37.月の都の設計
お爺さんの屋敷に飛び、これから月の都の説明をすることになった。
「こんにちは!お爺さま。ちょっと急用なのですが」
「おぉ、月夜見。急用?何かあったのか?」
「まずは僕とあの裏山の頂上へ一緒に飛んでください」
「うむ。分かった」
「シュンッ!」
「シュンッ!」
「ん?あ、あれは?」
「お爺さま、あれがひとつ目の月の都だそうで、こちらは実はふたつ目なのだそうです」
「誰がそう言ったのだ?」
「フクロウです」
「ほう」
「ふふっ!それは駄洒落ですか?」
「だじゃれとは何だ?」
「違うのですね・・・すみません。気にしないでください・・・」
この世界に駄洒落はないのか・・・
「それであの島に月宮殿の地下室と全く同じ地下室がありました。そこに絵が描けられていたのですが前世の日本の風景画だったのです。その絵を持ち上げてみたら絵の裏に大きな宝石があり、それに触れたら一度だけ光って島が海から浮かび上がったのです」
「あの島はどこにあったのだ?」
「アスチルベです。あのフクロウの案内で島まで行きました」
「それでフクロウはあの島をどうしろと言っているのかな?」
「僕の屋敷を建てろと、そして住むのは元在ったアスチルベの海岸にして、その海岸に神宮を再建しろと言うのです」
「再建?元々そこに神宮があったのだな?」
「えぇ、鳥居の残骸がありましたので大昔には存在していた様でした」
「それで、どうやってアスチルベからここに来たのだ?」
「瞬間移動です。フクロウが僕ならば島の浮かぶ高さも瞬間移動も自由に操れると言ったのです。屋敷を建てるなら大工のパブロに頼むのが良いと思いましてここへ運びました」
「なるほどな。やはりあのフクロウは操られていて月夜見を監視していたのだな」
「はい。その様です。始祖の天照さまかと聞いたのですが、まだ正体は明かせないと言われました」
「ふむ。では、なる様にしかならんな。それでは月夜見の屋敷を建てるのだな?資金はあるのか?」
「えぇ、パブロが白金貨百枚くらいだと言うのですがそんなに安いものなのですか?」
「何?白金貨百枚?月夜見はどんな屋敷を建てようとしているのだ?」
「屋敷自体は月宮殿の様式でなく、もっと簡素な城の様な作りで良いのです。自給自足にしたいので、牛、豚、鶏の畜舎を建て、厩と倉庫。それに使用人百名分の住居、学校と神宮が欲しいと言ったのです」
「それならばそれくらいは掛かるだろう。白金貨百枚とは国の一か月分の予算に匹敵するのだぞ。それを安いという月夜見の感覚がおかしいのだ。一体どれだけの金を持っているのだ?」
「白金貨ならば今、千枚以上持っていますし、発案料で毎月二十枚以上入って来るのです。これからはルドベキアの機械産業や製鉄の分も入って来るので今後はとんでもない金額が入って来ると思います」
「全く呆れた男だな!」
「それは誉め言葉と受け取っておきますね」
「では、これからパブロに島を見せると良い。あぁ、玄兎には説明しておくのだぞ」
「はい。分りました」
「シュンッ!」
お爺さんが屋敷へ戻って行った。
『桜、船にもどるよ』
『はい!』
「月夜見さまがお戻りになります」
「シュンッ!」
僕は皆が待つ船の中に瞬間移動すると船を月宮殿の前に移動させた。
「さぁ、皆、今日はここに泊ろうか。僕は月の都の話をお父さまに話して来るよ。皆はのんびりしていて」
「分かりました」
「あ!お兄さま!春月お姉さまにイケメン王子を紹介したそうですね!私にも紹介してください!」
「あぁ、お姉さまに聞いたのですね。イケメンですか?うーん。では探しておきますね」
「うわーい!」
ふふっ、水月姉さまは末っ子で奔放なところが可愛いよね。良いお相手に出会えると良いのだが。
「水月姉さま、それよりも皆をサロンに集めてもらえますか?」
「はーい!また面白い話なのですね!」
しばらくしてサロンに皆が集まった。
「皆さん、そこに居るフクロウなのですが、まだ教えてもらえないのですが、天照さまの遣いである様なのです。それで今日、そのフクロウの案内でひとつ目の月の都を発見しました」
「ひとつ目だって?ではここは?」
「はい。ここはふたつ目なのだそうです。アスチルベ王国の王都から少し離れた海岸沿いに神宮の残骸があり、その目の前の海に浮かぶ島。それがひとつ目の月の都でした」
「フクロウの案内で島に渡ると、そこにはこの月宮殿にある地下室と全く同じ地下室が残されていました。その部屋の中にあった宝石に僕が手を触れると島に認証されて、島が空へと浮き上がったのです」
「では、そのひとつ目の月の都は今もそこに浮かんでいるのかな?」
「いえ、フクロウが僕はその島を自在に操れると言うので乗ったままここへ瞬間移動して来ました。だから今、この月の都の隣に浮かんでいます」
「えーーっ!」
皆が一斉に叫んだ。
「それをこれからどうするのだ?」
「フクロウ曰く、僕に自分の宮殿を建てろと」
「では、月の都がふたつ並んだ状態となるのだな?」
「あ、いいえ、それは違います。フクロウは住むのはアスチルベ王国の元在った場所で暮らせと、そして朽ちた神宮もそこに再建せよと言うのです」
「今回、ここに持って来たのはパブロが屋敷を建て易い様にと考えてのことです。これから、島を海に降ろして海岸に近付けておきます」
「では、月夜見は屋敷ができたらここを出て月の都ごとアスチルベ王国へ行くのだな?」
「はい。今から屋敷を建て始めれば丁度、僕が成人する前に完成しますので、結婚後はそこで暮らします」
「あー、結月姉さま良いなぁー、またお兄さまがお近くに住まわれるなんて!」
「あぁ、結月姉さまはアスチルベ王国の神宮に居るのでしたね」
「それで、始めの話に戻るがフクロウが天照さまとは、どの天照なのかな?」
「それはまだ分からないのですが、僕の推測では始祖の天照さまではあるまいかと」
「始祖の!何千年も生き続けていると?」
「地球とこの世界を行き来できるのですから時間を越えて移動できるのではないかと考えます」
「時間を超える?どういうことだ?」
「過去や未来を自由に行き来できるということです。つまり歳を取らないのです」
「そんなことがあり得るのだろうか?」
「それこそが本当の神なのではありませんか?」
「なるほど。そういうことか」
「では、私たちが考えたところで分からんのだな」
「えぇ、フクロウが真実を明かしてくれるまでは・・・」
「ふむ。そうか・・・月夜見。今日はここに泊るのか?」
「えぇ、しばらくは屋敷の設計をパブロと詰めないといけませんので、ここに滞在したいのです」
「それは勿論、構わないよ」
「はい。よろしくお願いいたします。では僕はパブロのところへ行って来ます」
「シュンッ!」
「うわっ!」
「あ!月夜見さま!」
「皆さん、こんにちは!」
「あ!月夜見さま!見てください!いつの間にか月の都が二つになっているのですよ!」
「えぇ、あれは先程、私があそこに持って来たのですよ」
「え!月夜見さまが?持って来られた?」
「えぇ、アスチルベ王国に在った、もうひとつの月の都を僕が瞬間移動で運んだのです」
「あ、あんな巨大なものを瞬間移動で?」
「えぇ、それで僕の屋敷はあそこに建てようと思うのです。あぁ、月の都はこの後、空から降ろして海に浮かべますから海岸と同じ高さになりますよ。資材も置いてある場所を教えてもらえれば私が島へ資材を念動力で飛ばしますから運ぶ手間も省けます」
「そ、その様なことが・・・」
パブロたちがちょっと驚き過ぎて固まっちゃったな・・・
「これから船であの島へ行って空から眺めながらお話ししませんか?」
「え?船はどこに?」
「シュンッ!」
「うわぁ!」
「はい。ここに。では乗ってください」
パブロにローラ、それに他の従業員も皆、乗れるだけ乗せて瞬間移動で飛んだ。
「シュンッ!」
「うわぁ!」
「はい。月の都の上空ですよ」
「こ、これが瞬間移動ですか!」
「それにしても広いですね。そちらの月の都よりも大きいのですね」
「えぇ、山があって川が流れ池に繋がっています。これはこのまま残し、山に近いあの雑草が生えていない場所に地下室がありますので、あの上に屋敷を建てたいのです」
「屋敷には厩を併設し、その隣に一階が漢方薬研究所、二階が学校の建物を作ります。そこから使用人の住居と農機具の倉庫を並べ、その先に牛舎、豚舎、鶏舎を建てます」
「それらの面前に山から続く川と池から繋がる水田を作り、その下流に畑を作ります。畑の向こうは牧草地帯として家畜を放牧できる様にします」
「どうでしょう?今の説明で頭に形は浮かびましたか?」
「はい。大体理解できました。まとまっていて良いですね」
「あの。月夜見さま。あの小さな池だけで水田や畑の水が賄えるのでしょうか?」
「あぁ、それは心配無用です。私はいつでも必要な時に必要なだけ雨を降らせることができますから」
「おぉ!そうなのですね!」
「では戻って簡単な図面を書きましょうか」
「シュンッ!」
「あ!もう戻って来ちゃった!」
事務所の応接室で僕は月の都の図を絵に描き、屋敷や学校、使用人の住居や畜舎の位置と大きさをパブロと相談しながら描いていった。正確な測量は専門の人を連れ、明日改めて島へ渡って行うこととなった。
それから一か月は月の都の設計に集中した。まずこれを完成させないと、建築に取り掛かれないからだ。建築資材を運び入れるところまでやっておけば、後はパブロに任せて僕たちはゆっくり舞依の捜索に行けるのだから。
でも屋敷の間取りで早々に躓いた。妻と子供の部屋を幾つ作るかで、琴葉たちともめたのだ。
妻の数は確定していない。今のところは舞依を入れても五人なのに、十は作っておくべきだと皆に言われたのだ。自分としては十人も嫁を迎える気はないのだから作る必要性を感じなかった。
同様に子供部屋を三十部屋作れと言うのだ。誰がそんなに子を作るのだ!と抗議したものの、孫の代のことも考えて欲しいと言われて「あぁ、そうですね」と落着した。
使用人の住居も単に初めの数で決めては駄目だと言われ、使用人同士で結婚した場合の家族の住居を考えないといけなくなった。それは確かにその通りだった。
するとやはり土地は有効活用しなくてはいけなくなり、学校と漢方薬研究所は島に作れなくなった。
海岸に新たに作る神宮を大きくして学校と漢方薬工場と研究所を併設することとした。
昼間は島を海に浮かべ、橋で神宮と繋ぐこととし、夜は安全を考慮して空中に浮かべることに決まった。
島の地下室の入り口の近くにはもうひとつの地下室が見つかった。そちらは動力室と上下水道の設備室になっており、電気の取り出し口と水道管の出入口になっていた。
一度、ルドベキアのウィリアムズ殿と機械工場の技術者に来てもらい、光の取り出しとコンバーターの設計を頼んだ。
特に屋敷の部屋ではどこでも百ボルト電源が取り出せる様に設計してもらい、全てのトイレ、風呂、厨房、倉庫に換気扇を付けてもらう様に頼んだ。勿論、使用人の部屋のトイレにもビデは完備する。
また屋敷と従業員棟、それに神宮には大浴場も男女別で作ってもらうこととなった。
だが、月の都は島なので温泉は引けない。沸かした湯になってしまうのだがそれは仕方ない。
その分設計には拘り、純日本風の露天岩風呂の様にした。
屋敷を建築するに当たり、島の雑草が邪魔だったので僕の念動力で一気に雑草と土埃を吹き飛ばしたところ、ふたつ目の月の都と同じ様に大型船の船着き場があることが分かった。これはこのままで機能している様だった。恐らくは船が自動で操船されて近付くと勝手に動く様だ。
畜舎の設計には、エミリーの母ルーシーにフラガリア王国から来てもらい、家畜が清潔で快適に暮らせる畜舎を考えてもらった。その帰りにはルーシーをネモフィラ王城のエミリーのところに連れて行き、久々の再会をさせると二人は抱き合って喜んでいた。
ルーシーには畜産の先生として、その家族の何人かは畜産業の担い手として来てもらうことが決まった。
アスチルベ王国の海岸に月の都と神宮が大昔から在ったことをアスチルベ王国の王へ報告しなければならない。
勿論、僕がその月の都に新しく屋敷を建てて住むことと神宮を再建し、そこには学校、漢方薬工場と研究所を併設することも説明が必要だ。
本来ならそこに住む、僕自身が説明に赴くことが自然だが、その準備で忙しいことを口実に、お爺さんとお父さんがアスチルベ王国へ行ってくれた。
アスチルベ王国には嫁候補が居る。僕がそこに住むとなれば結婚を断ることは難しいだろう。でも万が一、断りたくなる様な人だったら面倒なことになる。だから最後に行きたいのだ。
説明に行ってくれたお父さんによると僕がアスチルベ王国に住むことを聞いて王は大変な喜び様だったそうだ。
それと、今更ながらに結月姉さまが、アスチルベ王国の王子と結婚していたことを聞かされた。どうやら僕が城に閉じ籠っていた時のことだったらしい。
今度、行ったらお祝いをしないといけないな。
八月初めには月の都の建物、設備の全ての設計が終わり、九月に入ると資材の準備ができたものから僕が資材置き場まで行き、月の都へ念動力で資材を飛ばして搬入した。
木材、石材、砂利や砂、壁材に屋根材、床材、上下水道の配管パイプやトイレやビデの便器、風呂桶、光の配線、ガラス窓用のガラス板、十日間程で全ての資材の搬入を完了した。
それと屋敷や使用人の住居、畜舎などを建築する土地は、僕が念動力で土を掘り返したり盛ったりして、平地に均しておいた。
代金は資材の輸送代が浮いたのでもっと安くなると言われたが、僕が白金貨百枚は払うと言い張り、まず六十枚を先払いし、半年ごとに十枚ずつ支払っていくこととし、代金が余るならば、職人の給金に分配する様に頼んだ。
「月夜見さま。これだけ準備が早くできましたので建築に二年は要しないと思います。ここからは大工組合の組合長と私が全ての指揮を執り、工事を滞りなく進めて参ります」
「パブロ。後はお任せします。よろしくお願いいたします」
「かしこまりました!」
そうして九月も終わる頃、月の都の屋敷を建てる準備は全て整い、後は二年の間に舞依を見つけるだけとなった。
その前に結婚の打診が来ているユーフォルビア王国へ行くことにした。
お読みいただきまして、ありがとうございました!