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2.フェリックスの拉致作戦

 その翌日、神宮の遺跡前には新しい村への移住希望者が集まっていた。


 僕らの船が瞬間移動で現れると、人々からどよめきが起きた。

「シュンッ!」

「うわぁー!おぉー!月夜見さまーっ!神さま!」


 地面に船を降ろし僕らが降りると民衆がうわっと近寄ろうとしたが、小白の姿を見て後退あとずさった。丁度良い距離が保てて助かる。そうしている内に王家の小型船がやって来た。


 僕らの上に停止したが降りるべき建物も玄関もないので止まったまま困っている様だ。


 僕は宙に浮いて船の高さまで上がると、

「扉を開けてください。私が皆さんを降ろしましょう」


 船を操縦していた衛兵が扉を開くと、王と第一王妃、第四王妃、第五王妃と二人の王子、それにソフィア王女の七人が乗っていた。


 七人ともに宙に浮かべるとそのまま地面に降ろさずに、民衆から見える様に一メートル程浮かんだ状態で整列させた。流石に皆、戸惑っている。


「皆さん、こちらはアスチルベ王とそのご家族です。そして私は月夜見です」


「今回、皆さんに集まって頂いたのは、皆さんにここに新しく創る村のご説明を差し上げるためです」


「今、皆さんが立っているこの場所には大昔に神宮が在りました。そしてその前の海の上空には我々が住む月の都という空に浮かぶ大地があったのです。そして神に仕える者が住む村がこの神宮の面前に広がっていたのです」


「今回、私が月の都を発見し、現在、屋敷を建設中です。それが終わり次第、この地に月の都は戻って参ります。それまでにここへ神宮を再建し村も創ります」


「皆さんにはその村に住んで頂き、ここから山側に田畑を作り、また神宮や村役場、月の都にて働いて頂きたいと考えております」


「皆さんの住む家は私の方で建築します。田畑に水路や溜め池も既に用意されています。皆さんのお仕事は田畑での農業、村役場での事務仕事、神宮の巫女、調理場、漢方薬工場の従業員、学校の寮の管理者、教師、建物の修繕、衣装の調達と修繕、月の都の屋敷での仕事と多岐に渡ります」


「ここに居る私の婚約者、花音の父親である譲治殿がこの村の村長となります。この先、譲治殿に希望の仕事をご相談ください」

 花音と譲治殿、ハンナ殿を宙に浮かべて紹介した。


「そして今回、アスチルベ王がこの村を創ることを承認くださいました。そして長年に渡り、皆さんへの課税が多くなっていたことも今回見直して頂けることとなりました」

「うぉーっ!月夜見さまーっ!ありがとうございます!」

 民衆が一斉に笑顔になった。


「皆の者。今まで重い税で苦しめていたこと、ここに詫びる。すまなかった」

「うわぁー!王さまーっ!ありがとうございます!」


「今年の税よりこれを改め、他の民衆と同じ税率とし、来年は更に減らすこととする」

「やったー!ありがとうございます!」


「皆さん、良かったですね。それではこれから皆さんでこの新しい村のあらましを見て行きましょうか」

 そう言って百名近い民衆を一斉に地上二メートル位の高さまで宙に浮かした。


「きゃーっ!凄い!浮いているわ!神のお力なのね!」

 まず神宮の位置の上空へ飛び、

「この石の扉がある場所に神宮を再建します」


 次に役場の位置へと移動する。

「この場所に村役場を建てます。役場は村長である譲治殿の家族の家を兼ねます。そして、ここから左右に石の扉が等間隔に並んでいますね。その位置に商店や家が建ち並んで行きます」


 次に通路を一つずつ渡って行く。

「通路は三本あり、その両側に十軒ずつ家が建てられます。全部で六十軒の家を建てることが可能ですが、始めは今居る皆さんだけなので、その半分の三十軒だけ建築します」


 最後に川の取水口となる水門の上空に移動した。

「この川にはここに農業用の水門があります。既に水を引いておきました。ご覧の通りここから水を引き、水路を伝って溜め池に水が溜められています。水田や畑に水を引けるのです。排水用の水路と水門もあります」


 そして、皆を元の位置に戻して地上にゆっくりと下ろした。

「皆さん、如何でしたか?この村は大昔からこの様に機能的で住み易く作られていたのです」

「素晴らしい!」

「こんなに素敵なところに住めるなんて!」

「神さま!ありがとうございます」

「一生、お仕え致します!」


「皆さんに喜んで頂けた様で良かった。それともし、この村の建築からお手伝い頂ける場合は、アスチルベの大工組合長のマルクに申し出てください。ここでも仕事は沢山ありますので」

「是非、やらせてください!」

「私も!」

「私も手伝います!」


「皆さん、今日はありがとうございました。では二年後に新しい村でお会いしましょう」

「月夜見さまーっ!ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 民衆が王都に向けて帰り始めた。アスチルベ王が僕たちに近寄り話し始めた。

「月夜見さまは、全ての人間に平等にいつくしみを与えられるのですね。我々も平民に対する行いなど、見習わなければならないと痛感致しました」


「アスチルベ殿。私には責任がないからこの様なことができるのですよ。これが一国の主であるならば、時には心を鬼にして取らねばならない政策もあるのではありませんか?」


「これはまた、ありがたいお言葉で御座います。そのお言葉に甘んじることなく精進させて頂きます。ウィリアム良いか?」

「はい。肝にめいじます!」


「時に、フェリックス殿。剣術がお好きとか?」

「はっ!月夜見さま。よくご存知で!」

「今度、私と桜の剣術の稽古にご一緒しませんか?」

「ほ、本当で御座いますか!」


「月夜見さま、その様なこと。よろしいのですか?」

「えぇ、アスチルベ殿。フェリックス殿は私の義兄あにになるのですからね」

「え?わ、私が月夜見さまの兄・・・え?」

「それはそうでしょう?ソフィア殿と私が結婚すれば、ソフィア殿の兄は私の義兄あにとなるのです」

「あ!そ、それは・・・」


「アスチルベ殿、今からソフィア殿と婚約披露の時のドレスを注文しに行きたいのですがお連れしても構いませんか?」

「えぇ、勿論で御座います」


「では、ソフィア殿、参りましょうか」

「は、はい」

 僕はソフィアの手を取るとそのままゆっくりと浮き上がり船に乗った。


 その後、王や王妃たちを持ち上げて王家の船に乗せてやると、桜たちがニナたちと一緒に船まで上がって来た。最後に僕が小白を持ち上げて乗せ、ネモフィラのプルナス服飾工房へと飛んだ。




「シュンッ!」

「ソフィア殿。ここはネモフィラ王国の服飾店です」

「あ、あの・・・つ、月夜見さま、わ、私のことは、ソ、ソフィアと・・・お、お呼びください」

「そうですか。ではソフィア。参りましょう」

「は、はい」


「まぁ!月夜見さま。それに皆さま!いつもありがとうございます!」

「ビアンカ。こちらは私の新しい婚約者、アスチルベ王国の王女、ソフィア アスチルベさまです」

「初めてお目に掛かります、王女殿下。私は当プルナス服飾工房の主、ビアンカ プルナスで御座います。以後お見知りおきをお願い致します」

「ソ、ソフィア アスチルベです・・・よ、よろしくお願いいたします」


「ビアンカ。ソフィアとの婚約披露の席で着るドレスをお願いしたいのです」

「お任せください。ではこちらへどうぞ」

「花音。一緒に行ってアドバイスをお願いできるかな?」

「はい。分りました!」


 しばらくすると、恥ずかしそうに真っ赤な顔をしたソフィアがビアンカと花音に連れられてでて来た。


 そのドレスは、基本的には異世界のドレスを基にしたカラードレスで、ネモフィラブルーと薄いブルーとのコンビネーションが美しかった。光沢のあるサテン生地にレースが上品にあしらわれていた。


 ソフィアの胸はまだ十分に発育していないので、あまり胸は強調されず露出も控えめなデザインとなっていた。だが、あまり可愛らしくなり過ぎない様、大人な雰囲気になっていた。


「うん。とても大人な雰囲気で、ソフィアの美しさが際立っているね」

「え?わ、私が・・・ですか?」

「えぇ、本当にお美しいですわ!でもまたすぐに成長されるのでしょう?」

「あ!こら、ビアンカ!」


「あ!え?まぁ!私ったら・・・ほほほっ」

「せ、成長?わ、私の身長は・・・も、もうそれ程・・・伸びないかと・・・」

「いや、ソフィア。君は今も美しいけれど、もっと美しく成長しますよ」

「わ、私が・・・?」

「そのドレスは如何ですか?」


「は、はい。つ、月夜見さまが・・・よ、よろしいのならば・・・」

「そう。ではビアンカ。これで寸法を調整しておいてください」

「かしこまりました」


「ソフィア、では次は宝石店に参りましょう」

「ほ、宝石・・・で御座いますか?わ、私などに宝石なんて・・・」

「ソフィアは本当に自分に自信がないのですね」

「あ!す、すみません・・・」

「大丈夫。ソフィアは本当に美しいのですから」


 堂々巡りな会話をしながら、デュモン宝石店へと入った。

「クレメント。久しぶりですね」

「これは月夜見さま。ようこそお越しくださいました」

「こちらは、私の新しい婚約者でアスチルベ王国の王女、ソフィア アスチルベさまです」

「これは王女殿下。初めてお目に掛かります。当デュモン宝石店の主、クレメント デュモンで御座います」

「ソ、ソフィア アスチルベ・・・です」


「クレメント。今日は婚約記念の品を用意したいのですよ」

「かしこまりました。最上等のお品をお持ち致します」


「ソフィアはどんな宝石が好きなのかな?」

「え?そ、そんな・・・ほ、宝石を頂いたことなど・・・ご、御座いませんので・・・」

「そうですか、今回の衣装はネモフィラブルーですから、ルビーよりもサファイアかダイヤモンドが良いでしょうか?」


「それでしたら、この大きなサファイアのネックレスは如何でしょうか。月夜見さまの瞳の色に近いと思います。いつでも月夜見さまをお近くにお感じになることができるでしょう」

「ま、まぁ!ほ、本当ですね・・・」


「では、それにしましょうか。それに合わせたイヤリングと指輪もお願いします」

「かしこまりました」

「こちらのセットがお色も輝きも合うと思います」

「こ、こんなに・・・素晴らしい・・・ほ、宝石を?つ、月夜見さま・・・わ、わたしなどに・・・よ、よろしいのでしょうか?」


「えぇ、ソフィアにその宝石を付けて欲しいのですよ」

「・・・は、はい。そ、それならば・・・あ、ありがとうございます」


「クレメント。お代は?」

「はい。いつもありがとうございます。白金貨五枚で御座います」

「では、これで」

「ありがとうございます」

「は、は、は、白金貨?・・・・ご、五枚?で御座いますか?」

「さあ、ソフィア。次は靴屋ですよ」

「え?あ、は、はい」


 その後、コンティ靴店にも寄って、ヒールの高さが違う二足の靴を購入した。

「さて、買い物も終わりましたので、アスチルベ王城に戻りましょうか」

「シュンッ!」

「さぁ、着きましたよ」

「え?も、もう?」

「はい。瞬間移動ですからね」


「桜、フェリックス王子と剣術の鍛練でもしてみましょうか?」

「はい。月夜見さま」

「ソフィア。フェリックス殿と剣術の鍛練をしたいのですが」

「は、はい。す、すぐに・・・お、お兄さまを・・・お、お呼びします」

「お願いします」




 衛兵に案内されて、僕たちは王宮騎士団の訓練場にやって来た。

「月夜見さま!剣術の鍛練をして頂けるのですか!」

「フェリックス殿。まずは、私と桜で模擬戦をしますので観戦していてください」

「かしこまりました」


 王宮騎士団の騎士たちも皆、集まって来て観戦する様だ。

『桜、木刀でやるかい?それとも訓練用?』

『真剣でやりましょう』

『真剣?ふむ。そうだね』


「シュンッ!」

「シュンッ!」

「おぉー!何もないところから剣が現れたぞ!」


「では、桜。行くよ!」

「はい!」

「キンっ!」


 模擬戦自体が久々だが、今までも真剣での模擬戦は数回しかない。恐らく、フェリックスに本当の剣聖の力というものを見せるためなのだろう。


 ふたりはまるでダンスを踊るかの様に右に左に舞い、剣を振っては受け、受けては流し、くるりと回転する。その度に僕のプラチナシルバーの髪と桜のストロベリーブロンドの髪が宙を流れて行く。


 何時いつしか観戦していた者たちは息を飲み、うっとりとした眼差しでふたりのダンスの様な模擬戦に見入っていった。


 どちらの攻撃もいつ踏み込んだのか、そしていつ切替えしたのか、一瞬もその動きが止まることなく、繰り返される攻防は芸術の様でもあった。


 五分程の模擬戦の末、決着が着くことはなく、僕の「止め」の声でピタッと二人の動きが止まった。しかし、二人の息は上がっておらず、瞬時に剣を消すと笑顔で歩み寄りハグをした。


「桜。ダンスをしている様だった。楽しかったね」

「えぇ、私もそう思っておりました」


 僕が笑顔のまま皆に振り返ると、その瞬間に王宮騎士団の女性騎士三十名程のうち十名程が気絶して倒れた。

「ドサドサッ!」

「あぁーあ。また大勢だこと・・・」


「さて、フェリックス殿、私と桜。どちらでも模擬戦の相手をして差し上げますよ」

「え?あ、そ、その・・・で、では月夜見さまに・・・」

「はい。では、木刀、訓練用の剣、真剣。どれで模擬戦をしますか?」

「で、では訓練用で」


「騎士団の方、どなたか訓練用の剣をお貸し願えますか?」

「はい!私の剣をお使いください!」

「ありがとう!」

「い、いいえ・・・」


「桜。では審判を頼むよ」

「はい。では、始め!」

「はい!」

 フェリックス殿は、真っ直ぐに打ち込んで来る。桜に比べれば止まっている様に見える程に遅い。余裕でかわして、涼しい顔で次の打ち込みを待つ。


 あまり剣を受けずに避けるだけでは、フェリックス殿もつまらなくなるだろう。何度か剣で受け、そのまま流しては切替えして打ち込んでやる。


 しばらくそうしていて最後は切り返しを本気のスピードに上げ、フェリックス殿の剣を下からぎ払った。

「ギンっ!」


 フェリックス殿の剣は宙を回転しながら飛び、五メートル先の地面に突き刺さった。

「ズサっ!」

「それまで!」

 桜の厳しい声が訓練場に響いた。


 フェリックス殿は「はぁーはぁー」と肩で息をし、額からは汗が流れていた。

「一応、私は剣聖のお墨付きは頂いているのですよ。ただ、騎士ではないので、その名は辞退していますけれどね」

「参りました。月夜見さまの速さに全くついて行けませんでした」

「フェリックス殿。上達したいならば、常に自分より上級の者に稽古をつけてもらうのですよ」


「あ、あの・・・月夜見さま」

「はい?」

「お話し中に失礼致します。私はアスチルベ王国、王宮騎士団団長のジョシュア アルベール侯爵で御座います」


「これは挨拶が遅れました。月夜見です」

「実はフェリックス殿下は、既にこの国で一番の実力者なので御座います」

「おや。そうでしたか。ではこれ以上に上達したくとも訓練相手が居ないのですね」


「そうですね。恥ずかしながら自分の実力がどれ程のものか全く分かっていなかった様です」

「それではフェリックス殿、剣聖の桜に弟子入りしては如何ですか?」

「え?弟子にして頂けるのですか?」


「桜。どうかな?」

「月夜見さまがそうおっしゃるなら。でも、私の指導は厳しいですよ?」

「フェリックス殿、覚悟は良いのですか?」

「はい!是非、お願い致します!」


「そうですか。では、当面の間。我々と共に行動してください。まずはソフィアと共に月の都に参りましょうか」

「え?月の都へ?ソフィアもで御座いますか?」


「えぇ、ソフィアは私の婚約者として家族に紹介しなければなりませんので。ソフィア。よろしいですか?」

「あ!は、はい。か、かしこまりました」

「では、フェリックス殿。お父上にこのことをお話ししに参りましょうか」

「はい」


 そうして、上手いことフェリックスの拉致に成功した。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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