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9.鳥の電話

 一つ目の月の都の地下室で、幾つかの新たな情報を得ることができた。


 昼食まで時間が空いたので鳥の電話の能力を婚約者たちに教えることにした。

「皆、鳥を操る能力の使い方を教えようか」


「鳥の電話?」

「幸ちゃん、月夜見さまがひとつ目の月の都の地下室で、フクロウを操っているのと同じ能力の使い方が記された本を見つけたそうなのです。月夜見さまが地下室に居ながらこの辺に居た鳩を操って、私たちと会話ができたのですよ」


「それは何に使うのですか?」

「琴葉、相手が能力を使えなくても遠く離れた状態で会話ができるのですよ」

「でも、私たちは瞬間移動ができるのですから会話だけする必要はないのでは?」

「あ!そうだわ!会話だけできてもあまり意味は無いですね」

「そうね、フクロウを操っている人みたいに、自分の正体を知られたくない時には良いのでしょうけれどね」


「あ!私の日本の実家でインコを飼っていたのです。ものがやりとりできるならインコを操って家族と会話できないでしょうか?」

「舞依、それは良いアイデアだ。やってみる価値はあるね」


「どんな鳥でも話せるのでしょうか?」

「それは試す必要があるね。フクロウの様に念話だけで良いならどんな動物でも良いらしいんだ。でも念話ができない人と会話する場合は人間の言葉を発することができる動物を使えと書いてあるんだよ。これが難しいよね」


「それは、やはりインコやオウムとかそれとも大きい鳥でしょうか?でも鳩でもできたのですよね?」

「そうだね。ではその辺に居る小さな鳥、例えばすずめとかで試してみましょう」

「うん、やってみよう」


 それから僕は五人にやり方を伝授した。皆、僕の時と同じではっきりとは分からないままに相手の視界に入り、そこから移動してその辺に居る動物の視界に移って行動を支配することができた。


 皆で、様々な動物で試したのだが、やはり鳥が良い様だ。結局は鳥の大きさには関係なく、すずめでも話すことができた。ただ、声色はその鳥の声帯や喉の筋力にも依存するので、すずめでは聞き取りづらい感じではあるのだが。


「では私、日本の実家のお母さんで試してみますね」

 舞依はソファに座ったまま目を閉じて集中している。


「あ!何か見えて来ました!あぁ、これは!実家です。お母さんは台所に居るみたいです」

「凄いな!日本に繋がるのか!」

「視界を移動してみますね・・・あ!懐かしい!家に帰って来たみたい!十三年ぶりだから・・・あ、最後は入院していたからもっと経っているんだわ。やっぱりあちこち古くなっている・・・」


「あら、私の部屋がそのままになっているわ。これはいけないわね・・・あ!見学している場合ではなかったわ。鳥を探さないと・・・うーん。インコの「こむぎ」が居ないわ。もう死んでしまったのね・・・」


「外へ出てみましょう・・・うーん・・・と、あ!居た。鳩だ。この子にしましょう」

 舞依は目を閉じたまま眉間に少ししわを寄せて集中している。可愛い!


「えーと・・・あ!見えた。これが鳩の視界ね。では、ちょっと家を外から見てみましょう」

 舞依は鳩を家の上空に飛ばし、家の周囲の風景を眺めた。

「あぁ、新しいマンションが建ったのね。でもそれ程、変わっていないわ。やっぱり田舎ね」


「ではお母さんに話し掛けてみましょう」

 舞依が操る鳩は窓枠に掴まると、窓をコンコンと突いてお母さんの注意を引いた。

「あら、何?この鳩は・・・窓を開けて欲しいのかしら?」


「あ!お母さん!やっぱりけたわね。もう六十過ぎだから仕方がないけど」

 舞依のお母さんは窓を半分程開いた。


「お母さん!お母さん!私よ。舞依よ!」

「え?鳩がしゃべってる!」

「私、舞依よ!」

「舞依?え?どういうこと?舞依?ちょっと!お父さん!おとーさーん!」

「んーなんだ?騒がしい・・・ん?鳩が入って来ちまったのか?」


「この鳩が・・・舞依だって!しゃべってるんだよ!」

「お母さん!お父さん!私よ、舞依!私、生まれ変わって、今は地球ではない別の世界で生きているの!」

「え?舞依が生まれ変わった?鳩に?」

「お父さん!違うわ!鳩は今、私が操っていて代わりに話しているだけなの。生きている電話みたいなものよ」


「え?何、しゃべってんだこいつ?」

「あー。信じられなくても仕方がないわね。どうしたら信じてもらえるかしら?そうね。私は、橘 舞依。今から十三年前の十二月八日に死んだわ。私が死んだその夜に私の幼馴染で恋人で先生だった、碧井 正道さんも私の後を追って自殺した。そして二人は地球ではない、別の世界に転生したのよ」


「え?本当に舞依なのか!碧井くんも一緒に生まれ変わっているのか!」

「舞依!舞依なの?」

「えぇ、そうよ。嘘だと思ったら、私の部屋の宝石箱の中を見て頂戴。まぁくんに誕生日プレゼントでもらったルビーのネックレスが無くなっているわ」

「え?本当に?」

 お母さんは慌てて舞依の部屋へ駆けて行き、机の上に置いてあった宝石箱を開いた。


「あ!本当に無くなっている。私は舞依が亡くなった後、確かにここへ入れたのよ」

「えぇ、そうね。でも今はここにある。私が持っているの。こちらの世界では私とまぁくんは特別な能力を持っているの。だから、こうして動物を介してそちらの世界の人と会話ができるし、手紙や物をやりとりすることもできるわ」


「それならこれからもこの鳩で話ができるの?」

「あ!お母さん、インコの「こむぎ」はどうしたの?」

「あぁ「こむぎ」は去年死んでしまったのよ」

「そう、残念だわ。それならまたインコを飼ってくれないかしら?そうしたら、いつでも私に話し掛けられるわよ」


「分かったわ。すぐに買って来るわ!」

「お母さん、ありがとう。今度、手紙と写真も送るわね。突然私の部屋の机の上に封筒が現れるから読んでね」

「えぇ、分かったわ」


 凄いな!鳥の電話が使える様になってしまったよ。




 昼食後。僕は結月ゆづき姉さまにお母さんの秘密を打ち明けることにした。


 姉さまの結婚や出産の時は丁度、僕がネモフィラ王城に引きこもっていたためにお祝いもしていないばかりか会いに来てもいなかったのだ。


 その埋め合わせもあるし、姉さまとはこれからアスチルベ王国で末永く一緒に暮らすのだ。隠し事は無い方が良いと考えた。


 前日の夕食前に神宮へ飛びデートに誘ったところ、大喜びで今日の午後、神宮を閉めると言い出した。大丈夫なのだろうか?


 まぁ姉さまも子供ではないし、この国の王女でもあるのだから大丈夫なのだろうということで約束の時間に神宮へ瞬間移動した。

「シュンッ!」

「お姉さま。お待たせしました」

「お兄さま!」


 結月姉さまはピンク色の可愛らしいドレスで着飾って僕を待っていた。

「お姉さま!可愛いドレスですね!とても子供が二人居るとは思えません」

「だってお兄さまと出掛けられるなんて初めてのことなのですもの!」


 良く考えたら結月姉さまはまだ十八歳だった。ピンクのドレスでも何もおかしくはないのだ。

「今日二人で出掛けることはウィリアム殿に話してあるのですか?」

「えぇ、勿論今日のことはお話ししてありますし、喜んでくれていますよ!」

「それならば良いのです。ではまず、景色の良いところでお茶でも飲みながらお話ししましょうか」

「はい!」


「では、瞬間移動しますので抱きしめますよ」

「まぁ!嬉しい!」

 姉さまは満面の笑顔で両腕を広げ抱きついてきた。


「では、飛びますね」

「シュンッ!」


 僕は前に見つけた紅葉の素晴らしい場所へ飛んだ。

「まぁ!なんて美しい景色なのでしょう!素敵!」

 姉さまは抱きついたまま僕を離してくれない。

「お姉さま。そろそろ」

「あ!」


「シュンッ!」

 僕はニナに頼んでおいた絨毯とお茶のセットを引き寄せ、お茶を淹れていった。

「まぁ!準備の良いこと!」


「ここは先週、ソフィアに出会う前にアスチルベ王国を捜索していて見つけた場所なのです。今後、秋にはここに来て皆でお茶を飲んでのんびり過ごそうと思っているのですよ」

「アスチルベ王国にこんなに素敵な場所があったのですね!」


 姉さまとお茶を飲み景色を眺めながら話をする。

「今日は姉さまにお母さまの話をしなくてはならないのです」

「アルメリア母さまの?あぁ。私よりも若返っていましたね。ステラリアさまも」

「えぇ、お母さまは僕と同じ、異世界からの転生者でしかも千五百年前の神でもありました。そして僕と夫婦だったのです」


「千五百年前?そんなに前に?」

「えぇ、そしてまだ分からないのですが、どうも始祖の天照さまが存在する様なのです」

「始祖の?それは?」

「私の前世の世界の日本という国を創り、この世界をも創った創造主です」


「そんなお方がいらっしゃるのですか!」

「えぇ、数か月前にその方の遣いとして白いフクロウが遣わされ、お母さまの過去の記憶がよみがえらされたのです。そして神の力も戻り、あの様に若返りました」

「そうだったのですか・・・」


「それで、その神の遣いのフクロウが僕たちに言ったのです。僕とお母さまは結婚して子を儲けるのが運命だと・・・」

「えーっ!だってお兄さまは兄弟で結婚は駄目だって!それが親子でですか?!」

「そうなのです。僕も混乱しましたが、これは運命で避けられない様なのです。このこともまだ謎に包まれていてこれから解明していかなければならないのですけれど・・・」


「そ、そう・・・なのですか・・・」

「驚きますよね。でもこれからアスチルベ王国で末永く一緒に暮らすことになる姉さまには隠し事はしたくないので話すことにしたのです」

「わ、分かりました。話して頂けて嬉しいです。でも不思議なことがあるものなのですね」

「はい。僕も皆も驚くことばかりなのです」


「明日からはこの世界の未開の地を探しに行くのですよ」

「未開の地?」

「えぇ、この世界は三十の国だけではなかったのです。他にも大地が存在する様なのです」

「どうして分かったのですか?」


「僕が住むことになるひとつ目の月の都の地下室に地図があったのですよ」

「危なくはないのですか?」

「それを確認しに行くのです。もしそこに困っている人や動物が居るのなら助けてあげないといけませんし、危険があるならば排除しておく必要がありますから」

「あぁ・・・お兄さまはやはり理想的な神さまなのですね・・・」


「それほどでもありませんよ」

「お兄さまはそう思っていても世界中の人たちはお兄さまを偉大な神と崇拝しています」

「ふふっ、そうですか」


「それにしても、お姉さまの結婚やレオンの出産のことも知らず、お祝いもせずすみませんでした」

「いいえ、お兄さまはお忙しいのですから仕方がありません。私のことは良いのです」

「それでは僕の気が済みません。そうだ。新しいドレスでも贈らせて頂けませんか?」

「え?お兄さまが私にドレスを?」


「えぇ、ネモフィラ王国に良い服飾工房があるのです」

「ネモフィラ王国?月影姉さまの?」

「えぇ、月影姉さまにもドレスをお贈りしたのです。結月姉さまにも贈らせてください」

「まぁ!嬉しいわ!本当ですの?!」

「ではこの後、ネモフィラへ飛びましょう」


 それから二人で近況の報告をし合い、ネモフィラのプルナス服飾工房へ飛んだ。

「シュンッ!」


「さぁ、お姉さま。到着しましたよ」

「え?もう?」

 渋々、僕から離れたお姉さまをエスコートして店に入った。


「ビアンカ。こんにちは」

「まぁ!月夜見さま、いつもいつもありがとうございます!」

「こちらは私のお姉さまで、アスチルベ王国の王子妃でもある、結月 アスチルベさまです」


「結月 アスチルベ王子妃殿下でいらっしゃいますか。初めてお目に掛かります。私はこの工房の主人でビアンカ プルナスと申します。以後、お見知りおきを」

「結月 アスチルベです。初めまして。よろしくお願いいたします」


「ビアンカ、今日は結月お姉さまに僕の結婚式の時に着て頂けるドレスを贈ろうと思いましてね」

「かしこまりました。最新のドレスをご用意致します。こちらへどうぞ」

「ありがとう」


 僕はお茶を飲みながら待つと、ビアンカにエスコートされてお姉さまが現れた。


「お姉さま。素晴らしいですね!」

 そのドレスはプリンセスラインで濃い目のネモフィラブルーとホワイトを主体にゴールドのラインテープや刺繍がアクセントになっている。


「結月さまのご希望で月夜見さまの瞳のお色に合わせたドレスを選びました」

「お兄さま。如何ですか?」

「うん。気品があって高貴な雰囲気が素敵です。とてもお似合いですよ」

「本当ですか?!嬉しい!」


「寸法は合っているのですか?」

「はい。王子妃殿下のために仕立てたかの様に合っておいでです」

「では、そのまま靴も買いに行きましょう」

「お兄さま。靴も頂けるのですか?」


「それはそうですよ。揃いのものを買いましょう。ではビアンカ。着てきたドレスを包んでもらえますか?」

「はい。お買い上げありがとうございます。すぐにご用意いたします」


 続いてコンティ靴店へ入り、ドレスの色に合わせたハイヒールとダンス用の二足の靴を購入し、デュモン宝石店へ行った。


「お兄さま、ここは宝石店ではありませんか!」

「ドレスに合った宝石も必要ですよね」

「そんな!宝石なんて、そんな高価なものは頂けません!」

「月影姉さまや水月姉さまにも結婚のお祝いでお贈りしたのですよ」


「え?それなら・・・頂いても良いのでしょうか・・・」

「勿論です。遠慮なんてしないでください」

「あぁ・・・お兄さま・・・」

 あ。いかん。姉さまの目がとろんとしてきた。


「クレメント!こんにちは!」

「これは月夜見さま。ようこそいらっしゃいました」

「こちらは私のお姉さまでアスチルベの王子妃になられた、結月 アスチルベさまです」

「これは結月 アスチルベ王子妃殿下、初めてお目に掛かります。デュモン宝石店のクレメントで御座います」

「初めまして。結月 アスチルベです」


「今回は少し遅れてしまったのですが、お姉さまに結婚祝いの品をお贈りしたいのです」

「かしこまりました。最上等の品をご用意いたします」


「結月さまと月夜見さまの瞳の色、それにドレスのお色にも合うこちらのブルーサファイアのネックレスは如何でしょうか」

「まぁ!素敵!本当にお兄さまの瞳の色みたい!」

「うん。そのドレスにも合っていますね。お姉さま、気に入りましたか?」

「えぇ、素晴らしいです。でも・・・これは高級過ぎるのではないでしょうか?」


「お姉さま。そんなことは気にしなくても良いのですよ。さぁ、イヤリングと指輪も選んでください」

「本当に?」

「えぇ、お姉さまが気に入るものを購入しましょう」

「ありがとうございます!」


 そして、サファイヤのイヤリングとダイヤモンドの指輪の三点を購入した。

「クレメント。ありがとう。ではまたお世話になりますね」

「いつもありがとうございます」

「では、お姉さま、神宮へ飛びますよ」

「はい。お願いします」


「シュンッ!」


「さぁ、お姉さま・・・うっ!」

 と、その時、一瞬の隙を突かれ、首に腕を回され唇を奪われた。更にきつく抱きしめられなかなか離してくれない。

「う・・・」

 一分以上キスをされ、やっと解放された。


「お兄さま、今日はありがとうございました。これはお礼です」

「お礼?キスが?」

「ふふっ。お兄さまとは、これが初めてではないのですよ?」

 にやにやしながら姉さまはさらっと言った。


「初めてではない?え?」

「私の初めての男性はお兄さまですもの!」

「え?姉さまとキスなんてしたことないですよ?」


「お兄さまは知らないかも知れませんね。月影姉さまがネモフィラへ派遣された夜、お兄さまと一緒に寝たではありませんか」

「あぁ・・・そう言えば、そんなことがありましたね」

「私、朝早くに起きてお兄さまにキスしたのです。だから私の初めてはお兄さまなのです」

「えーっ!そ、それは・・・気がつきませんでした」


「そうですよね。気がつかれていないのも何だか悔しいなって思って。だって、私は本気も本気でお兄さまと結婚したかったのに・・・私は駄目なのにアルメリア母さまと結婚するなんて・・・」

「そう言われてしまうと・・・そうですね・・・」

「ごめんなさい。責めるつもりはないのです。私はウィリアムさまと結婚して良かったと思っているし、レオンもレイアも可愛いくて・・・本当に幸せなのですから」


「それなら良かった」

「それにこれからはお兄さまにいつでも会えるのですからね。きっとお兄さまの結婚式ではダンスも踊れるのでしょう?」

「えぇ、そのドレスと宝石を身に付けて僕と踊ってください」

「はい!喜んで!」


「お兄さま。今日は本当にありがとうございました。私、幸せです!」

「うん。喜んでもらえて良かった。今後もよろしくお願いしますね」

「えぇ、勿論。末永く、よろしくお願いいたします。お兄さま!」

「では、これで失礼します」


「シュンッ!」


 僕は宿泊している宿の自分の部屋へ飛んだ。

あぁ、それにしても驚いた。僕のファーストキスはミラよりも前に奪われていたなんて・・・


 でも、眠っている間に勝手にされたキスなんて、ノーカウントだよね?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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