8.八人の妻
引き続き、ひとつ目の月の都の地下室で調べものだ。
残りの本を片っ端から読んでいったのだが、めぼしい記述のある書は見当たらなかった。ただひとつだけ、フクロウを操る能力の記述がある本を見つけた。
それによると、動物を操ると言うがその目的は、遠くに居る人と話をする時の手段の様だ。念話のできない相手と遠く離れて話したい場合に使用する。とある。そしてその動物は、人間の言葉が発せる動物にしろと書いてあった。
「人間の言葉が発せる動物?何?それ」
ひとり言でぶつぶつ言いながら考える。インコ?オウム?ネコやイヌは駄目だよね・・・あ、この世界にネコとイヌは居ないのだった。
九官鳥なら絶対話せそうだ。でもこの世界に居る訳がない。やっぱり、インコだろうなぁ・・・でもインコだって見たことがない気がする。
あ!でもフクロウも初めて見たのだよな。どこに居るのだろうか?
まぁ、すぐに使いたい訳でもないから能力の使い方だけ覚えておこうかな。
なになに?まず、目を閉じて話したい相手に集中するとその相手の視覚に入る。次に視覚を得た相手の周囲に視界を移動することができる。その周囲に居る動物を支配し、相手の前に移動したら視覚と声帯、聴覚を操り、会話をする。
「えーっ!何これ?全然分からない。とてもできるとは思えないな。特に動物を支配するというのが分からない!」
でも、フクロウはそういう感じだよね。相手はフクロウの動きを操っている感じだし、会話が成り立っているのだから。だけどフクロウは声を発しないよな・・・念話しかできないのかな?もしかして「ほう」しか言えないのか?
そうか、やってみれば良いのか。念話のできない人でやってみよう。誰にしよう?
お父さんだな。まず目を閉じてお父さんを意識する。集中していくと・・・
あれ?これは何だ?あ!お父さんの部屋だ。机とソファが見える!え?これでお父さんの視覚を得たのか。ここから視界を移動できると書いてあったな。うん?あ、本当だ!動けるな。このまま窓から外を見てみようか・・・
あ!鳥が居るな、鳩だ。この鳩を支配する?これが分からないよね。鳩に意識を集中してみようかな。
うん?あれ?視界が変わったぞ。これが支配したということかな?それならお父さんのところまで飛べるかな?
ふわっと浮き上がると凄い速さで空を飛び、お父さんの部屋の窓まで飛んだ。窓は閉まっていたので、くちばしでコンコンと窓を突く。するとお父さんが気付き窓を開けた。
「ん?なんだこの鳩は。今、窓を突いたのだよな?」
「お父さま。月夜見です」
「え?この鳩が話しているのか?」
「そうです。あのフクロウと同じ様にこの鳩を操って話しているのです」
「そんなことができるのか!」
「えぇ、ひとつ目の月の都の地下室にこの能力の使い方が書いてある本があったのです」
「面白いな。これなら相手に能力が無くても、離れたところでも会話ができるのだな?」
「そうですね。では桜たちと話して来ます」
「あぁ」
そこから外へ飛んで行くと庭園で能力の訓練をしていた桜と舞依、花音が居た。
「桜!舞依!花音!」
「え?何この鳩!私たちの名前を呼んだわ!」
「僕だよ。月夜見だよ!この鳩を操って会話をしてみているんだ」
「あのフクロウと同じことができているのですか?」
「そうだよ。この能力の使い方を書いた本を見つけたので試しているんだ」
「私もやってみたいです!」
「帰ったら教えるね!」
「はい!お願いします」
会話を終了すると僕は鳩から意識を離した。
これで大体、ここにある本は読み尽くしたな。では帰ろうかな。そう思った時、机の袖の引出しが気になった。引出しを引いてみると、
「あ!本がある。いや、これは本ではないかな?」
表紙を開いて見ると名前が羅列されていた。どうやら家系図の様だ。
「よし、これと地図と能力の本の三冊を持って帰ろう!」
「シュンッ!」
先程の桜たちの目の前に出現した。
「ただいま!」
「あ!お帰りなさい!」
「収穫があったのですね?」
「いや、世界の秘密が分かるものは無かったよ。地図と家系図とさっきの能力の本だけだ」
「家系図?天照家の家系図ですか?」
「それは興味深いですね」
「え?そうかい?」
「暁月さまに見て頂くのが良いのではないでしょうか」
「あぁ、桜、そうだね。じゃぁ、ちょっと行ってみようか」
「あ!私、お爺さまとお会いするのは初めてですよ」
「あ!そうか!舞依をお爺さまに紹介するのを忘れていたよ。では丁度良いから行こうか」
「では舞依。おいで」
「はい」
舞依は嬉しそうな顔をして僕に抱きついて来た。なんて可愛いのだろう!
「シュンッ!」
「シュンッ!シュンッ!」
お爺さんの屋敷の前に飛んだ。
「お爺さま、こんにちは」
「おぉ、月夜見。ん?そちらは?」
「お爺さま、新しい婚約者のソフィア アスチルベ王女です」
「初めてお目に掛かります。ソフィア アスチルベと申します」
「暁月です。よろしく。さぁ、中に入って」
ダリアお婆さんにお茶を淹れて頂いた。
「お爺さま、ソフィアは僕が探し続けていた前世での恋人の舞依なのです。もう前世の記憶を取り戻し能力も発現しているのです」
「そうか。見つかったのだな。それは良かった。転生者もこれで五人目なのだな」
「はい」
「それでお爺さま、先程、ひとつ目の月の都の地下室でこんなものを見つけたのです」
「それは何だ?」
「天照家の家系図の様なのです」
「家系図?どれどれ?」
お爺さんがペラペラとページをめくっていく。
「そうだな。天照の家系図の様だ。だが丁度、五百年前で終わっているな」
「お爺さまの代から遡る記録はないのですか?」
「あるぞ。だが、私が見た家系図は四百年位前からのものだな・・・ん?あ!この五百年前の当主と私の見た家系図の最初の当主の名は同じだな」
「では二つの家系図は続いているのですね。この家系図で何か分かることはありませんか?」
「うむ。不思議だと思ったのが、この五百年前の名だ。嘉月という当主の妻八名が皆、漢字の名前なのだ」
「それの何が不思議なのですか?」
「いや、私も玄兎も妻は皆、漢字の名前ではない。この家系図でも妻の名はほとんどが漢字ではないのだ」
「ちょっと、見せてください」
僕は後ろから遡って見ていく。すると、
「あ!あれ?・・・あ!ここにも!あーっ!」
「どうした?」
「五百年前、千年前、千五百年前、と五百年毎に当主の名前には月が付いていて、妻が八人居り、しかも皆、漢字の名前です」
「五百年毎?」
「はい。しかも千五百年前の当主は「月夜見」で八人の妻の中に「天満月」が居ます」
「天満月?」
「はい。お母さまの古い前世の名前で僕と夫婦だったと言っていました」
「では、二人は天照家の千五百年前の当主の生まれ変わりだと言うのか?」
「もう、そうとしか考えられません」
「それにしても、この五百年毎に漢字の名前の妻が八人というのは、何か意味がありそうですね」
「おい、月夜見。今、お主が妻にしようとしている五人は漢字の名を持つのではないか?」
「あ!そうでした」
「それに三年後は丁度、その五百年目に当たるのだぞ!」
「え?ではあと三人、日本人の生まれ変わりの妻ができるということでしょうか?」
「そうかも知れないな」
「月夜見さま。それって、ニナたちのことでは?都合良く、あと三人ですよ」
「桜。でも、ニナたちはキスしても記憶は甦えらなかったじゃない」
「キスでは・・・でしょう?私の例もありますが・・・」
「え?」
「これは試してみるしかないのでしょうか?」
「いや、ちょっと待ってよ。今までは五百年毎にそうなっていたかも知れないけれど、僕までそれに合わせて八人の妻を揃える意味はなに?」
「それは分かりませんが・・・」
「必要ならば、何か起こるのではありませんか?」
「そうだな。五百年毎に何かが起こっていたという話も言い伝えには無いからな。何か分かってからでも良いのではないかな」
「そうですね」
「地下室にあったのはそれくらいかな?」
「あぁ、お爺さま。この地図を見つけたのです。その本にはこの世界の三十の国がある大陸の他にも地図があるのです。つまりこの星には未開の地があると思われるのです」
「どれが未開の地の地図なのかな?」
「初めから三十枚は国名が入っていて現存する国です。ただ、ユーストマはもう併合してしまってありませんが・・・そして、三十一枚目からの地図には国名が書いてないのです」
「ほう。確かに書いていないな・・・ふむ。それでこの丸印は何だろうな?」
「え?丸印なんてありましたか?」
「ほら、これだよ」
お爺さんが指差す位置を見ると、確かに丸印が書いてあった。そこから改めて地図を見て行くと五枚の地図に丸印が見つかった」
「その丸印は現存の三十の国には無いのですか?」
花音に言われ、一ページ目に戻って一枚ずつ見直していくと、グラジオラス、エーデルワイスとラナンキュラスにあった。
「あ!これって御柱の位置だ!」
「では、御柱が八柱あると言うのか?」
「いえ、八柱あるのかは定かではありませんが、グラジオラス、エーデルワイス、ラナンキュラスの地図上の丸印の位置は御柱がある位置だと思うのです」
「ではこの世界には未開の地があって、そこにあと五柱の御柱がある可能性はあるのだな?」
「あ!それならば確認するのは簡単です」
「どうしてだ?」
「あの柱は赤道上にあるのです。宇宙にあるオービタルリングは赤道上空にあって、そのリングから吊り下げられているからです。だから一番西にあるラナンキュラスの御柱から出発して、リングの下を西に向かって飛んで行けば、御柱があるならば見つけられるのです」
「月夜見はそれを探しに行くのか?」
「えぇ、行ってみます。その未開の地に人間が居て苦しんでいる様なら助けたいですし、世界にとって危険なものがあるならば排除する必要がありますので」
「そうか、月夜見がその様な行いをするということは、やはり五百年毎に何かがあるのかも知れないな。まぁ、気が済む様にやると良い」
「月夜見さま。無理はなさらず、お気をつけて」
「はい。ダリアお婆さま」
その後、月宮殿に戻り、お父さんにこのことを報告した。
やはり千五百年前の月夜見と天満月に皆、衝撃を受けた様で黙り込んでしまった。
話が終わったところへ琴葉が帰って来た。旅の衣装も揃ったので御柱と未開の地を探す旅の話を再度説明する。
幸ちゃんに念話で呼び掛け、旅の目的と計画を一緒に聞いてもらうために来てもらった。
「シュンッ!」
「あ!幸ちゃん。帰ったばかりなのに呼び出してごめんね」
「いいえ、大事なお話なのですから構いません」
まずは天照家の家系図で千五百年前の月夜見と天満月の記述を見てもらった。
「琴葉、この名前を見て思い出すことはあるかな?」
「この八人の妻は皆、神でした」
「では、この月夜見さまと天満月さまは、今の月夜見さまと琴葉なのですね?」
「えぇ、そうです。ただ、あまりにも年月が経っているので、ぼんやりしていて他のことはあまり思い出せないのですが・・・」
「そうか、この家系図では五百年毎に月が付く名前の当主に漢字の名を持つ八人の妻が居るのです。でも他の年代では漢字の名前の女性は存在しないのです」
「そして僕が成人する年は五百年目に当たっていて、僕は月の付く名前であり、既に漢字の名を持つ婚約者が五人集まっています」
「では、千五百年前の時と同じで、漢字の名を持つ妻は日本人の転生者で神の能力を持つ者だということですね」
「まぁ、推測なのだけれどね」
「そうなると、あと三人の転生者がこれから現れるということかも知れませんね」
「それはニナたち三人かも知れないのですね?」
「まぁ、八人揃わないといけない理由もまだ分からないのだし、それは置いておくとして、未開の地と御柱を探そうと思うんだ。幸ちゃんは重要なものが見つかるとか、どうしても見せたいものがあった時だけ念話で連絡して迎えに行くよ」
「月夜見さま、お気遣いをありがとうございます」
「あれ?御柱は八柱あるのかも知れないのですね?妻も八人ですよね。関係があるのでしょうか?琴葉、何か分かりませんか?」
「何かある様な気がするのですが、ぼんやりとして上手く思い出せないのです」
「まぁ、それは行ってみれば分かるかも知れないよね」
「そうですね。探索の旅なのですからね」
五百年毎に漢字の名前を持つ妻が八人か・・・まさかね・・・
お読みいただきまして、ありがとうございました!