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5.水月姉さまの婚約

 舞依の記憶が戻り、これからのことを皆と話すことになった。


 応接室に婚約者を集め、水月姉さまとフェリックス殿にも来てもらった。

「フェリックス殿、これから話すことは普通であれば信じられないお話だと思います。ですが全て事実ですし、今後のために一緒に聞いて頂きます」

「は、はい。お聞きします」


「まず、ソフィアは異世界からこの世界に転生した人間で、前世では私の恋人でした。名前は舞依です。先程、前世の記憶を取り戻しました」

「え?ではソフィアはもういままでのソフィアではないのですか?」


「お兄さま。私がこの世界に生まれてから今日までの記憶は残っています。ですから、お兄さまや家族との関係は変わりません」


「でも前世の記憶を思い出しましたので、今の私は舞依でもあるのです。前世では月夜見さまとずっと一緒に生きていました。今、こうして再び一緒になれたことが嬉しいのです」


「そ、そうなのか。では月夜見さまと結婚できて良かったのだね」

「えぇ、本当に幸せです。そして月夜見さまや他の婚約者の皆さんと同じ様に能力も授かりました」

「能力?」

「えぇ、まだこれからですが訓練を受けて色々なことができる様になると思います」


「ほ、本当なのか・・・そ、それにしてもソフィア。話し方が変わったというか・・・何かとてもしっかりしたみたいだ」

「えぇ、舞依の意識と記憶を持っているからだと思います。私は前世で二十五年生きたのですから、精神的にはもう立派な大人なのです」

「では私よりも年上ということなのか・・・」

 フェリックス殿はかなり驚いているようだな。まぁ、無理もないことだが。


「それでこれからなのだけど、新しい月の都の屋敷ができるまであと二年あるからね。この世界の秘密を解き明かすため再び旅に出たいのです。併せて巡って行く先々で、もし不遇な子供を見つけたら新しく作る孤児院へ保護していきたいのです」

「それは素晴らしいですね。では、まだ旅は続くのですね」


「桜。そうなるね。フェリックス殿も世界を旅する中で、桜や僕と剣術の鍛練を続ければ良いし、水月姉さまと愛を育んでお互いに意思が定まれば結婚されたら良いでしょう」


「お、お兄さま!」

「水月さま!私の心は決まっておりますので是非、お考え頂ければと!」

「え?フェリックスお兄さま。どう決まっているのですか?はっきり言わないと伝わりませんよ」

「ソ、ソフィア!お前、本当に変わったのだな・・・」

 うん。思ったことをはっきりと言う昔の舞依に戻っている。良かった!


 フェリックス殿は、居住まいを正すと水月姉さまに向き合い、真っ赤な顔で話した。

「あ、あの。水月さま。一目お逢いした時から恋に落ちました。私の妻になって頂きたく思っております」

「まぁ!フェリックスさま・・・」

「そうですね・・・月夜見さまの真似の様ですが、まぁ良いでしょう」

「舞依!手厳しいな。まぁ、これからいつも一緒なのですから、水月姉さまもゆっくり考えれば良いのですよ」


「いえ、お兄さま。私。フェリックスさまと結婚します!」

「えーーーっ!」

 そりゃ皆、驚くよ。初めて会って三時間も経っていないのに!


「え?本当に?」

「はい。こういうことって初めにビビっと感じるかどうかだと思うのです!」

「ビビっと?では、そう感じたと?」

「はい!今日、初めてお会いしたその瞬間に、しっかりと!」

「そ、そうですか。では、おめでとうございます。ということで?」


「はい!ありがとうございます!フェリックスさま。よろしくお願いいたします」

「水月さま。ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「おめでとうございます!」

「うわぁー!凄い!おめでとうございます!」


「何だか、電撃的に凄いことになりましたね。でもおめでとうございます!フェリックス殿、婚約の発表はどうされますか?」

「もしよろしければ、ソフィアと月夜見さまの発表と同じ時にできればと」

「水月姉さま、それでよろしいですか?」

「私は構いません。フェリックスさまにお任せいたします」


「ところで、二人の住まいは新しい神宮ということで良いのですか?」

「はい。それでお願い致します。私は、神宮と新しい村の警備も担当させて頂きたいと思います」

「あぁ、それは良い提案ですね。桜もそれには賛成だよね?」

「えぇ、ただ、警備を任せるからにはそれまでにかなり鍛えないといけないですが」


「師匠、お手柔らかに願います!」

「あぁ、さっき腕の程は試したのですね?」

「えぇ、まだまだです。フォルラン殿下にも及びません」

「それは大変だ。これから朝晩、鍛えないとね」


「では、お父さまとルチア母さまに報告してから三人の旅の衣装を作りに行きましょう。水月姉さま、お父さまとルチア母さまを応接室に呼んでください」

「はい。すぐに」


 当事者として僕が立合うこととなった。

「お父さま、ルチアお母さま。突然で驚かれると思うのですが、水月姉さまとフェリックス殿は結婚するそうです」

「え?お前たちは前から知り合いだったのか?」

「水月!あなたいつの間に?」


「お父さま、お母さま。フェリックスさまとは先程、初めてお会いしたのです。でも結婚するとすぐに分ったのです」

「すぐに分った?それはどういうことだい?」


「フェリックスさまを一目見た瞬間に頭にビビっと来たのです!」

「ビビっと?何ですかそれは?」

「お母さま。説明はできません。兎に角、フェリックスさまと必ず結婚することになると分かったのです」


「お父さま、ルチアお母さま。これから僕の旅に二人を同行させますので、考えが変わらなければそれで良いのだと思います」

「そうか。まぁ、月夜見がそう言うのであれば任せるよ」


「そうね。分かったわ。では月夜見さま。娘のこと、よろしくお願いいたします」

「それで私と水月姉さまの婚約発表は、私の十三歳の誕生日にアスチルベ王国で行いますので」

「十二月八日だな。分かった出席しよう」


「それとお父さま。ソフィアは私が探していた前世の恋人の舞依でした。先程、記憶が戻り、能力も発現して来ていますので、それもご報告しておきます」

「おぉ!やはりそうだったのか。それは良かったな!」

「月夜見さま。おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「では、今夜はお祝いだな!」




 お祝いの晩餐までの時間で、僕とソフィア、フェリックス殿と水月姉さまで、ネモフィラ王国の服飾店へ旅の衣装を作りに行った。

「シュンッ!」


「ビアンカ。度々すみませんが、また注文を!」

「まぁ!月夜見さま、ようこそお出でくださいました」

「ビアンカ、こちらはソフィアのお兄さまでアスチルベ王国第二王子のフェリックス アスチルベさまです」

「まぁ!王女殿下に続いて王子殿下まで、ありがとうございます。私は当プルナス服飾工房の主でビアンカ プルナスで御座います」


「ビアンカ、それにフェリックス殿の婚約者で私の姉、水月です」

「これは、天照家のお嬢さま。水月さまでいらっしゃいますか。ビアンカで御座います。以後お見知りおきを」

「フェリックス アスチルベです。よろしく」

「水月です。よろしくお願いいたします」


「ビアンカ。ソフィアとフェリックス殿、それに水月姉さまも私と旅に出ることになったのです。例の衣装を作ってください」

「お色は如何しましょうか?」


「そうですね。皆、白が四着、青を三着でお願いします。それで寸法なのですが、ビアンカはもう分かると思うけど、ソフィアはあと数か月で桜たちと同じ身長まで成長すると思います。今はまだ百五十くらいなので、百六十と百七十五の寸法のものを七着ずつ作ってください」


「あと、この前のドレスも百六十に合わせて頂けますか?」

「かしこまりました」

「フェリックス殿。今は身長が百六十くらいだけれど、あとどれくらい伸びるだろうか?」

「そうですね。兄が百七十五センチメートルなので私もそれくらいにはなるかと」


「ビアンカ。ではフェリックス殿の衣装も今の身長のものと百七十五になった時のものを用意してください」

「はい。では、ソフィアさまとフェリックスさまの今の寸法より、少し大きめにお作りします」


「あれ?水月姉さま。婚約発表の時のドレスがないですね。今、注文してしまいますか?」

「え?良いのですか?」

「フェリックス殿。私から姉さまにドレスを贈ってもよろしいですか?」

「あ!そ、それは・・・」

「フェリックスさま。婚約の衣装はお兄さまに、結婚の時はフェリックスさまにお願いしてもよろしいですか?」


「分かりました。ではそれでお願い致します」

「では水月さま、こちらへどうぞ」


 僕らはお茶を頂きながら姉さまの試着を待った。

「舞依。結婚の時のドレスはどんなのが良いかな?」

「この世界では見ないので純白のドレスが良いわ。日本では着られなかったしね」

「あぁ、そうだね。是非、そうしよう!」


 すると、舞依が念話で話し掛けてきた。

『月夜見さま。水月さまのアクセサリーはどうするのですか?お兄さまの財力では私が頂いたレベルの宝石は買えませんよ』

『え?そうなの?』

『だって、あれは日本円ならば五百万円以上しますよね?』

『え?それって王家でも高いの?』


『え?月夜見さまの財力ってどれ程のものなのですか!』

『あぁ、ブラジャーや日本の服とか工業製品の発案料っていう日本なら特許料みたいなものがね、莫大な金額で毎月入って来るんだよ』

『凄いのですね。では水月さまの分も買って差し上げたら如何ですか?』


『フェリックス殿のプライドを傷付けないかな?』

『代金をこっそり支払ってしまうのです。男性は宝石を見たところで値段なんて分からないのではありませんか?』

『それもそうだね』


「さぁ、水月さまのお着替えがすみました。如何でしょうか?」

「おぉ!美しいね」


 基本、白のサテン生地に薄い青の縁取りと金糸で模様が描かれている。お姉さまの金髪と青い瞳と合わせたのだろう。胸元が大きく開き大胆なデザインだ。やはり日本のものを基にデザインされており、この世界では新しいものだ。


「素敵ですね。髪や瞳の色と合っていますね。デザインも美しいわ」

「フェリックス殿、如何ですか?」

「あぁ・・・あまりにも美しくて・・・」

 フェリックス殿が変なところに行ってしまいそうだ。


「お姉さま。気に入りましたか?」

「えぇ、本当に素敵です。お兄さま、こんなに素敵なドレスを頂いても良いのですか?」

「えぇ、勿論ですよ。ではビアンカ、これで寸法を合わせておいてください」

「はい。かしこまりました。いつもありがとうございます」


 そしてそのままデュモン宝石店へと入った。

「クレメント。またお世話になりますよ」

「月夜見さま。先日はありがとうございました」

「今日は私の姉の水月姉さまが、こちらのアスチルベ王国第二王子のフェリックス アスチルベさまと結婚することになりましてね。お祝いとして宝石を贈ろうと思うのです」


「かしこまりました。では前回のものと同等のものをお持ち致します」

「水月姉さま。どれが良いですか?」

「え?お兄さまが私に?」


「ドレスと一緒ですからね。それにお姉さまとは、末永く一緒に暮らすのですから。記念に贈らせてください」

「まぁ!ありがとうございます!」


「そうですね。先程のドレスと合わせるなら、やはりこの青い宝石でしょうか?」

「うん。それはサファイアとダイヤモンドが散りばめられていて美しいですね」

「はい。そちらはひとつずつの石の大きさは小さいのですが、その分、質の良いものになっております。数も多く組み込み、全体としての輝きは十分だと思います」


「ではそれに合わせた、イヤリングと指輪を選びましょうか」

「では、こちらからお選びください」

 お姉さまは、サファイアのイヤリングとダイヤモンドの指輪を選んだ。更にコンティ靴店で数足の靴も買い求めて買い物は終了した。


 夕方前に月の都へ戻りフェリックス殿は桜にしごかれた。そしてお祝いの晩餐となった。

「皆の者、今日は月夜見とソフィア王女、水月とフェリックス王子の婚約が決まった。皆で祝おうではないか。おめでとう!」

「おめでとうございます!」


「水月、いつの間に婚約を?」

「今朝、フェリックスさまに初めてお会いして午後には婚約したのです。お兄さまに婚約披露のドレスと宝石も贈って頂いたのですよ」

「まぁ!今日出会って、すぐに婚約を決めたのですか!」

「ビビっと来たそうですよ」


「月夜見さま。ビビっと来た。とは?」

「オリヴィア母さま。能力のひとつの様なものです。運命を察知した時にビビっと来るのですよ」

「ビビっと?そうなのですか・・・」

 ふふっ。オリヴィア母さまがきつねにつままれた様な顔をしているよ。


「それにしても月夜見さま。とうとう見つけたそうですわね。舞依を」

「えぇ、ようやく見つけました」

「月夜見さま。皆さん、私のことをご存知なのですか?」

「えぇ、我が家では舞依は有名人ですからね」

「まぁ、恥ずかしい!」


「では、舞依の身長もどんどん伸びて来るのですね?」

「えぇ、そうだと思います」

「妻の五人が皆揃って美しく、能力を持つのは何か意味があるのでしょうか?」

「美しいのは偶然だと思いますが、能力を持つことにはきっと何か意味があるのだと思います」


「これから旅を再開して、この世界の秘密や不思議な点も解明したいのです」

「それはどこで分かるのですか?」

「いえ、それはまだ分からないのです。ですが御柱は見に行きたいですね」

「月夜見さま。あのフクロウから聞けないのですか?」

「えぇ、彼が何か教えてくれると良いのですが・・・」


「月夜見さま。あのフクロウは何なのですか?」

「舞依。詳しいことは分からないのだけど、推測では始祖の天照さまが操っていて僕らを監視しているのではないかと思っているんだ」

「あ!そう言えば、天照さまって日本の神さまですよね?」

「うん。推測では始めに日本を創った始祖の天照さまは、時空を超えて複数の世界を行き来しているのではないかと思うんだ」


「時空を超えて旅するから歳を取らず、何千年も生き続けている。そう考えているんだよ」

「そんなことができるのですか!でもそうでなければ説明がつきませんよね」

「まだ、確証は無いんだ。フクロウ君が教えてくれないからね」


 そう言って皆がフクロウを見るのだが、やはり首をぐるっと回して視線をらすだけだった。


「月夜見さま。私まだ、他の婚約者の皆さんとお話ししていないのですが」

「あぁ、そうだね。でもきっと話が長くなると思うから明日ゆっくり話さないか?」

「はい。そうですね」

「舞依、この和食はどうだい?」

「はい。とっても懐かしく、美味しいですね」


「僕らの屋敷では、ここで修行した料理人や日本の洋食メニューを作れる料理人も来てくれるんだよ」

「え?洋食?」

「今度、その食堂に連れて行くよ。週に一度は夕食を食べに行っているんだ。舞依はクリームコロッケが好きだったよね?」

「え!クリームコロッケが食べられるのですか!それは楽しみですね」

 その後、お母さま達や弟たちの話をして賑やかに歓談しお開きとなった。


 フェリックス殿と舞依には客間が用意された。

「月夜見さま、今日は舞依と婚約が決まった日なのですからご一緒にどうぞ。私は客間で寝ますから」

「琴葉。良いのかい?」


「えぇ、珈琲を飲みながらパソコンの写真を見て思い出話に花を咲かせるのも良いでしょう」

「そうだね。ありがとう。琴葉」

「良いのです」


「では舞依。今日は一緒に寝ようか」

「え?良いのですか?」

「うん。だって婚約したのだからね。それに一緒に見たいものもあるんだ」

「まぁ!何かしら!」


 僕たちは部屋に行くと珈琲を落とし始め、パソコンの電源を入れた。

「珈琲はどうだい?」

「さっきの緑茶も美味しかったけれど、この世界で珈琲が飲めるなんて夢みたい!美味しいわ!」

「そして、このパソコンだ。この写真を見て!」

「あ!私とまぁくん!それでこのパソコンと写真ってどうしたの?」


「初めに僕の医師の友人、山本の家にかばんを送ったんだ。その中には手紙とこの世界の金貨を入れてね。手紙には僕が転生したことと購入して欲しいものを書いたんだ」

「山本先生ね!」


「そうだよ。そして鞄を引き寄せると、商品と返事の手紙が入っていたんだ。それからは、かなり大きな物や大量の物でも引き寄せられることが分かってね。このパソコンや珈琲まで購入しているんだよ」


「え?それなら私の両親にも手紙が送れるの?」

「あぁ、送れるよ。花音も桜も日本の家族と手紙のやり取りをしているんだよ。舞依も送るかい?」

「勿論!是非、送りたいわ」


「デジカメでビデオレターを撮ってSDカードで送り合うこともしているよ。では、手紙は書いておいてくれるかな?写真も撮っておこうか」

「えぇ、お願いします」


 よし、張り切って写真とビデオレターを作ろう。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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