表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/329

1.舞依との婚約

 やっと舞依を見つけ出したというのに舞依は深刻な問題を抱えていた。


「僕は何故、もっと早く気付いてやれなかったんだ・・・この世界でもまた、舞依を救ってやれないなんて・・・」


「お、お兄さま・・・」

「月夜見さま!」


 皆の声が重なり、琴葉と桜が両脇から僕の身体を支えた。花音と幸子は僕の前にひざまずくと僕の手を握ってくれた。侍女の三人は僕の背後で手を胸の前で固く結んで涙をこらえていた。


「月夜見さま。しっかりしてください!それでももう、舞依さんと出会えたのですから、これから治療して行きましょう。私たちも力になりますから!」

「そ、そうだね・・・幸ちゃん。ありがとう・・・」


「月夜見さま、舞依さんも前世の記憶を取り戻せば、今世のつらい記憶は薄れると思います。私がそうでしたから」

「花音、そうか・・・そうだよね」


「お、お兄さま!で、でも!ソフィアは最近では私の子、レオンとレーアの相手をしによく神宮へ来てくれる様になったのですよ。とても優しい娘なのです。以前に比べたら笑顔も増えていると思うのです。それに、これからお兄さまがソフィアを幸せにしてくれるのですよね?」


「えぇ、そうでした・・・はい。お任せください」

「それを聞いて安心しました。それに、ウィリアムさまとフェリックスさまはソフィアの味方ですよ」


 そうだ。僕がしっかりして舞依を支えて行かなければならない。落ち込んでいる場合ではなかったな・・・よし!切り替えよう!


「あぁ、そう言えば・・・もう一人の王子、フェリックス殿はどんな男ですか?」

「フェリックスさまですか?とても良い男ですよ。今十四歳です。剣術が得意なのです」


「お姉さま。月の都がアスチルベで見つかったことはお聞きになりましたか?」

「あぁ、そうでした!そのお話がありましたね!驚きましたよ!お兄さまがその月の都に屋敷を建てて暮らすのですって?」

「そうなのです。古い神宮の遺跡も見つかり再建することになったのですよ。そしてその神宮の面前めんぜんには村を創るのです」


「まぁ!神宮に村まで創るのですか!それで、その神宮の宮司はどうするのですか?」

「えぇ、水月姉さまに来て頂こうかと」

「水月ですね。あ!水月の夫にフェリックスさまを?」

「はい。同い年ですよね?如何ですか?」


「あぁ、確かに・・・そうですね、合うかも知れません。お見合いしてみる価値はありますね」

「まだ、お相手は居なかったのですか?」

「公爵家の娘とか、候補は山ほど居る様ですが、フェリックスさまは貴族の家に婿として入るのが嫌みたいですね」


「それならば神宮の宮司なら自由度は高いですね」

「えぇ、そうだと思います」

「では後程、アスチルベ王に打診しておきます」

「えぇ、お願い致します」


「ところで・・・アルメリア母さまとステラリアさまが別人の様に若返っておいでの様ですが?」

「あ!あぁ・・・実はここに居る四人は皆、私と同じ日本からの転生者だったのです。その記憶が戻った途端に神の能力が発現し、この若々しい容姿へと変わったのです」

「そうなのですか!皆、神になったのですね!」

「まぁそんなところです」

 お姉さまにはお母さんのことを改めて説明しないといけないな・・・


「お兄さま、まだしばらくアスチルベには滞在されるのですか?」

「えぇ、これから村の設計や資材の搬入など忙しくなりますね」

「私はこの後、診察があるので、とても残念なのですがお兄さまとソフィアの面会には立ち会えないのです。今度一緒にお食事をご一緒させてください!」

「えぇ、是非!」


「楽しみにしていますね」

「お姉さま、ソフィアの情報をありがとうございました」

「いいえ、ソフィアのこと、よろしくお願いいたします」

「はい」


 そして、約束の時間まで神宮で時間を潰し、王城の玄関へと船を瞬間移動させた。

「シュンッ!」

「おぉ!」


 玄関に待ち構えていた王と王妃たち、王子二人とソフィア王女、侍従たちが声を上げた。


 船から八名と小白、フクロウがぞろぞろと降りて来て整列した。小白は僕の左側にお座りし、右側には桜、花音、幸子、琴葉、ニナ、シエナ、シルヴィーと並んだ。


「これはこれは、月夜見さま。ようこそお越しくださいました」

「アスチルベ殿、急な訪問で申し訳御座いません」

「滅相も御座いません。いつでも歓迎致します。では、こちらへどうぞ」


 僕らは応接室へ通された。その途中、やはり数名の侍女が気絶して倒れた。

「アスチルベ殿、私は貴族ではありませんので、挨拶は略式で構いません。ご家族のお名前だけ伺えればと思います」


「かしこまりました。ではこちらからから第一王妃ローズマリー フォンテーヌ、第一王子ウィリアム、第二王妃ロクサーヌ ラカン、第三王妃サンドリーヌ ギャバン、第四王妃シモンヌ アダン、第二王子フェリックス、第五王妃フローレンス エマール、そして第十王女ソフィアで御座います」


「初めまして。月夜見と申します。こちらから婚約者の桜、花音、幸子、琴葉、それに侍女です」

「あの・・・皆さま、聞きなれないお名前なのですね」

「えぇ、四人共、私と同じ異世界からの転生者なのです。私の婚約者になった時から、異世界の名前に戻しているのです」

「異世界のお名前・・・左様でしたか!」


「こちらの世界での身分が分からないと不安でしょうか?桜はネモフィラ王国の侯爵家出身で王宮騎士団の剣聖でした」

「剣聖!」

「これ!フェリックス!」

「あ!た、大変失礼致しました!」

 フェリックスは剣術が好きだと言っていたな。剣聖に思わず反応してしまったのだな。


「紹介を続けます。花音はネモフィラ王国男爵家の孫で、このアスチルベ王国出身でもあります。幸子はイベリス王国第三王女で、琴葉はネモフィラ王国第二王女です」


「これは皆さま、錚々そうそうたる顔ぶれでいらっしゃいます。しかも絶世の美女ばかり!神の妻に相応しい方々ですな」

「お褒めにあずり光栄です」


「月夜見さま。本日は先日お願いしました、娘の縁談の件ということでよろしいのでしょうか?」

「はい。そのお話で参りました」

「そうですか!お忙しい中、娘のためにありがとうございます!」

「いえ、とんでもない」

「それで昨日、娘とはもうお会い頂いたとお聞きしましたが?」


「えぇ、私の父から話はお聞き及びとは思いますが、先日この王都から離れた海岸に古い神宮の遺跡を見つけ、その沖合に浮かぶ島が実は月の都だったのです」


「今は、その月の都はカンパニュラ王国へ移し、私の住む屋敷を建設しております。そして、二年後からは、この地に住まわせて頂くこととなりますので、今回三日間掛けまして、この国を見て回っていたのです。最後に王都に戻った際に美しい湖を見つけ、休憩させて頂いていたところへソフィア王女が現れたのです」


「そうでしたか。月夜見さまがこの地に暮らして頂けること。これ程の栄誉と幸せは他に御座いません」

「それは、ありがとうございます。古い神宮の遺跡を調査したところ、その面前の土地には六十軒の民家が建っていた跡も発見されました。私は、そこにこの島の先住民の末裔である、花音の家族やその一族を移住させようと考えておるのですが構いませんでしょうか?」


「え?月夜見さまが村をこされるのですか?」

「えぇ、元々そこは、神に仕える者たちが住まう土地だったのです。神が戻り、神宮を再建するのですから、その者たちが戻ることは自然なことだと考えます。勿論、神宮や村を再建する費用は全て私がまかないます」


「それは勿論、元々神の住まいであったのですから、私が口をはさむ余地は御座いません」

「ありがとうございます。では、そのお話はこちらで進めさせて頂きます」


「あの・・・それで、娘の件は・・・」

「あぁ、お話を逸らせてしまいましたね。申し訳御座いません。では・・・」


 僕は席を立つとテーブルを回って行き、その末席に座っていたソフィア王女の前に立った。ソフィアの家族は皆、僕の一挙手一投足を固唾かたずんで見守った。


 ソフィア王女は突然のことで身を固くし、座ったままかろうじてこちらに身体を向けた。

僕は彼女の前にひざまずき彼女の右手を取った。その手は震えていた。


 そして、真っ直ぐに彼女を見つめて言った。

「私は昨日、あなたと初めてお逢いし、一目で恋に落ちました。ソフィア。私の妻になって頂けますか?」

「・・・」


 ソフィア王女は何が起こっているのか分からない。といった表情で固まった。

そして、おずおずとつぶやく様に話し始めた。


「そ、そんな・・・わ、私で・・・こ、こんな私で・・・よろしいのですか・・・」

 それはやっとの思いで絞り出した言葉だった。

「ソフィア。私はあなたと結婚したいのです」

「あ、そ、その・・・わ、私で・・・よろしいのであれば・・・」


「まぁ!あ、あぁ・・・バタン!」

 隣で一部始終を見守っていたソフィアの母、フローレンス王妃が気絶し、テーブルへ突っ伏した。

「あ!お、お母さま!」


「おめでとう!ソフィア!」

「ソフィア。おめでとう!」

「良かった!ソフィア。おめでとう!」

「おめでとう!ソフィア!」

 父と兄二人、そして四人の王妃たちが笑顔で祝福した。


 そして皆が念話で祝福してくれた。

『月夜見さま!素晴らしいプロポーズでした!』

『月夜見さま、おめでとうございます!』

『月夜見さま!本当に良かったです!』

『おめでとうございます!この場に立合えて嬉しいです!』

『みんな!ありがとう!』




 その後、フローレンス王妃も回復し、皆で昼食となった。特別にお願いして、ニナたち侍女を同席させてもらった。


 昼食だというのに、それはまるで豪勢な晩餐の様なメニューだった。

「月夜見さま、婚約の発表はいつに致しましょう?」

「そうですね。私とソフィア殿は誕生日が同じです。十二月八日の十三歳の誕生日に婚約を発表し、十五歳の誕生日に結婚するということでは如何でしょうか?」

「それは、素晴らしい!早速、準備に掛からせます」


「ソフィア殿のドレスや宝石は私に用意させてください」

「月夜見さまが!ありがとうございます!ソフィア。お前は幸せな娘だね」

「は、はい。お、お父さま・・・」


「時に、アスチルベ殿。こんな話を耳にしたのです。アスチルベ王国を建国する前からこの島に住む先住民は、昔から今もなお変わらずに税制で不利益をこうむっていると」

「は?その様なことが?」


「えぇ、その先住民は私の前世での異世界の人々と同じ顔立ち、黒い瞳、黒い髪をしているので、他国で見てもすぐに分るのです。その者たちからその話を聞きました。彼らはその税に苦しみ、この地を捨て他国へ移住しているのですよ」

「ほ、本当で御座いますか!お、おい!すぐに宰相さいしょうを呼べ!」

「ははーっ!」


 侍従が血相を変えて部屋を出て行く。しばらくして、この国の貴族であろう宰相が息を切らして走って来た。


「へ、陛下。い、如何されましたか?」

「オベール公、この国の先住民の税が、他の民と違うというのは本当か?」

「は?はい。昔より変わっておりません。先住民からは二割高い税を徴収しております」


「何だと!それは何故なのだ?」

「私には分かりません。昔よりそうなっておりますので・・・」

「何ということだ。即刻、平民の税は同じ税率とするのだ!」

「は、はい。仰せの通りに」


「月夜見さま。申し訳御座いません。私はその様になっていることを存じ上げませんでした」

「そうですか。知らなかったことは仕方がありません。すぐに修正頂けたのですから良いのです。ただ、この様なことは他にもあるかも知れません。次代を継がれるウィリアム殿と共に再点検をお願い致します」

「はい。同じ過ちを繰り返さぬ様、誠心誠意、まつりごとに当たらせて頂きます」


「私はこの三日間、アスチルベ王国を巡り民に話を聞いて回りました。ある港町では、私が作った本での教育がなされ子を儲けることができたと。また、今年から税が引き下げられ暮らしが豊かになると喜んでいる者も居りました」


「既にしっかりとやって頂いていると思います。それもウィリアム殿と結月姉さまの功績なのかも知れませんが」


「はい。結月さまがウィリアムと共に週に一度国中を巡り、月夜見さまにお作り頂いた本の布教をしてくださったのです」

「やはりそうでしたか。ウィリアム殿。感謝します」

「そ、そんな。勿体ないお言葉です。全ては結月さまにお願いされ始めたことですので」


「アスチルベ殿、二日後にその新しい村に移住する先住民の末裔たちに村のあらましを説明するのです。王から皆に一言頂いてもよろしいですかな?」

「かしこまりました。私やウィリアム、フェリックスも連れ、参上致します」

「それはありがたい。是非、よろしくお願いいたします」


 つつがなく、ソフィア王女との婚約が決まって一安心だ。




 ソフィア王女との婚約が決まり、村作りに取り掛かる。


 まずは、大工のパブロと大工組合長、測量と設計の担当者を瞬間移動で連れて来た。

そして、アスチルベの大工組合の者にも来てもらって現地の確認と測量を始めた。


「月夜見さま。神宮に学校と漢方薬工場を併設するのでしたね」

「えぇ、その設計と建築はパブロ主導でお願いします。その面前に創る村はアスチルベの大工組合にお願いしますので」

「かしこまりました」


「学校には寮も作るのですか?」

「えぇ、寮と孤児院を兼ねたものを作りたいのです」

「孤児院ですか?」

「えぇ、これから身寄りのない子や捨てられた子、それに奴隷など困っている子を集めようと思っているのです」

「それはまた、素晴らしいお話で御座いますね」


「ですから費用は多く掛かっても構いませんので部屋数を多く作りたいのです」

「では、大きな食堂も必要ですね」

「はい。そうなります。でも厨房は神宮と一緒で良いと思います」

「かしこまりました」


 アスチルベの大工組合から組合長のマルクが来てくれた。

「月夜見さま、今回は大きな仕事をお任せ頂き、誠にありがとう御座います」

「マルク。頼りにしています。今回はここに新しい村を創りたいのです。とは言っても元々あった村を復元するという話なのです」

「えぇ、既に光や水道の施設は整っている様ですので家を建てるだけですね」


「そうなのですよ。それで六十軒分の区画があると思うのですが、この神宮の目の前の一軒は、村役場を兼ねるので、大きな屋敷にして欲しいのです。それとその並びには商店を兼ねた屋敷を作ってください」


「全ての家は親子の二世帯が同居できる様、部屋数を多くしてください。そして必ず、トイレにはビデも設置してください」


「初めに海側と田畑側に十五軒ずつ、全部で三十軒だけ建てます。田畑側の十五軒には農具を収納する納屋も作ってください。これを二年間で全て建築できますか?」

「はい。大丈夫です。必ず、間に合わせます」

「ありがとうございます。代金は建築資材の支払があるでしょうから、初めに半分を残りは四分割でお支払いします」

「かしこまりました。設計と見積が出ましたらお知らせ致します」


 よし、これで準備は整った。明日は神の村のお披露目だな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ