団長は独り言の様につぶやいた。


「では、王城の船でご案内致します」

「ありがとうございます」

 三人で船に乗り、騎士団長の操縦で奴隷商へ向かった。王城から貴族街を抜け、商店街も抜けた辺りにそれはあった。


「月夜見さま、こちらです」

「あ!これは!ウェーバーさま!査察で御座いますか?」

「いや、今日は月夜見さまが奴隷商を見学されたいとのことでお連れしたのだ。くれぐれも失礼のない様にな」

「ははーっ!」


「ん?ところで、アイヴァン。イザベラはどうしたのだ?」

「それが・・・母は先日、亡くなりました」

「え?まだ若かったよな?」

「はい。四十八歳でした。神宮でも治せない病だった様です」


「それで、アイヴァンが後を継いだのか」

「それなのですが・・・」

「ん?どうした?」

「あ、で、では、中へどうぞ」


 応接室へ通されると、まだ子供と思われる女の子がお茶を淹れてくれた。


「それで、どうしたんだ?アイヴァン」

「あの、私が母の実の子ではないことはご存知でしたか?」

「うむ、それは知っていたぞ。奴隷として買ったお前を気に入り自分の子として手元に置いた。と随分前にイザベラから聞いたのでな」

「はい。お母さまは私の働きぶりを買ってくれていましたから」


「イザベラには主人も居なかったな。そうなればアイヴァンがこの仕事を継ぐより他にないだろう?」

「はい。それで困っているのです」

「何に困っているのだ?」

「私は元奴隷です。母に買われ養子となり奴隷商の仕事は覚えました。ですが元は奴隷です。売られる立場だった自分が奴隷を売る仕事などやりたい訳が御座いません」


「そうか。それはもっともであるな。では残っている奴隷を全て売ってその金で好きなことをすれば良いではないか」

「私は、今までも人を売る様なことは嫌だったのです。母に言われて嫌々やって来たのです。ですからもう、こんなことはしたくないのです」

「ふむ。それは困ったことだな・・・」


「アイヴァン、あなたは今、何歳なのですか?」

「私は、二十八歳です」

 アイヴァンは金髪に青い瞳、線は細く、如何にも文系の優しそうなイメージだ。


「結婚はしていないのですね?」

「はい。しておりません」

「アイヴァンは奴隷商が嫌ならば、何をしたいのですか?」


「あ、あぁ、それは・・・私は学校の先生になりたかったのです」

「あれ?アイヴァンは奴隷だったのでは?学校に行っていたのですか?」

「はい。母が行かせてくれましたので」


「あぁ、イザベラという人は余程、あなたを気に入っていたのですね。それで何の教科の先生になりたかったのですか?」

「私は、歴史が好きだったのです。今も暇があれば歴史書を読んでいますし、奴隷の子供たちには読み書きを教えています」


 うん。この青年は先生にするのに適した人材だ。自らも学ぶ意欲があるし、奴隷の子たちに読み書きを教えるなんて普通ではしないことだろう。それに他人に対する思いやりもある。


「それならば、丁度良いですね」

「え?月夜見さま。何が丁度良いのですか?」

「ウェーバー公、今私が作っている神宮と村には学校も作るし、孤児院も作るのです」

「え?では、その学校の先生にアイヴァンを?」


「えぇ、そうです。アイヴァン。私の作る学校で歴史の先生になりませんか?」

「本当ですか!私でも良いのですか?」

「えぇ、構いませんよ。まだ歴史の先生は決まっていませんでしたからね。ただし、場所はネモフィラ王国ではなく、アスチルベ王国ですが」

「国はどこでも構いません!あ!でも奴隷たちをどうしたら?」


「今、奴隷は何人残っているのですか?」

「はい。男性は十二歳から十四歳の子が五人、女性は十歳から十四歳の子が三人です」

「え?男性の方が多いのですか?」


「はい。これは月夜見さまが出された本によって男の子が生まれる様になったからです。自分たちでも男の子が産めると分かって高額な男の子は売れなくなってしまったのです。更に子種を売る商売も無くなりましたので需要が減ってしまったのです」


「あぁ・・・私のせいなのですね」

「あ!いえ、世の中にとっては全て良いことなのです。奴隷商の商売がおかしいことなのですから・・・」

「でもそれを聞いておいて良かった。私は奴隷商人からは恨まれているということですね」


「月夜見さま。この子たちをどうしたら良いのでしょうか?」

「あぁ、全員、私が引き取りますよ」

「え?全員で御座いますか?」

「はい。私の学校には孤児院も併設します。でも完成まであと一年ありますので、一旦ネモフィラ王国の学校に入ってもらい勉強してもらいましょう」


「一年後にはアスチルベ王国へ移り、勉強したい者は学校に行き、働きたい者は私の屋敷か神宮、孤児院や学校、漢方薬工場で働いて頂きます」


「学校にも行けて仕事も与えてくださるなんて・・・」

「学校は行きたい子だけ行ってもらいましょうか。行きたくない子に無理に行かせる必要はありませんからね」


「では、これからその子たちに会わせて頂けますか?それと、アイヴァンに幾ら支払えば良いのでしょうか?」

「いえ、私たちをお引き受けくださるならばお金は要りません」


「では、これをもって奴隷契約は破棄し、学校に行く子には学費を払いましょう、働く子には給金を支払います」

「え?学費に給金まで?よろしいのですか?」

「もう、奴隷ではなくなるのです。当然ですよ。あぁ、アイヴァンにも学校へ行ってもらって、先生になる講習を受けて頂きましょう」


「本当で御座いますか!私も学校に!」

「えぇ、しっかり学んでくださいね。先生になるのですから」

「はい。ありがとうございます!」

「では、皆さんに会わせてくださいますか?」


「はい。すぐにご用意いたします。しばらくお待ちください」

「用意?用意って何だろう?」

「奴隷商では奴隷を客に会わせる時は身綺麗みぎれいにしてから顔合わせとなるのです」

「ウェーバー公、そう言うことなのですね」

 しばらくしてアイヴァンが呼びに来た。


「月夜見さま、皆さま、こちらへどうぞ」

 その部屋は何も置いていない部屋で、客が座るソファだけがあり、奴隷の子は壁側に並んで立たされていた。


 三人掛けのソファに僕と桜が座り、その横の一人掛けにウェーバー公が座った。


「皆、こちらにいらっしゃるお方は、神さまの月夜見さまだ。失礼のない様に。では、ローラントから」

「ローラント、十四歳です。読み書きと造園ができます」

「スヴェン、十四歳です。読み書きと家畜の世話ができます」

「トヴィアス、十三歳です。読み書きと料理が少しできます」

「ヴォルフ、十二歳です。読み書きができます」

「ケヴィン、十二歳です。読み書きができます」

「エーファ、十四歳です。読み書きと侍女の仕事ができます」

「フィーネ、十三歳です。読み書きと侍女の仕事ができます」

「グレーテ、十一歳です。読み書きを習っています」


 あぁ、お茶を持って来たのはエーファなんだな。十四歳だったのか。やはり栄養不足なのか発育が遅れている様だな。


 丁度、目の前に並んでいるのでレントゲン写真を診るかの様に身体を透視して病気がないかを確認してしまう。もう職業病だ。


「ふむ。皆、読み書きはできるのですね」

「はい。私が教えていましたので」

「読み書き以外でできる仕事はどこで?」

「大抵は奴隷として売られる前に実家でやっていたことが多いですが、エーファとフィーネは男爵家に一度入っているので侍女の基礎的なことはできます」

「なるほど、男爵家に・・・」


『桜。後でエーファとフィーネに男爵家で酷い扱いを受けなかったか確認してくれるかな?』

『分かりました。聞いておきます』


「この中で、これからでも学校に行けるならば行きたいという人は居るかな?」

「え?行けるならば行きたいです」

「僕も行きたいです」

「私も行きたいです」

「うん。ヴォルフ、ケヴィン、グレーテは学校に行きたいのだね」


「ローラント、スヴェン、トヴィアス、エーファ、フィーネはすぐに働きたいのかな?」

「はい!」

 五人の声が揃った。


「では、これから君たちは奴隷ではなくなる。皆、僕の下で働いてもらうよ。ヴォルフ、ケヴィンとグレーテにはこれから学校に入ってもらう。学費は私が払うからね。他の五人はまず月の都へ行き月宮殿で働いてもらいます。来年からは私が新しく創る月の都へ移り、そこで仕事をしてもらうよ。良いかな?」


「全員?皆、一緒に神さまの宮殿で働けるのですか?」

「そうだよ」

「私たちはもう奴隷ではないのですか?」

「そうだよ」


「これから学校や月宮殿で受け入れの準備をするからね。二日後に迎えに来るよ」

「では桜、さっきの確認を」

「はい。エーファ、フィーネ。こちらに来てくださるかしら?」

「はい」

 桜は応接室に二人を連れて行き、しばらくして戻って来た。


『月夜見さま。心配される様なことはなかった様です』

『そうか。それは良かった』


「ではこれから皆の服を用意しに行こう。その後、私は学校へ行って入学の手続きを取って来るからね」

「ウェーバー公、今日はありがとうございました」

「いいえ、またいつでもお声掛けください」


 ウェーバー公とはここで分かれ、僕は自分の小型船を引き寄せた。

「シュンッ!」


「うわぁ!船が!船が現れたぞ!」

「さぁ、皆、乗って!」


 九人を船に乗せてプルナス服飾工房へと飛んだ。

「シュンッ!」

「うわぁ!何これ!」

「ここはどこ?」


「皆、月夜見さまの力で服飾店まで瞬間移動したのよ」

「瞬間移動!」

「凄いです!」


 プルナス服飾工房にぞろぞろと入って行くと、ビアンカは目を丸くして驚いている。

「ビアンカ。突然で悪いのだけど、この子たちに服を用意してくれるかな?」

「まぁ!月夜見さま。今日はまた随分と大人数で御座いますね!」


「このアイヴァンには学校の先生として相応しい服を、こちらの三人は学校の寮に入るので学生らしい格好を。以前にレオという少年に買った様な服でお願いします」


「この二人の娘にはニナたちと同じ侍女の服装をひと揃え、この子は料理人になるから調理服はこちらで用意するので普段着をひと揃え頼みます。そしてこちらの二人は庭師と畜産をしてもらうので作業着と普段着をお願いします」


「かしこまりました。すぐに採寸して在庫の無いものは製作致します」

「いつも無理を言ってすまないね」

「滅相も御座いません。月夜見さまのご要望にお応えすることが何よりの幸せなのです」

「ビアンカ、ありがとう」


 在庫のあるものはそのまま持ち帰り、皆を送り届けた。

僕はその足で桜と共に学校へ行き、校長のメラニー先生に教師の講習一名と平民のクラスへ三名の受け入れをお願いした。


 皆、一年後にはアスチルベに作る学校へ編入させるので一年間だけの入学だ。それでもメラニー先生は無理なお願いを快く引き受けてくれた。


 その後、月宮殿に戻り、男三人、女二人の受け入れを調整した。ローラントは庭師に、スヴェンは畜産に、トヴィアスは調理場、エーファとフィーネはニナとシエナに付けてそれぞれ見習いとする。


 二日後、まずは月宮殿に来る五人を船で迎えに行き、瞬間移動で月宮殿へ運んだ。

「シュンッ!」

 一度、月の都の上空へ出現し、月の都が外から見える様に一周した。


「皆、ここが神と言われる天照家の者が暮らす、空に浮かぶ大地、月の都だ。そしてそこにある月宮殿が君たちの仕事場になるのだよ」

「凄い!空にあんなに大きな大地が浮かんでいるなんて!」

「神さまの宮殿でお仕事ができるのですね!」

「凄いわ!奴隷だった私たちがこんな素敵なところで働けるなんて!」


 そして船を月宮殿の庭園に着けて五人を降ろした。それぞれの持ち場に預けると、僕はネモフィラへ戻り、今度は残った四人を学校の寮へと送って行った。


 アイヴァンは学校の先生になる講習を受けながら、休みの日には奴隷商の建物や財産を処分していく作業も進めていく。


 学校の寮に着くとレオを呼び出して皆に紹介した。

「皆、レオは十三歳だけど、入学して二年目で四年生になる程に優秀なのです。学校を卒業次第、ネモフィラ王国の宰相に付いて、国のまつりごとを学ぶ予定だ。ここではレオを頼ると良いよ」

「はい!」


「レオ、皆の面倒を見てやってくれるかな?」

「かしこまりました」

「では、皆、しっかり勉強してくださいね」

「はい!」




 一通りの手配が済み、僕は月宮殿に戻った。部屋へ戻るとニナたちと同じ服装をした、エーファとフィーネが居た。


 エーファは肩までの長さの金髪に緑の瞳をしていた。フィーネはブルネットのショートの髪に茶色の瞳だ。二人とも痩せていて身長は百五十センチメートルはあるが、胸はAくらいだ。まだ小学生くらいにしか見えない。


「エーファ、フィーネ。その衣装はどうだい?」

「はい。こんなに素敵な服を着たのは初めてです。まるで夢の様です!」

「私もです。素敵な下着も頂けて嬉しいです!」


「そう、それは良かった。ここは貴族の家ではないから少し変わっていると思う。ニナとシエナ、それにシルヴィーから良く聞いて慣れていってね」

「はい。月夜見さま。ありがとうございます」

「ありがとうございます。月夜見さま」


「それと、二人とも栄養状態があまり良くない様だから、後で花音に健康診断を受けてくれるかな?」

「健康診断?で御座いますか?」

「そうだよ。身体のどこかに病気がないかを診るんだよ」


「月夜見さまの奥さまも神さまなのですか?」

「あ、あぁ、そうだね。それで今日から出される食事はしっかりと食べる様にね」

「はい。ありがとうございます」


 この前は大まかにしか診ていなかったので、花音に隅々までしっかり健康診断してもらった方が良いだろう。


 その夜、花音と夜を過ごした。

「花音、エーファとフィーネに病気はなかったかな?」

「えぇ、発育は遅れている様ですけれど、病気は見つかりませんでした」

「それは良かった」


「月夜見さま。あの娘たちに何かを感じて決めたのですか?」

「あぁ、嫁候補ってことかな?それはないよ。奴隷商に残っていた八人をまとめて引き取ったのだからね。その中でエーファとフィーネは侍女の経験があって、学校には行きたくないと言うので連れて来ただけだよ」


「そうなのですね。でも今後、月夜見さまが連れて来る女性は皆、そういう目で見てしまいます」

「まぁそれは無理もないかな」

「でも、探す当てというか手掛かりがないと探し様がないですよね」


「そうなんだよ。せめて花音が予知の夢を見るとか、フクロウ君が教えてくれないと新たに出会う女性と片っ端からキスやセックスして異世界転生者かどうか確認する、なんてできないのだからね」

「そうですね。そんなことされたら私たちも嫌です。でも予知夢も見ないのです。やはり五年毎だけなのでしょうか・・・」


「そうだね。だから僕も嫁候補のことは、あまり考えない様にしているよ」

「そうですね」

「それより、今は花音に溺れたい・・・かな」

「溺れて頂けるのですね!嬉しいです!」


 嫁探しにはちょっとうんざりし、それから逃げたい自分がいた・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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