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14.服飾店への依頼

 僕は本の原稿を書き始めた。家族に教えた女性の身体の知識をまとめた本だ。


 本を作ると言ったが、あまり立派な本にしてしまったら万人に受け入れられなくなってしまうだろう。そもそも買って読んでもらうものでもない。


 現代日本でいうところの冊子とかガイドみたいなものにしたいと考えている。無料配布したいのだ。僕は空いた時間で原稿を仕上げていった。


「月夜見、オリヴィア姉さまが三日後に服飾職人を神宮へ呼んでくれたそうですよ」

「そうですか。では相談しに行って参ります」

「ひとりで行くのですか?」

「はい。瞬間移動で行けますので」


「でも、オリヴィア姉さまも同行した方が良いと思いますよ。突然、三歳の子が相談したいと言い出したら、相手はさぞかし驚くでしょうから」

「あぁ!そうでしたね。また自分が小さいことを忘れていました。でもどうやってオリヴィア母さまを連れて行こうかな」


「前に私と手を繋いでいるだけで宙に浮くことができましたよね?瞬間移動はそれではできないのですか?」

「そうですね。やってみましょうか」


 そう言われてみればそうだ。いつもお爺さんが僕やお婆さんを抱っこして飛ぶからそうしないとできないと思い込んでいた。試してみれば良いのだ。


「では、お母さま。手を繋いで庭園まで飛んでみましょう」

「はい」

 お母さまの手を掴んで、いつもの庭園を思い浮かべる。

「シュンッ!」


「あれ?」

 僕はひとりだけ庭園に飛んでしまった。駄目だ、これではできない様だ。


「シュンッ!」

「あ、月夜見。ひとりで飛んでしまいましたね」

「えぇ、失敗です」

「そうですか、手を繋ぐだけでは飛べないのですね」


「うーん。お母さまを抱っこするのは流石にまだできないな」

「私が月夜見を抱っこした状態ならばどうでしょう?」

「あぁ、なるほど。身体が触れる面積を大きくすればできるのかも知れませんね」


「では、抱っこしましょう。月夜見も大きくなりましたね。よいしょ!」

「お母さま。大丈夫ですか?」

「えぇ、ずっとでなければ大丈夫ですよ」

「では、行きます!」

 庭園の花壇の前を想像する。その瞬間に移動した。今度は成功したのだ。


「シュンッ!」

「お母さま。できましたね!」


「えぇ、凄いわ。瞬間移動で飛んだのは初めてです。特に何も感じないのですね!」

「お母さま。僕の力ならばネモフィラ王国へも瞬間移動で飛べるそうですよ」

「まぁ!本当ですか?」


「えぇ、僕が一度ネモフィラ王国へ行って場所を覚えれば、お母さまに抱っこされたまま、ここへ戻ることができるのです」

「では、もう船で長旅をしなくても良いのですね。嬉しいわ!」


「もう少し、実験しても良いですか?」

「えぇ、どうぞ」

「では今度は、お母さまは立っていてください。僕がそのままお母さまにしがみ付いた状態で飛べるかやってみます」


 僕はお母さんのお腹の辺りに顔を付け、お尻に腕を回して抱きつくと、お爺さんの屋敷を思い浮かべた。

「シュンッ!」

 一瞬でお爺さんの屋敷の前へと飛んだ。今度も成功だ。


「お母さま、成功しましたね」

「抱き上げていなくても大丈夫でしたね」


 するとお爺さんが屋敷から顔を出した。

「おぉ、月夜見。どうしたのだ?」

「お爺さま。お母さまを抱っこせずに一緒に瞬間移動できないか、色々試していたのです」

「できた様だな」

「はい。抱っこはしなくても身体を半分くらいくっ付けていれば大丈夫な様です」

「月夜見ならばそれくらいでできるだろう」


「お爺さま。目の前にあるものを持ち上げ、遠くへ飛ばすことができますよね。では遠くにあるものをここへ引き寄せることは可能でしょうか?」

「あぁ、全く逆にすればできるな。だがその離れたところにここへ引き寄せたいものがあることが前提だよ」


「では僕の部屋の花瓶をここへ引き寄せたい。と考えればできるのですね?」

「うむ。やってみなさい」

「はい。では」


 自分の部屋の花台の上にある花瓶だ。場所も色も形も分かっている。僕はその花瓶が僕の手元へ現れる様に強く念じた。


「シュンッ!」

「うわっ!」

 花瓶の大きさと重さに耐え切れず、花瓶は手から滑り落ちた。


「おっと!」

 お爺さんがそれを見ていて念動力で支え、そっと地面へ降ろした。

「ゴトッ!」

あぁ、また身体が小さいことを忘れていた。


「お爺さま、すみません。身体が小さいことを忘れていました」

「そんなことだろうと思ったよ。これからは気を付けるのだよ」

「はい」


「だが、成功したな。これができると遠くへ旅に出る時に荷物を持たずに飛んで、後から引き寄せることができるのだよ」

「そうですね。これは便利になります。ではこの花瓶を戻してみます」


 先程とは逆にこの花瓶に触れて、自分の部屋の花台の上に移動させる様に念じる。

「シュンッ!」

「消えましたね。ちょっと部屋へ行って成功しているか見て来ます」

「シュンッ!」


「まぁ!月夜見が消えたわ!」

「シュンッ!」

「うわ!驚いた。もう戻って来たのですか!」

「はい。成功していました」

「またひとつ、上達したな」

「お爺さま、ありがとうございました。ではお母さま、戻りましょう」


「では、暁月ぎょうげつさま、失礼致します」

「うむ」

「シュンッ!」


「まぁ!私たちの部屋へ戻ったのですね」

「今日は良い訓練ができました」

「本当に月夜見は有能ですね!」




 その三日後。オリヴィア母さまと神宮へ行くこととなった。オリヴィア母さまは母国の人間と面会するため、王女らしい服装に着替えていた。


 僕はブラジャーのデザイン画を描いたものと、それをもっと分かり易く伝えられないかと考えてブラジャーの型紙の様なものを素人感満載なまま作ってみたのでそれを持って行く。それに本の原稿もだ。それらを筆記道具と共にかばんに入れてもらった。


 さぁ、出発だ。という時、オリヴィア母さまの姿を見て、はたと立ち止まってしまった。

「オリヴィア母さま。ドレスのスカートが広がっていて抱きつけませんね」

「あら、そうなのですね。では私が月夜見さまを抱っこしても良いですか?」

「それならば飛べると思いますが、僕はもう結構重いですよ?大丈夫でしょうか」

「まぁ!大丈夫ですよ。さぁ!」


 僕は空中浮遊してオリヴィア母さまに近付き、抱っこされた。


「抱きつきますけど良いですか?」

「ふふっ、嬉しいわ!」


 オリヴィア母さまは目鼻立ちのはっきりとしたラテン系の美人だ。しかも今日は王女然とした衣装なので更に美しい。こんなに近くで顔を見るのは初めてだから少し恥ずかしいな。


「で、では行きますよ」

「はい。どうぞ」

「シュンッ!」

 一瞬で神宮へと飛んだ。


「まぁ!もう着いてしまったのね。もう少し抱いていたかったのに・・・」

なんとも恥ずかしいことをおっしゃるなぁ・・・


 巫女が僕たちに気付いて近寄って来た。

「月夜見さま、オリヴィアさま。お待ちしておりました。お客さまも到着しております。こちらのお部屋です。どうぞ」


 長い廊下を歩いて応接室へと通された。その部屋は応接室らしく、明るく華やかな装飾がそこかしこにあった。大きなソファの前には、年配の女性と職人の姿をした女性二人が立ち、その後ろには侍女二人と騎士であろう思われる姿をした女性が二人立っていた。


 僕らが入室すると全員が揃って深々と頭を下げた。


「月夜見さま。初めてお目に掛かります。私はカンパニュラ王国第二王妃でそちらのオリヴィアの母、ヘレナ ジギタリス カンパニュラで御座います。お会いできましたこと大変光栄に存じます。そしてこちらの者たちがカンパニュラ王家で贔屓ひいきにしております、グロリオサ服飾店の技術者でジェマとサンドラになります」


「私は月夜見と申します。この度はお忙しい中、王家の方にも足を運んで頂き、感謝します」

「母上、月夜見さまは、まだ三歳では御座いますが、天照家の次期当主となられるお方。既にその能力、知識、知能は成人を遥かに超越しておられます。くれぐれも失礼のなき様、ご配慮をお願い申し上げます」


「月夜見さま。事前にオリヴィアより手紙で伺っております。新たに女性の下着をお作りになられるとのことでしたね。それに生理?でしたか月のものに関するお話もあるとか」

「まず、初めに皆さんに誤解をされぬ様に、私の正体をお話ししましょうか」


「月夜見さまの正体?で御座いますか」

「はい。ヘレナさまとお呼びしても?」

「も、勿論で御座います」


「そちらの騎士の方、侍女の方。お名前は?」

「はい。王宮騎士団所属正騎士ナタリアで御座います」

「同じく正騎士アリアムで御座います」

「第二王妃殿下付侍女ベラで御座います」

「同じく侍女ミアで御座います」


「ジェマ、サンドラ、ナタリア、アリアム、ベラ、そしてミアですね。私がこれから話すことは、あなた方にとっては初めて聞く、とても信じられない様なお話です。ですが全て真実です。まずは、疑わずに素直な気持ちで耳を傾けてくださいますか?」

「はい。お伺い致します」

 皆が声を揃えた。

「ありがとうございます」


「私は、この世界に生まれてまだ三年です。しかし、この世界に生まれる前にここではない、別の世界で生きておりました。その世界では皆さんが想像できない程多くの人間が生活していました」


「その世界では王も貴族も存在せず、身分は皆同じだったのです。男性と女性の数も同じだけ居ました。その世界で私は医師と言って、人間の病気を治す仕事をしていたのです」


「更にその医師の仕事ですが、婦人科と言って女性特有の病気を治すことを専門としていました。毎日、何十名もの女性を診察し、病気を治していたのです」


「そしてその世界では神の能力というものは存在していませんでした。神宮はあってもそこで病気は治して頂けないのです。病気を治すのは病院というところです。そこで医師が医学の知識を持って病気を治すのですよ」


「如何ですか?ここまででも信じられないお話でしょう?」

「いいえ。月夜見さまがそのお歳でそれだけのお話しができるのですから信じない訳には参りません」

「ヘレナさま。ありがとうございます。では話を続けます。医学の知識とは、例えば月のものの話です。この世界では女性は毎月、月のものという病になると伝えられているそうですがそれは違うのです」


「月のものとは病気ではなく、赤子を生むための準備なのですよ。女性だけが持つ崇高すうこうな仕組みが身体の中にあるのです。子供ができにくいとか、男の子が生まれないなどは間違った知識です。私は正しい知識を広めるために本を作ろうと思っています」


「それは、本当なのですか!」

「はい。ここに原稿を持って来ていますよ。後で時間がありましたら、詳しくお話しして差し上げます」

「是非、お願い致します」


「それでは、前置きが長くなってしまいましたが、下着のお話を致しましょう。それは私の前の世界では当たり前に使われていた女性の下着です。絵で見てもらった方が分かり易いでしょう」

 ブラジャーのデザイン画と型紙もどきを見てもらいながら説明して行く。


「これは女性の胸を支える下着でブラジャーと言います。皆さんも自分の胸を手で下から持ち上げてみれば、かなりの重さがあることに気付かれるでしょう。これだけの重さがあるために皮膚と筋肉が引っ張られ、肩に負担が掛かっているのです。それで肩が痛くなって来るのです。この下着はその重さを受け止めて支えることで肩への負担を減らすのです」


「また、夏の薄着になる時などはこの下着のお陰で胸が服に透けることがなくなるので、厚着をしなくても良くなるのです。更には騎士の方のように激しい動きをする女性は胸が弾んで邪魔になっていたのではないでしょうか。人によっては布を巻きつけている人も居るかも知れませんね。そういった場合もこのブラジャーで支えることで邪魔になることが軽減できるのですよ。如何でしょうか?」


「月夜見さま、この下着は素晴らしいと思います。それでこの下着の生地はどの様なものが適しているのでしょうか?」

「はい。胸に直接当たる部位については、腰に履く下着と同じ素材で肌触りの良いものをお薦めします。そしてこの部分、肩から胸までの紐状の部位は伸びてはいけませんので、しっかりした素材が良いでしょう」


「ご用意頂いたこの紙は何でしょうか?」

「それは型紙というものです。服を作る時は胸の部分の布、背中の布、袖の布、それぞれを分解した形の紙を作り、その形に合わせて布地を切り、縫い合わせると一着の服になるのですよ」

「あぁ、なるほど。その様な方法があったなんて!それは異世界の知識なのですね」


「えぇ、そうです。それと騎士の様に激しい動きの多い方は、この部分の布を広めにするのです。ここが紐状ですと激しい動きで胸の位置がずれてしまって支える意味が無くなってしまいますからね」


「このあたりは幾つかの試作品を作って、騎士の方に試して頂いてから商品に仕上げていってください。また貴族の方や、金銭に余裕のある方へ向けては、ブラジャーと腰の下着の上下で同じ刺繍やレースで飾りを付けたり、色を合わせると好評を頂けると思いますよ」

「まぁ、なんて素敵なのでしょう!」


「あと、これは余計な話ではあるのですが、ブラジャーの胸の形はなるべく丸くきれいな形になる様に成型してください。そうでないと服の上からの見た目が美しくありませんから」

「まぁ!その様なことまでお考え頂けるのですね」


「あぁ!まぁ、沢山見て来ておりますので」

「み、見て来ているのですか!女性の胸を。で御座いますか?」

「えぇ、医師ですからね。裸になって頂いて身体を見ることも多くあるのですよ」

「そ、そうなのですね。それでその様に詳しくていらっしゃるのですね」


「最後に大事なことがあるのですが、ここに居る皆さんでも胸の大きさは違うと思います。この下着はそれぞれの胸や胸囲の大きさに合わせないと肩こりの緩和には逆効果となってしまいます。ですから、大きさの種類を多く用意しないといけないのです」


「分かりました。使う人の仕事や動く量で種類を変え、装飾を変えることで庶民から貴族の方まで幅広く使えるのですね。あと大切なことは大きさを豊富に揃えることですね」

「ジェマ。その通りです。では、まずは試作品を作って頂けますか?二か月後くらいあれば形になっていますでしょうか?」

「はい。大丈夫だと思います」

「無理はしないでくださいね。二かヵ月後に間に合わなくとも良いのですからね」

「かしこまりました」


 流石さすがもちは餅屋ってやつだな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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