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43.舞依発見!

 花音のお爺さんの家から島の北端へと飛んだ。


「シュンッ!」

「さて、アスチルベの捜索も今日で最後だ」


「あれって何でしょうか?」

「え?桜。どれだい?」

「あの船です。大きいですよね。それも変わった形をしていますよね」


 その船は海の上空に浮かんでいた。上空とは言っても水面から二メートル位浮いているといった感じで、遠くから見ると海に浮かぶ船にも見える。


 双胴船そうどうせんと呼ばれる、二隻の船を甲板かんぱんで繋いだ様な形をしている。その甲板の後方で網を引き揚げる様だ。


「どうやら、魚を獲る船の様だね」

「海に浮かぶのではないのですね」

「桜。そう思うのは元日本人だけだと思うよ」

「あ、そうでしたね」


「あれって北の海だからマグロを獲る船かもね。見てみたいな」

「行きますか?」

「いや、僕が行ったら大騒ぎになってしまうでしょ?やめておくよ」


 今日はこの北端から王都に向けて捜索して行く。しばらく飛んでいると巨大な湖が見えて来た。僕の頭の中に見えた映像の湖と比べても何十倍も大きい。


 この大きさとか北にあることとか日本の十和田湖と同じではないかと思ってしまうが、きっと何も関係はないのだろうな。


 あまりのんびりしていても仕方がない。アスチルベ王国はずっと住むことになるのだし、眺めの良い場所はまた別の機会にゆっくり探しても良いのだ。今日のところは湖に的を絞って、少し速度を上げて進むことにしよう。


「アスチルベも違うのかな?なかなか条件に合う湖ってないものなんだね」

「世界中からひとつの湖を探しているのですから、そう簡単ではないのでしょうね」

「うーん。それはそうだよね・・・」

「月夜見さま!元気を出してください!」

「うん。そうだよね。ごめんね」


「あれってもう王都なのでしょうか?」

「あぁ、そうだね。あれはもう王都の様だね」

「あ!あれは湖ではありませんか?」

「桜、どこだい?」

「あそこに見える塔は王城でしょうか?こちら側から見て、あの塔の右側ですね。森の中にある様です」


「あ!本当だ。あれ?王城の上空には行ったことがあるのだけど、気がつかなかったな」

「こちら側からは少し湖面が見えていますが、王城の上空からだと森しか見えないのかも知れませんね」


 更に近付くと王城と湖の中間辺りには高さ五十メートルに達する巨木が建ち並んでいた。

「あぁ、そうか。王城側に立ち並ぶヒマラヤ杉の巨木に隠れて見えなかったのか・・・」


 その湖は王城からは数キロしか離れていなかった。

「うーん。ちょっと王城に近過ぎるな。王城の人間に見つかったらどうしようか」

「それでは、もう見えているのですから湖畔に瞬間移動してしまえば良いのではありませんか?」

「そうか。桜、頭良いね。では飛ぶよ」

「シュンッ!」


 湖畔に降りて見渡すと、その湖は初めて来たのにも関わらず既視感きしかんを感じた。


「何だか、この景色を見たことがある様な気がするんだ」

「え?ここなのですか?」

「いや、確信は持てないけれどね・・・」

「でも、この湖って何だか神秘的で美しいですね。森に包まれていて、木々の木漏れ日が湖面でキラキラしています」

「湖の色も何故こんなにあおいのでしょう。凄くきれいです!」


「折角だからここでお茶にしませんか?」

「そうだね。まだ時間は早いし、もう王都まで戻っているのだからね」

「シュンッ!」

 花音がお茶のセットを引出し、ニナたちがお茶の用意を始めた。


「シュンッ!」

「この景色も美しいから写真に撮っておこう」

 写真を撮り、お茶を飲んでまったりとしていた。


「月夜見さま。ここって人気ひとけがないですよね。もしかして王家の土地なのではないでしょうか?」

「あ!そう言えばそうかも!いかんな。小白が走って行ってしまったな。呼び戻そう」

『小白!小白!戻っておいで!』

『わかった!』


「ハッ、ハッ、ハッ!」

 しばらくして小白が走って戻って来た。そして、どこからともなくフクロウが飛んで来て小白の頭に留まった。


 小白はフクロウを頭に乗せたまま僕の隣に寝そべった。重くないのだろうか?

そんなことを思ってフクロウを見つめていると、小白がむくっと起き上がった。

ん?小白が何かに集中している。


『小白、何か来るのかい?』

『うま くる』

『馬が来る?』


「皆、小白が馬が来るって言っているよ」

「あ!月夜見さま、あそこです!」


 湖の淵を回った百メートルくらい先だろうか。湖畔に白馬が現れた。手綱たづなくらは装備されているが人は乗っていない。


 あれ?白馬?その白馬もこちらに気付き、しきりに首を振って、こちらを気にしている様だ。もしかしたらさっきの小白との念話が聞こえたのかも知れない。


 そして白馬はこちらに向けて走り出した。

「セレーネ!セレーネ!ま、待って!ど、どこへ行くの!」


 白馬の後ろから少女が走って追いかけて来た。その少女の姿を見た瞬間、身体にビリビリと電気が流れる様なショックが走った。


「あ!」


 その少女は桜と同じ瞳と髪の色をしていた。身長は百五十センチメートル位だろうか。

『月夜見さま!舞依ですよ!私が夢に見た女性です。まだ小さいですけど』

『やっぱりそうか。僕の見た映像の女の子と白馬なんだ。ここだったんだ!』

『月夜見さま!おめでとうございます!』

『おめでとうございます!』


 そして、白馬はその女の子が呼ぶのを無視してどんどんこちらに近付いて来る。

とうとう僕の目の前まで来て止まると僕を凝視ぎょうししている。

「フーッ、フーッ!」

 鼻息が荒い。


『やぁ、どうしたんだい?』

『まぁくん』

『まぁくん?え?僕のこと?君は?』

『ある あるてみす』

『アルテミス?え?どういうこと?』


『君の名前はセレーネじゃないのかい?君の主人がそう呼んでいたよ?』

『まえ あるてみす いま せれね』

『え?まさか・・・君って舞依が飼っていたトイプードルのアルなの?』

『そう ある』


 僕は思わず立ち上がり、白馬の首を抱きしめた。

『アル!アルなのか!久しぶりだね!会えて良かったよ。馬に生まれ変わったのか!』


「月夜見さま!」

「え?」

 花音が戸惑った顔をして僕の顔を見た。

『月夜見さま!舞依が困っていますよ』

 桜が念話で続いた。


「あ!」

「あ、あの・・・あ、あなた方は?こ、ここは・・・お、王家の土地・・・なのですが」


 舞依が不審者を見る目で僕らを見ている。明らかに戸惑い、怯えているのが伝わって来る。声もかすれ、たどたどしい話し方になっている。


『この人たちは一体誰なの?変わった格好をしているけれど、貴族の様にも見える。それにしても皆、美しい人たちばかりだわ・・・』


「これは、失礼を致しました。私は天照家の月夜見と申します」

「え!つ、月夜見さま?・・・」


 しばし沈黙が続く。顔色が悪い。いや、元々真っ白な肌なのか。でも顔面蒼白と言いたくなる表情だ。


「あ。その・・・わ、わたくし・・・た、大変な・・・失礼をい、致しました!わ、私は・・・ア、アスチルベ王国・・・だ、第十王女、ソ、ソフィア アスチルベで・・・御座います」


 ソフィア王女は相当に慌てている。でも最後には何とか王女に相応しい優雅なカーテシーを決めた。


 彼女は王家の豪奢ごうしゃな乗馬服を着ている。王女たる気品があり、優しそうな顔だ。二重の瞳が大きくて、左目の目尻に泣きぼくろがある。桜を思いっ切り可愛らしくしてみました。という感じで見ていてドキドキしてしまう。


 あ!これって、ミラを初めて見た時に似ているかも知れない。これは舞依でなくとも一目惚れしてしまうな・・・


 でも、何だろう?・・・急に僕たちに出くわして驚いたにしても、やけにおどおどしている。およそ王女らしくない態度だ。


「アスチルベ王国の王女でいらっしゃいましたか。この様な場所でのご挨拶となり、失礼致しました。こちらは私の婚約者で、琴葉、桜、花音、幸子と申します。そちらの三名は侍女で御座います」


「こ、婚約者の方々・・・そ、それに侍女の方たちなのですね・・・み、皆さま、お、お、お美しい方ばかり・・・で、その・・・お、驚きました」

 おいおい。大丈夫か!舞依!どうしたと言うのだ!


「いいえ、ソフィア王女も大変、お美しいです」

「まぁ!そ、そんな・・・わ、私なんて・・・とんでも・・・ない・・・です」


「あ!そ、それよりも・・・わ、私のセ、セレーネ・・・あ!う、馬が・・・突然、走り出してしまって・・・お、追いかけて来たら・・・こちらへ・・・」

「はい。私の能力で動物と話すことができるのです。先程、この小白と話していたのが聞こえた様で、気になって私のところへ来た様なのです」


「こはく・・・?」


『何かしら・・・こはく。って・・・何か聞いたことがある様な・・・』


「あぁ、小白はこの狼の名前です。会話ができるので仲間にしているのですよ。人を襲ったりしませんのでご安心ください」

「あ、あぁ、そ、そうなのですね。そ、それにしても・・・ど、動物とお話しができるのですか。す、す、素敵ですね・・・わ、私も・・・セレーネとお話ししてみたい・・・ですわ」


『小白の名前に少し反応したけど、覚えていない様だ。やはり前世の記憶は無い様だね』

『月夜見さま。あきらめることはありません。これから思い出させれば良いのですから!』

『それよりも月夜見さま。王女が十名もいらっしゃるなら、結婚の申込をされたのがどなたなのか確認された方が良いのではございませんか?』

『花音、桜、ありがとう。聞いてみるよ』


「ソフィア王女、ご存知でしたら教えて頂きたいのですが、私に結婚の申込みを頂いた王女はどなたなのでしょうか?」

「あ!」

 ソフィア王女は突然、何かを思い出したかのように驚き、耳まで真っ赤な顔になった。


「あ、あの、そ、それは・・・わ、私・・・なので御座います。も、申し訳御座いません!」

「え?謝ることなどないではありませんか。ソフィア王女だったのですね。失礼ですが、ソフィア王女は今、何歳でいらっしゃいますか?」


「あ!す、すみません。わ、私は十二歳・・・です。すみません!」

「十二歳。では私と同じですね」

「え?えぇー?つ、月夜見さまは・・・じゅ、じゅ、十二歳・・・でいらっしゃるのですか?し、信じられません・・・あ!す、すみません・・・私・・・失礼なことを」


『あぁ・・・む、無理だわ・・・こんな大人で、信じられない程に美しい上に神さまなのですもの。とても私など釣り合わないわ・・・』

『うわ。なんて自信がないのだろう。舞依ってこんな子だったかな?』

『月夜見さま。ひるんでいる場合ではありません。フォローしてください!』

『え?花音。何て言えば良いのかな?』

『ちょっと結婚から話題を逸らしましょう!』


「あ、あの、お互い十二歳みたいですが、私は十二月八日が誕生日なのです。ソフィア王女の誕生日はいつですか?」

「え!十二月八日・・・なのですか?わ、私も・・・なのです・・・」

「おぉ、そんな偶然があるのですね!これは運命なのでしょうか?」

「え?あ。そ、その・・・」


『花音。ちょっとクサかったかなぁ・・・』

『いえ、反応を聞きましょう!』


『あぁ、どうしましょう?こんな偶然があるなんて。月夜見さまは運命だって言ってくださったわ。まだ期待をしても良いのかしら・・・?で、でも・・・私なんか・・・』


『月夜見さま。ちょっと時間を掛けましょう。今、押しても良くないかも知れません!』

『明日、改めて訪問することをお伝えするのです』


「ソフィア王女。こんなところではゆっくりお話しもできません。また明日、正式にご訪問させて頂きたいのですが、ご都合は如何ですか?」

「あ、明日?・・・ですね。わ、私は・・・構いません。で、では・・・お、お待ちしておりますので・・・」

「えぇ、では明日十一時に伺います」


「ブヒヒンッ!」

『まぁくん はしろう!』

『うん。今度、一緒に走ろうか!』

『はしる!』


 その時、セレーネは興奮して一人で走り出してしまった。

「あ!セレーネ!どうしたの!」

「あ!いかん!」

 僕は瞬間移動して、セレーネに乗った。

「シュンッ!」

「どうどう!」


『アル。落ち着いて!じゃぁ今、少しだけ走ろうか』

『うん はしる!』


「い、今、ど、どうなったのですか!?」

「あぁ、私の能力で瞬間移動したのです。アルが・・・あ、いや、セレーネが走りたいというのですよ。少し、一緒に走りませんか?」

「え?い、一緒に?あ!」

 僕はソフィア王女を念動力で持ち上げた。


「あ!あ、あ、あ、こ、これは・・・」

 急に身体が浮かび上がりソフィア王女は混乱している。そのままセレーネに乗せた。


「少しだけ一緒に走ってあげましょう。そうすればセレーネも落ち着くでしょう」

「あ、は、はい・・・」

 ソフィア王女を後ろから包む様に抱き、一緒に手綱たづなを掴んで湖畔を走り出した。


『あ、あぁ・・・た、大変です!つ、月夜見さまに抱かれている様だわ。ど、ど、どうしましょう!き、気絶しそうです!』

『あ!気絶されたら不味いな』


「ソフィア王女は小さな頃からセレーネに乗っていたのですか?」

「え?あ、は、はい。こ、こうして、お、お母さまと一緒に・・・の、乗りながら・・・教わったのです」

「セレーネはソフィア王女が大好きなのですね。一緒に走ることが楽しくて仕方がないそうですよ」


「え?セ、セレーネが・・・そ、そう言って・・・い、いるのですか?」

「えぇ、そうです。ソフィア王女が大好きなのだそうです」

「う、嬉しい・・・」

よし、気が紛れたな。上手く誤魔化せた様だ。


『アル。僕はもう行かなければいけないんだ。また今度来るから一緒に走ろうね』

『わかった』


「さて、セレーネも満足してくれた様ですので今日はこれで失礼しますね」

 そう言って僕は身体を宙に浮かして地上へ降りた。

「あ!つ、月夜見さま・・・わ、分かりました。で、では明日・・・げ、玄関で・・・お、お待ち・・・しております」

「はい。では明日」

 そしてソフィア王女は王城へと帰って行った。


 意外にも早く舞依が見つかった。探し始めて半年のことだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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