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13.この世界にないもの

 明るい家族計画の話が終わり、一日の終わりにお母さまとベッドでの会話の時間だ。


 マリー母さまが帰って来たので、やっと結月ゆづき姉さまから解放された。


「月夜見。私、あなたと結婚したかったわ」

「お母さま。それは問題発言ですね」

「だって、あなたほど素敵な男性を私は知りません。あなたはどうして私の息子なのかしら?」

「それは、お母さまが十五歳で結婚したからですよ。まだ世の中の男性をほとんど知らずにここへ来たので僕でも良く見えてしまうのですよ」


「でも城の中や学校に貴族の子息は居ましたから、平民の女性と比べたら多くの男性に会っていますし、お話しもしていましたよ?」

「そうだったのですね。学校には何人くらいの男の子が居たのですか?」

「同学年では生徒は三十人居り、その中に男の子は五人居ました。五学年ありますから、大体二十五人位でしょうか」


「想像するに、その比率だと男の子は色々と勘違いしそうですね」

「そうなのです。自分は偉いとか選ばれた存在だ。とか言う子も居ました。伯爵家の子に結婚してやっても良いと言われたこともあるのですよ!」


「あぁ、言いそうですね。子供の内はそれでも良いかも知れませんが、大人になってもその勘違いが続いていたら厄介ですね」

「その厄介な男性が多いのですよ。月夜見の様に女性のことを考えてくれる男性は少ないのです。だから先程、月夜見の話を聞いて皆、感動して涙を流したのです」


「そうだとすると、子種を売る商売をしている男は相当な性悪しょうわるなのでしょうね」

「私は詳しく聞いたことがないのですが、酷いところらしいです」

「そうでしょうね。自分の排卵日も知らずにそんなところで子種をもらっても、まず妊娠できないと思いますよ」

「なんとかしないといけませんね」


「うーん。難しい問題ですね。性の知識を本にして広めたところで、すぐに男性が増える訳ではありませんからね」

「では、本は作らないのですか?」

「いいえ、本は作ります。主に女性のためのものであり、また宮司の仕事を減らすためでもありますからね」

「はい。是非、お願いします」


「ところでお母さまの生理は毎月来ていますか?」

「えぇ、来ていますよ。私は恐らく、四週に一度だと思います」

「なるほど、標準的なのですね。ちなみに性交での絶頂感は?」

「まぁ!母親の私にそれを聞くのですか?」

「だって、僕という男の子が生まれたのです。それは絶頂感があってのことだったのかという検証としてお聞きしているのですよ」


「う、うーん。そ、それは無い・・・ですね・・・」

「うわぁ、お母さま。耳まで真っ赤になっていますよ~」

「つーくーよーみー!母をからかってはいけませんよ!」

「はははっ!それにしても絶頂感も無かったのですね。それでは本当に偶然に僕はできたのですね」

「はい。私も本当に驚きました」


 お母さんが僕にじゃれついて来て、僕の顔がお母さんの胸に埋まった。そして気が付いた。

「あ!そう言えば」

「どうしたのですか?」

 僕は真面目な顔をしたまま、お母さんの胸を両手でつかんでんだ。


「つーくーよーみー!今度は何をしているのですか。母の胸を揉むなんて!」

「今になって気が付いたのですよ。この世界にブラジャーはないのでしょうか?」

「ぶ、ぶらじゃぁ?ですか?それは何でしょう?」

「こうやって下から胸を支えるための女性だけが着る下着のことです」

 そう言いながらお母さんの胸を手で下から持ち上げる。


「それは初めて聞きました」

「あぁ、やはりないのですね。胸って結構な重さがあるのです。その重さで肩の方に負担が掛かって、肩がこったりもするのです。それを和らげるのですよ」

「それなら分かります。月夜見に授乳していた時は本当に胸が重くて、肩がこっていましたから」


「では、この世界でブラジャーを作りましょうか?」

「作れるのですか?」

「そうですね。王女さまの服などはかなり凝ったものが仕立てられているのではありませんか?」

「えぇ、それはもう、着るだけで大変なものもありますよ」

「そんな服が作れるならば、ブラジャーは作れると思います」


「そうだ!お母さまの胸を揉んでいて思い出しました。乳癌にゅうがんがないか検査しておきましょう」

「乳癌とは何ですか?」

「女性の乳房にゅうぼうの中の乳管やまれに小葉しょうようという組織から発生する悪性の腫瘍しゅようのことです。これができて癌細胞がんさいぼうが大きくなってしまうと、乳房を切り取るしか生きる道はありません」


「え?乳房を切り取るのですか?」

「えぇ、前世の世界では治癒能力がありませんでしたからね。でもこの世界の治癒能力でもその癌を治癒できるのか、僕にはまだ分かりませんが」

「恐ろしい病気なのですね」


「えぇ、だから普段から定期的に検査をしておくことが大切なのです。触診と言って、直接触って「しこり」がないかを確認するのですよ。ちょっとやってみましょう。服を脱いでください」

「え?本当に?」

「はい。僕は医師ですからね。前世では毎日、していたことです」


 お母さんはためらいながらも服をはだける。僕の手はまだ小さいので片胸ずつ、両手で触診していく。


「ま、毎日女性の胸をこうして触っていたのですか?」

「えぇ、そうですよ。でも触っている。のではありません。触診という検査なのです。よこしまな目で見てはなりませんよ」

「はい。すみません」


 両方の乳房を触診したが、問題は見つからなかった。更に透視もして、乳管や乳腺の状態も確認したから問題ない。


「はい。問題はありませんでした。これからも定期的に検査はしていきましょう」

「はい。お願いします」


「あー!大事なことを忘れていました!」

「え?なんですか?」

「生理のしくみについてはお話ししましたが、生理用品のことを確認していませんでした。女性は生理になると出血しますね。下着の中でその経血はどうやって抑えているのですか?」


 地球ではナプキンとかタンポンとかがあったけど、あれも四十年くらい前に初めてできたくらいだからな。この世界にある訳がないのだ。


 でもあれは吸収ポリマーがあってなんぼのものだ。吸収ポリマーはこの世界では作れない。形だけ似せても水分を吸収して漏れない様に保つ機能がなければ意味がない。


「生理になった時は、綿わたを布でくるんだものをあてがって吸収するのです。でも多い時はすぐに染みて来てしまって困るのですけれど」

「あぁ、やはりそういう対処になりますよね。それをこまめに交換しないでいると別の病気になることもあるのです。女性はその知識を知った上で、生理の期間は清潔に保つようにしないといけないのですよ」

「そういうものなのですね」


「前世の世界でも生理用品は三十年程前にやっと普及し始めたのです。でもそれはこの世界で作ることが不可能なのです。生理中に女性器周辺を清潔に保つ必要性は本に書いて、知識として知ってもらうことはできるでしょうが、実際に綿や布では十分ではありませんね」

「そんなに難しいものなのですね」


「そうですね。ブラジャーのこともありますから、一度、服飾職人に相談したいですね」

「それでしたら、この月宮殿のお膝下ひざもとは、オリヴィア姉さまの母国カンパニュラ王国ですので、明日オリヴィア姉さまにお話しすれば、服飾店の者を神宮へ呼べると思いますよ」

「そうですか、では明日オリヴィア母さまへ相談してみましょう」


 そう言いながらお母さんに甘え、胸に顔をうずめて眠りについた。




 朝食で食堂に皆が集まった。皆が食事を終えてお茶を飲み始めたのを見計らって話し始めた。

「皆さんに相談が、あとオリヴィア母さまにお願いが御座います」

「まぁ、私にお願いですか?」

「えぇ、その前に皆さんに聞いて欲しいのです」


「私の前世の世界では女性だけが着る下着があったのですが、この世界にはそれがないことに気付いたのです。昨日お母さまにお話ししたら、是非それを作って欲しいとのことだったので、皆さんにもご意見を伺いたいのです」

「まぁ、どんなものでしょう?」

「はい。それはブラジャーと言います。胸を支える下着です」

「胸を支える。ですか?」


「はい。そうですね。失礼ですがオリヴィア母さまは胸が大きくていらっしゃるので、胸の重さを日頃から感じていらっしゃるのではと思うのですが、如何ですか」

「え、えぇ。そうですね。特に授乳している時は大変でした。胸が張る上に重くて肩が痛くなるのです」


「はい。そうなのです。自分の胸を下から手で支えてみて頂くと重さが分かると思います。それを支えることで肩が引っ張られて筋肉が張り、酷くなると炎症を起こすのです。これを肩こりと言います。ブラジャーは胸を支えて肩のこりを和らげるもので、絵で描くとこんな感じのものです」


 僕は大きな紙に女性を前と横から見た絵を描き、ブラジャーの絵を書き足して、どの様なものかを見てもらった。


「面白いですわね」

「肩こりが楽になるのでしたら欲しいですわ」

「あ。それがあれば胸が服に透けなくなりますね。夏場に厚着をしなくて済むかしら?」

「えぇ、その様な効果もありますね」


「それにしても月夜見さまは絵がお上手ですわね。とても分かり易いわ」

「ありがとうございます。如何でしょうか?作ってみる価値はあると思われますか?」

「えぇ、是非作って頂きたいわ」

「私も欲しいです」

「私も」


「お兄さま!私はまだ胸が大きくならないのですが・・・」

結月ゆづき姉さまはそうですね。あと三年くらいしたら必要になるのではないでしょうか?十二歳から十五歳くらいまでの発育途中のにも必要なのですよ」

「では、大きさが色々あるのですね?」


「そうですね、前の世界でも九つくらいの大きさが用意されていたかと思います。ブラジャーはサイズが合っているものを着用しないと肩こりには逆効果になってしまうのです」

「それをどこで作るのですか?」


「はい。カンパニュラ王国にある服飾店の技術者にブラジャー製作の相談をしたいのです。オリヴィア母さま。お声掛けをお願いしても良いでしょうか?」

「分かりました。すぐに連絡をします」

「オリヴィア母さま。ありがとうございます」


「次に皆さんにご相談なのですが、生理の時に出血を抑えるものとして綿を布でくるんだものを下着の中に入れて経血を吸収しているという話をお聞きしました」


「実はこの綿と布なのですが、こまめに交換してやらないと不潔になり易く、菌がいてしまうと別の病気になってしまうこともままあるのです」

「まぁ!そうだったのですか」


「はい。生理の知識を本にする時にこの知識も掲載する予定ですが、この綿と布をもっと良いものにできないかと考えているのです。これを生理用品というのですが、これについてご意見はお持ちでしょうか?これもブラジャーの製作時に服飾の技術者にも聞いてみようと思っているのですけど」


「そうですね。場所が場所だけに布の厚みを増やすと動き難くなってしまいますよね」

「素材によっては肌触りが悪くなるのも困りますね」

「交換し易いものが良いですね」

「あのぉ、もしできれば匂いが軽減できると良いのですが」


「頻繫に交換するので数も用意しないといけないと思います」

「値段が高いと平民では買えないと思います」

 どれも納得の条件だな。全部メモしておかないとな。これらの条件をひとつでも多く満たせるものが作れると良いのだけど。


「あの。農家や力仕事をする様な平民は、そもそもそういったものを使わないと思いますよ」

「え?ではどうしているのでしょうか?」

「いえ。何もしないと・・・」


「何もしない?え?垂れ流しってことですか?」

「えぇ、見たことがあります・・・」

「そ、そうなのですか。それはなげかわしいですね」

 な、なんと!何もしない人まで居るのか。


「あ!そう言えば、神宮で宮司に生理の治療をしてもらうのは無料なのですか?」

「いいえ。無料ではありません。でも身分に応じて対価が違うのです。生理を神宮で治療できるのはある程度金銭に恵まれた者だけだと思います」

「それでも沢山の女性が毎日の様に生理の治療でやって来るのですね」

「やはり出血が怖いのだと思います」


「でも治療は有料だったのですね。お父さま。そうなりますと、生理の治療の患者が減ってしまうと、神宮の収入が減って困ることになりますか?」

「いや、治療の対価は元々、収入としては当てにしていない。患者が減れば雑多な費用が減るはずだから問題はないであろう」

「それを聞いて安心しました」


「あれ?お母さまやお姉さま達は生理やその他の治療は今迄どうされていたのですか?」

「玄兎さまか娘たちで治癒能力が使える様になった娘に治療して頂いていました」

「あぁ、そう言えばこんなに身近に宮司の卵が居ましたね。練習にもなりますからね」


「分かりました。宮司に治療してもらう金額より安く、先程頂いた条件をひとつでも多く満たせるものを作れればと思います」

「月夜見さま、よろしくお願いいたします」


 そう言えば、前世でも生理用品格差という記事を医療情報の中で目にしたことがある。毎月千円程度の生理用品が買えない女性が居ると。


 一、二時間で交換したいところを我慢して五、六時間使うこともあると記事にはあった。現代日本でそうなら、この世界ではほとんどの人が当てはまるのではなかろうか。


 これは凄く難しい問題だぞ。良いものを作れる自信がないな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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