13.使用人を集めよう
新しい月の都での屋敷の建設を開始して一年が経過した。
僕たちの屋敷を先に建てているので、屋敷だけは完成に近付いてきた。神宮の方も、かなり形になって来ており、村役場と村長である譲治殿の自宅を兼ねた建物は完成した。
今後、この村役場が起点となって村を興していくので、賢蔵お爺さん、紫乃お婆さん、譲治殿、ハンナ殿と養子になった武馬とエマは新しい家へと引っ越した。
水田や畑は既に整い、まだ農夫は住んでいないのだが通いでここへ来て作物を育てている。秋までには農業従事者の家は完成するので移転と共に収穫ができるのだ。
村役場に連なる商店街では、すぐ隣が村で生産した農産品を集約して売る店、魚屋、服飾店、雑貨屋などが建ち並ぶ。
神宮の隣には漁業を行う港も作られ、先住民の漁業関係者はこの村に集約されることになった。それで魚屋もできたのだ。
これで月の都で生産できない野菜や魚も新鮮なものが手に入る様になった。
服飾店についてはカンパニュラ王国のグロリオサ服飾店に支店を出してもらうこととなった。
ネモフィラ王城に預けていたミモザたち四人には僕が直接話をしに行った。四人に使用人の食堂に集まってもらい、お茶とケーキを用意して食べながら話した。
「ミモザ、プリムラ、アイビー、アミー、皆はそれぞれ何歳になったのかな?」
「はい。私は十八歳、プリムラは十七歳、アイビーが十五歳でアミーは十三歳です」
「そうか、皆、ここでの暮らしがもう当たり前になっていると思うけど、実は私はアスチルベ王国という国に新しい月の都を見つけてね、そこに屋敷を建て村も新しく創るのです」
「そこでは沢山の使用人を必要としているのです。君たちも一緒に行かないかと思ってね。勿論、ここに残っても良いし僕の屋敷や村で暮らしても良いんだ。どっちが良いかな?」
「私は月夜見さまに助けて頂いたので、月夜見さまのお屋敷で働けるならば、そちらへ行きたいです。ただこの子たちが一緒でないと・・・」
「うん。ミモザの気持ちは分かったよ」
「プリムラはどうかな?」
「あ、あの、月夜見さまのお屋敷には庭師のお仕事はあるのですか?」
「勿論、有るよ。まだ庭師は決まっていないんだ。プリムラは来てくれるかな?」
「はい!行きたいです!」
「あ、あの!お洋服を作るお仕事はあるのですか?」
「アイビー。屋敷で使用人の服を作ったり、繕ったりする仕事と、村の服飾店で様々な服や下着を作る仕事もある。どっちが良いかな?」
「あ!服飾店ならば新しい服が作れるのですか?」
「そうだね。そういう仕事になるね」
「それならば、その服飾店で働きたいです!」
「うん。分かったよ。ではアミーはどうする?」
「あの、ソニアやアル、小白はどうなるのですか?」
「皆、新しい屋敷の厩へ移るよ」
「あと、エミリーは?」
「エミリーは初めから私の屋敷に行くと決まっているんだよ」
「それなら私も一緒に行きます!」
「そうか、では四人とも私と一緒に来てくれるのだね?」
「はい!月夜見さま。よろしくお願いいたします」
「うん。ありがとう。助かるよ。では、あと半年くらいで移ることになるから、それまでは今まで通り、ここで働いていてね」
「かしこまりました!」
「でも皆大人に、きれいな女性になったね。向こうには男性も居るから、是非お相手を見つけて結婚し、家庭を築いて欲しいな」
「え?私たちが結婚?そんなことできるのでしょうか?」
「ミモザ、僕の屋敷の使用人はね、捨て子や奴隷、誘拐されて家族から引き離された子など、色々な境遇の子たちが居るんだ。既に男の子もいっぱい居るんだよ。だからきっと結婚できるよ」
「本当ですか!そんな夢みたいなこと・・・」
「ミモザ、決して夢ではないよ、きっと大丈夫だよ」
「はい!月夜見さま。私たちのためにありがとうございます」
「うん。君たちには幸せになってもらいたいんだ」
それから花音と一緒に学校の寮に入っているレオに会いに行った。
まずは職員室に行き、校長のメラニー トンプソン先生に挨拶して話を聞くことにした。
「メラニー先生、お久しぶりです。レオの様子を見に来ました」
「これは月夜見さま。ようこそお出でくださいました。あら、そちらは?」
「絵里香 シュナイダーですよ。覚えていませんか?」
「え?月夜見さまの侍女になると言って早期に卒業した?あの?」
「メラニー先生。お久しぶりです」
「まぁ!見違えてしまったわ!絵里香なの?」
「えぇ、メラニー先生、絵里香は私の妻になるのですよ」
「え?妻?絵里香が?神さまの妻に?」
「えぇ、妻です。それでレオなのですが、その後如何ですか?」
「それでしたら四年生の担任のエリザベスに聞きましょう」
「え?四年生?」
「はい。レオはこの一年で三年生までの学業を修了したので御座います」
「まぁ!月夜見さま。お久しぶりです!」
「あ、エリザベス先生。お久しぶりです」
「エリザベス。月夜見さまにレオの様子を教えて差し上げて頂戴」
「はい。レオの学習意欲は素晴らしく、放課後や学校がお休みの日もほとんど図書室で過ごしているのです。成績も常に上位です」
「そうですか、特に優れている科目とか興味がありそうなものは何でしょう?」
「えぇ、数学と政治ですね。それに税金や国の予算などに興味がある様です」
「ほう、それは大したものですね」
「是非、顔を見て褒めてあげてください」
「えぇ、そうさせて頂きます」
この時間はお昼休みだ。僕たちは平民のクラスがある一階へ降りて行った。食堂に入ると僕らの姿を見て生徒達が一斉に固まり、水を打ったように静まり返った。
「レオ!」
僕は大きな声でレオを呼ぶ。すると一人の生徒が立ち上がり、こちらへ小走りに出て来た。
「月夜見さま!」
「レオ!元気そうだね。それに背も伸びた様だ」
前回会った時は百五十五センチメートル位だっただろうか、でも今は百六十はありそうだ。
「あ、あの、そちらは絵里香さまなのですか?」
「あぁ、そうだよ」
「何だか・・・」
「どうしたの?」
「あ、いえ、凄く変わられたなと思いまして・・・」
レオの顔が真っ赤になった。
それには突っ込まないでおいた。
「レオ、エリザベス先生に聞いたよ。もう四年生になったのだって?」
「えぇ、やってみたら思っていたよりも簡単でしたので」
「そうか、凄いな。前に本を買ったって言っていたけど、政治に興味があるのかい?」
「はい。面白いです。特に国の財政や税制についてもっと勉強したいのですが、良い教材がないので困っています」
「そうか・・・レオ、あとどれくらいで卒業できるかな?」
「そうですね。半年もあれば・・・」
「うん。では半年で卒業してくれるかな。その後はネモフィラ王国の宰相から国の政を学ぶと良いよ。ネモフィラ王には頼んでおくからね」
「え?僕の様な平民が宰相閣下から直々に教えを乞うのですか?」
「レオ。君には新しく創る村の政を一手に引き受けてもらいたいのだよ」
「僕が村の政を?」
「うん。絵里香のお父さまが村長になるんだ。その村長を支えて村を運営して欲しいんだ。そのためには国の政の実務を勉強してしまえば、それを小さくするだけだから簡単に思えるでしょう?それにフォルラン王子も一緒に勉強する筈だよ」
「フォルラン王子殿下ですか、いつも月夜見さまとご一緒でしたから面識はありますが、でも本当に良いのでしょうか?」
「こちらからお願いしているのだよ。レオ。これは大事なことだからね。頼んだよ」
「はい!精一杯頑張ります」
「うん。頼みます」
「レオ。私のお父さまを支えてね」
「は、はい!」
レオは顔が真っ赤だ。花音が好きなのかな?でもあげないけど!
そこからカンパニュラ王国のグロリオサ服飾店へ飛んだ。
「アリアナ。アスチルベ王国に出してもらう支店の話なのだけど」
「はい。こちらでも準備を進めております」
「店長はどうするのですか?」
「月夜見さまがよろしければ、サンドラを店長に据えたいのですが」
「え?サンドラを?ここから抜いてしまっても大丈夫なのですか?」
「えぇ、この様な時のために次の責任者を育てて参りましたので」
「それは心強いですね。サンドラとは初めにブラジャーの製作をお願いした時からの縁ですからね」
「はい。サンドラも月夜見さまがお創りになる村の支店を任されることを大変に喜んでいるので御座います」
「今のところ、何名か雇って頂きたい者も居ますので」
「それは助かります。是非、ご紹介頂ければと存じます」
「それと、アリアナには新しい屋敷の使用人と神宮の巫女の衣装も作って頂きたいのです。使用人はその仕事内容によって衣装も違います。人数も多いので多めに作って支店の方で在庫を持っていて欲しいのです。勿論、初めの在庫は全て買い取りますので」
「ありがとうございます。それだけでも支店の開業は順調にいくことでしょう。早速、役割毎の衣装のデザインに取り掛かります」
「えぇ、どれも動き易い異世界のデザインと素材でお願いいたします」
「はい!心得て御座います!」
今夜は久々に、善次郎の洋食屋に集まることとなった。僕と婚約者五人、フェリックスと水月、それにニナたち三人だ。幸ちゃんだけが現地集合となった。
「シュンッ!」
「やぁ、善次郎殿、凛太郎、お久しぶりですね」
「あ!月夜見さま、いらっしゃいませ!」
「シュンッ!」
「あ!幸ちゃん!」
「お待たせいたしました」
「大丈夫、私たちも今、着いたところなの」
「では、ビール十杯とお茶一杯ください」
「かしこまりました」
「よし、乾杯しよう!」
「カンパーイ!」
「がしゃん!」
「あーっ!ビールが美味しい!」
「月夜見さま、つまみはこちらでどんどん作ってお出ししますので!」
「あぁ、凛太郎。ありがとう。任せるよ!」
「月夜見さま、屋敷の使用人は足りるのですか?」
「いや、まだまだ足りていないね」
「どうされるのですか?」
「そうだね。七大大国の奴隷商を回ってみようか」
「どんな人材を買うのですか?」
「そうだね。今、足りないのは侍女の仕事がすぐにできる人かな?」
「そう言えば、子供が多くて経験者はニナたちしか居ないのですよね」
「男性も増やしたいな」
「奴隷の男性は少ないでしょうね。それに高いですしね」
「まぁ、見に行ってみようよ」
「そう言えば、水月さまは妊娠されて何か月目なのですか?」
「幸ちゃん、もう七か月目に入っているんだよ」
「では、男女の別はもう?」
「えぇ、男の子なのです」
「まぁ!それはおめでとうございます!」
カニクリームコロッケを口に頬張りながら、水月は自慢げに言った。
「凄いことですね。結婚前に男の子を授かるなんて!」
「水月さま、あと何人くらい作るのですか?」
「そうですね。産めるだけ産みたいわ。十人とか・・・」
「だそうですよ。フェリックスさま!」
「あ!そうですね。僕も子は多い方が嬉しいです!」
「十人・・・確かに日本でもそれくらい産んだ人は居るでしょうね。水月さまならば、二年に一人産んでも十人目の子を産むのは、まだ三十五歳なのですから」
「では私たちも結構、産めるのですね」
「皆、身体が若返っているからかなり産めるのではないかな?」
「八人の嫁で十人ずつ産んだら子が八十人ですよ!もう名前も覚えられませんね!」
「お父さまは、妻八人で二十二人の子が居るからね」
「最低でもそれくらいにはなるのですね」
「子供部屋は四十部屋できるのですからまだ余裕ですよ」
奴隷商に行くに当り、まずはネモフィラ王国へ行き、ステュアート王にお伺いを立ててみた。応接室には三人の伯母さまとフォルランと柚月姉さまも揃った。
「伯父さま、皆さん、お久しぶりです」
「月夜見。元気でしたか?」
「えぇ、元気ですよ」
「お兄さま、舞依が見つかったのですよね?」
「えぇ、見つかりました。アスチルベ王国の第十王女だったのです」
「それはおめでとう御座います!では嫁探しも終わったのですね?」
「いや、それはまだ・・・」
「え?まだ、嫁をもらうのですか?」
「えぇ、私は八人の嫁をもらわないといけないらしいのです」
「らしい?お父さまから命じられたのですか?」
「柚月姉さま、お父さまではなく神からのお告げです」
「神?お父さまが世継ぎで現当主なのではなかったのですか?」
「いえ、それはそうなのです。どうも始祖の天照さまがいらっしゃる様なのですよ」
「始祖の!」
「えぇ、始祖の。です」
「あ!アルメリア母さまがお告げを受けたという・・・」
「それです」
「では、お兄さまはあと三人も探さないといけないのですね?」
「そうなのです」
「では、今回はその嫁を探しに来たのかな?」
「伯父さま、それは違います。今回は私が作る屋敷の使用人が足りないので、それを奴隷で調達するのはどうかと考え伯父さまにお伺いをと思ったのです」
「屋敷の使用人?」
「えぇ、主に侍女と屋敷の雑務をしてくれる使用人ですね」
「そうか。奴隷ね・・・今は平民への増税を止めているし、仕事も人も増えているからね、奴隷商はどんどん減っていると聞いているよ」
「それはネモフィラ王国のお話ですか?」
「いや、どこの国でもその傾向らしい」
「後で騎士団長に聞いてみると良いよ。その辺の動向には目を光らせているからね」
「どうしても足りなければ、この城から派遣しても構わないよ」
「いえ、それは遠慮しておきます。アスチルベ王国は遠いですから・・・」
「そう言えば柚月姉さま。水月姉さまがアスチルベ王国の第二王子と半年後に結婚しますよ」
「えぇ、そのことはつい最近、耳にしました。水月ったら仕方のない娘ね!」
柚月姉さまは口を尖らせ、プリプリと怒っている。可愛い。
「彼女は末娘らしく自由奔放ですね」
「それも困りものですね。私と歳は同じですが、先に婚約した私より先に母親になるなんて・・・」
「え?そんなに早く結婚したのかい?」
「いいえ、フェリックス王子も水月姉さまも十四歳で、初めて会ったその日に婚約し、その一週間後には子を授かったのです。結婚する時には既に長男が生まれています」
「そ、そんなことが!あ、あるのだね・・・フォルラン?」
「な、何を!私はその様なことは・・・ねぇ、柚月さま?」
「えぇ、私たちには節度というものが御座いますので」
「はい。普通はそうですよ」
「では私はアルとソニアの様子を見てから騎士団長のところへ行ってみます」
「うむ、また何時でも来てくれ」
「はい。伯父さま。ありがとうございます」
城の厩へと飛んだ。
「シュンッ!」
「アミー、エミリー、アベリア。久しぶりだね。元気だったかな?」
「まぁ!月夜見さま。お久しぶりで御座います」
「エミリー、アミー。屋敷はもうすぐできるからね」
「はい。楽しみです!」
「そうだよね。エミリーはまたお母さんと暮らせるものね」
「はい!」
「さて、ソニアとアルは元気かな?」
『ソニア。元気かい?久しぶりだね!』
『つくよみ げんき!』
『ことは はしる!』
『ごめんね、今日琴葉は来ていないんだ。もうすぐ一緒に暮らせるからね』
『まってる』
『アル。元気だったかな?』
『つくよみ はしる?』
『ごめんね、今日は時間がないんだ。また来るからね』
『えみり はしる』
『うん。今はエミリーと走ってね』
「では、また来るからね」
「はい。お待ちしております!」
「シュンッ!」
王宮騎士団の訓練場へと飛んだ。
「騎士団長!お久しぶりです!」
「これは!月夜見さま!お久しぶりで御座います!ステラリアは元気ですか?」
「えぇ、新しい弟子を取って毎日しごいていますよ」
「ほう、弟子を?」
「えぇ、アスチルベ王国の第二王子です」
「それは!結構なことですね。えぇと、それで本日はどの様な?」
「あぁ、騎士団長にお伺いしたいことがあるのです。この国の奴隷商の現状なのですが」
「奴隷商ですか?この国では奴隷商はかなり減っていて、今では王都に一軒残っているだけです」
「え?一軒だけなのですか!」
「はい。そうなのです。これも月夜見さまのお陰で御座います」
「私の?」
「えぇ、奴隷の買い取りの身元確認を厳しくし、罰則も強化しました。平民の税も軽くしましたし、子供も仕事も増えています。これらは全て月夜見さまがされて来たことです」
「そうですか、では喜ぶべきことなのですね」
「えぇ、ありがたいことです」
「では、残っているという奴隷商を見に行きたいのですが」
「月夜見さまが、で御座いますか?」
「えぇ、新しく建てる私の屋敷に使用人が足りないのですよ」
「では奴隷をお買いになるのですか?」
「まぁ、良い人が居れば、ですね」
「では私がご案内致しましょう」
「よろしいのですか?」
「勿論です。他ならぬ月夜見さまのお供なのですから、喜んでご一緒致します」
「それはありがとうございます」
初めて奴隷商に行くことになった。少し緊張するな。
お読みいただきまして、ありがとうございました!