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7.桜の不安

 小白もセレーネも僕と舞依の犬の生まれ変わりであることが分かった。


「月夜見さま、それでは私は国へ戻ります」

「幸ちゃん。ありがとう。明後日の夜に行くからね」

「はい。お待ちしております」

 幸ちゃんとハグしながら会話し、幸ちゃんはひとりで瞬間移動して帰って行った。

「シュンッ!」


「凄い!ひとりで瞬間移動ができるのですね!」

「舞依もすぐにできる様になるよ」

「舞依。小白とセレーネのところへ行ってみようか?舞依もセレーネとお話ししたいでしょう?」

「え?良いのですか?」

「うん。まだ旅には出られないからね。夕方までに帰って来れば良いよ」


「あ!それならば、私もソニアの様子を見て来ます」

「琴葉、そうだね。アルのことも見ておいてくれるかな?」

「はい。勿論です」

「桜と花音はゆっくりしていてね」

「分かりました」


「では行って来ます」

「シュンッ!」


「それじゃ、舞依。小白も居るから船で行こうか」

「はい」

 船にふたりで乗り、小白を乗せるとフクロウは乗って来なかった。

「では、行くよ」

「シュンッ!」

 アスチルベ王城の玄関に出現した。


 舞依はまずお母さんの部屋へ向かい、学校をどうするか伝えた。

「お母さまに学校のことを伝えて来ました。次は卒業試験を受けると言ったら、驚いていましたけど」

「それは驚くよね。あの自信のない王女さまが、急に自信たっぷりな女性になってしまったのだから」

「えぇ、そうですね!でもちょっと反応が面白いわ。さぁ、月夜見さま、参りましょう!」


 ふたりで城のうまやへ行き、馬番に言ってセレーネにくらを装備してもらった。

『アルテミス、今日は小白も連れて来たよ』

『こはく おおきい』

『ある うま』

『そうだよ。小白は狼になってアルは馬に生まれ変わったんだ』


『アル。立派になったわね。今まで私と一緒に居てくれてありがとう』

『まい すき』

『うふふ。嬉しいわ!私もアルが大好きよ!』


『アル、これから僕と舞依、一緒に乗せてもらっても良いかな?』

『はしるの?』

『そうだよ。小白も一緒に走るよ』

『うん はしる!』


「舞依、空中浮遊ができるのだよね?自分で浮かんでアルに乗ってごらん」

「あ!そうね。できるわ!見ていてね」

 舞依はそう言うと、スムーズに浮かび上がってアルにまたがった。


如何いかが?」

「うん。合格だ。それじゃ行こうか」

「シュンッ!」

 僕も瞬間移動して舞依の後ろに乗り舞依を抱きしめると、一緒に手綱たづなを握った。その一連の様子を見守っていた馬番の女性は驚愕の表情で動けなくなっていた。


『さぁ、アル。行きましょう!』

『うん はしる!』

 アルは嬉しそうに走り出した。小白も嬉しそうな顔をして一緒に並走した。


「湖へ行きましょうか」

「そうだね。あ、そうだ。黄色い花がいっぱい咲いている丘があるでしょう?」

「どうして知っているの?」

「その丘を君がセレーネに乗って歩く姿を頭の中の映像で見たんだよ」

「今の季節は咲いていないのだけど、湖に行く途中なの。あれはフリージアよ」

「あぁ、フリージアだったのか!」


「僕たちは君を探すのに国をひとつずつ回って、空から湖とその近くに黄色い花が沢山咲いている場所を一か所ずつ探して行ったんだよ」

「え?今までそれをずっと?」

「そう。その花の名前が分からなかったから、見た目でこれは違うとかもっと沢山だったとか・・・中々当てはまらなくてね」

「何て大変なことを・・・」


「だって、それしか手掛かりが無かったからね」

「あなたなら、各国の王に私の特徴を伝えて探してもらえば済んだのでは?」

「勿論それは考えたよ。でも僕が同世代の女の子を探していると知られたら、皆、こぞって結婚の申込をして来て、収拾がつかなくなってしまうよ」

「あぁ、そうね。それは間違いないわ」


「うん。だから秘密裏ひみつりに行動していたんだよ」

「大変だったのね。見つけてくれてありがとう!」

「どういたしまして」


 舞依は僕に振り返ってキスを求めた。僕はアルの手綱を引いて歩みを止めると、舞依を抱きしめてキスをした。


 湖畔は木漏れ日に照らされ、キラキラと輝いていた。


 僕たちはアルから降り、湖畔をゆっくりと歩きながら美しい湖を眺めていた。

「そう言えば、あなたへの結婚の申し込みは落ち着いているのかしら?」

「うん。歳の離れた人は断ったからね。三人だけだった。舞依で最後だったんだ」

「あら?私と幸ちゃんと、もうひとりは?」


「あぁ、ユーフォルビア王国のブリギッテ王女なのだけど、彼女は何か悩んでいる様だったから話を聞いてみたらトランスジェンダーだったんだ。だから、結婚はせずにお相手と共に僕が作る新しい学校の先生になってもらうことにしたよ」

「あなたは本当に優しい人ね。では、もう妻は増やさないのかしら?」

「そのつもりだよ」


「それで、ニナたちはどうするつもりなの?琴葉が彼女たちはあなたのめかけになることを望んでいると言っていましたよね?」

「あぁ、それだよね。僕も困っているんだ。舞依はどうしたら良いと思う?」


「そうね。あなたは子犬だって捨てられないのよ。あんなに美しい娘たちを捨てられるとは思えないわね」

「それは・・・そうだね」

「でも、悩むと言うことは素直な気持ちとして、愛してはいないのかしら?」


「ニナは生まれた時からだし、シエナももう七年になるんだ。シルヴィーはまだ半年経っていないけれどね。皆、可愛いし美しい。凄く尽くしてくれているんだ」

「つまり、情が移ってしまっているのね。でもその理由で結婚するならば、これから先も侍女や使用人を雇う度に結婚して行かなければならなくなるわね」

「やっぱりそうだよね」


「えぇ、琴葉もあなたをずっと見て来て、それがはっきりと分っているのよ。だから、妾にすることをむ無し、と言っているのでしょう」

「では、妾にはしてあげるべきだと?」

「そうね。一生、女の幸せを知らずに、ただあなたに尽くすと言うのは可哀そうかも。それにキスはしてしまったのでしょう?」

「はい」


「それならば、もう捨てられないでしょう」

「いつ頃、そうすれば良いのかな?」

「そうね。少なくとも私たち婚約者と結婚した後にして頂かないと。そうでないとただの浮気でしょ?」

「そうだね。分かったよ」

「あなたは優しいものね・・・」

 そう言って、舞依は再びキスをした。


「舞依。さっきは皆が居たから言えなかったことがあったのでは?」

「琴葉のこととか?」

「うん。そうだね。だっておかしいと思っているでしょう?」


「あなたには医師としての倫理観があるのですからね。相当に悩んだのでしょう?」

「分かるかい?」

「さっきのあなたの表情を見ていればどれだけ苦悩したのか分かるわ。普通では絶対に起こらないことばかりなのですもの」


「あなたにとってはこの世界も苦しいものになっているのかしら?」

「舞依に逢えたのだから幸せだよ。どんな世界だって、幸せだけの人生なんてないでしょう?」

「そうね。私も今までは苦しかったけれど、あなたに見つけてもらえて幸せだわ。これから私は前世の分もあなたを支えて行きたいの」

「ありがとう。舞依」


 舞依は空中浮遊で僕の目線まで浮き上がると、僕の首に腕を回して抱きしめてくれた。




 月宮殿に戻ると夕暮れ時となり、桜とフェリックス殿が稽古をしていた。

小白とフクロウに晩御飯をあげて僕たちも夕食の時間となった。


 今夜は桜と眠る日だ。ふたりでお風呂に入った後、僕は桜の髪をドライヤーで乾かした。

「月夜見さまに髪を乾かして頂くなんて・・・」

「ふふっ、愛する桜の美しい髪だからね。大切にしないと」

 すると桜は一粒の涙をこぼした。


「桜。どうしたの?」

 僕は桜をお姫さま抱っこしてベッドへ連れて行った。そのまま寝かして抱きしめる。


「月夜見さま。私。この日が来るのが怖かったのです・・・」

「この日?もしかして舞依が見つかる日ってこと?」

「はい。舞依が見つかったら月夜見さまの心は全て舞依に向いてしまうのではないか。そう考えると怖くて・・・」


「そうか。桜も日本人の記憶が戻っているからね。日本人の感覚ならば複数の女性を平等に愛するなんてできるとは思えないよね」


「僕もね。舞依以外の女性を愛することができるとは思っていなかったんだよ。でも、桜のことは舞依が見つかった今でも愛しているよ」


「本当ですか?」

「うん。この前の剣術の模擬戦もそうだし、ダンスもそうだ。ふたりの息があれ程ピッタリと合うのは桜だけで、それが本当に楽しいし桜を愛おしいと感じる瞬間でもあるんだ」

「嬉しい!私もそうなのです!」


「これまでも今も、そしてこれからもずっと桜を愛しているよ」

 僕は桜を抱きしめてキスをした。桜もいつになく懸命に僕を求めて来る。僕は桜のしたい様に全て応えてそのまま深く愛し合った。


 翌朝、目覚めると桜がルビー色の美しい瞳で僕を見つめていた。

「おはよう。桜」

「月夜見さま。おはようございます。昨夜はすみませんでした」

「桜。良いんだよ。不安な時はいつでも言うんだよ。一緒に眠ってあげられるのは五日に一度になってしまったけれど、君への愛は変わらないからね」

「はい。ありがとうございます」


「桜。僕はね、桜との子ができるのが楽しみなんだ。桜に似た美しい女の子が欲しいな」

「あぁ・・・月夜見さま・・・あなたさまは・・・」

 僕は桜を抱きしめてキスをした。桜はまた一筋の涙を流した。




 今日のフェリックス殿の稽古は僕が担当した。桜は落ち着きを取り戻し、優しい笑顔で僕たちを見守っていた。


 朝食を頂いていると舞依が質問をして来た。

「月夜見さま、昨夜、足が痛くて目が覚めたのです」

「あぁ、成長痛かも知れないね。成長ホルモンが多く分泌ぶんぴつされて、足の骨が急激に伸びていっているのでしょう。そうすると筋肉や軟骨が引っ張られて、腰やひざかかとの辺りに痛みが出るのです」


「あ!それ、私もなりました!」

「そうだね、花音も十五センチメートルは身長が伸びたものね」

「でも、自分で足をさすっているうちに痛みは無くなったので眠れたのですけど」

「あぁ、それ自分で治癒を掛けたのだね」


「治癒の能力というものですか?」

「そうだね。同じ様に生理痛や頭痛も癒せるよ」

「自分で癒せるって便利ですね」


「これも何故かは分かっていないのだけど、能力が発現すると細胞が最適化されるのか、病気にならないんだ。生理痛もほとんど無くなると思うよ」

「では、成長が止まるまでのこの成長痛くらいなのですね」

「うん。そうだと思うよ」


「病気の心配をしなくて良いなんて・・・それだけで幸せだわ」

「そうだよね。花音や舞依には前世の病気のトラウマがあるから、その幸せが分かるよね。今世ではその分、他人を癒してあげられると良いよね」


「花音、舞依に治癒の能力について詳しく教えてあげてくれるかな?」

「分かりました。舞依は呑み込みが早いからすぐにできる様になりますよ」

「花音、よろしくお願いします」


「琴葉、ソニアとアルは変わりなかったかな?」

「えぇ、元気でしたよ。もう雪が積もり始めているので室内でしか走れませんでしたけど」

「あ!アルが居るからセレーネをアルと呼んだら混乱してしまうね。セレーネはもうセレーネになったということで認識してもらわないといけないな。舞依、それで良いかな?」

「えぇ、私にとってアルはトイプードルであって、馬はセレーネなので大丈夫です」


「それよりも月夜見さま。新しい月の都の地下室にこの前入られましたよね?」

「え?あ、あぁ、そうだね。琴葉。それがどうかしたの?」

「この月の都の地下室にある本と全て同じだったのですか?向こうの方が古いならば、古い文献があって何か分かるのでは?」

「あ!そうだ。そうだね。壁の絵に気を取られて本に目が行かなかったよ」


「まずは、それを確認してから旅に出るのが良いでしょうね」

「うん。では今から見て来るよ」

「え?おひとりで行かれるのですか?」

「あぁ、舞依。地下室には世継ぎとして認証された者しか入れないんだよ」

「そうなのですね!では私は能力の訓練をしていますね」


「では、行って来ます」

「シュンッ!」


 ひとつ目の月の都の地下室へ瞬間移動して来た。ここは工事とは関係なく、電力も供給されている。部屋の灯りは点いたままの様だ。一度、富士山の絵に目線を送り、変わりないことを確認してから本棚へ視線を移した。

「さて、読んだことのない本はあるかな?」


 ひとり言をつぶやきながら棚の右上の端から見ていく。ざっと見ると同じ本もある様だが古さの違う本もある。如何にも古そうな本を引っ張り出し開いて見ると、

「あ!これは地図だ。ん?見たことがない地形があるぞ!」


 机の上に本を持って来て始めのページから確認する様に見ていく。国の名前と国土の形を見ていって一ページ目から三十の国はこの世界にある国だった。しかし、その後は国の名前のない国土というか大地の形だけが描かれていた。


「そうか。この世界の三十の国は、アスチルベ以外はひとつの大陸にまとまっているんだ。ということはこの大陸以外にもこの星には大陸なり、島があるということか」


「だが世界地図が無いから、この大陸だか島がどこに在るのか分からないな。まずはこれを探しに行ってみようかな。そこに何かあるかも知れないよね」


 他にも重要な本がないか一冊ずつ丁寧に見ていった。昼食も取らずに夢中になっていたら、いつの間にか夕方になっていた様で、念話で琴葉に呼ばれた。

『月夜見さま。もう夕食の時間ですよ。戻って来られますか?』

『え?もう、そんな時間なんだね。すぐに戻るよ』


 夕食を食べながら皆に報告した。

「地下室にあった地図を見たのですが、どうやらこの世界はもっと広い様です」

「何?広い?月夜見。それはどういう意味なのだ?」


「お父さま、今ある二十九の国はアスチルベ王国の島を除いて、ひとつの大陸にあるのです。ですがこの星には他にも大陸や島がある様なのです」

「どうしてそれが分かったのかな?」

「地図には三十の国が全て描いてありました。しかし、その三十の国以外にも地図があったのです」


「では、そこに人が住んでいるかも知れないのだな?」

「そうですね。ただ、地図上に国の名前が書いていなかったので、人が居るのかどうかはまだ分かりません」

「それでその大地はどこにあるのだ?」

「それも世界地図が無いので分からないのです」


「世界地図とはどんなものなんだい?」

「一枚の紙にこの星の大地や島を全て描き込んだものになります」

「あぁ、なるほど。それがあれば、どの方角にその大地があるかが分かるのだね」


「月夜見さま。世界地図が無いということは、三十の国以外の場所を知られたくないと言うことはでは御座いませんか?」

「桜、そうだね。僕もそう思うんだ。フロックスやイキシアにあったサンクチュアリは、地図では海とされていて隠されていたからね」


「月夜見。サンクチュアリとは何だ?」

「お父さま、この場合は人間が入れない様にした動物の保護区のことです」

「フロックスとイキシアに動物だけが住む土地があったと言うのか?」

「えぇ、僕の前世の世界に居た多くの種類の動物たちが居ました」


「誰がそれを隠していると言うのだ?」

「えぇ、ですから、それは・・・」

 皆が一斉にフクロウを見つめる。お約束の様にフクロウは百八十度首をぐるっと回して視線を逸らし、無視を決め込んでいる。


「まぁ、彼があの調子ですから僕らで探しに行くしかないですね」

「あの小型船で行くのか?」

「えぇ、あの方が小回りがきますし、大型船で行って何かあったら乗組員を巻き込んでしまいますからね」

「まぁ、食事の度に瞬間移動で戻って来られるのだからそれで良いのか」

「はい。そういうことです」


「では僕は明日、残りの本を読んでしまうよ。琴葉はプルナス服飾工房へ行って皆の旅の衣装を受け取って来てもらえるかな?」

「分かりました」


「月夜見さま。実際に新しい大地を探しに行く時は、その場所が分からないのにどうやって探して行くのですか?」

「舞依、そこが難しいんだよ。一番良いのは高度を高く上げて見下ろすことなんだけど、そうすると大気が薄くなってしまうからね。まぁ頑張っても三千メートルを超えて飛び続けることはできないね」


「高度が低いと見渡せる面積が減るから、この星をかなり細かく網の目の様に飛んで視認していかないといけないね」


「でも、他の大地に人が居るのか居ないのか、何か危険なことがないのかを確認しておくことは大事ですよね」

「花音、僕もそう思うよ。皆、大変だけどお願いするよ」

「はい。頑張ります!」


 嫁探しは終わったが、これからは未開の地の探索をすることになってしまった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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