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44.舞依の問題

 舞依が見つかった。その感動でしばらく動けず、舞依が見えなくなり心を落ち着けてから皆のところへ戻った。


「シュンッ!」


「月夜見さま。お帰りなさい!」

「見つかりましたね!舞依さん!」

「おめでとうございます!」

「うん。みんな、ありがとう!」


「彼女は今でも美人だけど、能力が発現したらもっと美人になりますね!」

「でも彼女は何故、あんなに自分に自信がないのでしょうか?」


「うん。そうだね。舞依はもっと元気で自分の言いたいことは、はっきり言うタイプだったのだけどな・・・うーん。あぁ、でもそれは病気になる前の話だからな・・・」


「もしかすると長い闘病生活の末にあんなことになったから無意識のうちに期待しなくなっていたり、諦めてしまう様になっているのかも知れないな」


「あぁ、だから月夜見さまの美しさにドン引きしてしまったのですね」

「そうですね。自分とは釣り合わないと言っていましたね」

「でも、月夜見さまを好きなのは間違いないですよね?」

「それは間違いないです。あれは恋する乙女の眼差しでしたから」


「うん?では、これからどうするのが正解なのかな?」

「そうですね。明日、アスチルベ王がソフィア王女をもらってくれるかと聞かれたら、「頂きます!」と言えばソフィア王女の意思に関係なく、婚約は決まるのではありませんか?」

「あぁ、そうか。そうだね」


「あとは、ゆっくり惚れさせれば良いのです。それでどこかでキスをしてしまえばこちらのものですよ」

 皆、大胆だな・・・




 ソフィア王女は大急ぎで王城へ帰って来た。セレーネを馬番に預けると、走って自室へ戻り大慌てで着替えてお母さまの部屋へと駆け付けた。


「お、お母さま!た、た、大変です!」

「まぁ!王女ともあろうものがその慌て様はどういうことですか」

「だ、だって・・・お母さま!セ、セレーネに乗って、み、湖へ行ったら・・・そ、そこに・・・つ、月夜見さまが・・・い、いらっしゃったのです!」


「まぁ!何ですって!月夜見さまが?何故そんなところに?」

「あ!き、気が・・・ど、動転していて、そ、それを聞くのを・・・わ、忘れました」

「それで、何をお話ししたのですか?」

「つ、月夜見さまは・・・ど、動物とお話しが・・・で、できるのだそうです。そ、それで・・・セ、セレーネが呼ばれて・・・つ、月夜見さまの・・・ところへ・・・は、走って行ったのです!」


「動物と話しができるのですか!流石は神さまですわね」

「そ、それで、け、け、結婚の・・・申し込みをしているのは、だ、誰か。と聞かれましたので・・・わ、私だと、お、お答えしたら・・・わ、私の歳を・・・聞かれたのです」

「歳を?あぁ、あなたがまだ子供だと思ったのですね?」


「そ、そうですね・・・き、きっとそうです。で、でも、つ、月夜見さまも・・・十二歳だと・・・」

「えぇ、それは知っていますよ。七年前の世界会議の時、月夜見さまは五歳でしたからね」


「で、でも、つ、月夜見さまは、ど、どう見ても・・・大人でした。し、身長だって・・・と、とても大きいのです。そ、それに・・・し、信じられない程、お、お美しい・・・のです。お、お声を聞くまでは・・・じょ、女性かと・・・お、思ってしまいました」


「あぁ、ソフィアは月夜見さまにお会いする機会がありませんでしたからね。半年程前にいらっしゃった時、既に百九十センチメートル以上の背丈はありましたよ。そして女性の様にお美しいお方です」


「お、お母さま!な、何故・・・それを・・・お、お聞かせくださらなかったのですか!あ、あんなにお、お美しいなんて!し、しかも婚約者が・・・す、既によ、四人も居て、そ、その皆さん全員が・・・ぜ、絶世のび、美女・・・なのですよ!わ、私の様な・・・貧相な子供が・・・つ、釣り合う訳は・・・御座いません・・・」

「まぁ!何てことを言うのですか。あなたは十分に美しい女性ですよ」


「あ!つ、月夜見さまは・・・わ、私のことを・・・う、美しいと・・・い、言ってくださいました。そ、それに・・・た、誕生日が・・・同じ・・・十二月八日だったのです!」

「それならば問題ないではありませんか。あなたのことを美しいと言ってくださったのでしょう?もっと自信を持ちなさいといつも言っているではありませんか」


「え!で、でも・・・あ、あれ程に・・・お、お美しいなんて・・・」

「では、ソフィアは月夜見さまのことを気に入らなかったのですか?」


「いえ、それは・・・だって・・・あ、あの様に・・・お、お美しいお方なのです。そ、それにとても・・・お、お優しくて・・・か、帰り際にも・・・セ、セレーネが・・・勝手に走り出してしまった・・・のですが、つ、月夜見さまが・・・瞬間移動して、セ、セレーネに乗って・・・と、止めてくださったのです。さ、更に・・・わ、私の身体を・・・ちゅ、宙に浮かせて・・・セ、セレーネに・・・乗せてくれたのです・・・」

「まぁ!何てこと!」


「そ、それから・・・セ、セレーネが・・・どうしても走りたい・・・って・・・言っているからって、わ、私を後ろから・・・や、優しく・・・だ、抱いて・・・くださって、こ、湖畔を・・・少し・・・走ったのです・・・」

「素敵じゃない!」


「それならば、あなたの心は既に月夜見さまに奪われているのでしょう?」

「それは・・・は、はい。い、いえ・・・わ、分からない・・・です・・・で、でも・・・やっぱり・・・わ、私なんかでは・・・」


「はいはい。それはもういいわ!それで月夜見さまは、ここへ来てくださるのですか?」

「あ!お、お母さま!あ、明日の十一時に・・・い、いらっしゃる・・・とのことです・・・」


「まぁ!ソフィア!それを先に言いなさい!昼食の用意をせねば!それで何名でいらっしゃるの?」

「あ。お、恐らく・・・は、八名だったかと・・・」

「八名ね。すぐに陛下に伝えて参ります!」




 ソフィア王女に会った後、花音のお爺さんの家に皆で行った。譲治殿からの報告によると新しい月の都の村に移り住みたい者は、最終的に二十八世帯八十四名となった。


 二日後に大工組合に行って測量と設計を依頼することとなった。その翌日には神宮の跡地にて移住希望者に集まってもらい、僕から説明することになった。


 武馬とエマの兄弟は、ハンナ殿に連れられて新しい服を一通り揃え、武馬のアスチルベ王国王立学校で入学の手続きを済ませたそうだ。


 安心した僕たちはいつもの酒場へと向かった。

「あ!いらっしゃいませ!」

「また、お世話になりますね。ビール八つで」

「はい。すぐに!」

「刺身と天ぷらの盛り合わせ、アワビのステーキ、サザエのつぼ焼き、牛肉のたたき」

「はい。ありがとうございます!」


「では、乾杯しましょう!舞依に乾杯!」

「乾杯!」

「あー美味い!」

「月夜見さま。おめでとうございます!」

「ありがとう!でもこれからが大変そうだけどね」

「きっと大丈夫ですよ!」


「明日のことだけど、何か作戦を考えておいた方が良いかな?」

「そうですね。結婚候補のお相手と会う時は、大抵、向こうからお考え頂けたか?とか娘は如何いかがですか?と聞かれるのが普通だと思うのです。そう聞かれると月夜見さまはお優しいから、まず相手のお気持ちを伺いたくなるのではありませんか?」


「確かにそうだね。自分より、まずは相手の気持ちが大切かなと考えてしまうね」

「えぇ、そうですね。でも今回はそれをお相手に伺ってしまうと辞退され兼ねないのです」

「彼女は自分に自信が無い様でしたからね」


「思ったのですが王女が十人も居れば色々な人が居ると思うのです。ソフィア王女はその末っ子ですから、上の姉妹から何か言われていたか、最悪の場合いじめや虐待に近いこともあったのかも知れませんね」

「幸ちゃん、そうだね。貴族や王族だとひねくれた人間も居るからね」

 そうだとすると、ちょっと心配だな・・・


「王女でありながら、あの卑屈ひくつさなのであれば、まず自分から月夜見さまと結婚したいとは言い出せないのではないかと思います」

「向こうから聞かれなかった場合は、先手を打ってこちらから結婚したいと申し出てしまうのも手ではないでしょうか?」


「ビール八つください!」

「はーい!」


「え?僕から結婚したいと言うのかい?」

「あら?月夜見さま。舞依と結婚したいのではないのですか?」

「あ!い、いや、それは・・・そうだったね。あぁ、今まで求婚されてばかりだったから、自分からっていうのに慣れていないんだよ」


「そう言えば私の時は、私が異世界転生者だったことが分かって、なし崩し的に結婚して頂けることになったから月夜見さまから直接プロポーズされていない気がします」

「え?幸ちゃん。そうだっけ?」

「それは、きちんとされた方が良いと思いますね」

「そうですね!」


 皆の圧が凄いな・・・

「分かったよ」


「う、うん!」

 僕は一度、居住いずまいを正した。

「幸子。愛しているよ。僕と結婚してくれますか?」

「はい!月夜見さま。喜んでお受けします!」


「ビール八つ!大急ぎで!」

「はーい!」


「では、月夜見さまと幸ちゃんの婚約を祝って!かんぱーい!」

「乾杯!」


「でも私と桜の時も、二人一緒でしたね・・・」

「えぇ、そうね・・・」

「分かりました!」

「桜。愛しているよ。僕と結婚してくれますか?」

「はい。月夜見さま。ありがとうございます!」


「花音。愛しているよ。僕と結婚してくれますか?」

「はい。月夜見さま。私も愛しています!」


「では、月夜見さまと桜と花音の結婚を祝って!かんぱーい!」

「乾杯!」


「あれ?琴葉はちゃんとプロポーズされたってことですか?」

「えぇ、私はちゃんとしてもらったわ」

「なんだ。良いなぁ・・・」


「ビール八つお代わり!そら豆の塩ゆでとアスパラのバター炒めも!」

「はい!」


「では、月夜見さまと琴葉の結婚を祝って!かんぱーい!」

「乾杯!」


「やっぱり女性って、ちゃんと言葉で伝えないといけないのだね」

「そうですよ。だから明日は舞依にちゃんと伝えてくださいね」

「でもさ、ソフィア王女には舞依の記憶がないのだから、唐突に僕から愛していると言うのは変ではないかな?」


「そこは今日、偶然にも一度会っているのですから「一目お会いして気に入りました」で良いのではありませんか?」

「あぁ、そういうものなのか」


「兎に角。ですね。明日は婚約だけしてしまえば良いのです」

「そうか。婚約だけね。よし。頑張ろう!」

「はい。頑張ってくださいね!」




 当日の朝、皆で基礎鍛練をして朝食を食べた後、約束は十一時なので、まずは神宮へ行くことにした。


「シュンッ!」


 神宮の中庭に直接皆を降ろし、小白には大人しくしている様に命じた。

すぐに巫女が気付いて応接室へと案内してくれた。


「お兄さま!」

結月ゆづき姉さま!お久しぶりですね!」

 結月姉さまが抱きついてしばらく離れない。皆が見ているというのに・・・


「お姉さま。そろそろ」

「あ!ごめんなさい。あまりにも久しぶりだったから。それにお兄さまが美しくなり過ぎていて・・・」

「お姉さまは結婚されたではないですか」


「えぇ、この国の第一王子のウィリアムさまと結婚しました。もう息子と娘が居るのですよ」

「そうですよね。聞いていましたよ。おめでとうございます!」

「ありがとうございます。お兄さま!今日はソフィア王女に会いに来られたのですよね?」

「えぇ、そうなのです」


「お兄さまに結婚の申し込みをしたと聞いて驚いていたのですよ!」

「お姉さまは、僕が前世で恋人が死んだことに絶望して自殺したことをご存知だと思いますが・・・」

「えぇ、知っています」


「実はその恋人もこの世界に転生していることが分り、半年前から彼女を探す旅に出ていたのです。そして昨日見つけたのです」

「まぁ!そうなのですか!え?昨日?」


「はい。それがソフィア王女だったのですよ」

「えーーっ!ソフィアが!あ!そう言えば、お兄さまと誕生日が一緒かも知れません!」

「はい。そうなのです」


「それで、お姉さまにお聞きしたいのです。昨日、湖で乗馬に来ていたソフィアにバッタリ出会ったのですが、話したところ彼女は何かおどおどしていて、自分に自信がない様なのです。それについて何かご存知ありませんか?」


「ソフィアですね・・・これはウィリアムさまから聞いたお話なのですが、彼女の姉たちは少々性格がキツいところがあったのです。普通ならば年の離れた妹を可愛がるものなのに、ソフィアの美しい髪や可愛さを妬んで、ことあるごとに心無い言葉を浴びせていたそうです」


「そして姉たちは、島国で結婚相手も少ないこの国で先を競う様に嫁に行ったのです。今は姉たち全てが嫁に出てしまったので、城に残っているのはソフィアと男兄弟のウィリアムさまとフェリックスさまだけなのです」


「では、ソフィアが乗馬好きなのって・・・」

「そうですね。城に居たくないからなのか、学校がお休みの時は一日中乗馬に出掛けている様です。もう姉たちは誰も居ないのに・・・」


「そうですか・・・もしかすると舞依は、複雑性PTSDになっている・・・のかも知れないな」

「月夜見さま。複雑性PTSDですか?それはどの様な?」


「琴葉。PTSDは長期に渡って繰り返し、暴力や虐待を受け続ける様なトラウマ体験の後に見られる、感情の調整が困難になる症状のことだよ。心的外傷後ストレス障害っていうんだ。症状としては自己否定とか感情の制御や対人関係の困難などがあるんだ」


「確かに昨日のソフィア王女はそんな感じでしたね・・・」

「まぁ!なんてことでしょう・・・」

「あぁ・・・舞依は前世でも長年病魔に苦しんだと言うのに・・・この世界でも十年以上虐待され続けていたなんて・・・そんなこと・・・」


 僕の瞳からはとめどなく涙が溢れた。声も手も震え感情が抑えられなくなってしまった。


 あぁ・・・僕は何故、もっと早く気付いてやれなかったんだ・・・


 この世界でもまた、舞依を救ってやれないなんて・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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