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30.ユーストマ王国の現状

 翌朝、宿を引き払うとフロックス王国王都の神宮へ行った。


 神宮の庭に瞬間移動し、庭に船を降ろした。小白には走り出さずに庭で座っている様に指示をした。フクロウも小白と一緒に大人しくしている様だ。僕らが到着したのを見て巫女たちが慌てて宮司の希月きづき伯母さんを呼びに行った。


「月夜見さま!お久しゅう御座います!」

希月きづき伯母さま。ご無沙汰しております。お元気でしたか?」

「えぇ、私は元気にしております。それにしてもご立派に、お美しく成長されましたね」

「ありがとうございます」


「今日はあの誘拐された子供たちの件ですか?」

「えぇ、その後どうなっているかと思いまして」


「子供たちは全部で四十八人居りました。皆、栄養失調気味ですが、命には問題ありません」

「自分の親や家が分かる子はどれくらい居たのですか?」

「それは三十人です。近くに住む子十八人は昨日、自宅に連絡したのですが、その内五人の女の子は引取りを拒否されました」


「自分の子の引取りを拒否する親が居るのですか!」

「元々、生活が厳しく、丁度良い口減らしになったと思っていたところに戻られても・・・ということなのでしょうか」

「それでは残りの子たちからも家に帰れない子は出て来るのでしょうね」

「そうですね。何名かは自分の家も住む町の名も分からないと言いますので」


「残った子を月夜見さまがお引き取りになるというのは本当なのですか?」

「えぇ、本当です。私は成人したら自分の屋敷を建てるつもりなのです。屋敷には牧場や畑も広く作りますから使用人が多く必要なのですよ」

「あぁ、使用人として育てるのですね。それでしたら屋敷が建つまではここで教育しましょう」


「伯母さまにその様なことをお願いしてもよろしいのですか?」

「えぇ、勿論です。この国の子なのですし、月夜見さまの使用人にするのですからね。しっかりと教育致しますよ」

「子供たちに掛かる食費や費用は私が出しますので」

「いいえ、ルグラン伯はお家取り潰しとなり、グスターヴの屋敷や財産も全て没収され、子供たちに配分されるのです」


「あぁ、フロックス殿がきちんと後始末をしてくれたのですね。あれ?ちょっと待ってください。子供たちに財産が配分されるなら親は喜んで受け取るのでは?」

「それでは親が生活費に使ってしまうので親には言っていないのです。そこは私から進言させて頂きました」


「流石、伯母さま!それは良いことですね。それで子供たちの年齢はどのくらいなのですか?」

「七歳から十三歳ですね。男の子が十五人、女の子は三十三人でした」


「その年齢ならば十歳以上の子は、学校に入れるのが良いのではありませんか?」

「あぁ、そうですね。月夜見さまのお屋敷で働くならばその方が良いでしょう」

「子供たちに会えますか?」

「えぇ、勿論です。こちらへどうぞ」


 神宮の大広間は小学校の林間学校の宿の様になっていた。

「皆、集まって!あなた達を助けてくださった月夜見さまが来てくださいましたよ!」

「わぁー!月夜見さまだ!」

「月夜見さま!」

「神さま!」


 皆、既に二晩をここで過ごし、しっかりと食事を摂って布団で眠れているからか顔色が良くなっている。皆、揃いの神宮で用意した絹の衣装を着ている。


「皆、まだ家に帰れるかどうか分からない子も居て不安だろうけれど、もし家に帰れないとしても、私が新しく建てる屋敷に来てもらうから安心してね」


「え?神さまのお屋敷に行けるのですか?」

「神さまのお屋敷で働けるのですか?」

「そうだよ。学校にも行ってもらうし、屋敷では君たちがやりたい仕事をしてもらうよ。食事を作る、掃除や洗濯をする、庭の花を育てる、畑仕事や家畜の世話、薬を作る、家具を作り修理をする、服を作る、子供の世話をする。仕事はいっぱいあるんだ。自分の好きな仕事をすれば良いよ」


「僕、家に帰りたくないです。月夜見さまのお屋敷で働かせてください!」

「私も!料理を作る仕事がしたいです!」

「私もです。私、薬を作ってみたいです」

「うん。分かったよ。ここに居る宮司の希月きづきさまが皆の希望を聞いて親御さんと話してくれるからね」


「あ、あの・・・私はもう家に帰って来るなと言われたのですが・・・」

「そうなのだね。君さえ良ければ私の屋敷で働いてくれるかな?君は何歳なの?」

「はい。十歳です。神さまのお屋敷で働きたいです」


「それでは屋敷ができるまでこの王都にある学校で勉強をしてくれるかな?」

「え?私、学校に行けるのですか?」

「うん。他の子もね。家に帰らない子で十歳以上の子は皆、学校へ入ってもらうよ」

「やった!学校に行けるのね!」

「神さま!ありがとうございます」


 僕たちは応接室へ行き、希月きづき伯母さんと打ち合わせをした。

「伯母さま。結構な数の希望者も居る様ですから、もし、親が引き取ると言うのに子が帰りたくないと言った場合は、ルグラン伯たちから配分された金を渡して子を引き取ってください。もし足りないと言う様でしたら私が上乗せします。学校の費用もです」

「まぁ!そこまでされるのですか?」


「子は宝ですからね。自分のやりたいことをさせるのが一番です。それに彼らは誘拐などというつらい目に遭ったのですからね。これからの人生は不安のない暮らしをさせてあげたいのですよ」

「あぁ・・・月夜見さまは、真の救世主さまなのですね・・・」


「それほどでもないですよ。では一か月後くらいに残った子たちの顔を見に来ますね」

「はい。かしこまりました。一か月もあれば、各々おのおのの進む道は決まっていると思います」

「では、希月きづき伯母さま。よろしくお願いいたします」

「かしこまりました」




 そして、僕たちはフロックス王国を後にした。


「シュンッ!」

「皆、ここは、ユーストマ王国だよ」


 いつもの様にまず宿を探す。うーん。これはまずいな。何て殺風景な王都なのだろうか。

「何もない王都だね。これでは宿は期待できないな。まぁ一応、街を一周してみようかな」


 王都の商店街は最低限の商店しかなかった。宿と酒場も一軒ずつは有ったのだが、小さくて僕ら七人の大所帯には向かない様子だった。


「うーん。この宿に七人は難しいね。酒場もあんなに小さいのか・・・」

「宿がなければ月宮殿に泊りましょう」

「それしかないね」

「ではこのまま捜索に行こうか」

「はい」


 まずは王都から北へ向かう。高度を上げて広く見渡すと、この国の国土は草原地帯が多い様だ。遠くに見える北の国境には万年雪を頂く高い山々が見える。そちらから大きな川が幾筋にも広がっている。


「どうやら牧畜が盛んな国らしいね」

「フラガリアも牧畜は盛んでしたが、あの国には鉱山がありました。でもこの国の王都を見ると主力産業が牧畜しかないのかも知れませんね」


「桜。その通りなのだと思うよ。これでは王都は栄えないね。本当に牧畜しかできない土地なのだろうか?川は幾筋にも流れている様だからもっと農業大国になっても良いと思うのだけど?」


「月夜見さま。ユーストマの王はどの様なお方でしたか?」

「そうだね。とてもおっとりのんびりした雰囲気の温和な方だったね」

「それでは国を大きく繁栄させようという野心が無いのかも知れませんね」

「きっとそうだね」


「まぁこういう国もあって良いのかな」

「問題は人の暮らしですね。牧畜が主な産業では、人口が急に増えると所得が追い付かずに食糧不足に陥るかも知れませんよね」


「確かこの世界の国でユーストマが一番人口の少ない国だったと思います」

「花音。流石、優等生だね」

「へへっ。褒められちゃいました」

 花音の笑顔が可愛い・・・


「さて、それならば捜索もし易いね。高度を上げて一気に見て行こうか」

 高度を千メートル程に上げ、かなりの速さで山沿いを進んで行く。途中、幾つか湖はあるのだが人里が見当たらない。


 川の近くに小さな町が点在し、そこに領主の屋敷もあるのだろう。山や森の近くには人の住まいの気配がない。


 結局、何も見つからないまま、高い山のふもとにある北の国境の街に着いてしまった。でも今日は出発が遅かったのでもうお昼だ。

「さて、お昼ご飯にしようか。食堂はあるかな?」


 街の商店街を進み小さな食堂を見つけた。僕が先頭になり店に入ると店の中に居た店員と客が一斉にこちらを見て固まった。

「・・・」

「あの、旅の者なのですが七人分の食事をお願いします」


 すると店員の若い女性が思わずつぶやく。

「お、おとこ?」


 その言葉に店内がざわっとし、全員が僕の全身を上から下まで舐める様に見つめた。

「男だわ・・・」

「男よ・・・それもあんなに美しい・・・」


「あ。あぁ・・・では、そちらの席へどうぞ」

「ありがとう」

「きゃーっ!」

「な、何あれ!」


 僕らが席に着いたところで叫び声を聞き、皆が顔面蒼白で見つめる入口を見ると、そこには小白がちょこんとお座りしていた。頭にフクロウを乗せたまま。


「しまった!小白に待っている様に言うのを忘れてしまったよ」

 どうしよう。今更、戻れないしな・・・

「あぁ、皆さん。驚かせてすみません。これは私が飼っている狼です。決して人に襲い掛かったりしませんから落ち着いてください」


「そうだ。お詫びに皆さんの食事代は私がお支払いしますので、この子をここに座らせてやってくださいませんか?」

「え?あなたがご馳走してくれるの?」

「えぇ、どうぞ。何でも召し上がってください」

「そう?悪いわね・・・それじゃご馳走になろうかしら」


『小白。僕の横においで』

『わかった』

 小白が僕の席の横に来て床に伏せの形で寝そべった。


「こんな良い男にご馳走になるなんて今日はツイてるわね!」

「それにしてもきれいな男ね。旅とはいえ何故こんな何もない国に来たの?」

「ちょっと、人を探しているのです」

「人?それはどんな?」

「貴族の女の子です」


「貴族の女の子?それは多いわね。探すのは大変ね。どんな子なの?」

「こちらの女性と同じ瞳と髪の色、十二歳で乗馬ができます」


 客の女性たちがお互いに顔を見合わせながら話し始める。

「その髪の色・・・知ってる?」

「ここの領主さまのお嬢さまは、ブルネットの髪よ。それにこの国の貴族のお嬢さまなら、誰でも馬に乗るわ」

「そうですか。でも何も分からないよりは助かります。ありがとうございました」

「良いのよ。おごってもらっちゃうのだから」


 そうかこの領地には居ないのだな。そして牧畜が主力な産業だけに貴族のお嬢さまとは言え皆、乗馬はできるのだな。そうなるとやはり湖を起点に探すしかないな。


 そして料理が出て来て、皆で食事を始めた。パスタに肉のソースと煮込んだ肉が乗っていた。それなりに美味しかった。

「それにしても男性を見ませんね」

「男かい。男は家を守って子を増やす役目だからね。街に出て来ることはないのさ」

「早く男性が増えると良いですね」


「増えたら増えたで困るだろうよ。そんなに人が増えても食って行けないからね」

「この国の暮らしはそんなに厳しいのですか?」

「牧畜と農業だけではね・・・国王さまが何もしないからね。最低限、牧場と畑仕事が回せるだけの子を作れば良いのよ。多く作っては駄目なんだ」


「では、この国ではひとりの女性が産む子の数は少ないのですか?」

「ふたり産むことはまずないよ。結婚しても子を産ませてもらえない妻も居るからね」

「結婚しても子を生めない妻?それはどうして妻にするのですか?」

「働き手として雇うのと同じだよ」

「あぁ、生活共同体ということか。なるほどね」


 店の中に重い空気が立ち込めてしまったので僕らは皆の代金をまとめて支払って店を出た。

「うーん。この国はあまり健全とは言えない状況だね」

「産業が牧畜と農業だけでは、ほぼ自給自足の状態なのでしょうね」

「その上、国王に野心がないとなれば何も変わりませんね」


「困ったな。僕は政治には首を突っ込みたくはないのだけど・・・」

「月夜見さま。今はまだ見ているだけで良いのではありませんか?」

「うん。桜。そうだったね」


「この国は泊まることもできないのですから次の国へ参りましょう」

「うん。そうしようか・・・あ!いや。ちょっと待って。確かこの国の神宮にはまだ宮司が居ないんだ。春月しゅんげつ姉さまか水月すいげつ姉さまが派遣されることになるはずだよ」

「それは問題なのですか?」


「大問題だよ。この国の経済状態をそのまま反映したあの王都だよ。そんな国の宮司になったら結婚できないかも知れないし、できても幸せになれるのか疑問だよ」

「それは確かにそうですね。私でも心配になります」


「やはり、王にもう一度会って事情を聞いてみようか・・・」

「それでしたら、この国はシンシアのイベリス王国が東側で接しているので、まずそちらで実情を調査するのは如何ですか?」


「桜。それは良いアイデアだ!今から早速行こう」

「捜索は良いのですか?」

「あぁ、残りはすぐに見られるから、先にシンシアに連絡しておこう」


『シンシア!聞こえるかい?』

『はい。月夜見さま!』

『今日この後、そちらへ訪問したいのだけど、お父さまのご都合を聞いて頂けるかな?』

『お父さまにご用事なのですね?』


『ユーストマ王国のことで聞きたいことがあるんだ』

『あぁ、今はユーストマ王国を捜索されていたのですね』

『そうなんだよ』

『かしこまりました。すぐに聞いてお知らせします』

『うん。頼むね』


「よし、シンシアに頼んだから残りの土地を捜索してしまおうか」

「はい」

 それから数分後にシンシアからいつでも大丈夫だとの連絡をもらい、一時間程で捜索を終わらせると、一旦月宮殿のお爺さんの屋敷へと飛んだ。


「シュンッ!」

「お爺さま。少しお時間よろしいでしょうか?」

「おぉ、月夜見。お前も忙しいことだな。今度はどうしたのだ?」

「えぇ、お父さまと一緒にお話ししたいのです」

「うん。では宮殿へ行こうか」

「お願いします」


 お爺さんはすぐに瞬間移動して宮殿へ向かった。僕たちも船を宮殿前へと飛ばし、応接室へ集まった。


「月夜見、最近出入りが激しいな。今度は何だ?」

「お父さま。ユーストマ王国の神宮には誰が派遣される予定ですか?」

「それは、二か月後に春月が行くことになっているぞ」

「お爺さまにもお聞きしたいのです。今日、舞依の捜索でユーストマ王国を見て来たのですが、あまりにもさびれているのです」


「民衆にも話を聞きましたが、あまりにも貧しくて子を妻一人当たりひとりも生んでいないのです。今でも人口が一番少ない国なのに、国王が何もしないので国民は減るばかりとなっている様です」


「あぁ、ユーストマのマヌエル ユーストマか。あ奴は国王の器ではないからな。人口が少ない国だから放置しておいたところもあるな・・・」

「お爺さま!そんな国に春月姉さまを行かせるなんて許せません!」

「月夜見はどうするのが良いと思うのかな?」


「お父さま。僕にもすぐには分かりません。これから隣国であるイベリスへ行って、シンシアとイベリス殿にユーストマの実情を聞いてみようと思っています」

「あぁ、そうか。では私とダリアも同席しよう。玄兎げんとも来るが良い」

「分かりました」

「では、そんなに大勢で押しかけてもいけませんので、桜と花音だけ連れて行きます」


「琴葉、ニナ、シエナ、シルヴィー。今日はこのままここに泊ってくれるかな。小白も置いていくからね。琴葉、小白を頼みますね。シルヴィーはジーノの様子を見てあげてくれるかな?」

「かしこまりました。月夜見さま。夜はお戻りになるのですよね?」

「えぇ、戻りますよ」


 シンシアに念話でお爺さんとお婆さん、それにお父さんも一緒に訪問することを先に伝えておいた。


 そして六人で船に乗りイベリスへ飛んだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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